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メイショッ  作者: もの
1/3

島より

連絡船の揺られること3時間。

まもなく船が島に到着するというアナウンスが流れる。


一人ゲームコーナーでスロットを回している男が舌打ちをする。

男の名は椎名卓しいな たく

椎名はささっと、支度を整えて、下船の準備をする。


椎名「せっかく、ボーナス引いたとこだったのによ」


椎名はポケットに名刺入れが入っていることを何度も確かめた。

混雑を避けるため、半数以上が降りたタイミングで、列に並ぶ。

キャリーケース2個にバッグが一つ、PC用のカバンが一つと、男の一人旅にしては大層な荷物である。


椎名は潮の匂いを嗅ぎながら、船を後にする。

船と建物とをつなぐ連絡通路を出ると、そこには3人ほど男性が待ち構えていた。


椎名「お世話になります。 椎名です」


椎名は島の観光課の人たちと名刺を交わす。


椎名「よろしくお願いします。 で…メイショはどちらに?」


観光課の人たちは、眉毛をしかめながら、首を横に振る。


椎名「そうですか…じゃあ、公用車を貸してください。 島の観光がてら、いそうな場所に行ってみます」


椎名は、観光課の人たちと町役場に行くと、公用車を一台借り受ける。 それと、住みかとなるアパートの鍵と島内マップを受け取る。


椎名「どうも… それでは、これからよろしくお願いします」


椎名は、公用車に荷物を押し込み、荒々しく、ドアを閉めた。


椎名「くそー。 めんどくせぇ。 こんな仕事うけなけりゃ良かった。 何が悲しくてガキのお守りをしなきゃいけねぇんだ」


椎名「本土に帰ったら覚えてろよ。 あんにゃろー」



3カ月前

椎名の事務所に3人の男が訪れた。

椎名は身構えた。

一人の男が話始める。


「地方再建のために、力を貸してほしいのです。 コンサルタント業を営んでいる君にはうってつけの話でしょう… この『メイショ』計画に是非参加いただけませんか。 報酬はお約束します。 月々50万円に加えて、インセンティブもあります。 それにプロジェクト成功の暁には… いくらでも、望む報酬を渡します」


椎名は相手の名刺を見て、しばし、考えたのち、首を縦に振ったのだ。



そして、現在。 

椎名は運転をしながら、『メイショ』計画について反芻する。


椎名「地域の名所をAIによって擬人化したアバターと一緒に地域を再活性させる…か まあ、おもしろそーではある… けど…めんどくせぇ 意志なんて持ってたら、ややこしくなるだけじゃねぇか」

椎名「ぶっちゃけ、見当もつかねぇ… まあ、適当にぶらついてたら、帰ってくんだろ…… そうだ」


椎名は道の端に車を止める。


椎名「…この辺パチ屋はあるかな? って、あるなぁ… ここで暇でも潰すか、幸い金はあるしな」


椎名は、パチンコ屋に車を走らせる。

パチンコ屋に入るや否や、台を物色する。


椎名(うーん… 思ったよりも打てそうだな… どれどれ)


しばし、遊びに興じる。

店を出るころには、日が頂点よりやや西に傾いていた。


椎名(ふー… 儲け儲け。なかなかいい店だったな。 こりゃ退屈しのぎになる…っといけねぇ、一度、家に行くとするか)


椎名は町が用意した家に向かう。

アパートの一室が割り当てられていた。


椎名「うーん。 まあまあかな… けど、文句は言えねぇな。 まあ、東京の家よりはましだ」

椎名「っていうか、まだ帰ってねぇのか… そんなら、もう少し打ってても良かったな…」

椎名「…」

椎名「…まあ、仕事の一環だ… このろうそく島ってのにでも行ってみるか…」


椎名が車を走らせること30分。

うねうねと山を回り、海岸沿いの村についた。


椎名「こんなとこかよ… うーん、こんなとこに人が来るんか?」


椎名は車を適当に停めて、ろうそく島を見ることができるポイントへ行くため、遊歩道を進む。


椎名(とうそく島… 元は海に突き出した大きな岩… それが波によって削られることで、蝋燭のような形になったもの… その頂点と沈む夕日が重なった時… 蝋燭に灯がともったように見えることから、そう名付けられた…か)


