第3章 2泊3日の修学旅行(1日目)
初日の6時、みんなは正門前にいる。
それぞれのクラスの学級委員長と副委員長が点呼をとり、それぞれの委員長が口を揃えて
「全員います!」
と張り切った声で言った。
点呼は2分もかからなかった。
フェイス高校の団結力は半端ないほど強いと、私は改めて思った。
「それぞれ、バスに乗ってください」
と言う声が聞こえて、私たちは喋りながら移動した。
「みんなぁ、わかめうどん食おうぜー!」
コリオン・ソーマがオボンに乗せた40人分のうどんを小指1本で持ち上げている
そう、ソーマはハチャメチャカ持ちなのだ。
「おい、お前、なぜここで、キツネうどんが出てくるんだぁ?」リガ・ジンジャーは目を丸くすると「誰がキツネうどんと言った!?」とジム・ポラスがケンカを売ったような言い方をした。
ジンジャー以外の27組の生徒はゲラゲラ笑った。
「と言うことで、お前の負けな。よし、うどん食べよう、腹減ったぜ」
ポラスはジンジャーを見下すように笑った。
私たちはうどんを手にとって「いっただきまーす!」と嬉しそうに食べ始めた。
すごく美味しいとわかめうどんは大好評だった。
「なあソーマ、これ、いつ作ったん?」
キャリンがうどんをすすりながら聞いた。
「朝の4時から。やからオレ、めっちゃ眠たいねん」
ソーマは本当に眠たそうだ……
「ようやるなー、あたしなんか、絶対無理やで」
ブルーンは感心した。
14時、ポーカーリズムに到着した。
気づけば、私たちはバスの中で寝ていたのだ。
「皆さん、これから、チーム対抗ボーリング大会を行います。そのチームを抽選で決めたいと思います」
1組の委員長がメガホンを持って、それぞれの学級担任を含め、1229人に聞こえるように言った。
今決めるん?行く前に決めたらいいやんか!と普通の人はそう思うに違いない。
でも、フェイス高校は誰も思わない。理由は簡単、全員の前で抽選をすることで、みんながノリに乗って楽しめるからだ。
だから、私たちは騒ぎまくっている、と言うより、盛り上がっている。
果たして、何組とチームになるのだろうか?このハラハラドキドキ感でいっぱいだ。
「ルールを説明します」
1組の委員長が喋り始めると、かなり騒いでいたのがしーんと静まった。
「まず、各組の委員長さん、前に出て来てください」
それぞれの委員長は、前に出てきた。
「次に、4人に分かれてジャンケンして、順番を決めてください」
「最初はグー!ジャンケンポン!」
「よっしゃあ、勝ったー!」とジャンプをする10組の委員長もいれば「うわー、負けたぁ!」と大げさに悔しむ3組の委員長もいた。
5分かかって、順番が決まった。
「はいっ、それでは、いよいよ勝った者から順に、1から15まで書かれたくじを引いてください」
もう、みんなはこの時点で、とっくに騒いでいた。
ちなみに、これらのくじは木の棒で出来ており、長さ30センチ程で結構長い。
30本のくじは透明の大きな瓶の中に、ぎゅうぎゅう詰めで苦しそうに入っている。
まず、1番に勝ったのは我ら27組の学級委員長だ。
私たち27組の生徒は喜び始めた。
さすがエナメル!彼はクラス一の運の良いラッキーボーイなのだ。
委員長は、くじを引いた。彼は、みんなに見せびらかそうとした。
しかし、一組の委員長がメガホンにスイッチを入れて、
「まだ、くじは見せびらかさないでください」
と言った。
「何でだ?」
エナメルは一組の委員長の目を見る。
「最後の最後までの、お楽しみだから。やろ?」
ワクワクする1組の委員長の言葉に続き、2番、3番と、くじを引いていった。
結果は次のようになった。
チーム1・・・1組、19組
チーム2・・・11組、28組
チーム3・・・2組、27組
チーム4・・・12組、29組
チーム5・・・10組、18組
チーム6・・・8組、30組
チーム7・・・13組、26組
チーム8・・・9組、16組
チーム9・・・4組、25組
チーム10・・・3組、17組
チーム11・・・14組、24組
チーム12・・・6組、23組
チーム13・・・7組、21組
チーム14・・・5組、20組
チーム15・・・15組、22組
モニターに結果が表示された。27組は3チームになった。
「これから、準々決勝出場決定戦をします!前半は1チーム対2チームでAコート。3チーム対4チームでBコート。5チーム対6チームでCコート。7チーム対8チームでDコートにて行います」
1組の委員長はその続きに後半の試合を話す。
「後半は9チーム対10チームでAコート。11チーム対12チームでBコート。13チーム対14チームでCコートで行います!なお、試合の構成上15チームは準々決勝に出場となります。それでは、前半のチームはコートで待機してください」
私たちはコートに移動する。その途中でドランに会った。
「ヤッター、俺チーム15だから準々決勝進出だもんねー」
ドランは私ににんまりしながら自慢話をするように言った。
「あっそ、良かったね、その代わり、今日は試合なしやで」私は言い返すと「そーやった……すっかりかり忘れてたぁ……」とドランは頭を抱えてしょんぼりする。
「バカねぇ、お前は」
ケイトは呆れている。
「貴様、よくも言ったな!絶対オレらのチームが優勝するからな!覚えとけぇ!」
ドランはケイトに指を指す。
「言ったで、君。もし、お前のチームが優勝出来へんかったら、晩御飯代おごれよ」
マラナが腕を組んで、格好をつけた。
「あぁ言ったよ!」
「負けん気出しちゃって。そこで負けたら大笑いやな」
私たちは笑いながら、それぞれのコートに移動した。
14時半、いよいよ準々決勝出場決定戦が始まった。
私たち27組は2組とコンビで、12組と29組とのバトルだ。
ここで負けたら、後の2日間がつまんなくなる。
それは、15チーム以外共通の話。
だからみんな、緊張しているはず。なのに、前半の人は円陣を組み、掛け声をかけ合ったりして、テンションを高めていった。
せっかくの修学旅行だから、硬くなったって仕方がないという伝統的な考え方だ。
Bコートでは、3チームが先攻になった。
まず、最初にエナメルがボールを持った。
右腕を大きく振って……転がした!
