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魔王転生~勇者を求めて、魔王は旅をする~  作者: 壱田一
第1章 黄金繁栄帝国/エルドラド
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第1章第12話 反乱軍、来る

北部雪原。


枯れた木と吹く雪以外何もない凍土である。

そんな場所を、大勢の武装した男たちが歩いていた。

隣を歩くトナカイに、半ばもたれかかる様にして。

赤い顔に、手のひらに息を吹きつけながら歩く。


かじかんでいる手は、農民のそれであり

武器を握れど、兵士に敵いはしないのは明らかである。


だが、彼らにはそれでも歩く理由があった。

北の大地には、中央とは比べ物にならないほどダンジョンが発生する。

かって、この凍土で眠りについた最強の魔王「ジーアジェック」の伝説が残っているからだろうか?

そんな古い伝説を覚えている老人は皆、永久の眠りについた。


この凍り付いた土地でとれる植物は少ない。

彼らはトナカイを飼いながら、硬いジャガイモを育てるぐらいしか

生きる術がない。


だが、そんな、なけなしの物さえ、ダンジョンに住む魔物が奪っていく。

だから彼らは、エルドラドの庇護を得るために国を売ったのだ。

この場所はエルドラドから、はるかに遠い。


自分の領地の平定で手一杯のエルドラドには、数少ない駐屯兵団を送るぐらいしかできなかった。

駐屯兵たちは、彼らに釣り合わないほどの税を課して食べ物を賄っていた。

そうしなければ兵たちも飢えるしかなかったのだ。


住民たちの怒りは溜まっていく。

そして数年前、彼らは反乱を起こした。

駐屯兵のリーダーを北の果てに追放して、鎮圧に来る兵を返り討ちにする気でいた。


…兵は来なかった。

彼らはその時気付いた。

自分たちはとっくに見捨てられたのだと。

初めからエルドラドはダンジョンの資源にしか興味がなかったのだと。

絶望した。こうして懸命に生きても、怒りに震えて反乱を起こしても、見向きすらされない。


そこに来たのが第2皇子ガーベラだった。

彼は言った。


「儂の兵に成れ。その怒りは血をもってでしか埋まらぬ。

反乱でエルドラドを変えた暁には、お前たちに絶対の守りを与えよう。」


当然疑った。

あんな巨大な国を変えれるのか?

12騎士団という化け物たちもいるのに?


…でも、このままでは飢えて死ぬばかりだ。

…だったら、せめて最後に一花咲かせよう。

反乱が敵わなくとも、北に生きる人々がいたと云う事実を!


リーダーは村長が務めた。

畑に生きる益荒男を20人集めて、雪原越えに挑む。

雪原には白狼が大量に生息し、空では人食い梟が常に目を光らせる。

その目達から逃れるだけでも、彼らには精いっぱいだった。


歩く。ただただ歩く。トナカイは皆、限界の様だ。


「…ほら、あとちょっとだ。

…倒れるなよ、ほら草原が待ってるんだぞ…あとちょっとなんだから…。」


踏みしめる雪の冷たさが増す。

雪の中に、紫が混じってきた。

酩酊感が鼻を刺す。


「…魔力風か!」


魔力を纏った風は、遥か北東から流れてくる。

この風が上空の雪と混じると、雪の一粒一粒に魔力が溶けあうのだ。


「くそっ!鼻を塞げ!

ここで倒れたら死ぬぞ!」


吹雪が吹き始める。


「…待ってくれぇ!あいつが、あいつがまだ!」


一人一人声がはぐれていく。

呆然と立ち尽くす。

背中に背負った荷物が、ぼとぼとと落ちていく。


…終わりなのか?

こ、こんなところで?

…俺たちは何のために…?


「無謀だっただろ?村長さん。」


吹雪の中に凛とした声が響く。


「そもそもあんたたちは、此処のコロニーを抜け出すことはできない。

反乱以前の問題さ、煽るだけ煽るたぁガーベラの野郎も性格の悪いこった。」


ゆっくりと、村長の前に姿が現れる。

女だった。

しゃきりとした顔立ちで、顔には斜めに走る傷がある。

荒っぽい黒髪を粗雑にまとめてポニーテールにしていた。


吹雪の中でも軽装であり、両腕には大きなガントレットが付いている。


「…ふんっ!」


彼女が右腕のガントレットを地面にたたきつけると、大地が隆起していく。

上に盛り上がった土には、倒れた村人たちが乗っていた。


「ほらよ、今ならまだ帰れるだろ。」


そういって、村人たちは村長の足元に投げ出される。

逸れたトナカイたちも遠くから走ってきていた。


「…お前は誰だ。」


「あたしかい?ああ、ユーシェって名前さ。

ほら、12騎士団の12番席さね。

反乱軍って聞いたから来たけど、拍子抜けだわな。

大の大人がへたり込んで、みっともないったらありゃしない。」


「…!!」


歯を食いしばる。

言い返せなかった。


あの場では動かないことが最善策と分かっていたが、

村長はただ動けなくなっていただけだった。


「…まだ終われない。」


「…ふうん」


「…俺を王都へ連れて行ってくれ!

俺には使命がある!

王に伝えないといけないんだ!

