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野望の方舟④

 <ノア>内部はアスク星のように空洞になっている。

 外郭には艦艇の格納庫や宇宙高射砲などの兵器があり、無数のオプティカルエレベーターが外郭と内部の居住区<コア=エデン>を繋いでいる。

 その透明なエレベーターの一つに乗っているのはボルンと美理だ。

「・・・」

 美理は目を見開きその光景を見る。スペーススーツではなくセーラー服を着ている。サービス♡。

 エレベーターよりはるかに大きく、地表へ直線状に伸びるチューブも見える。何かは分からない。

 <コア=エデン>が近づく。

 直径約90kmの球体だ。その表面には幾つもの半球状のドームがあり、中に都市が見える。ドームとドームは線路の様なチューブで繋がっている。

 彼らの乗るエレベーターはひときわ大きなドームへと向かう。

 到着する。エレベーターの扉が開く。聞こえてきたのはお経の様な讃美歌の様な音楽だ。

 ふたりは森をぬけて、高い塔のような建物へ。

 右前脚を失っているボルンはびっこをひいている。美理は辺りをキョロキョロ。

 広大なロビー。すれ違う信者達は黒い柔道着の様な服を着ている。

 美人の受付嬢に軽く会釈して、エレベーターに乗る。美理は彼女達をガン見。

「ご利用階をお知らせください」と言うアナウンスに、ボルンは最上階を指示。扉が閉まる。美理はカメラ(のあるであろう所)をチラ見。

 すぐに扉が開く。

 そこは<ノア>の司令部。巨大なスクリーンが周りを囲む。

「ゼーラ様。ただいま戻りました」

「ボルンか。ゼーラ様は演説に行かれた。ご苦労だったな。どうだ?奴らはどうなった?」太った中年男が尋ねる。

「・・・・・カペラ様。正体がばれ、戦闘になりました。数人を倒しましたが、この脚ですから逃げるのがやっとでした。奴らがいたのはエリアP357の倉庫ですが、現在地は分かりません」

「わかった。念のため兵を向かわせる」カペラは美理を見る。「この娘は?」

「人質として拉致しました。奴らをおびき出すエサにします」

「うむ。だが顔色が悪いぞ」

「目の前で彼女の兄と恋人を殺しました」

 カペラは美理の尻を触る。「きゃっ」セクハラだ。

「あれ?」カペラは違和感を感じたが、それが何か分からなかった。

「いいケツだ。良い“聖母“になれるだろう。ボルン、その脚、医療センターで治療を受けるがいい」

「はっ。娘を牢番に渡した後、参ります」

 ボルンと美理は立ち去る。

「ふん。わざわざここに報告に来る必要など無いだろうに。そんなにゼーラ様に褒められたいのか?」

 カペラは視線をメインスクリーンに移す。そこには演説会場が映し出されている。


 司令部の建物を出たボルンと美理は来る途中にあった森の中へ。そこに演説会場はある。

 古代ギリシャか何かの神殿を彷彿させる円形の建築物。白い大理石に見えるが金属だ。その中はローマのコロシアムの様だった。会場は満席ではないが、千人はいるだろうか。信者達は席に座らずに起立している。その視線は中央の演説台に注がれている。

 大歓声を受け、ジュリアス=ゼーラが壇上に上がる。片手を上げ、歓声を制する。

 静まり返る会場。

 会場の最後列にボルンと美理がいる。美理の耳の通信機に連絡が入る。

『こっちは準備完了』 『うまく仕掛けられた』

「了解。司令部もうまくいった」そう言いながら、美理は壇上のゼーダをにらむ。

 ゼーラと目が合う。「!」

『おお、ボルン。無事戻ったか。ここへ来なさい』

 ボルンと美理は顔を見合わせる。

 通路に立っていた信者が道を開ける。ふたりは階段を降りる。

 最前列から壇上に上がる前に信者の女性が美理のボディチェックをする。女性は一瞬首をかしげるが、OKのサインを出す。壇上へ。

「(でかい)」それがゼーラを見た第一印象だ。

 身長は2mを越える。筋肉モリモリ。太い腕と脚。微笑んでいるが眼光は鋭い。

 ボルンはゼーラに美理を紹介する。人質にとった<スペースマン>のメンバーだと。

 ゼーラは笑みを浮かべながら美理に語り掛ける。

「ようこそ<ノア>へ。そこで私の演説を聞くがいい」

 ゼーラは信者達の方を向き直す。演説が始まる。

『人の歴史は戦いの歴史だ。太古から人は戦い、戦いにより文明は進み、人は栄えてきた。動物達の生きるための闘いとは違い、人の戦いは限りない欲望から来ている。己の欲望の為、敵を倒し己がより豊かに幸せになるように』