椎名は遊歩道を進み、高台からろうそく島を確認した。

椎名「ってか、ここからじゃあ、島は見えても、角度的にともるところは見えねのか…」

椎名「あっちの島からなら、灯って見えるのか…… ん?」

椎名「人? おいおい、あんなとこいて、あぶねえじゃねぇか」


ろうそく島の近くに突き出した山がある。

その上に、人影が見えた。

椎名はそこに向かって車を走らせた。

ちょうど、近くに野営場があった。

椎名は車を停めて、野営場から海辺へ進む。


海辺から、突き出した山を登るルートが見えた。


椎名「おかしいな… ここ立ち入り禁止か…」

椎名「…」

椎名「特権だ。 行かせてもらうぜ… 良い子も悪い子もマネすんなよっと」


椎名は、山の頂点へ向かう階段を登る。

少し、気持ちが高揚しているのが分かる。


椎名は頂点についた。

一歩一歩、海の方へ近づいていく。

椎名の目の前には、

空を漂う雲が

全て赤く染める太陽が

ただひたすら広大な海が広がる。


海に沈む太陽が

丁度、ろうそく島の頂点と重なる瞬間。


椎名は後悔していた。


椎名は今でこそ、やさぐれているが、元からそうではなかった。

むしろ、大いなる夢をもって、社会に飛び込んでいた。

自分の力で社会を変える。

そう意気込んでいた。

しかし、生活のためにお金を稼ぐようになり、いつしか、そのような夢は風化していった。

だが、内心では、このままではこの国はダメになる。

そのように思ってもいた。

だが、どうしようもなく、ただただ悩むばかりであった。

その悩みは心の奥底に押し込めて、ガラクタと一緒にしていた。



椎名は後悔していた。

この景色を見てしまったことを。


椎名には、このろうそくはこの国の命の灯のように映った。

ゆらめく灯は、今にも消え入りそうである。



しかし、海の中、波の中確かに島はそこに立っている。

その頂の先には、真っ赤な、実に真っ赤な太陽がある。


このようなものを見なければ…椎名は明日、朝からパチンコ屋に並んでいたことだろう。

このようなものを見なければ…椎名は『メイショッ』計画も適当にこなして終わっていただろう。


椎名の頬を涙が伝う。


「へー… オジサン… 見かけによらず。 ロマンチックなんだぁ」


少女の声が聞こえる。

椎名は、そもそも、人影を追ってここに登ったことを思い出した。


椎名「お… だれだ? からかうんじゃねぇ。 それに、オジサンじゃない。 お兄さんだ」


横には、少女が膝を抱えながら、椎名の方を見ていた。

かと、思うと、その姿は消えた。


椎名「え…?」


「こっち、こっち」


声がする方を向くと、少女がろうそく島のてっぺんに立っていた。


「…来て… 手をこっちに」


椎名は恐る恐る手を前に出す。

すると、体が引っ張られ、気付いたらろうそく島のてっぺんにいた。


椎名「おいおい… これもAIの力か? なんでもありだな」


「察しがイイね。 オジサン」


椎名「だからオジサンじゃない。 お兄さん… いや」


椎名は、胸ポケットから、名刺を出すと、片手で渡す。


椎名「椎名。 椎名卓だ。 あんたは? お嬢さん」


オキノ「オキノ… アナタがパートナーね。 写真よりも、老けて見えるわね」


椎名「ふーん… まあ、なんだ。 よろしく頼むわ」


オキノ「こちらこそ… ようこそ、隠岐の島へ」




椎名はぶっきらぼうに接しながらも、ひそかに、自分の奥底のたぎりを感じていた。











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