第1章王都・反乱編 第1話 嵐の前の
夜も更け、インディゴたちはペレオディナに連れられて、
グレースの知り合いの宿に通される。
「すみませんが、昼の事もありアッシュ様は暗殺を警戒しておられます。
なので、粗末なところですが…。」
「いや、かまわんよ。
それに丸一日は寝てないからな、
ほら、べオはさっさと部屋に入っていった。
きっと今頃熟睡してるわ。」
「それならよかったです。ここの魚料理は絶品ですので
ぜひ堪能していってください」
「ああ、では明日。
アッシュにも伝えといてくれ。
”小僧の老いっぷりを楽しみにしている”とな。」
「ふふっ、わかりました。
グレース様に伝えておきましょう。
それではおやすみなさい。」
そう言いペレオディナは、宿を出た。
馬車に乗って貴族街の自宅に帰るのだろう。
店主が皿をもって厨房から出てきた。
「お待たせいたしました。
おや?お連れの方は…。」
「もう眠っている。
…うん、仕方ないな。
あいつの分は私が食おう。」
「はい、了解しました。
それではこちら、
『ソードフィッシュの香草蒸し・ダイアモンドポテトのポタージュ』でございます。
添えのベイクドブレッドとレモネードはおかわり自由ですので、受付に言ってください。」
「ああ、実に旨そうだ!ではいただきます!」
インディゴはパンにかぶりつく。
カリカリの外とふわふわの中で見事に食感が変わっている。
試しにポタージュにつけてみたが、柔らかく味が染みわたり、実に絶品だ。
ポタージュをスプーンですくい、口に運ぶ。
ポタージュもしっかりととろみがあり、
口に入れるたびに、じっとりとした濃厚な旨味が染みわたる。
ソードフィッシュはそのままの姿だ。ナイフで身を切り、フォークで一口一口を味わう。
この魚はすさまじい攻撃性を誇るモンスターだが、
それを忘れるほどに風味豊かで、しっかりとした噛み応えだ。
ソードフィッシュと一緒に蒸された野菜も、
1つ1つ味が濃く、素材の味が生きている。
何も言えずにただ味わう。
気が付けば食事は終わっており、夢見心地のまま椅子に座っていた。
「インディゴ様、風呂の準備ができました。」
「風呂?宿屋にそんなものがあるのか?」
「はい、ちょうど新しくできたばかりです。
風呂屋は市民の交流の場所ですから、都合が悪いかと…。」
「なるほどな、この上か?」
「はい。タオルは部屋の前に置いてありますので、
服などは、籠の中に置いていただけたら。
後に宿屋の方で洗いますので。」
・
「いや~1人というのも、何か気分がいいな~!」
インディゴは心地よさそうに笑った。
部屋には蒸気が満ちており、滴る汗をタオルで拭う。
この世界に水風呂という物は、まずほとんどない。
魔法で出した水は魔力を纏うので、普通の人が入ったら魔力中毒を起こすのだ。
どの時代でも水はかなり貴重なので、使えるのは1部の王族だけなのである。
風呂を出て、宿屋が用意した寝間着を着る。
夢見心地のまま部屋へと歩いていると、1人の女とすれ違った。
インディゴと同じ銀の髪だが、目はぎらぎらと赤く輝いている
「あら、失礼。」
「いや、こっちこそ。」
1言だけ交わして2人はすれ違う。
だがお互いに、何かを感じていた。
(今の女堅気ではないな…。血の匂いがすごい。
まさかグレースの言っていた…?)
(あら?あらあら?あらあらあら?
今の可愛いのがひょっとして、…魔王インディゴ?
なーんだ、すごい残念。
あまり楽しめそうではないですわね…。)
部屋に帰ったインディゴは、ベッドに転がる。
「そろそろだろう、報告をせよ。」
「はっ、たっぷりと情報を持ち帰りましたぞ!」
声が響く。
暗がりの中から全身を軋ませてドラウが出てきた。
「やはり、長時間の潜伏はきついか?」
「いえ!インディゴ様の声を聴くだけで疲労は消えてなくなります!」
影魔法は、影の世界に潜る魔法だ。
当然、地下や壁なども質量はそのままであり
その間を無理やり通り抜けるのである。
影魔法のメリットは、現実に影響しないことであり、
普通の人間が使っても、質量で押しつぶされて死ぬだけである。
つまり実質的に魔族専用の魔法なのだ。
「今回の第2皇子ガーベラの調査で得たもののの中で、
特に大きかったものが2つございます。
まず1つ、やはり反乱を企てているのは事実で、
己の娘カトリーナを使い、帝王の座を奪おうとしております。
そこでカトリーナも調べてみたところ、
長い間幽閉されていたようで、血がつながっているかどうかも
定かではない様です。
会って話をしたところ、本人は血が流れるのを嫌っている様子でしたので、
そこに付け入る隙があるかもしれません」
「アッシュの手先だとバレなかったのか?」
「はい。モンスターに襲われているところを助けたので。」
「なるほどな、恩を売れたのは大きい。
明日、アッシュに話すが構わぬな?」
「仰せのままに。
そしてもう1つが…。」
「…スカーレットだろう。」
「…気づいておられましたか。
はい、妹君が裏で暗躍しております。」
「私が死んだ50年前から、スカーレットは何をしていたのだ?」
「はっ!まず4年前に大臣となり、
徐々にエルドラドの裏を担う存在になっていきました。
現在も公務に励んでおられます。」
「…あいつとは、仲が良かったと思うが…。
ふむ、ダメもとで会いに行ってみるか?
いや、それで本当に敵だった場合は面倒なことになる…。
…ああ、ご苦労だったドラウ。
引き続き監視せよ。」
ドラウは静かに一礼した後影に潜って消えた。
そして部屋には静寂が満ちる。
(まあ、何にしても明日アッシュに会ってからじゃないと始まらんな。
とりあえずもう寝るか…。)
そう思いながらインディゴはベッドに寝転ぶ。
…その夜、街には不思議ないびきが響いたと言う…。




