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界弦さん、新年の抱負

「なんでそう、考えなしなんですか!」

「だって、界弦が食べて良いって言ったし!」

「本人に確認したところ、味見は許したと言ってましたが、許したのは味見だけですよ?」

「ほらな、許可くれてるじゃん」

「味見で一鍋食べ切る人がいますかーーーっ!」

「ここにいるんだなぁ~~」

「このおバカ!!!」


 遠くに聞こえる緋魅子様と舞衣のやりとりに、苦笑しながら私は新たな鍋で小豆を煮ていた。

 豆には、魔を滅するという『魔滅』の意味があり、陰陽道の頂点とも言える『五頂家(ごちょうけ)』の代表者が住まう『霊慰殿(りょういでん)』では、正月の客に無病息災を願い汁粉を振る舞う風習がある。

 そして、今年も客に振る舞うために多くの汁粉を準備していたのだが、年末の大御祓(みそぎ)で、清貧を保つためほぼ味の無い食事を一週間続け、その行を修め、甘味に飢えた緋魅子様に根こそぎ食われてしまったのだ。

 まあ、上手いと思ってくれたのならそれでいいのだが、しかし、破邪の意味のある汁粉を振る舞えないというのは大失態であるため、当然ながら大問題となった。


 まずは材料となる小豆であるが、これは一年を掛け祈祷をしながら育てられた特別なものである。

 そうそう代替え品が無い代物であり、汁粉を作り直すには絶望的であったのだが、これは舞衣が新たに自らの中に宿すことになった二柱の姉妹神の力で埋めることが出来た。

 木行に属し、植物を司る大屋津姫命(おおやつひめにみこと)抓津姫命(つまつひめのみこと)は、その権能によって祈祷小豆を上回る神気を纏った小豆を生み出してくださった。

 だが、小豆があっても、これを煮る水がない。

 というのも、この小豆を煮る水にも決まりがあって、若水と呼ばれる立春の朝に汲み、神殿に奉納した水を用いるのだ。

 当然、年末に仕込む汁粉は、ずっと品質を保ちつつ年末まで寝かしたその年の立春の若水全てを使ってしまうので、余りなどは存在しない。

 この問題を解決してくださったのは、我々の使える榊原家当主の御令孫である穂乃香様の眷属となられた

由良比女命(ゆらひめのみこと)と、うちの翔の連携でどうにか若水に匹敵……いや、容易く凌駕する神水を手に入れることが出来た。


 結果を見れば、材料は例年を遙かに上回る素晴らしいものが手に入り、より短時間で形にするために、我々の霊能の技術をフルに使い、さらには、榊原本家で研究が始まったばかりの魔法も取り入れたとんでもない汁粉が完成したのだが、今度はこれを振る舞って良いのかという問題が生まれてしまった。

 緋魅子様は直感で動かれる方ゆえに、やらかすことが多い。

 加えて、本家の御令孫である穂乃香様と一緒になると手が付けられない問題児コンビとなってしまう。

 だが、それでも不思議と最後にはよりよいもの、よりよい結果にたどり着いてしまうのが、実に愉快だとは思う。

 ……いや、愉快だと思わなければ、私の胃が持たないのだが……。

 とにかく、まあ、規格外の主人を迎えてしまった以上、柳の如く身を任せるしか道が無いことは、昨年、十二分に思い知った。

 そして、嘆くよりも、共に笑うのが一番だと、私は榊原の護衛隊の面々に学んだのだ。

 手に負えないなら、悩んでも無駄、楽しむのが吉なのだ。

 問題に直面し、主とともに頭を悩ますのもまた一興ということである。

 そんなことを漠然と思えるようになった私は、小豆を汁粉に仕上げながら、心に決めた今年の抱負を口にした。

「まあ、舞衣には悪いが……緋魅子様の破天荒ぶりを楽しませて貰うことにしよう」

 そうして声に出すと、思わず口元が緩んだ。

 存外私もまだまだ我欲を捨てられないようだ。

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