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細川真弓の整備記録

「よっしゃ、やるかぁ!」

 榊原屋敷所属の備品の整備を終えた、アタシは、気持ちを切り替える為に、そう言って大声を張り上げた。

 すると、副班長を任せている飯沼がすぐさま近寄ってくる。

「班長、またいじるんすか?」

「そういうしけたツラ見せるんじゃねぇよ。今日の業務は終わったんだ、終業後にアタシが何しようが自由だろうがよ!」

「そりゃまあ、そうかもしんないっすけどね、いじり続けて大分経つじゃないっすか、もう諦め……」

 飯沼が言い切る前に、アタシはその顔を鷲掴みにした。

「お~~~~ぅ? 飯沼ぁ~~あたしに敵前逃亡しろってか? いうようになったじゃねぇか」

「ひゃ、ひゃんちょう、いたひっふ」

「痛くしてるんだから、痛いに決まってんだろうが!」

 飯沼の反応が予想通り過ぎて、つい興が乗った手に力が籠り、ミシっと微妙な音が聞こえてきた。

 さすがに部下をつぶすわけにはいかないので、優しいアタシは飯沼を離してやる。

 すると、アタシの手から逃れ、そのまましゃがみ込んだ飯沼が大袈裟に顔をさすりながらこちらを見上げてくる。

「何だい、まだ、不満があるみたいだね?」

「い、いや、不満はないっすけど、アレ、オレらだけじゃ、手の出しようがないんじゃないですか?」

 確かに、飯沼の言うことはまあ、分からないでも無い。

 メイド長の命名した愛車『黒雷(こくらい)』よりも厄介だからな。

「まず、あれ、動力もよくわからないじゃないっすか」

 そこを突かれると、アタシとしても言葉が出てこない。

 外見(ガワ)はまさしく『黒雷』に瓜二つなのだが、機械としては無茶苦茶なんだよな、アレ。

 タイヤひとつとっても、見た目はまんまタイヤなんだが、材質がゴムの様な何かだ。

 エンジンだって一応ついちゃいるが、動力を生み出してない。

 にもかかわらずまたがって進めと念じれば、『黒雷』並みの速度が出せる。

 しかも、溶接されているというか、まるで鋳物の如く一体成型されていると言った方が近しいと思うんだが、分解(バラ)せない。

 そんな奇妙な物体に技術屋として敗北をしたくなくて、いろんな実験はしているんだが、一つ分かったことは、バイクの形をしているだけで、バイクではないってことぐらいだ。

「はぁ、今知りうることを並べても、わけがわからんね、あのバイクもどき」

「でしょう? 調べることしかできないんすから、諦めるべきっすよ」

「あぁん?」

 諦めと言われるとつい頭に血が上っちまう。

 飯沼の言うことは理にかなってるとわかっていても、腹が立つ。

 要はあたしが負けず嫌いで、アヤカシのお姫さんが作ったってバイクを構造解析できないのが悔しいってだけだ。

「は、班長の気持ちはわかるっすから、どうっすか、魔法か霊能の修行を始めたら?」

 飯沼の言葉に、アタシは少し考えてみることにした。

 能力測定をし続けることは出来るが、堂々巡りで発展ができないのが現状だ。

 護衛隊やらアヤカシやらに、構造解析のための人を派遣してもらうのにも限界がある。

「ん~~~~確かに、アタシらが技術を習得するってのはありか」

「そうっすよ! って、アタシら?」

「よし、飯沼、整備班からはアンタと、アタシ、細川(ほそかわ)真弓(まゆみ)が魔法の講習を希望するって、護衛隊に申請出しときな!」

「えっオレもっすか?」

「そうと決まれば、あの問題児の相手はしばらく休みだ、当面は魔法の修得だな!」

「ちょっと、班長聞いてくださいよ!」

「飯沼、グダグダ言わずにやりゃあいいんだよ。新しい技術、そそるだろ?」

「い、いや、まあ、興奮はしますけど……」

「なら、いいじゃないか、ほれ行ってこい」

 アタシの言葉に飯沼は生意気にも溜息をつきやがった。

 それに対して少し睨んでやると、飯沼は慌てて駆け出して行った。

 その後姿を眺めつつアタシは笑う。

「折角、魔法を覚えるんだ、絶対にモノにして、整備に生かしてやる! 待ってな、なんちゃってバイク!」

 アタシは整備場でアタシをも待っているはずの『黒雷』そっくりな謎バイクに向けてそう言い放つと、新たな技術習得に思いを馳せた。

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