奈菜開眼
第十五章 幼女とクリスマス 第498部に繋がる話ですので、前後まで読み進めておくといいと思います。
「奈菜はとても上手ですね」
「そ、そうかな?」
少し前から、私と一緒に過ごすことになった青葉ちゃんが、そう言って私を褒めてくれました。
青葉ちゃんは、ずっと昔から生きている妖精さんで、穂乃香ちゃんの『ケンゾク』という使い魔さんです。
私とみどりと月奈は、この前、穂乃香ちゃんから魔法を教えて貰いました。
だから、私達にはそれぞれ穂乃香ちゃんの『ケンゾク』である青葉ちゃんやその仲間たちが一緒に暮らすことになったのです。
みどりは黒華ちゃん、月奈は蜜黄ちゃんです。
そういえば、青葉ちゃんの話だと、黒華ちゃんが一番年上で、次が蜜黄ちゃん、最後が青葉ちゃんなんだそうです。
最初は青葉ちゃんが一番お姉さんだと思っていたので、ビックリしたんですけど、穂乃香ちゃんに「奈菜ちゃんだって、プリッチの中だと一番のお姉さん役でしょ」って言われて、なるほどって思いました。
それで、なるほどって思ったら、青葉ちゃんが私にそっくりなんだなぁって思えるようになって、すぐ仲良くなれました。
本当は仲良くなれるかすっごく心配だったのに、本当に穂乃香ちゃんはすごいなぁって思います。
だから、私が大好きになっちゃうのは仕方ないです。
「できた!」
「おお、奈菜、やりましたね!」
私がすみれお姉ちゃんに教えて貰った折り紙のツルを完成させると、青葉ちゃんが喜んでくれました。
いつもは一人で折っているので、拍手をされるとすごく嬉しいです。
嬉しいのに涙が出てきました。
「どうしました、奈菜、どこか痛いのですか?」
ビックリした青葉ちゃんが私に聞いてきました。
私は首を横に振って、泣いてしまった理由を教えます。
「すみれお姉ちゃんを……おもいだしたから……」
私は泣き虫です。
穂乃香ちゃんと一緒にいないときは泣いてばっかりです。
今も、すみれお姉ちゃんは病気と闘っています。
つばきお姉ちゃんとお母さんは病院で、すみれお姉ちゃんを応援しています。
何にもできなくって悔しいです。
だから、せめて、一人でお留守番ぐらいはできるようになって、少しでも役に立ちたいのに、私は泣いてばっかりです。
青葉ちゃんがいなかったら、私はもっとダメだったと思います。
うんうん。
穂乃香ちゃんと出会わなければ、きっと私は泣いてばっかりで、お姉ちゃんたちやお母さんやお父さんを困らせていたと思います。
もっと、強い子になりたいのに、すみれお姉ちゃんを思い出したら、涙が止まらなくなって……。
「大丈夫ですよ、奈菜」
「あおびゃひゃん?」
ちゃんと喋れなくなっちゃいました。
私は駄目です。
「主様が必ず治してくださると約束してくれたじゃないですか」
青葉ちゃんの言葉に、私は何回も頷きました。
「ならば、大丈夫です」
「う……うん」
そうだった。
青葉ちゃんの言葉で私は思い出しました。
幼稚舎で私にも優しくしてくれて、私を助けてくれたすごい女の子。
すっごく大きなお家のお嬢様なのに、すっごく優しくて、それで魔法使いで、お姫様みたいで、誰よりも特別な女の子。
私のお願いを、すみれお姉ちゃんを助けて欲しいというお願いを聞いてくれた。
約束してくれた。
助けてくれるって約束してくれた。
それを思い出した私は、大事なことに気が付いた。
私は穂乃香ちゃんの言葉を信じて、私が考えた応援をするんだ!
