第1章第2話 久方ぶり
正午…。
インディゴとべオは正装に着替え、アッシュの邸宅の前に立っていた。
べオはそわそわしており、緊張しているのが分かる。
そんな様子とは対照的に、インディゴはあくびをしながら立っていた。
「し、師匠、本当にこの格好でいいのですか?
何か無礼があったりなどは…。」
「あ~安心せい。
アッシュはそこまで狭量な男ではないわ。
むしろ豪快すぎて引くぐらいだ。」
そんな話をしていると、門が開き
執事と使用人たちが迎えに来た。
「お待たせいたしました。
いらっしゃいませ、インディゴ様、べオ様。」
そう言いながら、執事が鍵を地面にはめると、
巨大な音を立てながら、地面が開いて階段が現れる。
「アッシュ様考案の隠し扉にございます。
どうぞ、こちらへ…。」
執事はランタンを持ち、先導するように入っていく。
「大丈夫なんですか…?これ」
「まあ、行ってみようや。」
暗い廊下を黙々と歩く。
廊下の壁には穴が等間隔に並んでいる。
おそらく罠だろう。
「この罠は何を警戒しているんだ?」
「さあ…私には考えも及びません。」
しばらく歩き続けると光が漏れている扉が見えた。
「こちらに、アッシュ様がお待ちです。」
執事はドアノブを持ち、ゆっくりと開く。
部屋の中には3人の男がいた。
1人は、老人だった。
全身を紫のマントで覆い、見えているのは鋭い目と長い髭だけである。
1人は金髪の年若い少年であり、赤い軍服を着こんでいる。
そのぱっちりとした目はきらきらと輝いていた。
…そして、その人を見間違うことはないだろう。
長いローブを纏い、複雑な金細工が施された杖をもっている。
後ろにまとめた髪は、いまだ衰えを知らぬようだ。
まるで鷹のような、凛とした瞳に、イルカの紋様が刻まれた王冠をかぶっている。
一歩歩くたびに緊張が走る。
誇りと威厳が、常にオーラとしてあふれ出ている。
きっと100年先も、名君として語り継がれるであろう男がそこにいた。
そう…エルドラド帝国8代目の皇帝、アッシュである。
アッシュはインディゴに向けて歩き出す。
それと同時に、インディゴもアッシュに向けて歩き出す。
そして一定の間を開けて二人は立ち止まる。
誰もが息をのんで見守る。
何が起こるかなど誰にも予測できないだろう。
アッシュとインディゴはお互いに見つめ合い、そして…
ガッ!と抱き合った。
「久しぶりだなアッシュ!まさかここまで渋みを持つとは!
私好みだ!」
「久しぶりだなインディゴよ!ハハハハハッ!
まさかこんなちんちくりんになっているとは!
予想外だぞ!」
かたいハグを解き、2人は語りだす。
「いやはや!お前を殺してからの50年間、
何かと騒ぎが絶えなかったのだ!
お前が悔しがるようなことだらけだったぞ!
そして、どうだこの国は!
素晴らしかろう!存分に言うがよい!」
「うむ、その語り癖は治ってないようだな!
正直に言うと驚いたぞ!まさかここまで国を変えれるとはな!
もう乞食の姿もないし、衛生環境も整えられている!
これもアンバーの入れ知恵か?」
「いや!俺の力だ!
ジョナサン!あれをここへ!」
アッシュが執事に向けて言う。
「了解いたしました。」
そう言って、壁を押して回転させる。
「!?」
「いやはや…本来なら兵を隠すための物なのですが…。」
ぼやきながらジョナサンが持ってきたのは、エルドラドの模型であった。
全長2mの代物である。
「これがあれば分かり易かろう!
…問題はここだ。」
アッシュは町の南部を指す。
「ここの地下に、謎の空間が確認された。
それと同時に転送魔法の魔力も報告されている。
それと、魔族の角のかけらが、国全体にまき散らされたこともな。」
「ふむ…魔族の角に魔力を流し込んだら爆発をする。
それを利用して、寡兵で王の首を習うつもりなのか?
やはり、使われるのは魔族だろうな。
万が一失敗しても、言い逃れが効く。
何か対策はしているのか?」
「いや、一週間後に建国祭が開かれるのでな。
どうしても人手を回す必要がある。
当日には、3つの巨大な花火が順番に上がる。
そこで狙われることもある。
なぜなら、俺は常に目立った場所にいるからな!
目を奪っている隙に…だろう!
その対策として…。」
「僕ですね!父上!」
赤い軍服の少年が手を挙げる。
「ああ、紹介しよう!
俺の息子レドールだ!
俺に並ぶほど勇敢でな!
この前には、1人でファイアドラゴンを討ち取ったのだ!」
「大袈裟です、父上。
最後のところでグレースに助けてもらわねば、死んでいたのですから。」
「だが勝ちは勝ちだ!
インディゴよ、お前の弟子はいるか!
レドールと友達になってほしいのだが!」
「ああ構わんぞ。ほれべオも来なさい。」
「ええいや、それは、うわあ?!」
謎の巨大な手に押される。
「紹介しよう、うちのべオだ!
こいつはな、回復魔法のランク2を使えるのだぞ!」
「いや、それほどでも…。」
「まさか!謙遜などいらないよ!」
レドールは一瞬で距離を詰めべオの手を握る。
「回復魔法を使える人はただでさえ貴重なのに、
ランク2を使えるなんて!
この国にも10人ぐらいしかいないはずですよ!
ですよね、父上!」
「うむ、確かに10人だ!」
指で数えながらアッシュが答える。
「そろそろ本題に…。」
ジョナサンが軌道を戻す。
「ああ!そこでだな、インディゴには怪しい場所を探ってほしいのだ!」
「具体的な場所は?報酬はちゃんとあるのか?ただ働きと無駄働きはごめんだぞ。」
「場所に関しては儂が細かい情報を送ろう」
老人が立ち上がる。
「エルドラド帝国12騎士団3番席『大賢者』ゴッフェだ。」
「まあアッシュの部下だったら大丈夫か…。それで報酬は…。」
「うむ!何と勇者アンバーのお前に向けた手紙だ!
今は俺の声でしか開かない宝箱に入れてある。」
「であれば、交渉成立だな。
お前は昔から変わらないな、本当に。」
2人は握手をする。
普通の人間だったら手が潰れているだろう。
そのあとはご飯を楽しんだり、親交を深めたりしていた。
夕暮れになり…。
「ではまずは、魔王とのコンタクトだな?
任せておけ、私がささっと済ませといてやる。」
そう言ってインディゴはドラウと一緒に影に潜った。
そして、それを陰から見つめるものがいた。
物音ひとつ立てずに、消える。
運命の歯車が、加速してゆく…。