 信者達は教祖の話に聞き入っている。

『そして戦いを生むもう一つの原因は・・愛だ』

「え?」美理は顔をしかめる。

『愛する者が傷つけられた時、人はその相手を憎む。そして報復、次の戦いを生む。愛は憎しみの裏返しなのだ』

 ゼーラは笑みを浮かべながら美理の方を向く。

『お前は我々に兄と愛していた男を殺された。憎いだろう?私を殺したいだろ?』    (本当は“愛していた男“ではないのだが、それは置いといて)

 美理はキッと睨み返す。汗が頬を伝う。

 ゼーラは信者達の方を向き直し、演説を続ける。

『人類が宇宙に進出して約550年。何種類の生物が絶滅したか、分かるか?・・・7000種だ。人類の多くは悪だ。倒すべき存在だ。・・だが我々もその人類なのだ』

「お前はアスク星人じゃねーか」美理がぽつりと言う。

『我々が望むのは、争いの無い世界だ。理想郷。・・その実現の為には、皮肉な事に戦うしか道は無い。これは理想郷実現の為の聖戦なのだ』

 大歓声が巻き起こる。

「こんな演説、何も感じない。美理ちゃんの叫びに比べたらクソだ」

「そうだね。兄き」

 ふたりはボルンと美理ではなく、ホログラフで化けたボッケンと明だった。



 時間は少し戻る。場所は<フロンティア号>医務室。

 勝負は一瞬で着いた。

 ボッケンとボルンが斬りあうより先に、ピンニョの羽根手裏剣がボルンの歯を粉砕する。

「!!」

 これでは刀をくわえられない。刀は床に落ちる。

 美理が明の胸に飛び込む。すかさず明は彼女を後ろに下げ、銃を抜く。

 ピンニョがステルスを解除し、啓作の肩にとまる。

「ボクが敵だと・・分かっていたのか」ボルンがつぶやく。

 啓作はボルンに「俺たちを襲った刺客は一言も喋らなかった。だがお前は『博士を<ノア>にお連れする』と敵が言っていたと言った」

「敵ではなくメッセンジャーにされたんだと信じたかったよ」明がぽつりと言う。

 ボルンは悔しがる。

「死を恐れない<神の声>なら脚を失うくらい何ともないのか」

 ボッケンの声は震えている。ボルンを睨みつける。

「争いの無い理想の世界を作るためには、一度この世界を壊す必要がある。PD13は“ふるい”だ。もうすぐ人類の大半は死滅する。生き残るのは我々と少数の選ばれた民だけだ」

 正にテロリストの思想だ。明はあきれ、ボッケンは怒りで震え殺気をはらむ。

「・・ちがう」美理がつぶやく。

 ボルンもボッケンも、明の後ろにいる彼女を見る。

「あなた達にそんな権利はない。PD13は何の罪もない人も巻き込むわ。ううん、人だけじゃない。動物も植物も、生きるものすべてが・・死ぬのよ!」

「犠牲は覚悟の上だ」

 そう答えたボルンに、美理は泣きながら訴える。

「命って・・もっと尊いはずよ。あなた達のしている事は、殺戮だわ。お願い・・わかって」    

 無言のボルン。

 ボッケンは刀を納める。

 啓作が尋ねる。

「ボルン。君はPD13に感染している。これもわざとなのか?」

「え?」

「知らなかったのか?」

「うそだ!PD13は“聖戦”のためのものだ。それに我々はワクチンを打っている」

「血液標本を見るかい?」

「・・・・・」

 明はシェプーラ族が泣くのを初めて見た。

 声を立てず、叫ぶ。信じていたボスに裏切られた怒りそして哀しみ。

 ボルンを医務室に拘束、他のメンバーはコクピットへ。

「さて、これからだが・・」グレイが話を始める。

「さっきも言ったが、脱出のため<ノア>に爆弾を仕掛ける。爆弾と言っても、睡眠ガスと機械を狂わせる超電磁パルスのハイブリッド爆弾だ。頃合いを見計らってこれを爆発させて混乱している隙に<ノア>から脱出する」

 ヨキが手を挙げて「おいらがテレポートでちょちょいのちょいっと仕掛けて来るよ」

「だめだ」グレイが否定する。「<ノア>の中核<コア=エデン>にはESPセンサーが張り巡らされている。ESPを使ったら、すぐに探知される」対エスパー対策。

「そうだ忘れていた」ヘンリー博士が発言。

 皆が博士に注目する。

「ジュリアス=ゼーラはエスパーだ」

「!!」

「え~」

 明は露骨に嫌な顔。エスパーに嫌な思い出があるから。(*第一巻第3章参照)

