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野望の方舟③

 明たちはヘンリー=シュナイダー博士と対面する。

「<ノア>へようこそ」

 グレイが微笑みながら手を差し出す。

「ありがとう。助かったよ」明はその手を握る。

 <ノア>にも人工重力がある。もちろん重力レンズに使われた恒星並の重力ではない。地球より軽い、0.9G程か。

「紹介する。ヘンリー=シュナイダー博士だ。こちらは・・」

 ふたりを<フロンティア号>に案内する。ひとまず食堂へ。

 ヘンリー博士の印象は想像と違っていた。

「いい職場だな。女の子が二人か。え?あと一人いる?レベル高いし、私のタイプは・・」美理を見る。「何処かでお逢いしませんでしたか?」

 ヘンリー博士は無類の女好き。噂だが何人も助手の女性に手を出しているらしい。

 グレイが咳払いする。

「彼女は流啓三艦長の娘さんですよ」

「なにっ?あのちっこかったのが?・・うーむ」目つきがやらしい。「そうか、お母さんにそっくりなんだ」

 明はグレイに尋ねる。「しかしよくここに潜入できたな」

「<神の声>なんて名前から、何らかの宗教が絡んでいるとふんだ。麻薬の流通ルートと何らかの脱出船を持つ宗教団体を徹底的に調べた結果だ」

「じゃあここは?」

「<ヘヴン教>の総本山だ。俺は青年実業家(ヤンエグ)の信者という事になっている」

「<神の声>が<ヘヴン教>?」 

「<ヘヴン教>って・・銀河六大宗教の?」 「まさか」

「何だ?その<ヘヴン教>って」明のいた旧暦には無かった宗教だ。

<ヘヴン教>は宇宙暦初めに地球で生まれた宗教。地球にあった宗教を適当に合わせた(と当時の宗教評論家は言っている)。大変動後の絶望的な状況下、その「神は宇宙にいる」というフレーズが宇宙開発を勧める<地球連邦>の思惑と一致し、連邦の援助を受けて信者を増やした。

「そんな大きな組織が・・」

「地球連邦も銀河パトロールもバカじゃない。なぜ<神の声>が<ヘヴン教>だと解らなかったのか?・・明、どう思う?」グレイが尋ねる。

「・・わざと情報を俺たちに言わなかった?」

「あり得るが何のメリットもない。・・本当に解っていないとしたら?」

「『<神の声>はどこにでもいる』と巨乳のローザさんは言っていた。内通者の妨害か?」ヨキが巨乳という言葉に反応するが、無視。

「おそらくそうだろう」

「連邦の中に?厄介だな。とにかく、これで目的は達成した。脱出しよう」明はそう言うが、

「いや、この<ノア>が十字星雲を出るまで待つべきだ」グレイは反対する。

「確かに・・そうだな」いま外に出ても灼熱地獄だ。

「少し休んだら反撃に出よう。脱出の陽動として<ノア>の各所に爆弾を仕掛ける。実は仕掛けときたかったが、お前らが来るのが予想より早かった」

「じゃあお茶にしましょう」シャーロットの提案に、

「お茶より、飯にしようよ」マーチンはそう答えた。


 食事はサンドイッチとスープ。

 マーチンは自分の分(約3人前)を持って補修作業に行く。

 シャーロットはコクピットにいるボッケンと麗子に、美理は医務室のボルン(スープは飲める)に食事を届けるため、食堂を出る。啓作はピンニョに何やら合図。ピンニョはうなずき、ステルス化して彼女の後を追う。

 残りは食堂でだべりながら食する。女子が一人もいないのは故意か?

 ヘンリー博士が口を開く。

「今の教祖の名は“ジュリアス=ゼーラ”と言う」

「ゼーラ?どこかで聞いたな」

「アスク星の太陽の名前だよ」 「そっか」

「ゼーラは地球人じゃない、アスク星人だ」

 ヘンリー博士のその言葉に明たちは沈黙する。

「!!」 「え?だって・・」 

「アスク星人は50年ほど前に滅びたのでは?」

「最後の生き残りだ。外見は地球人われわれと変わらない」博士は話を続ける。

「15年前、我々はアスク星の衛星軌道を漂流していた彼を救出した。冷凍睡眠状態だった彼はアスク星の軍人であり宇宙飛行士だった」

「(まるで俺だな)」

 明はそう思った。啓作と目が合う。同じ事を思ったのか苦笑している。

「アスク星を滅ぼしたのは、太陽であるゼーラ星の重力レンズだった。その時、二連星の位置が偶然重力レンズのそれに一致し、一千℃を超す熱線が星を襲った」

「・・・」 

「じゃあ、そいつは自分の星を滅ぼしたのと同じ武器で俺たちを攻撃してきたのか?」

「そんなこと・・」 「嫌な奴」「そこ?」

「同胞がすべて死滅していたが、彼は協力的だった。だが地球に帰還後、軍が彼を研究のため連れて行った。・・そしてあの悲劇が起きた」博士は深呼吸し、「PD13による放射線被曝だ。ウィルス保有者である彼から我々にウィルスを広げたのは・・蚊だ」

