第1章第15話 反乱戦争・序
投稿が大幅に遅れてすみません!
プライベートで忙しかったのもあって執筆の時間がなかなか取れませんでした。
このまま一章を駆けていくつもりですので良ければご付き合いいただけると嬉しいです!
草原という物は何処までも広い。
まるで終わりが無いかのように縦横無尽に茂った植物たちの囀りで満ちている。
その囀りを止められるのはこの世の終わりぐらいなものだろう。
エルドラドでは建国祭全3日の中の1日目のピークだった。
それを尻目に4000対21万の戦いが人目の付かぬ草原で始まる。
どこからともなく静寂結界が張られた。
音はおろか姿さえ外部からは見えなくなる。
何があろうとも破れぬ強靭な結界だ。
民衆も多く混ざっている反乱軍に対し、
エルドラド精鋭軍は皆黒のマントで全身を覆っていた。
まず初めに火蓋を切ったのは反乱軍の魔法使い達による爆撃だった。
肺が焼けるような熱量の炎魔法が草原のあちこちに流れ堕ちる。
だが草原は燃えない。
気が付けば草原は泥魔法に覆われていた。
次にエルドラド精鋭軍による反撃の開始だった。
反乱軍のように物量で押すことは無いものの
古今東西の魔法使い達の大小様々な魔法で大気を満たす。
「竜の咆哮」
精鋭軍の魔法使いが唱えると杖の先から巨大な咆哮が響く。
その音を聞いただけで反乱軍の一部が恐怖に乱れた。
「棘極泥土」
反乱軍の足元を泥が纏わりつく。
すると泥の中から大量の棘が噴出し数十人を串刺しにした。
「くそっ!?何だあの魔法は!?
うろたえるな、反撃せよ!」
「ううっ…ファイヤーボール!!」
「ダイヤモンドアイス!!」
「ゴーレムボイス!!」
「流星焔」
「黄金化」
「深海圧気」
詠唱が両軍から響き渡る。
一つ一つの魔法が複雑に絡み合い、
草原は魔力の合唱に満ちた。
反乱軍は泥沼で動きを鈍くされその隙を不可解な魔法達で集中砲火され命を散らしていくばかりだった。
悲鳴が満ち勝敗が決したかのように思われる。
…だがそれで終わりではなかった。
「…ふむ、これ以上の損害は後々響く。命は大事だ。
………であればようやく俺の出番だなぁ!!」
空から巨体が降ってくる。
「…!?精鋭軍、防御魔法を展開せ…
言い切る間もなく数人の精鋭が押し潰された。
「がはははははははははははははははは!!!!!!!!!!!!!!!」
男は胸を張って空に笑う。
「さあ来てみろ!俺の名は勇者ガイン!
人呼んで『絶対防御の勇者』ガイン様だぁ!!!」
その声は戦場の悲鳴をかき消し束の間の静寂をもたらした。
うおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!
反乱軍から歓声が起こる。
勢いを取り戻した反乱軍は我先にとエルドラド精鋭軍に襲い掛かった。
「耐えろ精鋭よ!!今ここで負けては何のための命か!!
アッシュ様より頂いた勅令、死んでも守れ!
エルドラド精鋭軍よ、逆賊に神の天槌を!!!」
うおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!
