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僕と愛

僕と愛

 おびき出された合コンの次の月曜日、あのペテン師は大学に来なかった。授業が、それも出欠をとるタイプの授業にも来なかった。多分、僕を避けているんだろう。思いっきり文句を言ってやるつもりだったのに、小賢しい奴だ。その代わり、(あい)に会った。

「あ、悦啓」

 食堂でお昼を食べていると、向かい側に愛が座る。愛は、僕が唯一普通に話せる女性。小学校のころからずっと一緒の、いわゆる幼馴染。僕は、昔から愛にお世話になりっぱなしで、愛がいなかったら、僕は今こうしてここにいられなかっただろう。大学だって、僕が愛を追って入学した形だ。水仙と知り合ったのも愛の紹介があったからだ。言ってしまえば、愛の交友関係に混ぜてもらってできたのが、今の僕の交友関係の全てだった。

「……あれ、悦啓、どうかした?」

 僕も、いくらなんでも愛に頼り過ぎだとは思うことがしばしばある。けれど愛は、とても鋭い。僕になにか悩み事、考え事があると必ず見抜いて声をかけてくる。そして、弱った僕は諸手を挙げてそれにすがってしまう。けど、今回はそんな大したことはない。

「いや……実は一昨日、合コンに連れ出されて」

「合コン?」

 愛の眉がピクリと動く。僕が女性が苦手なのは彼女もよく知っている。

「うん。連れ出されたっていうか、騙されて……」

「もしかして、連れ出したのって、アイツ?」

 愛は具体的な名前を出さなかった。けど、僕ら二人が思い浮かべているのが同じ人物だというのは手に取るようにわかる。

「はぁ……。アイツ、今度しばく。それで、悦啓は大丈夫なの?」

「うん、まあ……」

 あの日のことを考える度に思い出すのは、ケーキを大量に持って行った彼女のことだ。他の人とは全く話していないから、当たり前といえば当たり前だけど。

 あの後、飲食店での一次会はすぐに終わって、二次会に移った。とは言え、僕は即答で不参加を伝えた。もう精神的に限界が近かった。水仙の友達は二次会に参加していたから、帰るのは僕だけで、ケーキの彼女ともあれきりだ。他所の大学らしいし、もう会うこともないだろう。

 その程度の関係の人をいつまでも気にするのがおかしいなんてこと、僕が一番わかってるけど。

「悦啓」

 煮え切らない返事に痺れを切らしたのか、愛がテーブル越しに身を乗り出す。

「大丈夫。私がいるから。私はずっと悦啓の味方だから。なにかあったら、すぐに言ってね」

「うん……ありがと」

 頷いて見せると、愛は安心したように微笑んで席を立ち、食堂を出ていった。このあとも授業があるらしい。僕と愛は学部は違っていて、いつも愛のほうが忙しくしている。

 思えば、愛はいつもあれこれと忙しなく動いていた。特に僕の周りが荒れていた高校生の頃は、僕の涙交じりの愚痴を聞いて励ましながら、その傍らでなにか別のこともしていた。けど、そこでなにをしていたのかは決して教えてくれなかった。

 けれど、そんな状況でも凛として立っていられるのが、(じゃ)(ぬま)愛という人だった。


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