「蚊?砂漠だらけのアスク星に蚊が?」啓作が聞く。

「我々の宇宙船にいた蚊だよ。地球のな」

「奴は、そのゼーラって奴は発病しないのか?」明が尋ねる。

「彼ら、アスク星人・・いやアスク星の生物にとって放射線は無害だ。PD13は彼らにとって、風邪みたいなものだ。軍が目を付けたのもそこだ。放射能の中で活動できる兵士を作るつもりだったのかもしれない」

 博士はお茶をすすり、話を続ける。

「我々が入院した隔離病院での犠牲者は248人。公にされていないが、それ以外に軍の施設内で彼から感染した5人(うち2人の女性は彼と肉体関係があり、残り3人は彼女達からの感染)と被曝した417人が死亡した。PD13の詳細が分かっていなかった当時、それらは彼の仕業とされた。テロリストとして彼は軍を追われ、逃亡の末にいつしか傭兵になっていた。顔を変えサイボーグ化し、“死神”と呼ばれる伝説の兵士となった。戦争の中で彼は変わった。6年前彼は<ヘヴン教>に入り、たった6年で今の地位に登りつめた」

「蚊でも感染(うつ)るし、性行為でも感染(うつ)るか。やだねえ」グレイはお手上げのポーズをとる。

「飛沫感染しないだけましだ。PD13のワクチンはどうなのです?」啓作が尋ねる。

「私は友人の医師の協力を得て、自分の血液からPD13の抗体を抽出・精製し、今回の旅の助手達に接種した。我々がアスク星に到着して7日、感染の見られた者はいなかった」

「まだあるの?ワクチン」ヨキが心配そうに訊く。

「ある」

 一同に笑みが浮かぶ。啓作だけは堅い表情のまま。ワクチンだと予防はできるが、感染者を治せない。その啓作が尋ねる。

「ヘンリー博士。あなたはPD13に感染しながら、なぜ発病しなかったか?わかりますか?」

「船医の弓月先生に聞いた事がある。先生は『私が風邪をひいていたから。厳密には風邪ではなく“何とか病”というらしいが・・そのウィルスがPD13を駆逐したのでは?』とおっしゃっていた。・・そうだ。流艦長の娘さんに礼を言わなければならなかった。私に風邪をうつしたのは彼女だから」

 ヘンリー博士はアスク星に出発する前に流家を訪ねていた。その時に風邪をひいた美理と接触した。メモリーアナライザーで見た事と合致する。

「あ」

 ある事を思い出した啓作は、アスク星で拾った博士の献立帳いや手帳を博士に返す。

 博士は嬉しそうに受け取る。

 次に啓作はローザにもらった資料から探検隊の写真を取り出す。

「おお」博士は懐かしそうに写真を眺める。

 その写真を見て、啓作にひとつの考えが浮かんだ。

「確かにただの風邪じゃなかったのかも・・」

「そうだ。博士、助手のボルン君は無事です」ヨキが嬉しそうに言う。

「ボルン?誰の事だ?」 

「!?」

 医務室のドアが開き、美理が入って来る。 

「ボルン君。遅くなってごめんね、おなかすいたでしょ。ご飯・・」 

 ガシャーン。食器が落ちる。  


 狭い通路を明が走る。啓作が続く。

 バーン。医務室のドアを開け放つ。

 彼らが見たものは、両手を上げて怯える美理と彼女の首すじに刀を突きつけているボルンの姿だった。

 遅れてボッケンが飛び込んで来る。(コクピットには麗子とシャーロットが残っている)

「ボルン!」声を荒げて叫ぶ。

「王子・・すみません。動かないでください。動くと・・この娘を殺しますよ」

 ボッケンのくわえた刀から左右に刃が伸びる。狭い船内に合わせて、いつもより短い。

「王子に憧れ宇宙に出たボクは騙されて傭兵にされ、戦場へ駆り出された。その地獄の中でボクはあの方に出会った」

「あの方?」

「ゼーラか」明が言う。

 ボルンがうなずく。

「戦争の極限状態で洗脳されたって事か!」

 ボッケンが叫ぶ。怒りで我を忘れている。

「王子の強さは知っています。でも戦場を生き延びたボクにはかなわない」

「なにを!」

 ふたりのシェプーラが動く。


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