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香り

作者: HAL model

匂いって強烈に脳に直接届きますよね。

好きな匂い嫌いな匂い すごくハッキリと分かれてる。

また記憶と匂いは密接に関わっていて

素敵な思い出とその時の匂いは密接に結びついてる。

いい匂いに囲まれて過ごしたいです。

くんくん


いい香り


この匂い好き。


すごく 元気な感じがする

日向の匂い

ぽかぽかする。






毎朝同じ黄色い電車

座りたいからこの駅始発の各駅停車に乗る。



シャンプーのいい匂い

おじさんの整髪料の臭い

汗の臭いに

くたびれたスーツの臭い

キリっとした香水の匂い

部活の道具の入ったスポーツバッグから

漂う恐ろしい臭い


車内はむせ返るような色んな匂いがする。




私は子供の頃から鼻が悪くて

学校にも箱ティッシュを持参していた。


それこそ一年中 お鼻を垂らしては

ズルズルしまくっていた。


今思えば 当時は「臭い」が殆ど分からなくて

トイレの強烈な臭いとか

芳香剤の匂いとか

私の嗅覚はそういった 強い臭いしか感知することが出来ず 臭いにとても鈍感な時間を過ごしていた。


高校生の時にバイトした飲食店では

みんなが嫌がる生ゴミのポリバケツをゴシゴシ洗う係をやらされたいた。多分皆が感じるよりも私の鼻は悪臭も感じる事が出来ない為 他のバイト君よりもダメージは少なかったと思う。それでも嫌だったけど。


高校を卒業して 私はお花屋さんに就職した。


かわいいでしょ。


家から少し離れた街。電車で通勤するの。


オシャレなお花屋さんで

色取り取りのお花に囲まれながら

私にはお花の匂いが全くわからなかった。


只でさえ鼻がズルズルなのに お花の為に夏は冷房、冬は暖房を入れない冷え切った店内で 私は鼻を垂らして働いていた。


それが一変したのは

通勤途中の大学病院に通いだしてから。


そもそもアレルギー体質で鼻が悪くて花粉症の私が

お花屋さんで働いているのも

なんともオカシナ職業選択なのだけれど


花粉って花の粉だよね それがダメなら

お花屋さんに就職するなって話なんだけどさ



その年は とにかく花粉症が酷くて、

藁をもすがる思いで大学病院の耳鼻科に飛び込んだ


私より当然年上なんだろうけど

同い年くらい と言っても通じるくらいの女医の先生。


ニコニコと笑って 鼻の奥の奥の奥に綿棒みたいなやつをブスッと突っ込んでくる。ぎええええええ。


ドS女医だよ このセンセイ。


あとは注射して 吸入して お薬だしてもらっておしまい。



半年も通った頃から 私の症状は劇的に改善した。


ほぼ一年中 鼻水と鼻詰まりに苦しみ、

臭いはおろか 呼吸さえもままならない私の鼻

症状が悪化して鼻呼吸が出来ない時は 脳に酸素が足りなくてクラクラ、まあ酷いものだったのに。


それが

普通に鼻が通るの。


両方の鼻が 普通に呼吸が出来て

鼻をかむ事も 1/100 くらいに減って

箱ティッシュを持ち歩く事も必要無くなった。


何より両方の鼻から呼吸できるってすごい!


