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第9章 ウリヴァースの世界と自分

「何が権限力やねん!副部長だからと言って調子に乗るな!」


 スキーバの目の奥は怒っている。


「あぁ!?お前なんかに言われても通用しないからなあ!」


 マラナは叫んだ。


 この頃、私は一触即発状態だ。しかし、このままでマラナにぶつかると大喧嘩になるし……


 私はひと呼吸をし、目の色を変えた。


「そこの君、さっきから権限力が……とうるさく言っているけど、私と比べたらどうなん?しかもたかがカラコンのことで普通怒るか?」


 私は腕を組んでマラナに近づくと、彼女は無言を貫いている。


 私はブルーンの目を見た。白人のような綺麗な青色の目をしている。


「別にカラコンなんかしていないよね」


 私は傷ついているブルーンの近くで優しく言った。


「うん。むしろ、部長と同じ緑色をしたカラコンをして別世界の人間だとバレないようにしてた」


 ブルーンは雪で積もった白い地面を見ている。


 一瞬、時間が止まったかのように物音が止まった。


「……別世界の……人間……?」


 リートはゆっくりとブルーンの方を向いた。


「うん。あたしは、このサーファスと言う世界の人間じゃないの」


「そうなん?俺、初めて知った。じゃあ、お前はどの世界の人間なんだ?」


 ドランは黙っているマラナのそばを離れる。


「ウリヴァース」


 ブルーンは即答した。


「……それ、どこにあるん?」


 スキーバは聞き返した。


「シークレット・レイクよ。また冬の終わりぐらいに行く?」


「行こーぜ!」


 ドランは別世界に興味があるようだ。


「なるほど、そうだったのか。悪かった。ゴメン」


 マラナはブルーンに謝った。


 これで、ブルーンとマラナの喧嘩は一件落着した。



 年が明けた2月18日の10時、私たち演劇部員はシークレット・レイクに行った。


 直径500メートルぐらいで、周りは針葉樹林が数えられない程、多く立っている。


「で、どうするん?」


 私は透き通った湖に手をつけた。比較的暖かくて、清々しい。


「この中に潜るのよ」ブルーンは水泳選手のように飛び込むと「おい、待てよー」とドランは慌てて湖の中に入った。


 取り残された私たちも湖の中に潜った。



 私たちはひたすらブルーンの後をつく。


 息苦しくなるのかなと思ったけど、そんなことは一切無かった。


「この湖は酸素が70パーセント含まれているの」


 ブルーンは後ろを振り返った。


 ふむふむ、なるほどねと私は納得した。



 10分後、見たことのない世界が視界に入った。


 何か、ガラスのような建動が……


「今、見えてきているのがあたしの故郷、ウリヴァースと言う世界やで」



 さらに10分後。


 湖から抜け出して、アクリルで出来た道路に着地した。


 実際に見たことがあるようでない曖昧な気持ちになった。


「さて、あたしのじいちゃんとばあちゃん家に行こう」


 ブルーンは機嫌が良い。


「あ……う……うん」


 私たちは戸惑った。


 ここで、うんと言って良かったのか?



「ここがあたしの祖父と祖母の家」


 見た感じ、私の祖父母の家とそっくりで、なぜかコントラバスの絵が家に描かれている。


 早速、中に入ると

「おや、コバルト。帰ってきたのか」

 とブルーンの祖父が言った。


 一瞬、私のことを言われたのかと思って、焦った。


「もちろん!」


 ブルーンが微笑んだ。


「サイダーでも飲むか?」


「ありがとうございます!」


 私たちは、もらったジュースを早速飲んだ。



 和室に移動すると、突然マラナは

「ちょっと、コバルトって呼ばれてなぜ君が反応する?」

 と目を大きく開いて尋ねる。


「ああ、実は、あたしの元々の本名はコバルト・バーリン。でも、高校生になってから、サーファスの世界に行くことになり、本名をブルーン・バイオレットに変えたの。部長と名前が被っていたら気持ち悪いし、どっちがどっちか、はっきりしないでしょ」


