第1章第4話 ダンジョンにて①
インディゴがギャンブルで、タコ負けをしていたその時…。
べオはアッシュの息子レドールと渓流で釣りをしていた。
かれこれ3時間、糸は揺れていない。
「釣れないねぇ…べオ君。」
「そうだね…レドール君…。」
「まさか、今日に限ってこんなに釣れないとは…
何か埋め合わせをしないと…。」
「じゃあ…レドール君、聞きたいことがあるんだけど…。」
「うん?何だい?」
「……なんで彼は、餌になっているの…?」
べオが見ているのは、レドールの釣り竿に
亀甲縛りで括り付けられている裏切り者の兵士の姿であった。
「あうええ(助けて)!」
時を戻そう…。
人類歴50年某日早朝…。
べオはレドールの部屋で、彼が持っている書物を彼に読んでもらっていた。
べオは文字が読めないからである。
その本には様々な興味深いことが書かれている。
抜粋すると、
・賢者は110歳以上生きることはできない。
111歳になったその時、神が迎えに来るからである。
賢者の積み重ねてきた叡智は、神の一部に成る。
・魔王も勇者も、元は普通の人間である。
神に一瞥されて、能力を手に入れるとどちらかに分けられる。
彼らには共通の目的があるようだが、敵対を続けている。
・神は世代交代を続けている。
基本的に下克上であり、争いに敗れた神の体が
地上に落ちてくることが極稀に、発見される。
・回復魔法の詠唱の変化。
最初期の詠唱は四大女神式だったが、
第2世代では空へと祈るものとなっている。
現在では、双神を信仰しているヴィド教式が主流。
「どうだい?面白いだろ?」
「うん、すごいです!こんなに細かに載っているなんて…!」
「敬語はやめてくれないか?
僕は君と対等な立場でありたいんだ。」
「わかったで…よ。
ところでこの賢者の年齢があるけど、
レドール君の師匠の…あの…あの…ゴッフェさんは何歳なの?」
「そう!僕の師匠である12騎士団3番席『賢者』ゴッフェ!
先生は今年111歳になるんだよ!
今回の建国祭は、そのお祝いとお別れも兼ねているんだよ!」
「へえ…だからあんなに豪華なのか。
飾りの費用だけで、数十億飛んでいってしまった…って
ジョナサンさんが嘆いていたのを聞いたんだ。」
「はははは!まあ父上だからしょうがない!
北では魔物が出るから、角とかを飾りにしているらしいけど、
こっちには魔物がめったに出ないから、買うしかないんだろうね。」
「へえ…レドール君は魔物を倒したことがあるの?」
「ああ結構倒したかな…、父上が言っていたレッドドラゴンとか、
ダンジョンに潜った際にいた、アラクネだったりミノタウロスなんかも。」
「ここら辺にもダンジョンが出るの?」
「もちろん!魔物は出ないが、ダンジョンは別だ!
ダンジョンはいいよ!もし次のダンジョンが見つかったら…。」
「レドール様!ガルシャ平原に、洞窟タイプのダンジョンが!」
ドアを開けて、兵士が飛び込んでくる。
「ちょうどいい!べオ君も一緒に行こう!
今はインディゴ様もいないから、暇しているだろ?」
「うん。暇もしているけど、ぜひ行かせてほしい。
…僕は1人で戦えるようになりたいから。」
「立派な目標だ!じゃあ行こう!
クレマン、案内を頼む!」
「ははっ!」
クレマンと呼ばれた兵士が馬を連れてくる。
「べオ様もどうぞ。
この雌馬は大人しいので、安全かと。」
「はい、おっと…どうどう…。
これでいいのかな?」
べオは、クレマンに尻を押されながら馬に乗る。
特に暴れることもなく、馬は静かに歩き始めた。
「十分だ!行こう!」
・
5匹の馬が草原を駆ける。
エルドラド帝国の西の方角に出現するのは極めてまれである。
「ありました!あそこです!」
最初にクレマンが気付く。
小高く盛り上がった丘が蠢いている。
草原にはあり得ないような異質な木の扉があった。
「これだよ、べオ君。
この扉を通じて、魔物は世界に広がってゆく。
だから僕たちは先に殴り込むんだ。」
レドールは、手に魔力を込めてドアノブを回す。
扉は腐り落ち、何も見えない空間がゆっくりと広がる。
「この先に迷宮が広がっているんだ。
…どうも厄介なタイプだね。
クレマン、レイピアを…。」
「レドール様…気を付けて…くだ…さ…。
こ…れ…は…」
「なにっ!クレマン!?」
彼は空間の先から出た触手に腹を貫かれている。
手で触手を抑え踏ん張っていたが、触手の力には敵わず空間の先へと
引っ張られていった。
「クレマン!待て!」
そう叫んで、レドールもレイピアを片手に持ち
空間へと飛び込んでいく。
「お待ちください!」
お供の兵士たちも飛び込む。
「待って!…くそ、間に合わなかった…。」
べオは通信魔術で応援を要請した。
「これでひとまずは大丈夫…。
…よし!」
覚悟を決め、べオも空間の先へと飛び込んだ。




