飛翔①
第5章 飛翔
格納庫を出た<フロンティア号>はゆっくりと上昇して行く。
敵の迎撃は無かった。
理由は二つ。一つはまだ<ノア>と地球連邦軍との戦闘が続いていたこと。
もう一つはグレイが“援護”として、残しておいたハイブリッド爆弾を爆発させたこと。すぐに復旧するだろうが、催眠ガスと電磁パルスにより<ノア>は大混乱となっていた。
「ミサイルは8つ!チューブ内を移動中。間もなく地上に出ます」シャーロットが伝える。
「見えます!」
美理のバイザーに情報が表示される。操縦桿を倒す。
「捕まえた!」
ピンニョはターゲットに触媒ミサイルを捉える。
船首レーザー発射!
地上に出たばかりのミサイルに命中。 爆発!
美理は操縦桿を右へ。
<フロンティア号>は右旋回。
今の所は順調。“シンクロ”は操縦・索敵・エンジン制御・攻撃すべてを考えるだけで行う事もできるが、それには操縦者の改造が必要だ。今は操縦だけ、それもサポート止まり。
「はっ」ヨキが目を覚ます。
「やっと起きた。プロトン砲をお願い!」シャーロットにそう言われ、
「へ・・りょ、了解!」ヨキは副戦闘席へ。
船首レーザー発射! 同時にミサイル発射!
レーザーは外れる。ミサイルは命中。爆発。あと6つ。
触媒ミサイルはチューブを出て上昇、ワープ速度に向け加速する。撃破が難しくなる。
地平線の向こうにミサイルの光を確認。
「てえっ!」ヨキはスイッチを押す。
プロトン砲発射!
光の束が伸びる・・・ 命中! 爆発!
次へ向かう。あと5つ。
警報が鳴り響く中、<ノア>の反撃が始まる。
対空砲火が来る。
美理の操る<フロンティア号>はその砲火を掻い潜る。
高度を上げて行くミサイルを追う。
「すまない。本当は君を巻き込みたくないのに」
明はそうつぶやき、はっと気付く。
ゼーラが目の前に立っていた。
ボディブロー。腹に強烈な一撃を喰らう。
崩れる明。
ゼーラは背を向け通信機のスイッチを入れる。空中に<ノア>司令部の映像が投影される。
「カペラ!迎撃はどうした?」
『申し訳ございません。地球連邦軍と交戦中でして・・ですが、わが軍が圧倒的に有利です』
「地球連邦軍だと?・・む、こちらから仕掛けたのか?」
『それは・・奴らは<スペースマン>の通報で集まっておりました』
「十字星雲の中で通信など出来るものか!連中は我々が<神の声>だとは分かっていなかったのだ!それを・・」
カペラは蒼ざめる。
「スピカはいるか?」
『はっ!ここにおります』
すらっとした長身の女性副官だ。
「テレパシーを中継しろ!」
『かしこまりました』スピカはエスパーだ。だが能力は高くない。
ゼーラの顔つきが変わる。
「死んで詫びろ!」
『!・・お、お許しを・・ゼーラさまぁ――』
何を見たのかは分からないが、カペラは床を転げまわる。
やがて痙攣し・・息絶えた。
<ノア>の司令部は静まりかえる。スピカは顔色が悪い、今にも吐きそうだ。
「スピカ。今後の指揮はお前がとれ。まずは邪魔な蚊トンボを撃ち落とせ!地球連邦軍の殲滅は艦隊に任せておけ!」
『あ、ありがとうございます』
通信を切る。
ゼーラは振り返る。
腹を押さえて明が立っていた。
「弓月明、スペースマンのリーダーか・・まずは誉めておこう」
明は身構える。
ゼーラは右手を差し出す。
「たった10人程で、我々に挑み、ここまで来た。君は私に匹敵する戦士だ。殺すのは惜しい・・・手を組まないか?」
木を隠すなら森の中、では人を隠すなら?
「大丈夫か?しっかりしろ」
信者の男性が倒れているマントの男に声をかける。
「ノープロブレム」
男は埃を払いつつ立ち上がる。
その周囲には多くの信者達が倒れている。皆マーチンの電撃の犠牲者だ。
「おいっ!大丈夫か」男性は別の倒れている者を介抱する。
先程の男はゆっくりと歩き出す。
人込みを掻き分ける。
同じマントを羽織った太った男と合流する。
「敵はどうなった?」 「“聖域”の中だろうか?」 「くそ。破壊されて入れない」
「壊れてなくても“聖域“に一般信者は入れない」 「親衛隊に任せるしかない」
信者達の会話を聞きながら、グレイとマーチンは静かにクスノキの許を離れる。
「言いつけを守る従順なよい子たちだ」マインドコントロールされているのか?
「連中は中に入る様子はないようだ。俺たちも入ればよかった・・言っても遅いか。それにしても、中に見られたくない物でもあるのか?」
「どうする?これから」
マーチンの問いに、グレイは答える。
「<ノア>を脱出する。俺が乗って来た宇宙船は多分押さえられているから、奴らの船をいただこう」
「援軍はまだかっ!」
ダグラス少佐の叫びは悲痛だ。
<ノア>本体と<神の声>の艦隊の攻撃により、地球連邦艦隊はその半数を失っていた。
「む?」
敵の攻撃が減った?
「<ノア>の地表付近で戦闘。照合、<フロンティア号>。例の連中の船です」
敵艦隊からの攻撃は続いているが、<ノア>本体からの攻撃は<フロンティア号>に集中していた。
メインパネルを見るダグラスがつぶやく。
「!・・ミサイルを追っているのか?」
「重力震確認!援軍です!」
地球連邦軍艦隊が次々とワープアウトする。ダグラスは好機と見た。
「巻き返せ!連邦魂を見せてやれ!」
ガキッ!刀と鎌がぶつかる。
ボッケンと親衛隊隊長シリウスの闘いは続いていた。
親衛隊部下の生き残りは追いついたが、手を出せず闘いを見守る。
シリウスの髪は長く、目を隠している。時々見えるその目は冷たく無表情。まさに死神。
「(サイボーグというよりまるで機械だ。感情が無いのか?)」
両者が離れる。間髪を入れずボッケンが斬り込む。
下がりつつシリウスは鎌を水平に構え、振る。
ボッケンは鎌を下へかわす。
そこにはシリウスの足。靴先からナイフが伸びる。
辛うじて避ける。ボッケンの鬣の毛がいくつか宙に舞う。
刀は空を切る。両者は交差。
ボッケンはそのまま走り抜け、距離を取る。ターン。
その時、眩い光!目くらまし。
「(しまった)!」ボッケンは視力を失う。
鎌が迫る。
ボッケンは気配を頼りに刀で鎌を受け止める。
再び鍔迫り合い。
シリウスは勝利を確信した。取っておいた奥の手を使う時が来た。
ボッケンは初めて相手の気を感じる。殺気。
「(何か来る!)」
シリウスの目が輝く。至近距離で目に仕込まれたレーザーを発射!
「!」
それは直感だった。ボッケンは刀をずらす。
レーザーは刃に命中。
跳ね返ったレーザーはシリウスの頭部を貫通する。
決着は着いた。
隊長を失った親衛隊員が攻撃をかけるが、視力の戻ったボッケンの敵ではなかった。