表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/23

切り札③

 地下通路を進むゼーラは後方から迫る“気”を感じていた。

「行け」

 周りにいた幾つかの影が動く。ステルス仕様の親衛隊三人が迎撃に向かう。

 追跡中の明とボッケンは、前方から来る敵に気付く。

「見える?兄き」

「いや。だが、何となく気配は分かる」

 ボッケンのくわえた刀から左右に刃が伸びる。

 両者の距離が狭まる。

 明は馬上で銃を構える。気の源へ向け、引き金を引く。

 ドピュッ! 闇の中を青白い光が走る。

 影が動く。避けた。

 騎士を思わせるパワードスーツ・親衛隊の武器は槍だ。

 槍の先端からビームが発射される。

 ボッケンは軽く避ける。

 すれ違いざま、見えない槍を避け、ボッケンの刀は一人を斬り裂く。

 ボッケンはそのまま走り続ける。

 二人の親衛隊は180度ターン。

 その瞬間を明は逃さなかった。後ろへ発砲。エネルギー弾が一人を貫く。

 残り一人は追いかけて来るが、ボッケンに追いつくのは不可能だ。

 遠ざかる敵の気配を感じながら、明は前を見据える。


 <フロンティア号>は包囲されていた。

 ヨキのESPを探知して、更なる敵が押し寄せて来ていた。

 その中にはあのリゲルの姿もあった。啓作はとどめを刺さなかったのだ。

 パワードスーツがミサイルを発射。

 ピンニョが防御レーザーで応戦するが、数が多く防ぎきれない。

 バリアー貫通。被弾!


 手術開始1分でヘンリー博士は気絶した。

 緊急のためナノマシンや再生溶液では間に合わない。医療コンピューターJの助けや止血光線等の最新医療技術があるとはいえ、昔ながらの外科手術だ。

 さすがの天才医師もブランクを気にしていた。病院を辞めた後も、時間があればシミュレーションしているが、シェプーラ族の本格的な手術は初めてだ(ボッケンは大怪我をした事が無い)。

 麗子は気丈にも手術野を広げる“鈎引き”を担当。

 衝撃! 

「きゃっ!」

 船の中心近くにある医務室は最も耐衝撃性に優れるが、全てを防げるわけではない。

「いかん」 

 動脈損傷。血が噴き出る。麗子は蒼ざめる。

「止血を!ここを押さえてくれ」啓作が叫ぶ。

「え?」

「手でここを押さえろ!」

「は、はいっ!」

 麗子は鈎を離し手で圧迫する。出血が治まる。

「よし。そのまま・・」コッヘルで止めつつ結紮する。「止血OK。手術続行」


 敵兵が次々と<フロンティア号>に迫る。 

 ヨキはまだ眠ったままだ。シャーロットがボタンを押す。

 床に高圧電流が流れる。グレイが仕掛けたトラップだ。

 気絶する兵士。ショートするパワードスーツ。


 開けた地下空間の中にぽつんと機械のパネルがある。触媒ミサイルの発射装置だ。

 ロウソクの炎に照らされる中、ゼーラが微笑む。

 最後の一人・親衛隊隊長シリウスは一礼をして透明化、教祖の元を離れる。ステルス仕様は他の者と同じだが、槍ではなく巨大な鎌を持つ。その姿はさながら死神だ。

 ボッケンが来る。

 ガキッ! 刀と鎌がぶつかる。

 ボッケンはかなりの速度を出していたが、シリウスは難なく受け止める。

 鍔迫り合い。両者譲らない。

 明は飛び降りる。振り返らず走っていく。

 ゼーラはミサイル発射装置に近づく。そのパネルには手形が刻まれている。

 無言で左手を手形にはめる。

 シグナルが点灯する。数字が表示され、減っていく。カウントダウン開始。

 ゼーラは満足そうに微笑み、声高々に叫ぶ。

「ゆけ!新世界のために!」


 透明な直線チューブの中を、500mを超える巨大なミサイルがゆっくりと動いて行く。

 明は走りながら地面の揺れを感じていた。

「!」何が起こったのか直感で悟る。

 腕時計の表示を見ながらひとり走る。

 石の柱を曲がる。視界が開ける。

「あれか」

 距離は約400m。銃を構える。 発射!

