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クルミ☆ジョブチェンジ!

第八章くらいまで読み進めておくと、内容がわかりやすいと思います。

 私の名前は星野クルミ。

 職業は俳優……タレントの方が近いか……いずれにせよ、芸能人の端くれ。

 そして、時々、中学生もやってる。

 それが私。

 あー、ちなみに、星野クルミは、芸名じゃなくて、本名。

 普通にパスポートとか、保険証とかも、星野クルミだ。

 赤ちゃんの頃からモデルというか、子役としてドラマに出演していたこともあって、まあ、それなりの知名度がある。

 おかげさまで、病院で名前を呼ばれればキョロキョロとされることがある程度には知られている。

 まあ、それはいいのだけど、問題なのは生い立ちが知られちゃってるってことかな。

 というのも、私には両親がいない。

 交通事故で私が小学生になってすぐの頃に他界している。

 その後、唯一の血縁であったママの弟である叔父に引き取られて、直後、財産だけ巻き上げられて、私は施設送りとなったわけ。

 まあ、でも、いきなり姉の娘を、独り身のおっさんが血が繋がってるってだけで引き取って育てるのは、そりゃあいろいろ難しいと思うから、そこに思うところはない。

 別に暴力を振るわれたわけでもないしね。

 というか、言葉を交わすこと数回で施設入りなので、暴力を振るう生き物なのかどうかもよくわからないんだけどさ。

 んで、まあ、まずはここに同情される。

 わかりやすく不幸だからね、幼くして親を亡くすのは……。

 でも、うちはちょっと教育方針が特殊だったから、私の頭は割とすぐにどう生きるかに切り替えられた。


「いい、クルミちゃん。クルミちゃんは、兄弟がいないから、いつかは一人になるの。結婚できるかわからないしね。だからこそ、貴女は強く生きなさい!」

 ママはそんなことを平気で言う人だった。

「クルミちゃん。貴女が自分でやると決めた仕事でしょ? 最後まで頑張るのは当たり前。自分の言葉をちゃんと守りなさい」

 人が聞けばそれはすごく厳しくて冷たく聞こえる言葉だとは思う。

 けど、私にはすごく納得できた。


 自分で決めたことをまっすぐ貫く。

 家族の少ない自分は、誰よりも周りの人を大事にする。

 自分の事ではなく、影響を与える周りの人、結果のことを考える。

 何を望まれ、自分がそれにどう応えられるかを模索する。


 とにかくママが遺してくれた言葉はそっくりそのまま私の生きるための指針になっている。

 あー、そう、それにママは、飛び切りのお人よしだったんだよね。

 娘には超厳しいのに……さ。

 助けを求められれば嫌とは言わないし、力が及ばないことでも親身になって、自分のできる限界まで手を貸すし、求められるものに、自分の労力を惜しまず応えるヒトだった。

 だから、世間の評価は超お人よし、だって娘なんてほったらかしでもやっちゃうんだもん。

 そんなママだから、娘の私に不快な言葉を投げる人もいる。


「お母さん、皆に取られて可哀想」

「もっとクルミちゃんのことを、見てあげてもいいのにね」

「クルミちゃんのお母さんは、クルミちゃんに興味がないのかしら」


 それらは私を心配する風を装ったママへの攻撃の言葉だった。

 でも、私は知っている。

 誰にでも、求めてくる内容に合わせて、ママは自分を変えるヒト。

 だけど、私にはそんなことはしない。

 それが私がママにとって特別な証だと知っている。

 人の性格や望みを感じ取る能力に長けたママだからこそ、私がそう思うとわかってて、あえて私を特別扱いしていたのだ。

 だって、ほんとに私のことがどうでもいいなら、風邪をひいた時にずっとそばで寝ずの看病をしてくれたり、本当に心が折れそうなときに滅茶苦茶に甘やかしてくれたりしない。

 すごく他の人にはわかりにくいけど、うちのママは私を強く育てたいと思っていたんだと思う。


 で、私はそれがなぜなのかってことを、ママとパパが死んでしまった時に理解した。


 私がたった一人でも物事に立ち向かえる力を養うため……ママが、パパがいなくなっても一人でうずくまって泣かないため……まあ、予定よりもずいぶん早くその時が来ちゃったんだろうけどね。

