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十字星雲①

 第1章  十字星雲


 ― 宇宙暦498年(8月)―

 旧暦1999年に地球に落下した巨大隕石により、地球は氷河期に突入していた。人類はワープ航法を発明し、銀河の星々に進出、地球とその移民星から成る<地球連邦>はほぼオリオン腕をその勢力圏に治めていた。

 自由貿易宇宙船<フロンティア号>を駆るチーム<スペースマン>の仕事は「運び屋」。メンバーは明、ボッケン、ピンニョ、ヨキ、マーチン、シャーロット、啓作の7人(正確には5人と1頭と1羽)。合法の範囲内で物資を超特急で運搬するのが売り。麻薬と兵器は運ばない。本業以外に、未知の宙域を探検し航路開発に携わる「星図屋」も行っている。

 チーム名の<スペースマン>とは本来宇宙飛行士の事だが、宇宙旅行が当たり前となったこの時代、自由貿易者や冒険者の意味もある。


 十字星雲――― 

 地球からの距離は約9300光年。8つの恒星と高熱ガス雲から成る十字架の形をした散光星雲である。最大径は約6光年。散光星雲としては小型だ。

 その目前にある宇宙ステーション。その中にあるカラオケ店内。

 明・啓作・グレイの三人はローザと会っていた。

 テーブルに置かれた小型通信機から映像が空中に投影される。

 映像の初老の黒人男性は年齢の割に目が鋭い。

「マッケンジー地球連邦主席?」啓作が驚きの声を上げる。 

「誰?」明が小声で尋ねる。

「地球で一番偉い人」グレイの答えは的確だ。「本物ならな」

「へえ」でもやっぱり(チラ)。

『本物のマッケンジーだ。まずは礼を言わせてくれ。2か月前、地球でシャトル7890便を救ってくれた。あれは私を暗殺する為のテロだったのだ』

「そんなの誰がした?」

「お前だ」                             (第2巻参照)

『君達が<ネオ=マルス>の事件に関わっている事は知っている。<パンゲア星>や<X-1>の事件も。正規軍並の武装をしている事も』

 明と啓作は顔を見合わせる。

 連邦の情報収集力を侮っていたか。グレイは沈黙したまま。

『逮捕とか罰金を考えているのではない。その上で仕事を依頼したい』

 驚く啓作達を尻目に、マッケンジーは話を続ける。

 明は脚を組みかえたローザをチラ。

『君たちは<バージンキラー>という麻薬を知っているか?』

「知らん」

「ククコカ星のコントン草から作られる麻薬だ。確か昨年位から出回っている新型で、一回で虜になる習慣性の強い奴だ」さすが情報屋。

『何者かによりその麻薬に<PD13>というウィルスが混入され、全銀河系で広まっている』

「PD13?」

『今から15年前<十字星雲>の<アスク星>探検の際に発見された<PD13>は、人体に感染後、赤血球に侵入・増殖し、一定期間後に細胞を破壊し拡散、その際に致死量のγ線を放出する』

「放射線を出すウィルスなんているのか?啓作?(怪獣なら知ってるけど)」

「・・いや、初めて聞く」

 グレイも「俺も知らない」

『宇宙は広い。我々の常識が通用しない生物が存在してもおかしくはない』便利な答えだ。

『当時感染者で助かったのはヘンリー=シュナイダー博士唯一人。博士は今から半年前<十字星雲>に再調査に赴き、消息を絶っている。捜索に向かった<地球連邦>の艦艇も同じく消息不明になった』

 ヘンリー博士の画像が映し出される。初老の眼鏡をかけた男性だ。

『このままではあと3週間で<PD13>のγ線放射、全銀河規模のテロが起きる。

 それを防ぐためヘンリー博士を探してほしい。博士の協力が必要なのだ。勿論博士がテロに関わっている可能性も否定できないのも事実だ。・・どうかこの依頼を受けて欲しい』

 三人は顔を見合わせる。

「新手の放射能テロって事か」

「俺は医者だが<PD13>なんて聞いた事もないぞ」

「極秘事項ですから」ローザが答える。「データは後でお渡しします」

「ちょっと待ってくれ。俺たちは運び屋だ。銀河パトロールでも地球連邦軍でもない」

 ローザは微笑みながら、「運ぶのはヘンリー博士。現地調達でお願いします。それとも、ここまで話を聞いて、びびりましたか?」

 明はちょっとムッとしながら、チラ。

 沈黙を守っていたグレイが口を開く。「報酬は?」

『前金で500万、博士を無事連れて来られたら5000万、失敗しても500万払おう。それから、地球連邦と銀河パトロールにある君たちに不利なデータを抹消しよう』

 明たちは顔を見合わせる。

 その額は成功率の低さと困難さを物語っていた。同時に、断ったら・・嫌な予感しかしない。それ以上に事態の深刻さがショックだった。

「事情を知ったら、じっとしていられない。俺達に出来るか分からないが、やってみよう」明の言葉に啓作とグレイもうなずく。

『ありがとう。くれぐれも気をつけてくれ。ローザ、後を頼む』

 マッケンジーの通信は切れた。

「<PD13>をテロに使ったのは<神の声>という組織です。彼らの正体・目的等は一切不明。あらゆる場所に存在すると言われています」

「神の声?」

「これを」明にカードを渡す。 

「これは?」(チラ)

