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飛翔⑤

 地球からのミサイルは大気圏を突破し、<ルシファー>へ。

 大半のミサイルは撃破されるが、数発が命中する。

 <コア=エデン>は逆噴射で速度を落としながら地球に降下していた。

 落下ではなく「着陸する」と判断したのか、地球連邦の攻撃は<コア=エデン>ではなく<ルシファー>に集中していた。

 死角にある3基と破壊された1基を除く5基の<ネオ=マルス>が臨戦態勢に入り、順々に光子砲を放つ。

 その巨大な光の束に対し、<ルシファー>は主砲を発射し応戦。

 両者は互角。

 それはさながら巨大な怪獣同士の戦いであり、啓作たち<フロンティア号>の出る幕は無い。

 美理は<コア=エデン>を指差す。

「明くんは“あそこ”にいる!」

「なぜそう言える?」啓作が尋ねる。

「え?」

 なぜかは美理自身にも分からなかった。

「おいらもそう思う。微かにESP反応があるもの」ヨキが助ける。

「<コア=エデン>の落下ポイントは?」

 啓作がシャーロットに尋ねる。

「旧南極大陸。人口も少なくこのまま減速すれば大した被害は出ない」

「だがあの中には“触媒ミサイル”がある」

 着陸のショックや人為的に触媒が漏れたら・・。

 啓作はメインパネルに映る<コア=エデン>をにらむ。

 そう、それがゼーラの狙い。わざと減速して<コア=エデン>が攻撃対象にならないようにしていた。

「連邦本部と連絡できないのか?グレイでもいい」

「応答なし」


 <ルシファー>との戦いは地球連邦本部の巨大モニターにも映し出されていた。

 ヘンリー博士とグレイはマッケンジー主席と直に対面する。

 全員が無言。

 マッケンジーが口を開く。

「まさかローザが<神の声>のメンバーだったとは・・ヘンリー博士、ワクチンはもう無いのですか?」

「無い。あのワクチンは精製に20日かかる。連邦の技術ならもっと早く作れるかもしれんが、何億人分も作って打って抗体ができるのに何日かかる?今からではとても・・」

「・・・」 

「啓作が<ノア>で手に入れた連中のワクチンは?」グレイが訊く。

「あれは真っ赤な偽物だ。ワクチンどころかPD13そのものだ」医師らしき男が答える。

「酷い」思わずグレイが漏らす。

 ボルンや信者達はワクチンと信じ、それを打っている。

 長い沈黙の後、ヘンリー博士がぽつりと言う。

「まだ可能性が無いわけではない。・・私はある人のおかげで助かったのですよ」


 <フロンティア号>コクピット。

 啓作が決断する。

「マーチン。反重力ミサイルは使えるか?」

「え?反重力ミサイルは・・」

 そう言いかけたヨキを制して、マーチンが得意げに言う。

「こんな事もあろうかと、修理は完了している」

 コクピット内が沸き立つ。

「<コア=エデン>を止める。奴の下に回り込むぞ」

 啓作は機体の高度を下げる。大気圏ぎりぎり。時折オレンジの炎が上がる。


 その<コア=エデン>の中では、明とゼーラの闘いが続いていた。

 人工重力は停止し、無重力状態。

 永久ロウソクの炎が弱まる。空気が薄くなっている。

 その炎で照らされる中、共に片腕でのビームブレード戦が展開する。

「銃を使わないのは余裕のつもりか?」

 ゼーラの問いに明は無言で応戦。

「そうか、フ・・もう(エネルギー)が無いのか」

 心を読まれた。フルパワーで撃てるのはあと一発だ。

 明を守る“対ESP装備”の幾つかは壊れ、テレパシー防御力は落ちていた。

 さっきからテレパシー攻撃もしているが、明は動じない。精神集中のためか。