まだまだ足りないけど、すみれお姉ちゃんが元気になれるように、願いを込めたツルは、千個までまだいっぱい足りない。
よし、がんばろう。
「青葉ちゃん、ごめんね。今は泣いてる場合じゃなかった」
私はもう一度頑張ろうって思って、青葉ちゃんにそう言いました。
「奈菜は頑張り過ぎです。そういうところは、主様にそっくりですね」
「え……」
青葉ちゃんの言葉に、すっごく体が熱くなりました。
だって、こんな私が穂乃香ちゃんに似てるなんて言われたら、心臓がどきどきして、体が熱くなって、もう普通じゃいられないです。
「ひゃう~~」
だから、私はそのままバタンと倒れちゃったのです。
「ど、どうしよう……」
「こまりましたね」
私と青葉ちゃんの前には、壊れてしまったカップがあります。
私が倒れる時に机にぶつかって、その勢いで落ちてしまったのです。
それも、つばきお姉ちゃんが大事にしているすみれお姉ちゃんが絵を描いたカップです。
「壊れたといっても、少し欠けてしまっただけです。主様に相談すれば……」
直す方法を考えてくれた青葉ちゃんがそう言った時、私の中で何かがピカって光った気がしました。
「青葉ちゃん」
「何ですか、奈菜……って、え?」
青葉ちゃんが驚いたような顔をしました。
正直に言うと、私も驚いていました。
だって、私はあれほど苦手だと思っていたのに、青葉ちゃんに声を掛けた時にいつの間にか掌に魔力を集めていたのです。
「えっと、ここは、私に任せてくれるかな?」
こっそり、穂乃香ちゃんの言い方を真似て青葉ちゃんにそう言うと、なんだか私が穂乃香ちゃんになったような気分がしてきました。
ゆっくりと目を閉じると、私の姿は見えなくなります。
だから、すごく自然に思えたんです。
私は穂乃香ちゃんになっている。
「……すごい。本当に穂乃香ちゃんになっちゃったみたい……」
私が穂乃香ちゃんになってるって思っただけなのに、体の周りに魔力があふれているのがわかりました。
そして、私は穂乃香ちゃんだから、この魔力をどう使えば、望む魔法に変えれるのかわかるのです。
右手に一番集まっている魔力に、更に周りの魔力を集めていきます。
そうして、魔力が『もう大丈夫』という力を持ったところで、私は壊れてしまったカップにそれを入れました。
「すごいです、奈菜!」
「ほんとだ……すごい」
私は青葉ちゃんの言葉に、元通りに欠けがなくなったカップを見てそう返してしまいました。
「何を言っているのですか、奈菜が自分の魔法で直したんですよ?」
青葉ちゃんにそう言われても、私はピンときませんでした。
だって、私から見たらすごい事でも、穂乃香ちゃんなら簡単だからです。
そんなことを考えている私と青葉ちゃんの目が合って、それからお互いに何度か瞬きをしあいました。
「もう一度言いますね」
「うん?」
「このカップを直したのは、奈菜です。奈菜が奈菜の魔法で直したんですよ」
「……え?」
私が私の魔法で直した?
何度も青葉ちゃんと直ったカップを私は見ました。
青葉ちゃんの言っている言葉の意味が分かったのは、それからしばらくした後でした。
「すごいです。奈菜! 奈菜の魔法はモノの時を巻き戻す魔法の様です」
「まきもどす?」
「元の状態にできるということですよ」
青葉ちゃんが嬉しそうに説明してくれるので、私も嬉しくなってきました。
本当は穂乃香ちゃんになり切っただけなんだけど、そうしたらすっごい力が出てきて、壊れてしまったお姉ちゃんたちの大事なカップが直ったんです。
「あれ? これ、凄い?」
私の言葉に青葉ちゃんは「凄いに決まってるじゃないですか!」と返してきました。
あんまり、すごい凄い言われると恥ずかしくなるんですけど、それでも青葉ちゃんは褒めてくれます。
「では、すぐに主様にお知らせしましょう!」
私は青葉ちゃんのその一言に、固まりました。
そして、必死に止めたのです。
「ま、まだ駄目です、ちゃんと使いこなせるようになってからじゃないと!」
だというのに、すぐにみんなの前で使うことになったのです。
その時は穂乃香ちゃんがいなかったから、緊張しなかったし、撮影スタジオが大変なことになっていたし、皆が困ってたから……仕方ないよね。