エルドラド精鋭軍からも歓声が上がる。
魔法を展開して民兵から削り始める。
更に渦巻く魔法達に大気は震え始めた。
ガインの前には3人の隊長が構えていた。
「お前ら強いな!名乗れ!」
「…第1席所属べリス」
大小様々なチャクラムを構えた男がぼそりと喋る。
「第4席所属ランドよ」
魔導書とナイフを構えた茶褐色の女が名乗った。
「第9席所属ガンハイムだ!」
ロングソードを片手に大盾を構える金色の鎧の男が言った。
「そうか、俺は戦った相手の名前は覚えるようにしているんだ、
この緊張感はかけがえのない宝物だからな!」
そう言ってガインはべリスに殴りかかる。
全身を使ったその一撃は地面を陥没させた。
だがべリスには当たらなかった。
「…」
飛び道具のようにチャクラムを放つ。
ガインの皮膚に当たったが掠り傷一つ付いていなかった。
「足りないな!もっとかかって来い!」
「ふぉおおおおおおおお!!!」
ガンハイムが盾で殴り掛かった。
ガインは両手で受け止める。
「ふっ、掛かったな!喰らえ!!!」
ガンハイムの大盾から炎が放たれる。
「ぬううう!?」
ガインは正面から浴びたが微かに焦げる程度だった。
「足りん、足りんわ!!もっと来…
ばきっ
「…!?」
嫌な音が響く。
ガインは本能で動きを止めた。
見れば、踏み出した右足が嫌な形に捻じれている。
「これは?重力ではないな、…罠か!!」
「正解」
そう言ってランドはナイフで空中に魔力記号を描く。
ガインの右手は鎖に縛られ、左手は釘がびっしりと刺さった。
釘が刺さった皮膚が真っ二つに裂け、じゅうじゅうと腐る音が響く。
(呪い!?ただの罠だけではなくこんなものまで…)
「これで終わりよ!!」
ランドが空に指をかざすと雷雲が集まって巨人の形を形成し始める。
巨人の手の平から眩い閃光が溢れた。
「…必殺!『 巨人の雷霆 』!!!!」
「うがあああああ!!!!!!!!!」
金色の光が辺りを包む。
精鋭軍も反乱軍も束の間動きを止めた。
エルドラドからも雷雲が見えたようで
喧騒が少し止んでいる。
煙が周囲を包み静電気が辺りを走っていた。
「…べリス、ガンハイム。止めを」
ランドは指を押さえながら苦しそうに言葉を吐き出す。
巨大な規模の魔法は、自然の魔力と同化させる必要がある。
雷を作ったランドは今、高熱が全身を駆け巡っている状態だった。
「うむ、ここまでやればくたばっただろうな。
べリスよ後は首を取って…」
ボッ
煙を引き裂いて黒い触手が襲ってきた。
「んぬおぉっ!?」
ガンハイムはぎりぎりで盾で逸らす。
ボッ
ボッ
煙を裂いてまた何本も触手が襲ってきた。
「…すっとろイ」
そう言ってべリスは五つのチャクラムを投げた。
べリスの指から走る糸に乗って、的確に触手を引き裂く。
煙が晴れた。
そこには顔色一つ変えずにガインが立っている。
「ん~いい攻撃だったぞ、80点!」
「…っ!?何で生きてる!!」
ランドが息も絶え絶えに叫んだ。
「何故って…ああ、お前たちは俺の能力を知らないのか」
そう言うと納得したようにガインはつらつらと語りだした。
「俺の能力は『絶対防御』だ。
様々な能力が合わさった複合型でもある。
具体的に言うと、『耐毒』、『半減』、『自動回復』、『鉄甲皮膚』、
…などなどだな。まあただ『無敵』ではないのがミソでな…」
「…なぜ惜しみもなく能力を晒ス?それで死ぬこともあるだろう二」
べリスがガインに問う。
「…はっ!確かに、俺やウルス、インディゴやマクフィーン、シュバルツ、
昔の世代の奴らは惜しみもなく言うだろうな。
何でかって?」
そう言ってガインは自分の胸に手を突っ込んだ。
皮膚を貫き、骨が軋む音が響く。
「…こいつだ」
ガインは胸から手を出し手に握ったそれを掲げた。
どくんどくん、と赤く脈動する。
「…心臓?それが…」
ランドは気持ち悪そうに手で口を押さえる。
それも当然だ。
心臓には…顔があった。
奇妙に大きい鮮やかな両の目玉がぎょろぎょろと動く。
てらてらと光っている鼻はぴくぴくともがく。
白色の歯は気持ち悪いピンクの舌と舞を舞うかのように踊っていた。
「わかるだろう?