「アスク星人はテレパシーを使える。以前彼は我々の思考を読んで行動していた」

「し知らなかった・・」グレイの顔色が悪い。「知らないで謁見していた」

「それバレてたんじゃ?」とヨキ。

「万が一のエスパー対策として“自分はヤンエグだと”自己催眠術をかけていた。それで助かったんだ。やっぱ俺って天才」自己陶酔。放っとこう。

「奴が<ヘヴン教>教祖になれたのも?」啓作が博士に尋ねる。

「うむ。おそらく超能力ちからを使ったのだろう」

「そんな奴と戦わなければならないのか」明の表情は重い。

「相手したくないなあ・・」弱気なヨキ。

「<フロンティア号>には対ESPシールドがあるが、外に出たらヤバいぞ」

「個人用の対ESP装備がある。テレパシーだけなら防げる。さて作戦だが・・」

 グレイが話を戻す。


「何で私なのよ」

 美理は明が自分に化ける事に納得がいかない。

 地球連邦情報部最新式のホログラフィを使った変装キット。グレイが持ち込んだ物だが、こんな物をどうやって入手出来たのか?その名の通りグレイな奴だ。

 啓作が「女の子の姿の方が、敵が油断する」と説明する。それなら麗子の方が明の背丈に近いと思うのだが。美理が納得いかない一番の理由は、明がにやにやしていることだ。

 それでも出発の時になると、美理は言ってくれた。

「気をつけて。無事に帰って来てください」

 勿論それは明だけに向けたものではない。



 明とボッケンの他に、啓作・ヨキ・マーチン・グレイの四人が特殊フードを纏い<コア=エデン>に潜入、要所要所に特殊爆弾を仕掛けていた。

 改心したボルンは明たちの協力者となった。<フロンティア号>のコクピットで明たちに指示や助言をしている。<ノア>司令部でカペラの名を通信でボッケンに教えたのもボルンだ。

 刀を使えなくてもシェプーラ族の戦闘力は高い。船にはピンニョとシャーロットしか戦える者は残っていない、そのためボルン本人了承の上で後足を拘束している。とは言え、明とボッケンがゼーラに壇上に上げられるのは想定外だった。

 メインパネルには、潜入した啓作たちの視点カメラの映像が映し出されている。ちなみに司令部に向かう明とボッケンはこのカメラを付けていない。そのうちの一つ、啓作のカメラに男が近づく。

「リゲル!」ボルンが叫ぶ。 

 作業終了後、啓作とヨキは<ノア>の医療センターに潜入していた。

 ボルンが打ったというPD13のワクチンを手に入れるためだ。ボルンには効かなかったようだが、入手しておいて損はない。

 シャーロットの協力で難なくセキュリティを突破。端末を操作してワクチンの場所を特定、無事入手し、ラボを出た所だ。

 男は廊下を静かに歩いて近づく。両手にワイヤーを持っている。

 アスク星で<スペースマン>を襲った刺客の最後の生き残り・リゲル。

 どうやってここを突き止めたのか?“執念”という言葉が啓作の脳裏をかすめる。

 啓作は身震いする。

 殺気。ヨキに「先に行け」と言い、銃を構える。

 無駄なのはコクピットの戦いで分かっている。だが牽制にはなる。

 発砲。リゲルはワイヤーで防ぐ。続けて発砲。

 ヨキは通路の角に隠れる。脳波誘導ブーメランを構え、チャンスを伺う。

 リゲルはワイヤーを動かしてエレルギー弾を防ぎつつ近づく。不意にその姿が消える。

「!」ピンニョと同じステルス迷彩だ。「やはりサイボーグか」

 ワイヤーが来る。

 啓作はその一撃をかわす。遅れて風が来る。

 敵の姿は見えない。第二攻撃。風では遅い。気を察知して避ける。

 啓作はポケットから何かを取り出す。

 小型の手榴弾。安全装置を外す。ガスが噴き出す。

「!」

 ステルス迷彩が解けてリゲルが姿を現わす。

 動けない。硬直している。

「対サイボーグ用の人工皮膚吸収性の麻酔ガスだ。さっきラボで見つけた」

「・・・」

 リゲルが悔しがり睨む。このガスは生身の人間には無害だ。

「悪く思うな」

 啓作はリゲルの頭部に銃を突きつける。そして引き金に力を込める。


 ゼーラの演説は続く。

『この<ノア>に罪人が侵入、撃破したが、取り逃がした可能性があり現在捜索中だ。残念ながら連邦に知られてしまったようだ。PD13の放射線放出が始まるまであと13日。もう十分に広まった筈。大いなる目的の為、私は“触媒ミサイル”を使う事にする。既に地球連邦の主要惑星に照準セットされている』

 大歓声。

「ボルン。“触媒ミサイル”って何?」美理に化けた明が通信で尋ねる。

『“触媒”とは、人体内で増殖中のPD13を作為的に放出させる物質です。勿論、その時に放射線も放出されます。それを搭載したミサイルが<ノア>のどこかにあります』    

「!!」


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