「えっ、私と本名が同じ?」


 私は自分に指を指す。


「そう。本当のことを言うとね、サーファスは現実界、ウリヴァースは理想の世界と言うこと」


「つまり、サーファスとウリヴァースは対の関係ってこと?」


 キャリンは腕を組む。


「ま、そういうことやな。例えば、コバルトは緑色の目をしているけど、青色の目だったら……と思っていることになるわけさ」


 ブルーンは人差し指を天井に向けた。


「何でわかったの?」


 私は卓袱台に音を立ててサイダーの入ったグラスを置いた。


「ふふっ、理想の世界に住んでいるからには分かることだよ」


 ブルーンは目を閉じて軽く笑った。


「何かコバルトと顔が似ていると思った」


 ケイトは腑に落ちた。



 しばらくすると、ケイトとキャリン、マラナ、リート、スキーバ、ドランとそっくりな人間が入ってきた。


「うーわ、俺とそっくりやー!」


 ドランは別世界のドランに向かって指を指す。


「ああ、君たち!久しぶり」


 ブルーンは後ろを向いた。


「おおっ。……てか、アタイとそっくりの人がいる」


 ピンクの目の色をした別世界のケイトは言った。


「そう、サーファスの友達を連れてきたんだ」


 ブルーンが言った。


「そうなんや」


 薄い紫色の目をした別世界のドランが言った。


「なんか……急に入ってきてゴメンやで」


 赤色の目をした別世界のマラナが言った。


「いや、全然」


 ブルーンは笑った。



 正午、せっかくだから14人でうどん屋さんに行った。


 私たちは同じきつねうどんを頼んだ。


 待っている間に……


「部活は何してるん?」キャリンが興味を持って緑の目を光らせると「演劇部やで」と橙の目の色をした別世界キャリンが言った。


「ウチと一緒や!」


 キャリンは興奮した。



 一方、リートでは、


「アタイは演劇部に入ってて、2ヶ月前にミリオン・スターと言う大会で優勝してん」


「おおー、それは良かったやん」


 黄緑色の目をした別世界リートが嬉しそうに反応した。


「しかも、賞金100万円!」


 リートはますます興奮してしまった。



 スキーバでは、


「部活で、部長と副部長が決まった後に、ハプニングが起こってん」


 スキーバの顔はニヤけている。


「どんなハプニングや?」


 濃い青紫色の目をした別世界スキーバもニヤけて聞き返した。


「エトランダが舞台裏から持ってきた道具箱のホコリを払って、床がめっちゃ汚れて、そいつが腰を振りながらモップを掛けとってん」


 スキーバは嘲笑う。


「それ、よっぽどの話やで」


 別世界スキーバも一緒に笑った。



 ……このように現実の自分と理想の自分と楽しく喋っていた。



 5分後、14人分のきつねうどんが来た。


「いただきまーす!」


 一斉に食事の挨拶をする。


「やっぱり、このうどん屋が一番美味しいわ」


 別世界のドランは大盛りのうどんをハイスピードで食べる。


「俺だって負けへん!」


 ドランも意地を張る。


 私たちは早食い対決を黙って見る。


 12人の目線を浴びているのに気づかないドランと別世界のドランは同じスピードでうどんをすする。


「2人とも負けん気が強いなあ」


 マラナはクスクス笑った。


「また、こうやって引き分けで終わるんだろうね」


 私もだんだんニヤ顔に変わっていく。


 私たちは負けず嫌いの2人は放っておいて、12人でワイワイと楽しんでいた。



 2分後。


「あぁ、引き分けだったー」


 ドランは椅子の背もたれにもたれた。


 私たちは少し黙ってから大爆笑した。


「なんだよ、俺らのことを馬鹿にしてんのんか?」別世界のドランが私たちに文句を言うと「いやあ、2人の性格は相変わらずだなあって」と私は腹を抱えている。


「それに、コバルトが絶対引き分けに終わると言ってて、それが的中したからね」


 ブルーンは無理やり笑って、私に指を指した。


「ちょっとお、絶対とは言うてへんで!」


 私はブルーンの頭を軽く叩いた。


「うーん、コバルトとブルーンの言い合いが、何となく大げさに見える」


 ケイトは首をかしげた。


「元から大げさなんだけどね」


 別世界のケイトは私たちを見つめた。



 14時。


 トレジャー・アミューズメントという遊園地に遊びに行った。


 頑丈なピンク色のアクリルで出来たメリーゴーランドや、中身がスケスケの観覧車などがある。


 これらは全てアクリルに色をあらかじめ混ぜているので、色落ちの心配はないようだ。


「やっぱり最初はジェットコースターやろ」


 キャリンは大喜び。


「やっぱりそうやんな」


 私も目を光らせた。



 10分待って、ようやくジェットコースターに乗った。


 線路は水色、列車は緑色をしている。


 足元を見れば当然色々なアトラクションが見える。


 しかも、ただでさえ地上から10メートルの所にいるのに、全てアクリルで出来ているお蔭で、もの凄く怖い!


 発車した。地上30メートルの所まで、ガチャガチャガチャ……とのんきに上がっていく。


 頂点に達した瞬間……急降下!自由落下のように時間が経つにつれ、速度が速くなる。


「ギャーーー!」


 私と隣に座っているブルーンは、アクリルの棒に捕まるのに必死だ。


 私たち2人以外はバンザイして、思いっきりジェットコースターを楽しんでいる。



 30秒後、私は木の葉の上に光るものを見つけた。


 左腕を伸ばす。光るものはすぐそこだ。


 私はタイミングを測り、触れた感覚を覚えた瞬間、左手を握り締めた。



 1分後、ジェットコースターは海の近くに来た。


 線路をよく見ると……あれ、途切れている!


 これは濡れるパターンだ!