 エネルギー弾は一直線に触媒ミサイル発射装置へ。

 危険を察しゼーラが身を挺して装置を庇う。

 その胸に命中。後ろへ吹っ飛ぶ。

「なにっ」明は銃を構え直す。

 その間にも次々と触媒ミサイルは発射されていく。

 銃は最高出力のため連射できない。

 明が撃つ前にビームが来る。ゼーラが胸を押さえながらも攻撃して来た。

 弾を避けつつ、明はもう一度銃を撃つ!

 今度はミサイル発射装置に命中! 

 爆発! 

 装置は四散し、ゼーラの体が宙に舞う。

 ミサイル発射は止まったが、既に15発が発射されていた。


 明は通信機でもある腕時計に叫ぶ。

「フロンティア号!応答せよ!」 

『はい。こちらフロンティア』美理の声。

「明だ!すまん。ミサイルは発射された。間に合わなかった・・<フロンティア号>で撃ち落としてくれ!」

「ええっ?でも今は操縦出来る人がいません」

 啓作は手術中。ヨキは眠ったまま。シャーロットは利き手を骨折している。ピンニョは元々操縦できない。

「君がやるんだ。美理」

「無茶よ、できない!」 

『爆破を試みる』グレイが通信介入。

 ヨキがテレポートで仕掛けた爆弾の起爆スイッチはグレイが預かっていた。

 スイッチを押す。カチッ。

 <コア=エデン>から外郭へ延びる直線チューブ。

 啓作の読み通り、これが触媒ミサイルの発射管だった。

 ミサイルはこの中を移動中。外郭から宇宙空間へ出たら、さらに加速してワープするようプログラミングされている。

 ドガアアン! 

 ミサイルを巻き込み爆発。

 チューブが壊れてミサイルが停止したものもある。

 しかし全てのチューブ・ミサイルを破壊できてはいない。

「発射されたミサイルは15。爆弾で阻止できたのは7。残り8つは依然移動中」

 シャーロットが現状を報告する。

 明と美理の通話はつづく。

「ミサイルが命中したら、何億という命が失われるんだ!」

「わかってる・・でも私じゃ・・」

「今やらなきゃ、ずっと後悔する。万に一つの可能性があるなら、それに賭けろ!たとえそれが命がけの賭けだとしても!」 

「美理」手術室で聞いていた啓作が語りかける。

「お前は『こわい』という感情の他に、乗っている俺たちの安否を気にしている。だがな、もっと自分自身を信じてみろ。お前が『何か役に立ちたい』と操縦を習っていたのを知っている。その努力は無駄じゃないはずだ。自分の力を信じろ!」

『Believe in yourself, and Never give-up! 』      

 美理は主操縦席に座る。

「“シンクロ“を使います」

「え?ええっ?」

 明が驚く。なぜ彼女がシンクロの事を知っているのか?

 “シンクロ”とは操縦者が機械と一体化して意のままに操る操縦法だ。操縦者はサイボーグ化する事が多いが、生身でも可能だ。だが万能ではない、弱点もある。

 美理はマーチンの予備のバイザーを付ける。

 これはマーチンが興味本位でシンクロ用に改造したもの。それを啓作が美理用に調整していた。美理が“シンクロ”で行ったシミュレーションの成績は82点。

 バイザーがブカブカでズレるが気にしない、いや気にしている余裕がない。

 有線プラグを操縦席の端子に繋ぐ。昔のVR(バーチャルリアリティ)の様な感じだ。

 操縦桿を握る。

「すごい・・」船のまわりの敵の位置が手に取るように判る。

 シャーロットとピンニョは最初驚いたが、美理の決意を知り協力する。

「エンジン出力アップ!60・・70・・90・・」

「格納庫が開かない。妨害されている」

「ホーミングレーザー撃っちゃえ」ピンニョがスイッチを踏む。

 発射! 

 ビームは真上へ向け屈曲、格納庫の天井を破壊する。

「<フロンティア号>発進!」

 美理は操縦桿を引く。 

 ドギャァァァ――――ンンン

 垂直上昇ノズル噴射!

 噴煙がリゲルをはじめ多くの敵兵を吹き飛ばす。

 ゆっくりと機体が上昇して行く。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