表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/23

十字星雲③

 アスク星時間で4日が過ぎた。ⒶチームとⒷチームの交代時間。

「余計な事はするな!」

「だから、ウィルスの研究で寝てないんだろ?お前の分も俺がやるって言ってるんだ!」

「それが余計な事だ。承知の上だ。ほっといてくれ」

 明と啓作が言い争う。初めて見たとピンニョが言う。

「まあまあ・・疲れてるのはみんな同じだし」ボッケンがなだめる。

「やかましい!」

「ちょっと、兄さん!」美理が声を荒げる。

「おかしいわ」

 サブレーダーを担当していた麗子が口を開く。

「ルートのままだと高熱域に入っちゃう」

「え?」

「サーモグラフィを転映しますね。」 

 パネルを見て、明は急制動をかける。啓作も隣の主戦闘席に座って補助する。

「高熱エリアが変わっている。10年前の情報だからか?よく気づいたな」

 啓作に褒められ、麗子と美理が親指立て合図♡(美理が褒められたわけではないのだが)。

 ボッケンが針路設定をやり直す。 

「あ!前方、高温域内に宇宙船!」

 メインパネルの映像が拡大される。6人の視線が一つに集まる。

「照合・・地球連邦の巡洋艦、一週間前ヘンリー博士捜索で消息不明になった艦だ」

 <フロンティア号>と違い、恒星突入能力を有し、星雲内を自由に航行できたはずだ。

 宇宙船は漂流していた。艦尾部に攻撃を受けた跡があった。

「生存者がいるとは思えない。熱くてあそこまでは行けない。見過ごそう」

「待ってください、救難信号です!」通信席の美理が報告する。

「・・ギリギリまで近づこう。誰かヨキを起こしてきてくれ」

「明、お前・・」

「特殊装甲宇宙服にESPバリアー張って、テレポートなら行ける」

 起こされたヨキは寝ぼけまなこで作戦を知らされる。

 ヨキは3分間だけ超能力が使えるエスパーだ。「俺が行く」と言う明を「足手まといだから」と拒否。「自分が行く」と。

 ヨキは卵の様な重装甲宇宙服を着て、単身でカーゴルームに立つ。

「1分で戻れ!いいな」啓作が指示する。

「オッケー。いってきま~す」緊張感なし。

 ESPバリアーを張りテレポートで消える。


 ヨキは巡洋艦のブリッジに移動した。

 死の船だった。焼け焦げた遺体が折り重なっている。

 ヨキの生体反応を感知して、スイッチが入る。

『神の声を聞け』声が響く。

「罠だ!」

 巡洋艦が爆発!!

「ヨキー!!」

「あーびっくりした」ヨキは無事テレポートで生還していた。

「よかった」

 モニターに映るヨキの姿を見ながら美理と麗子は抱き合う。

 明は卑劣な敵に怒りを感じていた。それは他の仲間も同じである。

 赤い空間は果てしなく、目的地のゼーラ星系はまだ見えない。


 さらに2日が経過した。

 ©チームからⒶチームへ交代時間。

「美理ちゃん、見える?あれが目的地アスク星の太陽<ゼーラ>」

 シャーロットが指差す先、前方はるかに赤い恒星が輝いている。一つに見えるが、赤色巨星と白色矮星の二連星だ。

「やっとここまで来た」感慨無量。

「ねえ、明が起きてこないんだ。起こしてきてくれる?」マーチンに言われ、

「はい、これ」ヨキからバットを渡される。

「いやいや、要らないでしょ」

 コンコン。美理はドアをノックしたが返事がない。

「明さん」明の居室に入る。同室のボッケンはいない。「うわ」

「ごごごごご・・・すぴー・・・」

 あまりの音に美理は思わす耳をふさぐ。

 明はまだ寝ていた。凄いいびき。時々聞こえる謎の“音”の正体はコレだったのか。

 疲れが溜まっている。ベッドサイドに立つ美理にもそれがよく判っていた。できる事ならもう少し眠らせてあげたい。でもそれは出来ない。

 美理はすうと深呼吸して、「明さん。起きて。明さん!」体を揺する。 

「ん。うん」美理より寝起きはいいかも。「み、美理ちゃん?・・いててて・・・」

「!どうしたの?お腹痛いの?」

「何でもない・・大丈夫」押さえているのはもっと下だ。

「さすろうか?」

「だめ!絶対だめ!」男の生理現象である。

 明は股間をおさえながら、コクピットへ。

 <フロンティア号>の目前には炎の海が広がる。

 “サラマンダーの谷”。コロナイオン流の交差する十字星雲最大の難所だ。

 ⒸチームⒶチーム合同でこの突破に当たる。

 主操縦席の前にはサーモグラフィと予定針路が表示されている。

 席に座った明は操縦桿を握る。

「微速前進」

「了解。エンジン出力50%」機関制御はマーチン。

「現在イレギュラー認めず」メインレーダーはシャーロット。

 ヨキは戦闘、ピンニョはサブレーダー、美理は通信を担当する。

 船は炎の川を渡る。多少のイオン流なら航行不能になる事はない。

 流れの速いエリアを避けつつ、前進を続ける。

「前方!イレギュラー!」太陽活動に伴い想定外のプロミネンスがある。

 明はわずかに操縦桿を動かす。紙一重でプロミネンスをかわす。

 いよいよイオン流が激しくなる。

「プロトン砲用意!」

「待ってました」ヨキが張り切る。

「進行方向へ向け、発射!」

「発射!」

 上部中央にある<フロンティア号>最強の武器・荷電粒子砲。

 荷電粒子は一時的にイオンの流れを阻害・拡散させる。

「全速前進!」

 <フロンティア号>は拡散された場所を突破。その直後、イオン流は元に戻る。

 プロトン砲を連射しながら、炎の川を渡る。

 美理は父の言葉を思い出していた。

 いつだったか、探査から帰った時に星の映像を壁に投影しながら語ってくれた。


満天の星。

それはプロジェクターの映像だった。

啓作は眠っているが、幼い美理は黙って星を見ている。

大きな手が美理の髪をなでる。

「いつかお前たちが宇宙に出たら・・まずその大きさに圧倒されるだろう。

絶望的な大きさの宇宙の前では、人間って何てちっぽけで非力な存在(もの)だろうと思う。

でも憶えておけ。

一人一人の力が弱くても、信じあえる仲間が集まれば、いくつもの力が一つになれば、

不可能も可能になる」

父・流啓三は天井を見上げる。

映っているのは、赤い十字架の様な星雲。そうかあの時見たんだ。


 美理はひとりで思い出し笑いをする。

 <フロンティア号>は“サラマンダーの谷”を抜けた。

 ピキーン。

「レーダーに反応!前方に宇宙船多数!」

 警報が鳴り響く。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