Lv.RESET 灼熱の牙
Lv.RESET灼熱の牙
■探索者へのお知らせ《重要》
銃使用許可証持ちの方々へ。本年度より協会の耐久試験結果で適応外とされた銃火器及び精密機器のゲート内持ち込みは原則禁止とさせて頂きます。
違反を確認した場合、ハ号に記載しております罰則が適用されます。
火器の取り扱いについて―ページ150参照。
精密機器の分類について―ページ586参照。
詳細は別紙①第三項をご確認ください。
――死ぬ、マジでどうしようもない。
ガタつく石畳の上へ身体を投げ出され、身体を押さえつけられる。
潰れる程の重圧、彼は自らが致命的な事態に陥ったのだと理解した。
勿論、何もせず這いつくばるような諦めの良さは持ち合わせておらず……決死の勢いを持って必死に抵抗した。
無駄だった。
手足が熱い。まるで焼きごてをくい込まされたような激痛が四肢を炙る。
バリバリバリと、枯れ木の砕ける音が鳴る。
痛い。
彼の――俺の、腕だ。
痛い、熱い、痛い熱い痛い痛い熱い痛いッ!
「うっ――ぉごお」
激痛の炎は彼の腕を喰らい尽くすと脇腹まで到達した。焼け付く牙――今なお彼を押さえて離さない巨大な狼獣の食欲には限りが無かった。
眩しいくらいに視野が明滅する。
この一昔前のRPGにでも出てきそうな、四方をゴツゴツとした岩が覆って足元だけは丁寧にも整えられた場所で彼はどうしようもなく苦しめられた。
耐え難い苦しみはますます体の芯を凍りつかせてゆく。
鋭い牙が喉を抉る。
ごぼごぼと、口元で血が溢れかえった。
血に溺れる。
肉体は反射的に喉元へ手を当てようと動かし空を切った。
届かない。
右腕が軽かった。
――そうか、腕がねえから届かないのかよ。
それは空振りするわけだと。
確かに肘から先が失われている。
彼の主観では右手の感覚は存在していたのだが、錯覚に過ぎなかったようだ。
俗に言う幻肢痛のようなものか。
引き千切られた腕の裂傷は、肘から肩までを稲妻状に広がっている。
身の毛のよだつ咀嚼音。こうして意識があることすら奇跡的だろう。
もはや全身が血の海だ。獣は飽きもせずに彼の身体を貪り、離れる様子が全く無い。
死に際の超感覚というのだろうか。激しい痛みに苛まれつつもやけに体感時間が長いような気がしていた。
もううんざりだ、早く終わってくれよ。
身体はボロボロなのに内心では愚痴を垂れる自分のおかしさに笑う。
それももう終いか、段々と意識が朦朧になっていく。
途切れる寸前の聴覚が声を拾った。
「バーンレッドウルフと……あれは人間か!」
自分の方へ駆けつける音。他の人間だと分かった。しかし彼には何故か、死神の足音のように思えた。
身を潰すほどの圧力が消える。
微かな視界の隅で獣の影と小さな影が交差し、獣の影は四散した。
小さな影が迫る。
「生きてるかっ?意識はあるか?」
男の声。
答える気力も無かった。
気が遠い。
自身と他の境界が曖昧になり、全て分からなくなってゆく。
瞼が降りる。意識が黒く、黒く――。