 列車は海の中に入ろうとしている。


 さすがにジェットコースター好きのキャリンだって、大叫び。


 ザブーン!と音を立てて海の中に入った。


 5秒程経ってから、地上に出た。


 目の前はジェットコースターの降り場だった。



「あー、楽しかったけど、服がズブ濡れ」


 別世界のキャリンはパーカーを脱いで、雑巾のように絞る。


「ホンマそれ」


 リートも彼女と同じことをした。


 私は14人分のLサイズのフライドポテトを買って、配った。


 食いしん坊のドランは一気に全部食べてしまった。


「おいおい、それは無いやろー」


 マラナは足をクロスしてドランに指摘した。


「だって、これうまいもん」


 ドランは自分のお腹を叩いた。


「はいはい、分かった。次行こう」


 私はその行為に呆れてしまった。



 観覧車の前に来た。とても大きい。


 中に入ると、14人全員が収容出来て、思わずビックリしてしまった。


 その上、観覧車から眺める景色は見たことのないない絶景だ。


 西側を見ればマリンブルーの綺麗な海。東側は山と派手な住宅地が。


 そして、足元を見ると小さくトレジャー・アミューズメントが見える。



 20秒経ってから、私はポケットの中からジェットコースターに乗っていた最中に木の葉を取ったものを取り出した。


 手をそっと広げると、計算通り光るものがあった。


 純銀のリンゴのネックレスだった。


「コバルト、それ、どこで手に入れたん?」ケイトが聞くと「ジェットコースターに乗ってた時に、キラキラ光ってたから、何かなと思って取ったヤツ」と私は早速そのネックレスを首につけた。


「セコイぞ!」


 ドランはそれを指す。


「ひょっとすると、所々に宝物が隠れているかもしれないね」


 別世界のケイトが言った。


「なるほど。だから『トレジャー・アミューズメント』って言うんだ」


 ブルーンは足を組んだ。



 3分に渡る空の旅は終わった。


「あー、楽しかった!」


 リートは背伸びをした。


「こんなに楽しい遊園地なんて、普通無いやんな」


 スキーバは体のストレッチをした。



 それから、クリスタルのお化けを見て叫んだり、時期外れのパンプキンの置物を見たりして、楽しい時を過ごした。



 17時。もう夕方だ。


「今日は本当にありがとう!楽しかったよ」


 私は微笑んだ。


「こちらこそ、一緒に遊ばせてくれてありがとう」


 別世界のキャリンも微笑んだ。


 すると、空から多くの羽のついたボトルメールが舞い降りてきた。


「これは……何?」


 ケイトはそれらを眺めている。


「ボトルメールよ。サーファスとウリヴァースの世界の人とのやり取り、手紙みたいなものやで」


 ブルーンは飛んでいるボトルメールを手にとる。


「じゃあ、帰りに買って帰ろうかな」私はカバンから財布を取り出すと「そうやな」とケイトも財布を取り出した。



 10分後、私たちは6個のボトルメールを買った。


「今日はありがとう。また会えたらいいね」


 私たちは手を振った。


「こちらこそ」


 別世界のスキーバたちも手を振った。


「それでは、バイバーイ!」


 私たちはサーファスに帰った。


 

 元の世界に戻ってきたら、冬の大三角やふたご座など、綺麗な星が非常に多く見える。


 もう19時だ。


 ケイトが服を見ると

「あれ、濡れているはずなのに、濡れてない!」

 と言った。


「一体、どないなってるん?」


 スキーバは湖に向かって言う。


「本当だ!」


 リートはジェットコースターで濡れたはずのパーカーを触った。


 直径500メートルの湖が光り始めた。


 たまたま空を見上げると、オーロラが見え始めている。


 湖から10センチくらいの女の妖精が現れた。


「この湖の名称は、シークレット・レイク。神秘の湖よ。ここがサーファスとウリヴァースの境目になるの。ここから出入りするときに、びしょ濡れになったら、文句を言うでしょ。だから服などが濡れないよう、常に魔法をかけているのよ」


 妖精は青い立体の星型のステッキを軽く振り、湖の中に入ってしまった。


 空のオーロラも見えなくなり、湖の光も、全て元に戻った。


「ふーん、本当に神秘的な湖だね」


 マラナは湖を眺めた。



 22時。


 私の部屋で、ボトルメールを6人『今日は一緒に遊んでくれてありがとう。また会う機会があったらいいね。サーファスのコバルト』とブルーブラックカラーの細いボールペンで書いた。


 6枚の手紙を瓶の中に入れ、栓をした。


 瓶の羽をじっくり見ると、スカイブルーやカーマイン、コバルトブルーなどの薄い色で塗られている。


 満足に羽を見てから窓を開けて

「これらをウリヴァースにいるケイト、キャリン、マラナ、リート、スキーバ、ドランの元に届けてください」

 とささやいた。


 羽のついた6つのボトルメールは夜の空を優雅に飛び周り、やがてシークレット・レイクの中に入っていった。


「これで、6人の元にきちんと届いたら良いんだけどなあ」


 私は窓の緑に両ひじを立てて、ウリヴァースの世界に住んでいる人と遊んだことを思い出しながら夜景を見ていた。



 翌朝。


 私は勉強机を見ると6つのボトルメールがあった。


 きっと返事をしてくれたんだ!と早速6つの栓を開栓し、内容を読んだ。


『昨日は一緒に遊んでくれてありがとう。今度はサーファスに行きたいな!』


 と書かれてあり、他の5つの手紙も似たような内容だった。


 また遊べる機会があれば良いんだけどね。

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