神の声④
襲撃を受けてから数時間が経過していた。
アスク星の地下。
日が傾くと地下には日光は届かない。あたりは薄暗い。
明と麗子は壊れたピラミッドの中に隠れていた。火を使うと見つかるためステルス毛布を被っている。麗子は震えている。
「寒い?」
「寒さじゃ・ないです」
「ごめんよ。怖い目にあわせて」
「いえ・・」
そう言ったものの麗子の震えは止まらない。
「(何か気を紛らせよう)・・・」ふたりの共通の話題と言えば、「美理ちゃんとは長いの?」
「私は中二で転入して来たから、3年位です」
「へえ」
「美理ってとっても優しいでしょ?明るいし」
「ああ」
「大好き。でも私が転入して来た時・・あの子、いじめられていたんです」
「え?」
意外だった。こんな未来に?しかもあのいつも明るい美理が?
「学校の恥になります。私たちの学校って一応名門で、お金持ちが多いんです。中には裕福じゃない生徒を疎ましく思う者もいて・・美理はご両親がおられないから標的に・・」
明は黙って聞いている。それでも周囲への警戒は怠っていない。
「でも美理は、全然いじめられている事に気付いてなかったんです」
「・・・」
そう言えば美理はよく気が利くけど、自身の事にはうといかも。
「ある意味最強。」
「ははは・・」
「麗子って名前だけど、私はお嬢様ではありません。父は普通のサラリーマンです。転入時大金持ちだって噂が立って。否定したのに、後で嘘つきって責められた。でも美理は庇ってくれた。大好き」
「いじめは?まだ続いているのか?」
「あ、いじめは叩き潰しました。いじめをしている連中を勉学とスポーツでコテンパンにして。そしたら生徒会役員を押し付けられたので、いい機会だから“いじめ撲滅運動”をしました。もういじめも身分制度もありません」
「へえ(すごい娘だな。誰かに似てる・・同級生の辻か?♂だけど)」
気付くと麗子がじーっと見つめている。
「な、何?」
「明さん。美理のこと、どう思っているんですか?」
「え?」
ちょっと近いぞ。目が綺麗♡
明は視線をそらして、「好き・なんだと思う」
麗子がやったという表情をするが、
「だが俺には愛する資格がない」
麗子の顔が曇る。「どういう事ですか?」
「俺が過去から来たって事は?」
「知っています。美理から聞きました」
「美理ちゃんは、俺の過去の世界の好きだった人にそっくりなんだ。俺は美理を通して彼女を見てしまう」
「・・そんな事。でも好きなんでしょ?魅かれているんでしょ?美理は・・」
「!」
その時、聞こえてきたのは<フロンティア号>の爆音だった。
「音が変だ!」
ピラミッドの裂け目から頭を出した明はレグルスに発見される。
銃撃が来る。うかつだった。
ピラミッドの中から反重力サーフボートで飛び出す。乗っているのは明ひとり。
レグルスの銃撃が続く。
避ける。
レグルスはニヤリと笑うと、スラスターを噴射しピラミッドの方に向かう。
「!」
明は自分に敵の注意を引きつけるつもりだったが、裏目に出た。
「麗子!(間に合え!)」
急速ターン。全速力で戻る。
「はっ」麗子は自分の方にレグルスが向かって来るのに気付く。
逃げなきゃ。足が動かない。
動いた。
もうレグルスは目前に迫っている。微笑みながら銃ではなく爪を構える。
明はボード上で銃を構える。銃は壊れている。でも無線アンカー(錨)は使えた。
引き金を引く。
アンカー発射。
それはレグルスの背中のスラスターに突き刺さる。
爆発。
その寸前にレグルスはスラスターを分離・破棄していた。
「ええいっ!」
明は猛スピードでボードをレグルスにぶつける。