おぉ、このボールは勢いよく転がっていく。うんうん、良い感じ!このあと、どうなるのか!?
ボーリングピンのところまで来た!
両チームとも手を組んで、結果を待っている。
果たして……
ガラガラガラン……
来……来た来た、ストライクだ!エナメルはガッツポーズをした。
「よっしゃあ!委員長ナイス!」
2組、27組は大喜び!
それに対し、4チームは「あぁー!」と一斉に叫んだ。
3チームはストライクで10点獲得。
でも、油断大敵。今度は後攻の4チームの出番だからだ。
12組の生徒は
「おい、27組の委員長がやったから、委員長がやろうよ」
と12組の委員長を力強く押し出した。
12組の委員長は腰をさすった。余程力強く押し出されたのだろう。
でも、こっちからすると、ありがたいことである。
確かに12組の委員長はかわいそうだけど、点数差が生まれて3チームが勝利するかもしれないから、ストライクを外すことを期待した。
彼はボールを力強く転がした!
……あれ、エナメルより勢いよく転がってない……おかしい、なぜだ?と私は不思議に思う。
そこで、偶然ブルーンの隣に立っているアンガレッジが
「ふんふん、物理的にいうと、位置エネルギーが、エナメル程大きくない。だから、転がした時の運動エネルギーが弱くなるのか」
とつぶやいた。
そうか、エナメルは右腕をものすごく上げていた。でも彼は、そこまで言うほど振り上げていなかったから、今のような状態で転がっているのか。と私は納得した。
それから意識して前を見ると、ちょうど、ボールがピンにぶつかった!
ガラン……6本倒し、残りの4本は左端の奥に密集している。
マズイ。これは次の人にバトンタッチしたら、4本とも倒されそうな予感が……
12組の女子生徒はボールを転がした。
ん?ピンの倒れる音が聞こえない……
実はガターだった。こんな時に外すとか、誰も思ってもいなかった。Bコート付近は冷たい空気に覆われた。
4チームのメンバーはあの女の子に文句をブツブツ言っているが、3チームは
「めっちゃいい感じー!この調子で頑張ろうぜーっ!」
と言っている。
あれから20分経過。どのコートも最後のターンだ。
Bコートでは100対88で、どう考えても3チームが勝利確定という状態だ。
3チームは、最後に代表として私がボールを転がすことになった。
「コバルト頑張れーっ!」
ブルーン、ケイト、キャリンは私の好きな青色のポンポンを持って応援している。
私はそこまでボーリングは得意でないけど、応援されて嬉しかった。
でも、応援されたからには精一杯応えようと、私は真剣な目つきに変えてボールを勢いよく、力いっぱい転がした。
ゴロゴロと、やや左方向に転がっていく。
ストライクにならなそうで、ドキドキする。
ガラガラガラガラン……すごく気持ちのいい音でピンが倒れていく。
ピンは1本も立っていなかった。要するにストライクだ!
「ヤッター、準々決勝進出やー!」
3チームは一斉にタイミングよくジャンプした。
私は人生初、ピンを全部倒した!信じられない!この達成感とこの嬉しさ!