 ゼーラは気付いていた。

 明の撃った銃弾は全て胸の一点に命中している。その部分は既に装甲が破れ、肌が露出している。そこを攻撃されたら・・だがそこさえ防御すれば問題ない。


 <ルシファー>は集中砲火を受けていた。 

「メインエンジン大破」 「サブブリッジ被弾」 

「第1,4,5,9,10.12砲塔沈黙」 「メインコンピューター損傷」 

「居住区に直撃」 「ミサイル格納庫誘爆」

 司令部も被弾。オペレーターが宙を舞う。機器が火を噴く。

 炎の中、スピカはつぶやく。

「ゼーラ様・・まさか、我々を囮に・・・」  

 光が彼女を包む。司令部が崩れ落ちる。

 <ルシファー>全体に亀裂が走る。そして・・・

 大爆発。光の輪が広がる。

 ヘブン教信者を乗せた“方舟”は宇宙に散った。

 美理と麗子は目をそむける。 

 <フロンティア号>は上下逆さまの宙返り状態で大気圏ぎりぎりを飛ぶ。

 その目前に巨大な<コア=エデン>が迫る。さらに高度を下げる。

 啓作が叫ぶ。

「反重力ミサイル発射!」 

「発射!」マーチンがボタンを押す。

 <フロンティア号>の下部ハッチから反重力ミサイルが飛び出す。

「全速離脱!」

 啓作は操縦桿を傾ける。

 敵の攻撃を受け“重力遮断シールド”は使えない。離れるしかない。

 ミサイルは<コア=エデン>の下部に命中。

 眩い閃光。重力が反重力に変わる。

 落下していた<コア=エデン>は一気に上昇して行く。地球から離れる。


 明の剣がゼーラの剣を薙ぎ払う。 

 だがゼーラのキックを受け、明の体は後ろへ飛ばされる。

 ゼーラは近くに浮いていた自分のライフルをつかみ、明を狙う。

 その時、衝撃が<コア=エデン>を襲う。

 反重力。ふたりの体が宙に浮く。

 明はビームブレードを捨て、空中で銃を抜く。

 既にゼーラは明に狙いを定め、笑みを浮かべている。

「!」

 明の後方に白い馬!無重力となり、やっと土砂を抜け出したボッケンだ。

「ボルン?」引き金を引くのが遅れる。

 ドピュッ!

 明の銃が火を噴く。最後の一発。反動で体は後ろへ飛ぶ。

 放たれたエネルギー弾はゼーラの胸に命中!皮膚装甲を貫き人工心臓を直撃する。

 勝利を確信したままゼーラは逝った。

 飛ばされていく明を、ボッケンがジャンプして受け止める。


 反重力が止む。

 <コア=エデン>はそのままゆっくりと地球から離れる。

 啓作が叫ぶ。

「全員ショックに備えろ!突っ込むぞ!」 

 <フロンティア号>は<コア=エデン>に接近する。

 表面には無数の穴とヒビ。中でも巨大な亀裂、<ルシファー>が飛び立った跡だ。

 <フロンティア号>はライトを点けその亀裂の中へ・・・減速し、着陸する。

 クルー達が立ち上がる。ヘルメットをかぶり、外に出る準備をする。

 ヨキが喋る。

「ESP反応は消えている。決着は着いたと思う」

 どちらが勝ったのかは分からない。レーダーもセンサーも壊れて使えない。

「武器を忘れるな!可能な限り空気を送り込め!バリアー全開!」 

「兄さん」 

 啓作は美理に笑みを浮かべ、「来い!」

「啓作さん、待ってください。地球連邦本部から通信です」

 ピンニョと交代した麗子が呼び止める。ピンニョは特注宇宙服を着込むのに苦戦中。

「後にしろ」

「ヘンリー博士です。緊急だって」

 仕方なく啓作は席に戻る。啓作と麗子以外のメンバーは外へ。

「何です?こっちは忙しいんだ」

 ヘンリー博士はPD13のワクチンが失われた経緯を説明し、『私は風邪をひいていて助かった。感染力が高く無害な風邪ウィルスを作成してばら撒いてみてはどうかと・・君の意見を聞きたい』

