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マナとゆかり、賢者の模索

「それで、どうだった?」

 私のPCを確認する手が止まったのをしっかりと確認した上で、未だ穂乃香ちゃんの姿のままのゆかりは腕組みをしながら私に尋ねる。

「結果から、単純に言えば、外見は穂乃香お嬢様を模倣できているけど、中身はゆかりのままね」

「へぇ……」

 私の横からPCのモニタを見ながら、ゆかりは感心したように目を細める。

 たまに穂乃香ちゃんも似たような表情を見せるが、母親であるはずのあの子……桃香は見せたことのない表情だ。

 隅々までもそっくりな親子なのに、そこに違和感を覚える。

 いや……偽物感を抱いてしまう。

 そんな嫌悪すべき自分を感じたところで、私は気持ちを切り替えるためにも、ゆかりに説明をしてやることにした。

「まず、ABO式の血液型分析の時点で、穂乃香お嬢様はB型なのに対して、今のゆかりはA型のままね。おそらくDNAパターンも、元のアンタのままだと思うわ」

「なるほど……」

「さらにさっき撮影したCT画像からアミダの協力を得て、今のアンタの骨格標本を作ったんだけど、そこから引き出した頭蓋骨データに、復顔法を用いて肉付けをしたのがこの顔よ」

 言いながら、最小化していた画像データを拡大表示させる。

 復顔法は、遺骨である頭蓋骨に粘土で肉付けをするなどして、生前の顔を再現する法医学の技術の一つだ。

 CTで撮影した穂乃香ちゃんの姿となったゆかりの頭蓋骨に、アミダでこの技術を応用して肉付けし、再現した顔はまさにゆかりの子供時代まんまの顔だった。

「これは、ずいぶんと懐かしい顔ですね」

 ゆかりが苦笑したのを確認してから、わざわざ、私と桃香とゆかりで写った写真をモニタに映し出す。

「むっ」

 ゆかりが表情を渋くしたのを見なかったことにして、その中のゆかりの顔をクローズアップする。

「さらに、頭蓋骨のデータを写真に合成すれば……ピッタリというわけよ」

 ゆかりに見せるために用いたのは、これも法医学の技術の一つで、『スーパーインポーズ法』と呼ばれる頭蓋骨のデータと写真に写った該当人物の姿を重ね合わせ、本人であるか否かを照合する検査法だ。

 本来これも演算に時間が掛かるのだけど、アミダの協力を得れば一瞬で終わる。

「まあ、元々ゆかりが体を小さくしただけなんだから、一致して当然なんだけどね……というか、体が小さくなる……子供に戻るだけでも、医学界の常識なんて木っ端みじんなんだけどね」

 私はそう言って、体を座っていた椅子の背もたれに預ける。

 だから、とても無防備な姿勢で、ゆかりの言葉を聞いてしまった。


「じゃあ、それ、桃香とで、やってみて」


 ゾクリと背中が冷える。

 ゆかりは皆まで言っていない。

 だけど、言いたいことがわかる。

 いや、わかってしまう。

 だから、私は思わず首を振っていた。


「だから、ゆかりのままなんだから、比較しても一致するわけ無いでしょ?」


 自分でもわかる……声が震えている。

 科学とは、検証の積み重ねだ。

 一つ一つ真実を重ね、つまびらかにすることこそが、科学の神髄である。

 そして、科学は一つの結果しか示さない。

 それが研究者には残酷な結果であろうと、たった一つ、求めた問いに対する答えを返すのみだ。

 だから、私はゆかりの意図を正確に理解し、何を求めているのかも察しながら、まるで見当違いの言葉を返した。

 おそらくはゆかりには「私には、まだその勇気が無い」と聞こえただろう。

 だからか、ゆかりは穂乃香ちゃんの……いや、桃香の顔で私を嘲るように笑った。


 いや…………ゆかりが私を嘲ることが無いのを、私は知っている。

 そう見えただけだ。

 でも、そう感じてしまうのは、私に負い目があるからなんだと思う。

 私は土壇場で勇気を持てない自分をひどく嫌悪した。


「じゃあ、次の実験をするから、これ外して」

 そういった時、ゆかりは()()()で、慈しむように笑って私を見ていた。

 直前に自己嫌悪で気持ちが沈んでいなかったら、泣いて抱きしめてしまったかも知れない。

 そういう意味で肝心なところで臆病な自分に感謝したい。

「何をするの?」

 私は虚勢だと知られているのを理解しながらも、そう言って素っ気なく返す。

「魔法を使うに決まってるでしょう?」

「元に戻るの?」

「実験って言ったでしょ? 血液型を変えてみるのよ」

 私はゆかりの言葉に、目を丸くした。

「その後はDNAとか、骨格とか……きっと、多分、魔法なら何でもできると思うわ」

 確信を秘めた表情で、穂乃香……いえ、桃香の顔をしたゆかりが言う。

「……検証すればするほど、可能性が増えてくるのは恐ろしいわね」

 ゆかりが目を細めてそう呟く。

 だけど、それは私も思っていたことだから、とても自然に、もはや無意識に近い感覚で私も言葉を口にしていた。

「たった一つを否定したいだけなのに、困ったものだわ」

 そう返した私は、ゆかりの魔法を封印しているカチューシャに手を伸ばした。

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