あおいの吐息
ハロウィンコンサート直後の話なので第九章まで読み終えていれば問題ないと思います
「はぁ……」
これから始まる会議を思うと、思わず口から大量の息が放出された。
その後で、私は思ったままを口から解き放った。
「なんで、編集の作業中に、会議を緊急で盛り込むかな」
「いやぁ、そんなこと言ってるけど、あおっちが編集にこだわり過ぎて時間かけすぎてる部分もあるんでしょ?」
シレッと私に意見してきたのは、とるるん。
いまやってるプリフロのシリーズ構成をしてる脚本家だ。
私が中学生くらいの頃から、脚本家としてやってる一線の人だが、見た目が二十代後半から変わってないらしい、まさしく本物の魔女だ。
「とるやん、自分の作品にこだわらないクリエイターがいるかな?」
「はっはっはー、大人はそこに折り合いをつけるものなのだよ」
イチイチもっともなことを言うこの魔女は、どうも私を気に入ってくれているらしい。
普通脚本家なんて、打ち合わせ以外は数えるほどしか現場に来ない者だが、この魔女は私が編集作業をしているガンバまでも押しかけてくる。
単に、友達いないだけかもしんないけど…。
「やぁね、友達くらいいるっての」
ほら、魔女様は心も読むんだ、超やばい。
てか、魔女だから、魔女の話が書けるのかもな……。
「魔女なだけじゃだめよ、文才がなきゃ」
「あーなるほど」
口にしてないのに会話が成立するのが異常なんだが、まあ、慣れると普通になるから怖い。
いや、うちの子たちもそうだけど、業界はやっぱり奇人変人が集まりやすい。
「あーでも、穂乃香ちゃんだっけ、精霊の姫の子、あの子は別格よね」
「お、とるやんもそう思う?」
「すっごい強い気配をビンビン感じるわ。あのこはきっと『本物』ね」
なんのだよ、と私が思えば、すぐにとるやんからの答えが返ってきた。
「決まってるでしょ、魔女のよ」
制作会議。
本来はプレスリリース前にやるもんだが、菊池のアホが調子こいてハロウィンコンサートに合わせて、草案段階で公開したせいで、急遽設定されることになった会議だ。
まあ、菊池は頭はおかしいが間違いなく敏腕なので、口にしたものはすべて実現させる男ではある。
つまり、来年はプリフロの制作陣をそのまま継続する。
本来は年物(放送期間が一年の番組)は毎年撮影班が交代していくのだが、菊池はごり押しして既に会社からの承諾を取り付けたらしい。
なので、音響監督も佐々木……ささやん継続だし、衣装デザインもジュリエルさんだ。
しかもうちのまどかは、助監としてだけでなく、いくつかは監督として起用してくれるらしい。
正直、いきなりすぎて腹は立つ男だが、こっちの弱いところを的確にフォローしてくる憎めない男ではある。
しかも、今回はミュージカルテイストも入れたいらしく、舞台担当の桧山さんを演出で引き抜いてきた。
これに加えて、千穂、茉莉、彩花、クルミ、アリサ、それから穂乃香ちゃん、みどりちゃん、奈菜ちゃん、月奈ちゃん、忘れちゃいけない夜空と、豪華すぎる面々だ。
正直、この状況を考えていれば、多少目の前の会議に対しても我慢が……。
できなかった。
「あほか! タイトルとコンセプト以外決めてないって、ほんとにお前はあほか!!!」
「あおいちゃん、大丈夫ジョーブ。予算は取ってあるよ!」
「ぐぬ」
予算は神だから、これは作り手である以上逆らえない。
「逆に考えるんだよ、あおいちゃん、いやっ! 総監督」
「そ、総監督!」
やばいその言葉の響き、脳から汁がいっぱいでそうだ!
「総監督が仲間たちと自由に作って良いってことだよ、君らならコンプラ大丈夫でしょ?」
「そ、そりゃあ、まあ」
「大丈夫、サポートに局の顧問弁護士をして貰ってる若松先生をアドバイザーで付けるから」
「あー、若松先生なら完璧ね」
頭の中では菊池に言いように載せられているのを理解しながらも、この豪華メンバーを指揮して自分の画が撮れるという魅力には逆らえなかった。
「あーもう、あおっち、ちょろい~~」
とるやんにそういわれるのはわかっていた。
いやむしろ、私もそう思っている。
思っているが、まあ、それでいいのだ。
「だよね、あおっちなら、やっぱりそうなるよね」
そう言って、とるやんは微笑む。
この微笑みを見ると、私は長女なんだけど、姉を感じるんだよなぁ。
もしくはははお……。
「あおっち、それ以上考えたら消すよ」
「うおっ!」
ものすごく恐ろしい形相でとるやんに睨まれて私はすぐに思考を止めた。
まあ、人には触れてはいけない部分というものがあるので、そこに踏み込まないのも大人のルールだ。
そう思い直した私は、菊池がいなくなったこの会議を仕切るために立ち上がった。
「私としては、人気と振り幅、そして何より意外性のある穂乃香ちゃんをメインにしたい気持ちはあるんだけど、やっぱりここは一年頑張ってくれた千穂をメインで行きたいと思うわ!」
こうして、私と仲間たちの、新たな一年へ向け戦いが幕を上げた。