「博士、あなたが罹ったのはただの風邪じゃない。伝染性紅斑・リンゴ病です」

 伝染性紅斑。主に幼児が罹るウィルス感染症。

 パルボウイルスB19の初感染後、通常約7日~10日の潜伏期間を経て、発熱や頭痛・倦怠感等の症状が現れ、さらに約7日後に両頬に平手打ち状の赤い発疹が現れる。この頬病変より別名リンゴ病と呼ばれる。発疹は四肢などにも現れるが、7日程度で消失する。ちなみに発疹が現れる頃には感染力は無い。大人が罹ると重症化することがある。また赤血球前駆細胞に感染するため、赤血球寿命が短い溶血性貧血患者などでは重度の貧血を生じることもある。

「パルボウイルスB19もPD13も赤血球系細胞に感染する。細胞内でPD13を駆逐した可能性が高い。人工ウィルスを作るならパルボウイルスB19を改造して作るべきだ(マラリアも赤血球に感染するが、扱うのは危険すぎるし、飛沫感染しない)」


 <フロンティア号>の船底部ハッチが開かれ、クルーたちは<コア=エデン>に降り立つ。美理は空気を送るポンプの傍に立つ。

「俺たちは捜索に行く。(ここ)から動いちゃダメだからね」

 そう言うとヨキとマーチンは右、シャーロットとピンニョは左の通路に消える。

「対人レーダー効かない」「無重力でよかったなマーチン」「うるせー」ぶつぶつ言いながら。 

 美理はひとりぼっちになる。

 あたりは暗く静まり返っている。心細い。

「明くんボッケンちゃん・・どうか無事で」

 美理は祈る。

『美理』 

「きゃっ」麗子から突然の通信。

『そこのマイクで呼びかけてみて。空気を送り込んでるから伝わるはずよ。あ、歌をうたってもいいかも』

 美理はマイクを手に取る。麗子に感謝。無言でマイクを見つめる。

 そう言えば明がどんな音楽を聴くのか知らない。深呼吸して・・・

「明くん!ボッケンちゃん!・・」何度も名前を呼ぶ。


 明とボッケンはふらふらと歩く。正確には無重力のため地面や壁を蹴り進む。

 消えないはずの永久ロウソクの炎が消えていく。酸素が少ない。

「はあはあ・・」 

 闇の中。思うように進めない。

 ボッケンが膝を着く。反動で空中へ。身体が大きい分シェプーラは酸素消費量が多い。

「しっかりしろ!帰るぞ!」

 明の励ましに、ボッケンは再び歩み出す。

 でも意識は朦朧だ。まっすぐ進めない。明が支える。今は人工重力が無くて助かる。その時、

「!」

 明は自分の名前を呼ばれた気がした。

 声のした方を見る。何も見えないが、微かに風を感じる。

「こっちか」

 闇の中を歩き出す。

「はあはあ・・」空気が・薄い。

『兎追いしかの山、』

 最初は幻聴かと思った。

『小鮒釣りしかの川、・・』歌?

 <フロンティア号>コクピットの啓作たちにも、明とボッケンを探すマーチンたち・シャーロットたちにもその歌は聴こえている。

「夢は今も廻りて、」

 思わず口ずさむ。故郷の歌に明の目が潤む。

『忘れがたきふるさと』

 行く手にまばゆい光・・・その中に立っているのは・・美理!

「きれい・だ・・」

 美理が振り向く。

 見つけた。笑みがこぼれる。こちらに駆けて来る。

 コクピット。

 気付いた麗子が微笑む。啓作がコクピットから飛び出して行く。

 ピンニョがボッケンの頭にとまる。「あと少し」励ます。

 遅れてシャーロットが駆けてくる。別方向からヨキとマーチンも。

 明はつぶやく。

「ゼーラと俺は境遇が似ている。

 奴の人生・考えは周りの地球人によって変えられた。

 俺がゼーダの立場だったら・・どうなっただろう?・・・

 ただ、これだけは言える・・

 君たちに会えてよかった」


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