第1章第10話 レドール決死の願い・第6席の最後
人気のない城の端。
そこにはポツンと部屋があった。
その部屋の前に、レドールが立っている。
彼は、ドアをノックした。
レドールの額には汗が流れており、
かなりの頻度で唾を飲み込んでいる。
「…どうぞ。」
部屋の中から声がする。
少し愉悦を含んだ響きだった。
「…失礼する。」
レドールは恐る恐るドアを開ける。
そこには純白の翼が広がっていた。
翼の中心には、ブリュンヒルデがいる。
赤い髪が風に揺られて、羽根と一緒に舞っていた。
羽の一枚一枚を手入れしている。
「…あら?
こんなところに皇子さまが何の用で?」
ふふ、と笑い手で口を隠す。
「…まさか、逢引?
いけないですわね、
私たちには立場というものが…。」
「…そうといったら俺の願いを聞いてくれるか?」
レドールはブリュンヒルデの手を取る。
「…あら、あらら、ふふふ…。
いいですわ、言ってくださいませ。」
「…建国祭の日に、南から反乱軍が来る。
ブリュンヒルデにはそれの掃討をお願いしたい。」
ブリュンヒルデは笑みを消す。
「…つまらないですわ。
そんなことはもう飽き飽きです。」
「だとしてもだ。
反乱を止めるためには、
先に潰す必要が出てくる」
「…アッシュ様の命で?
それとも…。」
「…父上は関係ない!
これは僕の判断だ!
…誰も彼も悠長すぎる!
僕は誰も死なせたくない!」
レドールはブリュンヒルデの手を強く掴む。
「…力を貸せ!ブリュンヒルデ!
お前の力が必要だ!」
「・・・・・・・・わかりました。
…その、ちょっと距離が…。」
羽が真っ赤に染まる。
足を引っ込めて、もじもじとしている。
「…あっ!すまない!
…無作法だった。」
「…いえ、そのままでいいと思います…。」
ブリュンヒルデはレドールに握られた手を見つめている。
「…わかりました。
殲滅でしたら幾らでも。
…貴方が言うのならば、幾らでも。」
「…!ありがとう!
これで誰も死なずに済む!
…いかん、べオに影響されたか」
そう言ってレドールは部屋を出ていく。
(…あんな風に言ってくれたの、初めてだったわ…。)
ブリュンヒルデはそっと頬に手を当てる。
窓から風が舞い込んで、羽根を散らした。
暗い部屋の中、水晶玉の光に
影がぼんやりと映っている。
濃く焚かれた香の匂いが、
黒い祈り装束を纏う彼の姿を包んでいた。
12騎士団第6席『未来呪師』ヨチローチテカである。
「ううむむ…よろしくない。」
「何がよろしくないので…?」
従者が尋ねる。
「…マシューよ、お前は俺を信じるか?」
「は!もちろんでございます!
貴方様の予知に私は救われました!
何があろうと傍に!」
「…アッシュ陛下が、死ぬ。」
「え!?」
「だが建国祭の途中でだ。」
「…?」
「そうだ、反乱軍が来るのは
建国祭の終わりと共にだ。
つまり…。」
「…建国祭で何かが起こる?」
「ああ、オルトロスだ。
あれが、顕現してしまう。」
「なっ!何で?!」
「分からん。
だが、裏切り者が関係しているのだろう。
マシューよ、王に至急取次ぎを。」
「はい!」
マシューは走って部屋を飛び出す。
「…あなたですか。
やはり…そんなに嫌いか。」
部屋の隅で人影が立つ。
それはゆっくりと杖を掲げた。
「…チノティトチランティ。」
青い煙がヨチローチテカを包む。
だが、放たれた光は煙を貫通して
ヨチローチテカの体を真っ二つにした。
「…まあ無理か。
6位が敵う訳もなし。」
その言葉を最後に、ヨチローチテカは動かなくなる。
煙が彼の体を包んで、どこかへと消していった。
人影も煙に紛れて消える。
部屋には何も残らなかった。




