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神の声⑤

 ボルンの意識が戻った。

 <フロンティア号>医務室では、啓作がシャーロットの右手の治療をしながら、ボルンから話を聞く。シャーロットの右手には修復機能のある包帯が巻かれている。

「連中は<神の声>と名乗り、仲間を皆殺しにしました。たった四人で。殺戮を楽しんでいるようでした。ボクは立ち向かったのですが、足を斬られ・・」

「今は応急処置しかできないが、足はクローン移植で何とかなる」

「今から考えると、ボクはわざと生かされていたと思います」

「瀕死の重傷だったのよ。もう少し遅ければ死んでいた」

「王子に憧れて宇宙に出たボクは、運良くヘンリー博士に出会えたけど、中にはその戦闘能力を買われて、傭兵にされた者もいます」

「そんな・・」ボッケンが聞いたらひどく傷つくだろう。

「傭兵か・・そう言えば俺たちを襲った連中はプロだった。ヘンリー博士がどうなったのか分かるか?」

「彼らは言っていました。『<ノア>にお連れする』と」

「ノア?」

 啓作とシャーロットは顔を見合わせる。

「あれの事?旧約聖書の・・方舟の人?」


「脱いで!」

 明にそう言われた麗子は状況が分からず困惑する。

 パッカ~ン。明はテレポートで現れたボッケンに殴られる。

「見損なったぞ!兄き」

「傷口を消毒するだけだよ」頭を抱えながら明が弁明する。

 謝るボッケンの隣でヨキが言う。「早くしろ。時間が無い」

 ヨキの腰の目覚まし時計が鳴る。「ほらみろ。ESPが時間切れだ」

「お前ら何しに来たんだよ」

「合流した方がいいと思ったんだよ」

「消毒くらい自分で出来ます、向こうを向いていてください」

 麗子はスペーススーツの下半分を脱ぐ。怪物のトゲはスーツを貫通していた。白い脚に血がにじんでいた。

「あ」消毒液が沁みて声が出ちゃった。

 見たい。でもボッケンに阻まれて、明とヨキは覗けない。

「くそー」明が何気なく見上げた先にあったものは・・

「!!!」思いもよらぬものだった。

 それは見覚えのある球状の物体だった。

「“恐怖の大王”!」

 500年以上前に見た謎の球体。地球に大変動をもたらし、明の運命を変えた球体。

 違うのはその大きさだ。大王が300m程だったのに対し、それは500mを優に超えていた。

「何ですか?あれ。大きな球根みたい」処置を終えた麗子がたずねる。

 そう、まさに球根だ。球体の下からは根のような物が地面まで伸びていた。

 そしてそれは焼け焦げて干からびていた。


 上空から見ると、その球体は直径25kmに及ぶ巨大クレーターのほぼ中央にある。

 宇宙から飛来した球体はアスク星の厚さ2kmの地殻を貫き、5km下の地下砂漠に落下した。地球の様な大変動が生じた事は容易に想像できる、その後、星全体を襲った別の何かにより球体を含め星の生物はほぼ絶滅したと考えられる。

 ヨキが拾った棒で根をツンツンする。

 何の動きもない。やはり球体は死んでいるのか。

「生物なのか、それすら分かんねーや」

 宇宙生物に詳しい元ベムハンターのヨキでも知らない物体。

「食えそうにねーな」マーチンはマイペース。

「組織は採取した。引き上げるぞ」

 地下の砂漠で、ヨキは砂上をアメンボの様に移動する虫(体長50㎝)とダンゴムシそっくりの虫(体長3m)を発見していた。災厄で地上の生物は絶滅したが、地下にはもっと生物が生き残っているかもしれない。麗子を襲った巨大アリジゴクとアメンボもどきからPD13が検出された。

 麗子を診察した啓作の表情は険しい。詳しく検査してみないと分からないが、PD13に感染している可能性を否定できないからだ。

「・・・」

 美理は麗子にどう声をかけていいか分からなかった。

 麗子は明の言葉を思い出していた。

『美理は俺の過去の世界の好きだった娘にそっくりなんだ。俺は美理を通して彼女を見てしまう。俺には美理を愛する資格は無い』

 明が美理をどう思っているのかを伝えるべきか?麗子は悩んだ末、

「男の人と外泊しちゃった」言えなかった。「でも何もなかったからね」

「そんなの分かっている」美理が心配なのは麗子の身体だ。

「わたし好きな人がいるから」

 それも知っている。名前を聞いていないが分かっている。

「ごめんなさい。私がバイトに誘ったばかりに・・」

「私が自分で決めたんだよ。助っ人の陸上部の大会出れなかったのは悪かったと思うけど。(あなたの好きな人のこと知りたかったのよ。ピンニョちゃんにボロクソに言われて、その男に騙されているんじゃないかって思って・・でも違った。いい人だった。いい人すぎた)気にしないで」

「でも、でも・・」

 美理は泣きじゃくる。どっちが励まされているか分からない。

 一方、明とボッケンは入浴中。明はにやけていた。

「麗子ちゃんの入ったお湯♡」(麗子は怪我しているので湯舟には入っていない)

 色々と思い出す。反重力サーフボードでの降下、ピラミッドでの会話、回想では脳内転換されて麗子はスペーススーツではなくセーラー服姿だ♡。(女性の服のボキャブラが乏しい)

「がんばったよな、あの娘・・確かこの辺に胸の感触が・・」ぐきっ。

 麗子に「明さん。美理のこと、どう思っているんですか?」そう聞かれて・・

「何で正直に答えちまったんだろ?」

 明は頭まで湯舟につかる。ぶわーっと浮上する。

「・・あの真剣な眼差しのせいだ。・・待てよ、あの時もあの時もチャンスだったのに~」ちょっと後悔していた。

 ボッケンは黙ったまま。明が“目”は出しても“手”は出さない事を判っている。

(あれれ?さっき殴ってなかったか?)


 <フロンティア号>は反重力航行で地下空間に静止している。

 その目前にはあの球体がある。夜が明けて、ようやく地下にも陽の光が差し込んできている。

 風呂から上がった明とボッケンはコクピットに。補修作業中のマーチン以外のメンバーがすでに席に着いている。

「発進準備完了」

「くわしく調べたいが、俺たちには時間がない」啓作が明を見る。

「とにかくこの星を出て、博士が連れ去られた<ノア>を探そう」明も分かっていた。

「あれをどうするか、明、お前が決めろ」

「俺は・・」明はしばらく考えて「・・ぶちのめしたい!」

 啓作はうなずき、「プロトン砲発射用意!」

「了解」

 副戦闘席のヨキがスイッチを入れる。軽い機械のうねり。

「明、お前が撃て」

 ヨキは明と席を代わる。

 ターゲットスコープいっぱいに“大王”が映る。

「撃・・」

 その時だった。球体が燃え上がった。

「!?」

「星の温度が異常上昇!」

 それは<ノア>による攻撃だった。



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