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第3章 2泊3日の修学旅行(2日目)

 2日目の7時。1年生全員、食堂に集まった。


「いただきまーす!」


 今日の朝食は天ぷらラーメン。


 今日もまた麺類かよーと言いたくなる。理由は簡単、昨日の朝食がわかめうどんだったからだ。


 それに、ソーマが作ったうどんより変に冷めてて、美味しいなんて、ちっとも思わなかった。


 朝食が終ってからすぐ準々決勝だから、素早く冷めたラーメンを食べていた。



 8時、準々決勝が始まった。


 1チーム対3チームはAコート、6チーム対8チームはBコート、10チーム対11チームはCコート、14チーム対15チームはDコートでバトルをしている。


 負けたチームはカラオケルームでカラオケを楽しんでいる。


 Aコートでは、1チームが先攻になった。


 1組の男子生徒が1組の委員長に

「おい、メガホン、お前が最初にやれ」

 と、あごを使って言った。


「あのさあ委員長、なんで1組の委員長のことをメガホンと呼んだん?」


 キャリンがエナメルに質問した。


「多分あれちゃうか。抽選会の時に、あいつがメガホンを持ってていろいろ言ってたやろ」


「それでか!でも、いくら何でもメガホンはひど過ぎやんなぁ。しかも、命令形やし……」


 キャリンは腕を組んだ。


 一方、向こうでは言い合いが続いていた。


「あぁ、いいよ。その代わり、次はお前がやれよ。わかったかぁ?」


「やってやるよ!」


 1組の男子生徒が大声を出した。


 やれやれ……アイツが先にケンカ売ってきたのに、大声を出すのって、何か変だなあ。とみんなはそんな目つきをした。


 1組の委員長がボールを転がした。


 ガラン、素早い音でピンを倒した。ストライク!


「今度は、アンガレッジがやって!」


 ブルーンは指名する。


「わかった。オレ、やってみるよ」


「さすが副委員長、ファイト」


 ケイトはにっこりした。


 アンガレッジは球を押し出すように転がした。


 おっ、いい感じ!こっちもストライクだ。


「ヘーイ!来たでこれぇ!」


 27組は気分上々で、2組は普通に拍手をした。


「メガホン、俺がやって見せるから、よーく見てろ」


 この言葉で1チームを期待させ、3チームにはドキドキの緊張感を与えた。


 妙なポーズをしながらボールを転がした。


 本当に下手だ、本当に。普通、そこで変な格好なんてしないはずだ。


 2本倒した。こんな状態でよく倒したわと周りは悪い意味で感動した。


「やっぱ、お前はアホだ」


 1組の委員長は文句を言う。


「は?黙れ!貴様には言われたくないんじゃ!」


 男子生徒はそのグチに負けない。


「おい、待て、そこの君」


 ナノが両手を腰にあてた。


「何なんだあ!?」


「1組の委員長はストライク。お前はたったの2本だけ。バカじゃない?」彼女は目をしかめると

「知らねーよ、俺は」と彼は腕を組んでそっぽを向く。


「……もういい。次、2組の誰か。やって」


 ナノが2組の集団に目を向ける。


「で……でも……1チームの出番は終わってないよ」


 ブルーンが言った。


「そんなの、どーでも良いから、さっさとやって」


 ナノの目の色が赤色に変わった。怖い……


「……じゃあ、僕がやる」


 2組のシュウ・ジョーンは赤ちゃんを抱えるように球を持った。


 そして転がした。


 7本倒した。なかなかな腕前だ。



 あれから、50……78……87点というように、スコアを獲得していった。


 1チームもそれに負けず、85点まで追い詰めた。


 結局、ケイトが3回ストライクを決めて117点と104点で、何とか3チームが勝った。セーフ。



「皆さん、準決勝進出チームを発表します!」15チームの委員長がデカイ声で張り切ると「イエーイ!」とみんなはそれに答えた。


「準決勝進出は……3チーム、8チーム、11チーム、15チームでした。拍手!」


 パチパチパチパチ……ボーリング、それにカラオケで疲れきっていて、元気がない拍手をした。


「準決勝は、3チーム対8チームはAコート。11チーム対15チームはBコートで行います」


 もう準決勝なので興奮している。


 さっきの疲れはどこへ行ったのか?


