第1章第23話 元凶
バルコニーのてすりの上に、その男は立っていた。
純白の衣を纏い、太陽のように輝く黄金の髪の上に瑞々しい月桂冠を乗せている。
背後からは光が射しており、真っ白な羽が背中から生えていた。
「初めまして皆さん。私の名はミナフェル、ペルセウス様の忠実な使徒であります
ーーー我が主はこう仰せだ、『賢者ゴッフェの心臓を手に入れ、我が一部にせよ』と。
この世を統べるお方の一言、拝聴できるだけ幸運と存じてください。
さあゴッフェをこちらに
ーーーーーーあれ?なぜ、立ち塞がるのです?」
「お前の主とやらのその考えが気に入らん、気に入らんわ!のこのこと遅れて来よったくせに、戦利品をよこせだと?盗人猛々しい!べオ!どうだ!」
「な…なんとか、治せてはいますが…!塵になる速度が速くなってきてるので…!」
「それで構わん!時間稼ぎは私たちがやる、応急処置を繰り返して延命せよ!」
べオはゴッフェに魔力を注ぎ、塵化を防ごうとしている。
アッシュもスカーレットも何も言わずにミナフェルに向かって剣を構えた。
「ーーーああ、主よ…お許しください。今日、哀れな子羊があなたの腕に行くでしょう…どうか、救いと安らぎをもたらしてあげてください、そして次の生では愚かに死なないことを…ここに祈りましょう…。」
次の瞬間、天から光が射しエルドラド全体を覆った。
黄金の鎧に身を包んだ騎兵隊が、天馬が引く黄金の戦車に乗って光の中から駆けだしてくる。
神々しく輝く雲の中から、何十隊と飛び出してきた。
「聖騎兵隊…裁きの雷霆を、愚かで哀れな異端者に振り下ろせ。」
「はああああ!?なんじゃそりゃ!あの物量には敵わんぞ…スカーレット!血の盾を!」
「もうやってる!」
「主よ…血の慈悲を、天の裁きを、天地に下せ、降りしきらせよ、我ら、聖騎兵隊、その代行者なり。」
騎兵隊が光に包まれ、流星群が如くエルドラドに降り落ちた。さながらこの世の終末の様だ。
「まずい、早く術者を殺さなければ!急ぐぞ!」
「どうぞ来なさい。あなた方迷える子羊の手ならば、どんな痛みも受け入れましょう。」
「はっ、その口がいつまで続くかな!」
インディゴはミナフェルに斬りかかる。
…しかし、感触こそあれど攻撃の全てが効いた様子はない。
ーーーなに!?いくら神性を纏おうとも、因果を無視するこの刃を受けて無傷だと…!
「……おや、なにかしましたか?」
「ーーーくっ!」
インディゴは一歩引き、さらに何連撃とミナフェルに浴びせた。
だが、その全てが効かない。
ミナフェルの顔には赤ん坊をあやすような慈愛の笑みが絶えず浮かんでいる。
「ーーーお!?」
「…?どうかしましたか?そのような驚愕の表情を浮かべて」
「運命魔法!縁を引き寄せろ!」
インディゴは手に鎖を浮かべ、思いっきり引っ張った。
「ーーーーーーーーーインディゴ様ああああ!」
ミナフェルの背後に影の穴が開く。
そしてそこからドラウと大刀『嶄十』を構えたジャックが出てきた。
「ーーーなっ!後ろだと!」
「何やらよく分からぬがこの男を斬れば解決しそうだという気配を吾輩は感じ取った!やれジャック!」
「おうよ兄貴!必っ殺ぅ!『ジャックスラッシュ』!!」
ジャックの放った一撃がミナフェルを切り裂いた。
体を切断され、ミナフェルは苦しそうに呻く。
「ぐおおおおお…ふざけるなふざけるなふざけるなぁ!」
ミナフェルの顔が怒り一色に染まり、羽根が茶色に染まり始めた。
だが全身が光に包まれ、たちまち元の姿に戻る。
しかし、その顔だけは怒りで醜く歪んでいた。
「ーーーあれは再生などと言う次元ではない…無敵なのか?」
「いえ、そんなものは存在しませんよ。魔王インディゴ。」
アッシュの背後に魔法陣が現れ、サタナエルとユーシェ、そして村長が現れた。
「…サタナエル、お前何をしていた?」
「ご安心ください、我が王。あいつらに気付かれぬよう、陰でずっと探し続けていたのです。神の手先として地上を統べる使徒、その正体について。」
「ぐ…あなたのような坊やに私たちの何が分かるというのでしょう?さあ、公表しなさい!根も葉もないその真実を!」
「…美しさに固持したその見た目、茶色い羽根。ーーーここまで言えば思い出すか?さあ、その正体を自覚しろ…『醜いアヒルの子』よ!」
「は?な…なにを言って……え……?…あ……ああ………AAAAAaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!!!?」
ミナフェルの全身から光が剥がれ落ちてゆき、その正体が明らかになる。
首から火花が飛び散り、意味も無く水かきの付いた足を振り回した。
とうにそれは人の形を保っておらず、ゼンマイ仕掛けの羽を醜く動かして自分を覆い隠そうとする。
ーーー機械仕掛けの怪物、旧世界の残骸、傲慢の遺せし爪痕。
…すなわち自立演算型粛清機械『醜いアヒルの子』。
ここに、顕現したーーー。