レグルスは得意の爪でボードを切り裂く。明はビームブレードを抜いて斬りかかる。
<フロンティア号>コクピット。
ドアが開く。
美理がドアの方を見るが、誰もいない。風が通り過ぎる。
刺客はステルス化していた。美理やシャーロットに目もくれず、啓作のもとへ。
啓作は主操縦席を180度回転させ、銃を抜き、撃つ。自動操縦にする事も忘れていない。
エネルギー弾の衝撃で男の姿が現れる。
眼光鋭い筋肉質の大男。ワイヤー使いのリゲル。
弾をワイヤーで跳ね返し、近づく。
「!!」
ワイヤーが啓作の銃を捉える。
銃から右手を離す。同時に銃は真っ二つに。
「くっ・・」
啓作は左手でナイフを構え、ワイヤーを防ぐ。ボッケンの刀と同じ超金属の刃だ。
リゲルは無言のまま、ワイヤーでナイフを押し切ろうとする。
「武器を捨てなさい!」
右後ろにいるシャーロットが銃を構える。
リゲルは右足でキック。銃が飛ばされる。
その時、突然プロトン砲が旋回し始める。
サブコクピットでマーチンが操作していた。
メインコクピットの副戦闘席は砲に連動して旋回する。潜望鏡のようなレバーがリゲルを殴る。ワイヤーがナイフから離れる。
美理は自動操縦を解除、操縦桿を握る。
途端に機体が揺れ始める。安定しなくなる。
「えい!」操縦桿を引く。
急上昇。
シートベルトのないリゲルは後方へ倒れる。最後尾のソファまで飛ばされる。
飛び込んで来たピンニョが緊急脱出ボタンを押す。
バシュ!
ソファごと船外へ放り出される。
「はあはあはあ・・」美理の息は荒い。過呼吸だ。
「ありがとう。もういいぞ」
啓作が操縦を代わる。
美理の手はなかなか操縦桿から離れない。震えが止まらない。
蹴られたシャーロットの右手は骨折していた。
二つのブーメランを操るプロキオン。
避けるのに精一杯のボッケンとヨキ。
ブーメランがヨキの頭に命中。ニヤリとするプロキオン。
「いってえ~」平気。
ヨキの頭は石頭というよりダイヤモンド頭だ。
その隙に斬りつけるボッケン。
プロキオンは空へ逃げる。
ブーメランがボッケンへ。
ピタ。空中で止まる。 ヨキがサイコキネシスを使ったのだ。
ボッケンが地面を蹴る。空中へ。さらに空中停止したブーメランを蹴る。
空高く飛び上がり、上空のプロキオンに迫る。
交差。
「!」
ボッケンはいつも通り、みねうち=有機物を斬れないようにしていた。
だがプロキオンはサイボーグだった。内部のメカが切断される。
着地したボッケンの背後、空中で爆発が起こる。
明のビームブレードをレグルスは爪で受け止める。
麗子は離れてピラミッドの陰からふたりの戦いを見ている。
「!!」
その脚に何かが絡みつく。バラのようなトゲのある触手だ。
「きゃああー」
麗子は引きずられ、砂の中へ引きずり込まれようとしている。
その先にいるのはアリジゴクに似た原住生物だ。サイズは人よりはるかに大きい。
「麗子!」
明はレグルスに背を向け、駆け出す。
助けようと手を伸ばす。後ろからレグルスが迫る。
「だめえ!」麗子が叫ぶ。
明は少し背を丸める。右肩すれすれをレグルスの爪がかすめる。
肩越しにレグルスの腕をつかむ。
「てやあっ!」
そのまま背負い投げ。
レグルスは怪物の、開けられた口の中へ。
獲物を捕らえて怪物の触手が緩む。
明はビームブレードで触手を切断、麗子を助け出す。
「わあっ!」
麗子は泣きながら明に抱きつく。
さすがの明もその柔らかい感触を楽しむ余裕は無かった。散々な目にあった彼女が可哀想で仕方なかった。
その後ろ、レグルスが怪物に飲み込まれる。
「見るな!」
次の瞬間、怪物が粉々に吹き飛ぶ。レグルスが自爆したのだ。
こうして決着は着いた