 だから、私は決めた。

 私はママが、星野のぞみが作り上げた最高傑作なんだって証明するために、私らしく、前を向いて胸を張って生きる。

 そうなると、私はもう行動を始めるしかない。

 何しろ、人生とは思った以上に早く過ぎ去って行くのだ。

 私の人生80年だとしても、日数にして29,200日、3万日もないわけだ。

 これは焦らざるを得なかった。


 というわけで、まず私が始めたのは、ある程度の自由を勝ち取ることだ。

 当然、施設で暮らしていれば施設のルールに縛られてしまうわけで、これはよろしくない。

 そんなわけで、私はマネージャさんを泣き落として、芸能界での仕事が継続できるように動いた。

 事務所社長に頭を下げて、お世話になっていた局のプロデューサーさんに、人生相談を装って私を売り込む。

 ママから学んだ人に合わせての駆け引きがすごく役立った。

 そうして、事務所社長に後見してもらい、事務所の寮へと転居することに数カ月で成功した私はなかなかやる方だと思う。

 まあ、代価として私のギャラの8割は口出しをさせないために叔父に渡し、残りは生活費として事務所に渡して、私はタダ働き同然だったけどね。

 それでも、食事は事務所の先輩やスタッフさんとご一緒させてもらったし、着るものは衣装を事務所経由で引き取らせてもらったり、子供を着せ替え人形にするのが好きな人たちから代価でもらったりしながら、嫌な顔だけは封じ込めて笑顔で頑張る日々だった。

 まあ、実際にすごい苦労をしたわけでもなければ、周囲も優しい人ばっかりだったし、世間の不幸な子役少女って評価は、かなり実態とは違うなぁなんて思ったりもしていた。

 そんな中でもらったのがプリティーウィッチのマーガレット役だ。

 シリーズも5作目ということで、かなりの人気シリーズへの大抜擢で、私はやる気に満ち溢れていたのを覚えてる。

 で、真なる天才と出会った。


 高森千穂。

 メインヒロイン、主役を務める女の子は、長く芸能界にいる私から見ても異才だった。

 要素に合わせて自分を組み替えて調整する私とは違う、与えられた瞬間に役そのものがダウンロードされるような恐ろしい才能だと思った。

 それでも、ここでの私はそんな異才を裏回ししながら円滑に撮影を進めつつ、マスコットポジションを務めることだとわかっているので、動揺したりはしなかったけど、やっぱり、内心ではビビった。

 だというのに、どうにか役割にこなれてきたタイミングで、更なる怪物と遭遇することになる。


 榊原穂乃香。

 家柄、容姿、性格、およそ欠点の見当たらない、()()()()

 控えめに言って、ほんとあり得ないと思ったわけだけど、実態はもっとやばかった。

 何しろ、本物の魔法使い。

 でもって、今では私の魔法の師匠で、ご主人さまだ。


 思えば、人生で初めて理不尽だって思ったのがこの二人に出会った頃だった気もする。

 でも、この理不尽……面白いんだ。

 正直にいうと、何が飛び出すのかわからなくて、傍にいるだけでワクワクする。

 あと、類は友を呼ぶって奴なのか、二人の周りに集まってる人たちには面白い子が多い。

 アリサっていう私に似た状況に合わせて自意識を組み替える子に、茉莉っていうまっすぐで泣き虫で強くて弱い不思議な子、それから、なかなかいい性格をしてらっしゃる彩花さん。

 後輩……まあ、穂乃香ちゃんの同級生だけど、みどりちゃん、奈菜ちゃん、月奈ちゃんは可愛くて素直だけど、何と穂乃香ちゃんに惚れちゃってるいろんな意味で将来が気になる子たち。

 それからー、本当は面白い子枠に入れちゃダメだけど、メイドの先輩の皆さん。

 万能決戦兵器ゆかりさんを筆頭に、永遠の女子高生エリーさんに、機械の申し子ハルハナコンビ、熱血の筋肉オカン(言ったら制裁されるけど)純子さんに、天使の微笑みを備えたマッドなマナ先生……。

 まさか芸能界をはるかに凌駕する特殊な人たちが生息する魔窟が職場になるとは予想外だったなぁ。


 あ、そうそう、更新しないとだよね。


 私は星野クルミ。

 俳優で、中学生で、それから穂乃香お嬢様のメイドです。

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