…俺たちがまだ、生きていることを!」


ユーシェは村長をじっと見つめた後、少し俯いて溜息を吐いた。


「…だってさサタナエル。

さっきから見てないで、少しは顔を出しな。」


ユーシェが後ろに向かって喋りかける。


「早くしないと、温泉に放り込むよ!」


「…まったく、僕がシャイなのを忘れちゃいませんか?」


幼い声が大地を反響する。

カツンと靴が当たる音がすると、吹雪が止んだ。

それどころか雪が溶けだし、春の草が芽吹き始める。

ただ一方向に向かって伸びる草の道を、男たちを乗せたトナカイが駆け抜けていった。


「これで彼らは大丈夫。

…君は大きなものを見るだろう」


気が付けば、村長の前に少年が屈んでいた。

白銀の髪をたなびかせ、目には虹の如くの光が広がっている。

着ている服はローブを纏った修道服で、ステンドグラスの様な首飾りを首に下げている。


「初めまして村長さん。

僕の名前はサタナエル、12騎士団第1席『世界』サタナエルです。」


そう言ってサタナエルは、村長の手を掴む。

村長の体を淡い光が包んだ。すぐに光は霧散する。


「…大丈夫です。彼は僕たちに危害を加えません。ユーシェさん連れていきましょう。」


「よし来た。…サタナエル、あんた何が視えたんだい?」


ガントレットに彫られた魔法陣を発動させながら、ユーシェはサタナエルに問う。


「…まあ、すごい未来ですよ。

この国が一度崩壊するような、ね。」


青い光が3人を包んだ。


「…行先は?」


「王都の地下。

そこにオルトロスの召喚陣が眠っています。」


「…あいよ。」


ユーシェがガントレットをぶつけ合う。

ガキーン!という音を最後に光が消え、また吹雪が吹き始める。




そのころガーベラの別荘では…

4つの召喚陣が輝いていた。

その前に5人の人間が立っている。


だが一番右の召喚陣の光が、消えた。

それと同時に、赫い竜の遺骸が出現した。


「チッ…マール=ジェリカめ、やられたか。

突撃しかできないのか、蛮族め!…くそ…。」


ヂュヂカが舌打ちをする。


「はっはっは!あの御仁に我慢なんて無理だ!

麗しき女性よ、そなたに舌打ちは似合わぬぞ!」


大男が豪快に笑う。


「くかかかかかか!勇者殿は今日も口が回るようで!

俺も黙ってはいられないな!」


青年も釣られて高らかに笑った。


「うるさいぞ!

お前たちを蘇らせたのは、ガーベラ様だ!

あの方の意思に逆らうな!」


ヂュヂカは冷静に目の前に立つ3人を観察する。


まず正面に立つ大男だ。


(あの男が『絶対防御の勇者』ガイン…。

受けた傷全てを直ちに回復して、数十年間、不眠不休で戦ったと言われている。

対魔族戦において右に出る者は決して現れないだとか…)


次に左に立つ、長槍を持った魔族の青年を見る。


(あれが『最速の魔王』ウルス…。

血液を放出して、瞬間的に加速するらしいが…。

魔族の再生能力でなければ成り立たない、無茶な戦い方だな)


最後に右に立つほっそりとした少女を見る。

魔族と人間両方の特徴を持っており、人前に姿を見せるのはとても珍しい。


(…あれも神だと?

ガーベラ様は死んだ神を蘇らせたと言っていたが…

あり得るのか?そんなことが、協力の理由は恨みと言っていたな。

もっと何かに利用できそうだが…。)


「…何?」


少女が睨み返す。


「…お前の名は?召喚されてからはすっと隠れていたな?

それと神なら、何かしらの権能も持っているだろう、

情報はきちんと共有するように。」


少女はヂュヂカに手を出そうとしたが、魔力の鎖で防がれる。


「…ほんっとうにムカつく…。」


そう吐き捨てて少女はヂュヂカに向き直った。


「私の名は…リンネ。

元『運命の神』よ。」


「…運命だと?それは魔王インディゴの能力ではないのか?」


少女の逆鱗に触れたのか、いきなり怒鳴り始める。


「…そうよ!あの女が奪ったから!

私の権能(こども)なのに!あの女の物になって!

私が蘇っても、誰も覚えていない!

神として、最底辺に立たねばならなくなった!

挙句の果てには、こんな屈辱の姿で現界しなければならなくない!

許さない!許さない!あいつに思い知らせるのよ!

あの子は私の物だって!…だから協力した。

ダンジョンにオルトロスの肉片を放って、

エルドラドの各地に反乱の種を蒔いた!」


リンネはヂュヂカに向かって、ずいっと踏み込む。


「…インディゴを殺すのは私。

全軍に伝えなさい。

もし私の邪魔をしたら家族もろとも引き裂いてあげる、と!」


そう言い切った後、リンネはどこかへと転送された。


「…お前たちの出番は近い。

いつでも出られるようにしろ。」


そう言い残して、ヂュヂカは別荘の屋上に上がる。

見下ろすと、4万を超える大軍が列挙していた。

別荘の敷地にテントをぎゅうぎゅうに構えている。

明日には南から21万の反乱軍が合流するだろう。


ヂュヂカは勝利を確信していた。

これだけの軍があれば負けるはずがない、と。

…だが、事態は彼女の想像のできないほどに捻じれ狂うのだった。


建国祭まで残り12時間。







































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