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ドクターKの誓い

第十五章舞台裏のお話です。

 魔法という技術は、恐ろしく奥の深いものだった。

 今回のクランケを救うための術式における肝の魔法『魔法式レーザーメス』。

 ユラ様すら従えるという魔法の開祖その人が、自ら考案し、組み上げたという魔法である。

 理論で言うなら放射線治療における外部照射が一番近しいだろう。

 体の外部から、皮膚などを切開させずに、病巣へと直接放射線を照射して、患部細胞を死滅させる点が酷似している。

 だが、この『魔法式レーザーメス』は、患部細胞に直接、それらを消し去る性質を持つ魔力を発生させて切除を一瞬で行ってしまう。

 当初から患部細胞と同じ形を脳内にイメージできれば、魔法発動と同じタイミングで治療を終わらせることができる。

 今までは諦めるしかなかった命ですら救える脅威の魔法である。


 だが、魔法の開祖が用意してくれたという魔法はこれだけではなかった。

『リアルタイムスキャン』

 磁気共鳴画像診断装置MRIの磁力によって、体内状況をより精緻に映し出す技術を応用して作られた魔法で、文字通りリアルタイムに体内の状態をスキャンする魔法である。

 これにさらに『立体化ホログラム』の魔法を組み合わせると、目の前にクランケと寸分の狂いもない体内までバッチリと観察できる等身大模型を出現させることができる。

 観察できるというのも、パソコンで3Dモデルを操作するのと感覚としては変わらない。

 例えば、全体表示から、心臓だけ、肺だけ、脳だけと、臓器だけを抜き出して表示することも出来る上に、今回の脳への手術では、これまで拡大鏡でしか迫る事の出来なかった患部も拡大表示することができる。

 そして、極め付きが、『生体一時停止魔法』だ。

 クランケの肉体そのものの時間を一定時間止めることができる驚異の魔法だ。

 これは血流を止めたり、薬物を投与することで、一時仮死状態にするといった後遺症を起こしかねない手法ではなく、文字通り時間を止める。

 まるで動画をポーズしたように発動した瞬間に対象の時間が、世界から切り離されて一時停止する。

 例えば思わぬ出血に見舞われても、この魔法であれば、その状況を保存できる。

 一時停止であるから、魔法を解除すれば再び出血は再開するし、停止した肉体への干渉はできないために、停止中に縫合などはできない。

 だが、時間は稼げるのだ。

 出血点を探り当てる時間、アプローチ方法を考える時間、術式を構築あるいは選択する時間、更には人工心肺などの特殊な器具を準備する時間。

 実際のオペでは喉から手が出るほど欲しくても得られない時間が得られるのだ。

 このすべてを手に入れれば、あの日マナが言った通り、僕は『難解な病状の人も救える』外科医になれるだろう。

 だが、だからというべきか、僕は疑問だった。


「ユラ様、魔法の開祖様はこれだけの魔法を生み出すことができるのに、なぜ、ご自分でその力を振るわれないのですか?」


 そう、僕は単純に疑問だったのだ。

 これだけの魔法の数々を生み出した開祖様なら、僕を使う必要なんてないと思うのだ。

 これの魔法を組み合わせれば、おそらく素人ですら、ゴッドハンドでも不可能な根治術を成し遂げられるかもしれない。

 むしろ、3Dグラフィックを作る技術者や、ゲームが得意な人間などの方がよっぽど……。

 僕がそんなことを考えているときに、ユラ様が口を開いた。


「製薬会社の人は薬を処方しないし、手術具を作る会社の人は手術をしないからだそうだの」


 その答えに僕は少し驚いた。

 なぜなら、今考えていた通り、医者じゃない人の方が活かせる可能性が高いのだ。

 だから、失礼を承知で、僕はそのことを、医者でない僕よりも活かせる者がいるのではないかと問う。


「主殿は、医者としての経験と知識、そして何より、覚悟を持って人の体にメスを入れることを選んだ崇高な人間にしか託せない魔法だからと仰っておいでだの」


「崇高……」

 僕はその言葉を聞いた時、震えた。

 そして、同時に、僕はだからなのかと理解した。

 魔法の開祖様、ユラ様の主様は、僕たちの命に挑むという信念を高く評価してくださっているのだ。

 魔法を活かし切れるか否かよりも、人の命を救いたいと、医の道を志した僕らの思いを崇高と評してくれているのだと、僕は理解した。

 だからこそ、僕はユラ様に、開祖様に誓う。

「頂いた魔法を十二分に活かし、多くの命を救うことを誓います」

 熱い思いを抱いてそう誓った僕に、開祖様から思いがけない言葉が贈られてきた。


「よろしく頼みますだそうだの」

「もちろんです」

「それから……」

「なんです?」

「医師免許を持ってないから、私には手術ができない……だ、そうだの」


 僕はその言葉を聞いて、つい吹き出してしまった。

 僕は声を出して笑いながら、どこか素直でないマナを思い出していた。

 心優しいくせに、尖ってみせたり、冷たく見せたりと、変な仮面をつけているマナ、開祖様もきっと似ているんだろう。

 だから僕は、笑い止むとすぐに気持ちを切り替えることができた。

 手術ができないという開祖様の代わりとなれるようひたすら精進しようと心に誓う。

 ついでに、分不相応だと理解しながらも、、不器用な友人と、開祖様の助けになれたら最高だな……とも考えた。

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