「その前に、クラス対抗で目隠しフードをしまーす」


「おぉーっ」


 みんなは目を大きく開けた。心の中では密かに、あれ、準決勝は?と思っている。



 5分後、クラスで数人選んで、食べ物を食べる人と、食べさせる人を決めた。


 まず、27組では私がとある食品を食べる人になった。


 目隠しをするうえに、コルクでできた鼻をつまむ洗濯バサミのようなものをセットした。


 これじゃあ、鼻で呼吸できないので困った。


 口で呼吸すると、出っ歯になるので、参加する人のほとんどはギャアァー、と叫んでいた。


 ちょっとくらい、大丈夫なのに、大げさな……と私はため息をついた。


「準備が整いました!さて、お皿の上に乗っているものを食べさせてください」


 アンガレッジがマイクを持っている。


 私の口の中に何かが入った。


 ……何か、妙に甘くて、噛もうとしても、硬すぎて噛めない。これはまさにアメという選択肢しか出てこなかった。


 食べ終わってから、答えを書くホワイトボードと黒マジックが渡された。


 私はちょっと面白がって、英語でCANDYと書いた。


「皆さん、書けましたでしょうか?それでは、オープン」


 30人は自分らの解答を見せびらかした。


 ほとんどの人はやっぱりアメ。中には私みたいに英語や筆記体で書いている人もいた。


 けれども、たった1人だけ、砂利と書いていたドランがいた。


 それを見たアンガレッジは疑問に思って、

「なぜその答えが出たのですか?」

 と聞いた。


「ん、だって硬かってんもん」


 ドランは唇をとがらせる。


 私は顔を突き出して、

「ホンマに砂利を食べたん?でもさ、それにしてもちょっと大きかったんちゃうん?」

 と聞く。


「ガチで小さくって粒々やったで。まずかった」


「絶対ウソや、お皿持って来て」


 アンカレッジは私たちに食べさせた器を持って来て、私と2人で協力して皿を見た。


 アンガレッジはしかめっ面をした。


「バーリン、この皿を見て」


 私は皿を受け取った。


 そこには、なんと、本当に砂利がついていた。


「どうなってるん、これ?」


 私は飴玉を準備した生徒に尋ねた。


「30個とも飴玉を入れたよ」


「おかしいなあ」


 私は首をかしげる。


「おいっ!お前!よくも飴玉と砂利をすり換えたなぁ!」


 ドランは彼の目の前にいる男子に向かって文句を言った。


「は?どうやって砂利を持ってくるんだ?」


「でも、ポケットの中から砂が漏れてるぞ!?どういうことだ?」


「ホンマやー!」


 生徒は一斉に大声を出した。


 そして、あの男子がアメを噛む音が聞こえてきた。


「君、そんなん反則や!帰れ!」


 先生が彼を突き飛ばして帰らせた。


 ……せっかくの修学旅行が……


 みんなはしょんぼりした。


「……では、準決勝をしようか」


 アンガレッジが言った。



「みんなー決勝行こうぜーっ!」


「おーっ!」


 残った4グループで、各チームで大きな円陣を組んだ。


 どんどん自分の出番が来るたびにボールを転がしていく。


 ストライクだの、6本倒しただの、いろいろな結果がスコアボードに反映されていく。


 準決勝に参加している79人は本当に楽しんでいる。



 気づけば準決勝は終了し、112点と110点で決勝進出となり、大いに喜んだ。



 16時。オレンジっぽく輝いた太陽が窓を差して、とても眩しい。


「決勝進出発表をします」


 15組の委員長がマイクを持った。


「3チームと15チームです。今日も1日お疲れ様でした。それでは、18時まで入浴タイムとします。部屋でゆっくり休んでいただいても構いません」



「はあー、疲れた。風呂も入ったし、ゆっくり休もう」


 キャリンは椅子にもたれてくつろぐ。


「今何時?」ブルーンはボーッとしながら聞くと「今は16時半。まだまだ時間があるから劇でもしない?」とケイトは台本を出した。


「名案!」


 私とブルーン、キャリンは即座に賛成した。


『MAGIC HALLOWEN』の台本をめくると、ナイトという魔女がパンプキンに魔法をかけて、色を変色させるシーンがある。


「コバルト、ちょっとやってみて」


 ブルーンが黒いスマホを持って来た。


「何色にして欲しい?」


 私は背中から黒い20センチ程のステッキを出した。


「マジックできるの?」


 キャリンが畳の上にあぐらをかく。


「ああ、できるとも。うちのお父さんが有名なマジシャンでね」


「えっ、ひょっとして、コバルトはジャンクリン・バーリンの娘!?」


 ケイトの緑の目がうらやましそうに光る。


「あー、バレちゃったかー。まあいいや。何色がいい?」


「ミントグリーン」


「わかった。そーれっ」


 私はステッキを時計回りに振った。


「すげー、あたしがイメージしてた色と同じだ!」


 ブルーンは飛び跳ねた。


「うちもやって」


 キャリンとケイトが白いスマホを差し出した。


 同じようにステッキを振ると、キレイな鮮やかなピンクのスマホが現れ、ケイトのスマホは透明感のある群青色に変わった。


「コバルト、めっちゃありがとう!」


 3人とも上機嫌だ。


「よかった。そんなん言ってくれて嬉しいよ」


 私は微笑んだ。


「ちなみに、私のスマホはこれ」


 私はポケットから夜光タイプのキラキラ光る水色のスマホを取り出した。