これは神からの”贈り物”だ。
こんなものが自分の中にあるなんて、気持ちが悪くて仕方がない。」
そう言ってガインは心臓を踏み潰した。
ぐしゃっ!ぐしゃっ!と入念に地面に擦る。
ガインはぐぼぉと地面に血を吐いたが倒れる様子はまるでない。
「理由はこれだ」
ガインはまた手を胸に突っ込んだ。
そうして掴んだその心臓は先ほどの物と同じで何一つ違いが無い。
きょろきょろと周囲を見渡している。
「こいつが満足するまで俺たちは死ねない。
こいつの名は『神々の祝福』
俺たちの能力の源であり、呪いだ」
「さて説明はもういいだろ、
俺たちはとっとと”死にたい”んだよ」
そう言ってガインは最初と同じようにべリスに殴りかかった。
だが決定的に違うことが一つ。
ガインの拳にはオルトロスの瘴気が纏わりついていた。
「…」
さっきと同じようにべリスは躱す。
ひらりと宙を舞って着地する。
「…!?」
ごぼっ
べリスの目や耳からどす黒い血が溢れた。
「べリスっ!」
「…!?来るナっ!これは感染すル!!」
見れば、べリスの周りの草花がぐじゅりと音を立てて腐っていた。
ガインが殴った大地も土も岩も等しく腐り果てている。
「これがオルトロスの…正に魔王の力か…」
黒い瘴気を纏った拳を見ながらガインがぼそりと呟く。
「魔王ですって…!?」
「どういうことなんだ、ランドよ!」
…通常、魔王と勇者の数は3:1で決まっている。
魔王は魔族特有の強靭な体に加え、神の能力を持っている。
勇者は常に人間だがそのかわりに
魔王のそれを大きく上回る能力、すなわち権能を持っているのだ。
「ありえないわ…!勇者が魔王の能力なんて持てるはずが…」
ガインはランドに向かって指を振った。
「ランドとやらよ。並の勇者ならそうだろうがな、
この俺、『絶対防御』の勇者ガインは違うぞ!」
そう言ってガインは拳を強く握る。
「人間であれば、すぐさま脳が腐り落ちるようなこの瘴気も!!
我が『絶対防御』の前には、朝一番に吸う空気と全く変わらん!!」
そう叫んだあとガインは3人に向き直った。
「よし…じゃあ殺すぞ」
そう言ってガインは音もなく拳を振るった。
瘴気が辺りを包み込む。
「ぐがっ…!?」
「ごぽっ…ぐえ…」
「が、が…がいんざま…!?」
敵味方関係なく瘴気が人を腐らせていく。
「ふむ…さすがに耐えるか」
瘴気の中で3人は防御壁を展開して瘴気から身を守っていた。
「くそっ!!誇りは無いのか、ガインよ!」
「…反乱の邪魔になるような物はガーベラによって取り除かれているでしょうね」
「………悪イ、こんな荷物になってしまっテ…」
べリスは苦しそうに息を吐く。
「大丈夫よ、このまま耐えるだけで12騎士団の戦士が来てくれるから…」
がっ
防御壁を巨大な手が覆う。
「みつけたぞ」
そう言った後めしめしと防御壁が軋み出した。
「このまま握りつぶしてくれるわ」
防御壁にひびが入る。
カッ!
ガインの腕を光が貫く。
光は炎に姿を変えてガインを燃やした。
「っ!?誰だ!」
瘴気が晴れるとそこには一人の少年が立っていた。
べオだ。
両腕にマントを巻き付けてあり、
中から煌々と光が漏れている。
髪は赤と金が混じっており、15歳頃の体躯に見えた。
「…戦争はそこまでだ」
「何だ少年、俺たちに止まれと言っているのか?」
ガインがべオの前に立つ。
「…」
「悪いが俺たちはすべてを潰さないと…っておい?」
べオがガインの胸に触れた。
「うがっ…」
じゅうっと音を立てガインが輝き始める。
「…炎神、それは…本当にか?…そうか、インディゴも良い事をしたもんだ…ありがとよ…」
その言い終えてガインは灰になった。
周囲を覆う瘴気は霧散していく。
『神々の祝福』は苦しそうに悶えてべオの手の中に消えていった。
「君…いえ、あなた様は…」
ランドがべオに尋ねる。
「…説明してる時間はありません。
僕は12騎士団第6席『未来呪師』ヨチローチテカの指示で動いています。
どうか協力を」
「ええ、勿論です…ですが何をすれば…?」
「…全ての元凶を止めに行きます」
同刻、エルドラド城図書館。
「説明してください!!先生!!」
レドールが怒りを抑えきれずに問い詰める。
「……」
ぱらり、とページをめくって栞を挟んだ。
そうしてその人物は向き直る。
「…何の用か、レドールよ」
12騎士団第3席『賢者』ゴッフェであった。