「コバルト、すごかったでー!おめでとー!」ブルーン、ケイト、キャリンに褒められ「ありがとう、3人のおかげだよ」と私はにっこりした。
結局、110対92で、3チームが圧勝した。
17時、準々決勝進出発表だ。
5組の委員長がメガホンを持ってアナウンスした。
「ただいまより、準々決勝進出発表をします」
既に、勝ったチームは嬉しそうな顔を、負けた方は床を見つめている。
「1チーム、3チーム、6チーム、8チーム、10チーム、11チーム、14チーム、15チーム。以上です!勝ったチームは引き続き頑張りましょう」
勝ったチームも負けたチームも拍手をした。
19時、待ちに待った夕食TIMEの時間がやってきた。
「ああー、良い1日だったなー」
キャリンは頭の後ろに手を組む。
「今度は準決勝に行かないとな」
「いやいやコバルト、優勝だよ、優勝」
ケイトはツッコミを入れると、私は思わず笑ってしまった。
今日の夕食は、高級品の牛肉鍋で、ボーリングの疲れを発散してくれているみたいだ。
「いただきまーす!」
全員、機嫌よく爽やかに言った。
「これヤバイ!美味しい!」
私は出来上がった牛肉を食べる。
「こんなの初めて食べたー」
ブルーンは幸せそうに箸で牛肉を挟む。
「牛肉だけじゃなく、なめこも美味しい」
キャリンは、なめこと見つめ合っている。
「野菜も、しいたけも」
ケイトはヘルシーな物が好きみたい。
それから、私たちは、御飯に集中し始めた。
いつもは喋っているのに、疲れたのか、急に静かになった。
もちろん、他のクラスの生徒も全員沈黙した。珍しい!
ところが、デザートの300グラムのソーダアイスがテーブルの上に置かれた瞬間、大喜びして喋り始めた。
さっきの沈黙は何だったのか?
「アイス300グラムも一気に食べるの初めてやー!しかも、ソーダやし」
ブルーンは大興奮している。
「300グラムなのは別に良いのだけど、お腹壊しそう」
ケイトは半分笑い、半分真面目に言った。
「イイやんイイやん。せっかくここに来たのに、まともに考えたないわ」
キャリンは笑いながらアイスをほおばった。
「そんなん言っときながら、お腹壊したらどーすんねん」
私は左手にスプーンを持った。
「大丈夫大丈夫!」
キャリンは自分自身の身体をどうでもいい扱いをして、ケイトと私はため息をついた。
まあ、こんなデカイアイスは一生食べられないと思った。
私は早速アイスを食べると
「めっちゃうまいやん!中にメロン味とイチゴ味の2ミリサイズのCANDYがあるー!」
と叫んでしまった。
「サイズまで細かいなあ、測ったん?」ブルーンが尋ねると「大体だよ大体。でもさぁ、イチゴとメロンって、一致してない気がする……」と私は首をかしげる。
「ほんまそれー」
ブルーンが目を大きく開いた。
「イチゴならイチゴ、メロンならメロン、と言うように別個にして欲しいなあ。でも、これはこれなりに美味しいけどな」
私はスプーンでアイスをすくう。
でも、何か、イチゴとメロンを一緒にするのは、意味があるのでは?
すると、ブルーンは閃いたように言葉を発した。
「コバルト、多分な、イチゴとメロンを組み合わせたら、スイカ味になるとか!?」
「どっからスイカが出てきたんだ?」
「イチゴは赤色やん、メロンは緑やろ。」
「正確に言うとメロンは黄緑やけどな」
私は半分呆れている。
「もー、そんなんどーでも良いから」
ブルーンは少しキレたが、そこから話を続けた。
「とりあえず、スイカの果実は赤色。皮は緑やん。だから、イチゴとメロンでスイカをイメージして欲しかったんだよ」
「ああ、なるほど、ブルーンは頭が良いなぁ」
私は納得し、スプーンをテーブルの上に置いて「ごちそーさま。もう寝よっかなー」と背伸びをした。
「そうしよう」
ブルーンとケイト、キャリンは椅子から離れて、452号室に向かった。
22時、寝る支度はとっくに済んでいる。
「何か喋ろー」
キャリンがぽやーんとした顔で髪の毛をいじっている。
「そうだなー、劇部の話をする?」
私はうつ伏せになる。
「そうする?」ケイトが質問すると「賛成」とブルーンとキャリンがすかさず答えた。
「えっと、アタイ、ハロウィンの劇の台本をキャンベン先輩からもらったんだけど、何の役が良い?」
ケイトはカバンから『MAGIC HALLOWEEN』と言う名の分厚い台本を取り出した。
「……ふんふん、主人公がミスリルと言う女の子で、ミスリルの幼なじみの男がギヌ。ミスリルの友達のメイナ、男友達のダンかぁ……なるほどね」
ブルーンが台本をめくっていく。
「やっぱり主人公のミスリルやろー」
私は布団にひじをつける。
「何もかも主人公やんねー」
キャリンが眠たそうに言った。
「でも、主人公はハートボイルド先輩がとるんちゃう?」
ケイトが言った。
「なあ、あの先輩は演技がお上手やもんね」
ブルーンが少し悔しがっている。
「まだ1年目だから、そこまで悔しがらなくても大丈夫」
私は元気づけた。
「そうだよ、まだまだこれからさ」ケイトが台本をカバンの中に直すと「ありがと。あたし、これから頑張るわ」とブルーンは気を取り戻した。
「今日は寝ようか」
キャリンがランプのリモコンを持った。
「おやすみー」
電気を暗くして私たちは寝た。