「15年前のヘンリー博士の十字星雲探検の記録、通称<ヘンリールート>です。星雲内のほとんどは高熱です。恒星突入能力の無い宇宙船が唯一高熱域を避けて航行出来るのがこのルートです。星雲に入れば外と通信は出来ません。何か質問は?」

「え~っと・・今は何も」(チラ)

 ローザは啓作の方を向き、尋ねる。

「流さん、当時の探検隊輸送艦の艦長をご存知ですか?」  

「いや」

「流啓三氏です」

「!」

 流啓三は啓作と美理の父親だ。地球連邦の軍人で6年前に行方不明になっている。

 ローザと別れ、カラオケ店を出る。

 空を見上げると、ドーム越しに十字星雲が見える。

「あそこに行くのか・・」

「明、チラチラ見すぎ!」 

「え~ばれてた?」

「俺は別ルートで<PD13>を探ってみるよ。ちょっと気になる事があるんだ」

 グレイは一人で立ち去る。明と啓作も船に戻る。


 女の子だけでお買い物。

 食料が主だが、そこは女子。衣類に雑貨にスイーツ。夢の時間。

 夢の時間は唐突に終わる。

「山岡!」声を掛けられる。

 振り返る麗子。

「!(せ、先生?)」

 体育会系男性と痩せた眼鏡女性が立っていた。教えてもらった事は無いが、<真理女>の教師だ。確かあだ名は“マッスル”と“ザマス”。

「こんな所で何している?」

「えーっと・・どちら様でしょうか?」

「とぼけるな。なぜ制服じゃない?校則違反のバイトか?」

「(どうしてバイトって判るの?)えーと・・」

「優等生の貴方がどうして?・・来なさい!流も!」 

 二人は美理たちの腕をつかみ、首筋に何かを突きつけようとする。

 ピンニョが羽根手裏剣で落とす。

「乱暴すぎるんじゃありません?」

 シャーロットが容器を拾う。

 昔の醬油の入れ物のような針の無い注射器。皮膚吸収性の液体が入っている。

「!!・・これ麻薬?」

 マッスルとザマスが銃を構える。

 その銃が火を噴くことは無かった。シャーロットのまわし蹴りとピンニョの羽根手裏剣が二人に決まっていた。 

「神の声を聞け」

 二人はそう言い残し倒れる。


 <フロンティア号>は重い気分でステーションを出る。 

 美理と麗子は特に落ち込んでいる。

 二人の教師は麻薬所持の現行犯として警察に逮捕され、注射器は押収された。

 すでに敵は動き出していた。明たちの出した結論は、「危険だから(美理たちを)降ろそうと思ったが、連れて行くしかない」だった。

 出発前にローザに連絡し、ルリウス星にいる麗子の家族の身辺警護を依頼した。

「やっぱいいなあ、浴衣」明がぽつりと漏らす。心の声が出てしまった。

 隣の啓作が睨む。明は視線を逸らす。

『神の声を聞け』

「え?」管制塔からの通信を聞いたピンニョは空耳かと思った。

「前!」ボッケンが叫ぶ。

 針路上に大型客船。 

「舵が効かない!トラクタービームが解除されていない!」 

「ぶつかる!」

 ステーションの管制塔では、管制官が不気味な笑みを浮かべている。 

 客船が目前に迫る。 

「・・・」美理と麗子は声も出せない。

 ボッケンがボタンを押す。反重力爆雷射出。

 反重力場を発生する兵器。重力下では重力を反重力に変換する。ミサイルもある。

 船のすぐ下で爆発。10Gの最大出力。

 その反重力で<フロンティア号>は吹っ飛び、トラクタービームを逃れる。

 ニアミス。姿勢制御する機体の下方を客船が通過して行く。

 美理と麗子はまだ震えている。

「彼らはあらゆる場所に存在すると言われています」

 明はローザの言葉を思い出していた。

「これも<神の声>か?」 

 ステーション内の警察では、捕まった二人の教師の手錠を警官が外していた。

 十字星雲に向かう<フロンティア号>を見ながら、二人はつぶやく。

「神の声を聞け」


 今回の依頼内容を包み隠さず美理と麗子に説明した。

「やっぱ真実を話したのはマズかったんじゃ?」小声でヨキが尋ねる。

「いや。知っておくべきだ」ぼそっと明は答える。

 ふたりはショックを受けたはずだ。かわいそうだが、遊びじゃない、命がけの旅になるという覚悟が必要だと考えたからだ。

 ローザから渡されたルートを確認する。 

「目的地はゼラ星系第2惑星アスク。十字星雲のほぼ中央に位置している」

「<ヘンリールート>の解析完了、ナビ自動表示します」 

 メインパネルにルートが表示される。

「サーモグラフィを重ねてくれ」

 映像が変わる。

「灼熱地獄だな」マーチンの頬を汗が流れていく。

 バリアーを使っても<フロンティア号>の耐熱温度は約4000℃。十字星雲の恒星は温度の低い赤色巨星のため、表面なら耐えられるが、星雲内はコロナやガスが充満し、1万℃を超えるエリアも存在する。やはり<ヘンリールート>を航行することになる。

「できる限りワープで近づく。ワープ準備!」

 明の指示を受け、シャーロットが機器を操作、メインパネルにワープ航路が表示される。

「耐熱バリアー最大出力」  

「行くぞ!十字星雲突入!」 

 <フロンティア号>はワープする。灼熱の光の中へ・・・


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