アカネアオイの事情!
このお話は第一章時点でお読みいただいても問題はありませんが、第五章まで読み進めておくとより関係がわかりやすいかもしれません。
「ここが私の職場……」
聖アニエス学院幼稚舎を見上げながら、私は一人そう呟いた。
私の名前は藤倉あかね、今年、無事大学を卒業し、晴れて母校の幼稚舎の教員になった。
思えば、幼稚舎、初等部、中学高等部、最高学部(大学)と、ずっと聖アニエス学院で過ごしてきた私の就職先までもが、聖アニエス学院幼稚舎というのは冒険しなさすぎだったかもしれない。
それもこれも、私の姉、あおいちゃんがいろいろと型破りなせい……いや、お陰なんだと思う。
私の姉であるあおいちゃんは、中高一貫の聖アニエス学院から、突然、公立の中学に転校を決め、そのまま公立の高校を出て、いきなり就職をしてしまった。
うちの家は特にお金に困っていた家ではないので、私とあおいちゃんの二人ぐらい大学まで行かせてやれるとよくお父さんが言っていたのに、あおいちゃんはそれをまるまる無視して、家出同然でそんな道を突っ走っていった。
当時のあおいちゃんは、目標にするものを見つけたからと、何度聞いても私にそれだけしか説明してくれない。
何でも話し合っていた筈のあおいちゃんに裏切られた気がして、一人で泣いたことも幾度かあった。
それでも、あおいちゃんが家にいた頃は、どうにか自分の気持ちに折り合いをつけていたのだけど、あおいちゃんは高校卒業と同時に、忽然と姿を消してしまう。
まあ、お父さんとお母さんは慌てた様子もなかったから、私だけが何も知らなかっただけなんだろうとは思うけど、それでもあおいちゃんが消えてからの私は相当暗かったと思う。
私はあおいちゃんが大好きで、あおいちゃんにだいぶ依存していた自覚がある。
だから、あおいちゃんに見捨てられた気がして、その時は何もかもが嫌になって、ボーっと過ごすことが多くなっていった。
そんな私の変化に、最初はいろいろと心配してくれた友達が、少しずつ距離を置くようになって、このままじゃいけないと思い始めた頃、見慣れたあおいちゃんの字で、一枚の映像メディアが送られてきた。
それは一本の自主製作の映画だった。
あおいちゃんと一緒に見た私の大好きだった女の子が変身して悪者と戦うドラマに似た実写の自主製作映画だった。
あおいちゃんの今の夢がこれを……特撮映画を作る事なんだと、私は映画の最後に表示された『監督 藤倉あおい』というクレジットで、なんとなく理解した。
同時に、私は、あおいちゃんと一緒に映画を見た時に、言った言葉を思い出した。
「私、こんな夢いっぱいのお話を撮る映画監督になりたい!」
小学生だった私の最初の夢だったそれは、でもなるのが難しいという先生や友達の言葉を耳にするうちに、どんどんと小さくしぼんでいった。
そして、いつしか私はその夢を忘れて、お嫁さんと無難な夢を語るようになっていた。
あおいちゃんが無茶をしたきっかけが、私の夢が変わったことだったかどうかは、なんだか恥ずかしくて、そして怖くて、私に確認することはできない。
でも、本当にあおいちゃんの行動のきっかけが私の夢だったらと考えたその時の私は、幼稚舎の先生になる道を志した。
幼稚舎の先生が、あの日、私の夢を聞いたお返しに、私に教えてくれたあおいちゃんの……あおいおねえちゃんの夢だったからだ。
こうして私は、無事というか、どうにかというか……幼稚舎の先生になることには成功した。
その一方であおいちゃんは、特撮業界ではなんだかすごく有名な監督さんになったらしい。
あおいちゃんが、どういうつもりで特撮の監督さんになったのかはわからない。
私の夢がきっかけとかうぬぼれかもしれないけど、あの自主製作映画を送ってくれなかったら、私はここで教員にはなっていなかったと思う。
だから、今度は、私にできることがあるなら、力になろうと思っていたんだけど……。
未来の私、頑張ってね。