飛翔②
「お前はなかなか数奇な運命のようだな」
ゼーラは手を組まないかと握手を求める。
明の心を読んだのか、ゼーラはしゃべり続ける。
「お前の両親を殺したのは誰だ?地球人じゃないか。そんな奴らのために戦う必要があるのか?我々の作る新世界はそんなクズなどいない、選ばれた民だけの理想郷だ。私達の望むもの・・平和はそこにある」
洗脳でもするつもりか?
平和は望む。だが無数の命を奪って得る平和なんて要らない。
「命ってもっと尊いはずよ」
耳に残る美理の言葉。その方が勝る。
ゼーラの目は優しい。信じられない程に。つまり嘘くさい。心を読まれて気分も悪い。
明はその目を見据えて答える。
「俺はお前の本当の目的は人類の滅亡だと考えている。人類への復讐がしたいだけだと」
わずかな沈黙のあと、ゼーラから笑いが漏れる。
「ハハハハ・・」
明は不機嫌そうにゼーラを睨む。
「・・そのとおりだ。よくわかったな。このノアにも“触媒“を撒くつもりだった」
差し出されていたゼーラの右手が輝き、内蔵されていたビーム剣が伸びる。
明は後ろに避けて銃を構える。
周りの空気が一変する。
幻が再度襲う。
だが熱さはましだ。暖かい程度。対ESP装備が効いているのか。
目も。辺りは炎に包まれているが、ゼーラの姿が見える。
明はゼーラに狙いを定め、引き金を引く。
ゼーラは軽々と避ける。やはり行動は読まれている。
ビーム剣が迫る。
明はかわす。そこへ左ストレートパンチが来る!
かすっただけで、明はよろける。続けてゼーラの右キック!
避けた明にゼーラはパンチを浴びせる。
「ぐっ」重い。
次のビーム剣をかわすが、再び左フック。
明は意識を失いかける。そのまま転倒。
「兄き!」
ボッケンの声で意識を取り戻す。こちらに駆けて来るのが見える。
ゼーラは左手でライフルを構えてボッケンを狙う。修正し少し上へ向け連射。
天井が崩れる。
崩れた岩や土砂がボッケンの行く手を塞ぐ。ボッケンが何か叫ぶが聞こえない。
ゼーラは銃口を倒れている明に向ける。
それを明は蹴り飛ばす。
起き上がった明をゼーラの右腕・ビーム剣が襲う。
明は左手でビームブレードを抜き受け止める。
間髪入れずゼーラの顎に頭突きをかます。心を読む間を与えない。
倒れる二人。
ゼーラが立ち上がる。
明の姿は無い。
明は鍾乳洞の柱の陰に隠れ、呼吸を整える。
「考えろ!どうすれば勝てる?」
考えない攻撃は効いた。だがそれでは倒せない。重装甲サイボーグ。テレパシーと読心術。元傭兵で戦争のプロ。こちらが勝っているのはスピードだけか。
「それで隠れたつもりか」
マイクロミサイル!? ゼーラの右肩にはランチャーが内蔵されていた。
柱が粉々に吹き飛ぶ。
明は命中の直前に飛び退く。空中で銃を撃つ。
ゼーラの胸部に命中。
少しよろけるがケロッとしている。当然効かない。
「それでもやるしかない!」
十字星雲をバックに<フロンティア号>は飛ぶ。
「えいっ!」ピンニョがスイッチを踏む。
両側面からホーミングレーザーが放たれる。
すぐ屈曲し上方へ。触媒ミサイルを追尾して行く。
「てえっ!」ヨキがスイッチを押す。
前方の別のミサイルへプロトン砲発射!
そのビームはミサイルに向け直進。
命中! 爆発!
ホーミングレーザーがミサイルに追いつく。
命中!爆発!
