私の確認
私の確認
面倒なことになった。恐れていた事態になった。
悦啓に、またあの影が手を伸ばしている。しかも、より質の悪い方法で、悦啓に取り入るような方法で。
今度こそ、私は悦啓を守り抜かなければならない。あのときは、中途半端なことしかできなかった。影でひっそりと泣く悦啓の側にいて、その涙を拭ってあげることしかできなかった。だからこそ、今回は悦啓に涙を流させはしない。指一本たりとも触れさせない。
その為に、私は沢山の手を用意してきた。人脈を広げ、全てにおいて悦啓の前を歩いて、潜む危険は全て排除してきた。思いつく限り、万全の準備を整えていた。
けれど、これらは決して万能ではなかったらしい。私の張り巡らせた警戒と情報網と突破されて、悦啓のすぐ目の前にまで危険が迫っているというこの状況では、頼れるものは結局私一人だった。予防の段階はもう過ぎ去って、なすべきは対処だけ。これは、私一人でやるべきことだろう。
なのに、当の悦啓は今の状況を全く分かっていない。今日も今日とて楽しそうにアルバイトに向かっていった。今の状況を楽しんでいるようだけど、きっとその状況がどういった思惑で作り出されて、この先どう暗転するのかも分かってないのだろう。本当は、一刻も早くそんな沼から救い出してあげたい。
けど、蟹沢たちの思惑が分かってから早三日、私はなにも出来ずにいた。
親睦会を終えてから、私は最初芥原の動向を追おうとした。けど、どうしても見つけることができなかった。そもそも蟹沢のときが上手くいったというだけで、毎回都合よく特定できるわけではない。時間を掛ければ特定できなくはないのだろうけど、そんなことをするよりも悦啓の側にいる方針に切り替えた。蟹沢が既に悦啓に取り入っていて、芥原との連絡も取っているというのなら、いつ行動に出てもおかしくないのだから。
だから、悦啓がいる日も毎日喫茶店に足を運んでいた。とはいえ私と蟹沢は一回顔を合わせているだろうし、親睦会の件も耳に入っているだろうから、悦啓に合いに来たところに居合わせないように店には入らず、外から見守っていた。
そこで働く悦啓は、本当に楽しそうだった。少しでも気を抜くと、私までその先の暗雲を忘れてしまうくらいに。あんなに楽しそうにしているのは、二人でお泊り会を開いていたとき以来じゃないかと思う。そんな悦啓をみてしまうと、あそこに踏み込んでいって強引に連れ出す気にもなれず、ただ働く姿を外から見守ることが続いていた。
「…………!」
悦啓を見守り始めて二時間後、喫茶店に蟹沢が現れた。
「こんにちはー。枷下くんも元気?」
蟹沢は、悦啓がいる日はほぼ毎日のようにここに来ているらしい。私も何度かその様子を見ているけれど、いつもカウンター席に座ってはしばらく悦啓や店主と話している。今のところ、芥原の影はない。
蟹沢は今日もいつものカウンター席に座る。例によってしばらくは居座る気だろう。
絆されるな。ほんの少しの影も見逃してはいけない。