「さすがジャンクリンの娘やー」


 ブルーンは私に指を指した。


「他に何やって欲しい?」


「マジックでピアノ弾いて欲しい!」


 音楽好きのケイトが目を光らせる。


 私は高級品の水色のグランドピアノをステッキ1本で出した。


 それから、トルコ進行曲の楽譜が現れ、楽譜をピアノにセットした。


 もう1回ステッキを振ると、誰も演奏していないのに、勝手にその曲が流れた。


 そのうえ、ピアノのキーはまるでピアニストが弾いているかのように動いている。


「本当にすごい!アタイ感心した!コバルトはナイト役になるべきだよ」


 ケイトは拍手をした。


「ははは、そーんなことはないよ。じゃあ、そろそろ夕食、食べに行かない」


 私は恥ずかしそうに笑った。


「うん。良い時間やしね」


 ブルーンはホテル用のスリッパを履いた。


 私は魔法で出したグランドピアノと楽譜に向かってステッキを振り、姿を消した。



 18時、カニ鍋がズラリと並んだ夕食の時間だ。


「いただきまーす」


「今日もまた鍋かよー。昨日食べたばっかりやん」


 キャリンが左手に箸を持ちながらカニを動かす。


「確かにそうだけど、カニって高級食材だから、感謝しないとね」


 ブルーンがカニの身をポン酢に浸けた。


 みんなはガツガツカニを食べる。カニを食べ過ぎて、肝心な野菜を残す。


 野菜を食べないと、血液がドロドロになって、体に悪い。


 それをわかっているなら食べるはずだ。だから、私は野菜をムシャムシャと素早く食べた。


 ふと顔を上げると、当然、ケイトは野菜を嬉しそうに食べている。ブルーンは食べ物を残すのが嫌いみたいで、渋々食べる。


 ところが、キャリンはカニを満足に食べ、野菜は少しも口にせず、ごちそうさまの挨拶を待っている。


「ちょっと、野菜食べないの?」私は不思議な顔をすると、キャリンから「お腹いっぱい」とあっさり言われた。


「えー、野菜最高なのに」


 ケイトがキャリンの野菜を箸で取って生で食べる。


「まあね、その気持ちはわかるわ。正味、私も食べるの辛くなってきた」


 私はふぅーっと深いため息をつく。


 キャリンは沈黙した。


 しばらくして、29組の委員長が前に出てきて、ごちそうさまでしたと言い、みんなは部屋に戻っていった。



「コバルトのお父さんは、なぜマジシャンになったん?」


 ブルーンは私に聞いた。


 私は、それについての昔話をした。



 今から30年前、私のお父さんは中学2年生だった。


 ある日、お父さんはお気に入りのテレビの特集で、彼の同級生が孔雀をインコみたいにベラベラ喋る鳥になるマジックをしたのを見た。


 孔雀は、本当に喋れるようになり、お父さんがそれに憧れたのがきっかけだった。


 それから、散々マジックの練習をしたが、なかなか上手くいかなかった。


 マジックが成功しないまま、気づけば高校に入学し、彼は機械部に入部してパソコンを作った。


 その時、パッと閃いた。


「そうだ、パソコンのWORDを使って、出来上がったデーターをUSBに移して、マジックのステッキにセットしたら良いんだ」


 つまり、WORDでお父さんがマジックで披露したい想像図をつくり、それをUSBに入れようと考えたのだ。


 まずマジックショーで使う黒いステッキを作り、その中にUSBを入れた。


 それから、近くにあった熊のぬいぐるみにステッキを振ると、なんと、ずっと前から憧れていたあの喋るマジックが出来た。


 あれから、USBのメモリーを頼りにいろいろなマジックを試してみると、全部成功したから今みたいに、有名なマジシャンとして活躍している。



「……すごいなあ、コバルトのお父さんは」


 ブルーンは既に用意された布団に寝転がる。


「確かにすごいけど、ひょっとしてアンタ、さっき、マジックに使った棒にUSBが入ってるってわけぇ?」


 キャリンは顔を私にグッと近づけた。


「何考えてるんだ?じゃあ、コバルトがあたしたちに見せてくれたマジックは、どうやってその中に入れたって言うの?」


 ブルーンは細めた目をキャリンに向ける。


「そんなぁ、あらかじめセットしてたに違いないよ」


 2人の話を聞いた私はにっこりして

「キャリン、今は全部念力でマジックをやってるよ」

 と言った。


「おぉー。でも、コバルトのステッキを借りたら、アタイにも出来そう」


 ケイトが少し期待した表情を浮かべる。


「残念ながらそれは無理だよ。このステッキは私の念がギュッと詰まっているから、私以外の人はこのステッキを使うことが出来ないんだよ」


 私はステッキを胸のポケットから取り出して眺めた。


「あぁ残念」と3人はしょんぼりしたが、私は「でも、リクエストがあったら披露してあげるよ」とステッキを両手でくるくる回す。


「マジで!ヤッター!」


 ブルーンは起き上がって、その場をぴょんぴょん跳ねた。


 私は布団の上に横になって「もう良い時間だから寝ようか。決勝戦に備えてね」とあくびをした。


「うん……」


 ケイトは目をこすった。


「3チームが優勝して、ドランに明日の夕食代をおごってもらおーっと」


 キャリンはにんまりした。


「そうやな、あははは……」


 私たちは苦笑いしながらそのまま眠った。

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