敵の攻撃を受けながらも、<フロンティア号>は次々とミサイルを撃破して行く。
「あと・2つ!」
美理は操縦桿を傾ける。
急旋回。バイザーに次のターゲットが表示される。
宇宙高射砲。対空ミサイル。さらに迎撃機。<ノア>の攻撃は熾烈を極めていく。
敵のビームがプロトン砲をかすめる。
「大丈夫。かすっただけ。気にしない」シャーロットが励ます。
遠ざかるミサイルを追う。
後方からの戦闘機は船尾レーザーが撃ち落とす。
プロトン砲が火を噴く。
「くそっ」あせりの為か当たらない。
美理はさらに速度を上げ、ミサイルに迫る。
敵のビームが左翼を貫通。
「!」
美理が顔をしかめる。痛みを感じた気がした。
Gに耐えながら、ピンニョがホーミングレーザーを撃つ。
追尾・・・命中。ミサイル撃破。
操縦桿を倒しながら、美理が言う。
「あと・・ひとつ!」
そのミサイルはかなりの高度まで達していた。もう時間がない。
「エンジンフルパワー!」
<フロンティア号>は蒼白い光の軌跡を残し急上昇する。
Gキャンセラーでも防げないGがかかる。ぐんぐんミサイルに迫る。
ヨキはターゲットスコープに標的を捉える。 カチッ。
プロトン砲発射!
ビームは一直線にミサイルへ・・・
だが何かがその先に割り込む。
「!」小型の宇宙船だ。
ビームは宇宙船に命中。 爆発・四散する。
ミサイルはそのまま進む。
即座にホーミングレーザーが追うが・・・
レーザーが命中する直前、ミサイルの姿が・消える・・・
「あ・・」
ワープ・だ。
「!!」
その時、脱出した敵パイロットがコクピットにへばりつく。リゲル!
「え?」
美理と目が合う。硬直する。動けない。
リゲルの口が動く「神の・・」
シャーロットがスイッチを押す。
姿勢制御用ガスを噴射!リゲルを吹き飛ばす。
次の瞬間。リゲルの体は輝き、木っ端微塵に飛散する。自爆!
ヨキがESPでバリアーを張ったが、まだ力が回復しておらずコクピットの周りにしか張れなかった。
<フロンティア号>の船首は大破した。
「!」
「美理ちゃん!」
美理は気を失う。“フィードバック”だった。
(シンクロ操縦による副作用で、機体がダメージを負うと操縦者にもダメージが及ぶ)
それ以上に、人の死を目の当たりにして心が傷ついていた。
「“J“縫合を任せていいか?」
「マカサレテ」
天井から延びるロボットハンドが縫合を始める。
「よし。オペ終了」
啓作はマニュピレーターから手を放す。
「・・・」
麗子はその場に座り込む。
「ありがとう。よく頑張ったな」
彼女にそう言うと、啓作は手術室を出る。
ヘンリー博士は気絶したまま床に転がっている。
「レイコ、タイヘンヨクガンバリマシタ」縫合しながら“J”が喋る。
「ありがとう“J”・・ちょっと、休ませて」
その時だった。
リゲルの自爆で船首が大破。激しい衝撃が船全体を襲った。
「きゃあ!」
最も対衝撃に優れる医務室でさえ器具が落ちる程である。
啓作は駆け出す。コクピットへ。
操縦者を失った<フロンティア号>に敵が襲い掛かる。
ヨキたちが応戦するが・・・
ビームがメインエンジンを直撃。
再び強い衝撃が船全体に伝わる。
「!」
シャーロットはメインエンジンを緊急停止させる。
『神の声を聞け』
リゲルに続けと小型宇宙船が次々と特攻を仕掛ける。
「美理!」
コクピットに飛び込んだ啓作は美理のバイザーのコードを引きちぎる。
隣の副操縦席に座り、操縦桿を握る。
間一髪。敵の体当たりをかわす。
レーザーの弾幕が敵を撃破する。
「ごめんなさい」
気がついたのか美理の声。か細い。
「よくやった。お前はベストを尽くした」
啓作は操縦桿を動かしつつ励ます。
「それじゃ、だめなの・・結果が全てなの・・」涙があふれる。
「・・・」
啓作は何も言えなかった。その通りだからだ。
学校のテストとは違う。これで人が死ぬ。厳しい現実。
「兄さん」
「ん?」
「この子、帰りたがってる・・」
そう言うと美理は再び気を失う。
「?・・」操縦を続けながら啓作が尋ねる。「ミサイルのワープ先は分かるか?」
「ワープトレーサーで解析済み、95%の確率で地球よ。ただ・・」
「ただ?」
啓作は操縦桿を傾け、敵の攻撃を次々と避ける。
「爆発で軌道が逸れてる。自動修正するでしょうけど」
「じゃあ、まだチャンスはある」