ありがとうドSの先生。あの綿棒めちゃくちゃ痛かったけどスーパードクターだったのね。





私の生活は激変した。


今まで20余年 認識する事の無かった「匂い」という情報が一気に私の中に流れ込んできた。


今までは すごくクサイとか 甘い匂い とか

ものすごく大雑把な認識しか出来なかったのに

とっても繊細な匂いまで ありとあらゆる匂いがこの世界には存在する、それが分かった。


今までずっと 白黒のモノクロの写真だったのに

急に天然色の4Kの映像に変わった感じ。


アタマが追いつかないよー。



一年中鼻をブーブーかみすぎて

メイクの取れた鼻を晒す事も無く

花粉でやられて涙でマスカラが落ちる事もなくなり

私はキリッとしたお姉さんになった。

メイクが崩れないってすごい。

ありがとうドSの先生。



職場の花たち 強烈な自己主張の薔薇

私の美しさをご覧なさい ひれ伏しなさいって香り。

ガーベラも カーネーションも カスミソウもそれぞれ

その子たちの香りがする。

カスミソウにはびっくりしたけど。



花達だけじゃない。


朝の電車の臭い。

日向に干したお布団の匂い

柔軟剤の匂い

バランスよく作られた香水達の香り

脳の奥の何かを直接、刺激してくるみたい。

すごく甘美で誘惑に満ちてる。


こんなに情報が溢れてるなんて 私、知らなかった。


モノクロだった 私の脳内の匂いフォルダの中は

極彩色のカラフルな情報で満たされた。


すごく好きな香り

苦手な香り

好きな匂い

嫌いな匂い



空気中に漂う 花達の匂い。

それらを目で見る事が出来るかのように

1つ1つの匂いを私は認識してた。



母の日

沢山の人がカーネーションを買いにくる。


ツヤツヤの髪をした幼稚園くらいの女の子

お母さんに カーネーションを買っていった。


この子は カーネーションよりもいい匂いがした。

優しい日向の匂い。



高校生の男の子がプレゼントに、

と花束を買っていく。

ドキドキする匂い

汗と鼓動と 男の子向けのコロンの香り それとこの男の子自身の持つ匂いが混じって彼の匂いを作ってる。

青春の香りだ 私はそう思った。


私はいきなり視界の開けた この匂いの世界にすっかり魅了された。


匂いが分かるようになると 食べ物の味も激変した。


私の知らなかった こんなにも複雑で繊細な味が

お口の中で爆発して広がっていくようだった。


食べる前に漂う料理の香り

それを口に運んで鼻との距離が近くなる。

食材と調味料と火を通した香ばしい香り

お料理を口の中に入れて噛み砕く

食材が口の中で砕かれて

外から嗅いでいた匂いとは違う

香りと味が口の中に広がる。


料理を飲み込んで私のお腹の中に収まった料理達。

私に取り込まれた 空気中に残る食材や料理の残り香

それら匂いの全てが 目に見える映像のように

私の頭に響いてくる。


私は匂いの虜になった。



男の人は 年齢とともに嫌な匂いが増していく

逆に女の人は

年齢とともにいい匂いが減っていくのがわかった。




知り合った男の子は 好きになるかどうなのか

匂いが最重要項目になった。


どんなにいい男でも

優しくても

お金持ちでも

匂いが合わないと ぜんぜん無理だった。



この人はとてもいいひとだけど

匂いが 合わない

きっと普通の人にはわからない

ほんの少しの違和感

私の細胞がそう訴えている感じがした。


仲良くなった男の子も その日の体調や

気持ちで匂いが変わるのが分かるようになった


真剣に口説いてくる男の子

真剣な匂いがする。


優しそうなイケメンは とっても耳障りのいい言葉でセクシーな声で誘ってくる、でもなんだか本当の匂いがしなかった。


私はそれを 「嘘の匂い」と呼んで警戒した。


ってそんな ドラマのようにモテてるわけじゃないけど。





先々月くらいから お店に花を買いに来るスーツの男の子多分年下。

近くのビルの入ってる会社の社員さんかな。

素朴な匂いがする。

毎回 領収書をお願いしてくるから 取引先か、会社のロビーにでも飾るのかしら。


年下くんは 背が高くて少しドン臭そう。

でも素朴な匂いがした。



彼とキスしたら

どうなるのかしら


もしも細胞レベルでNGなら私の中にストレスホルモンが分泌されまくって拒否反応

細胞レベルでOKなら 脳内からはドーパミンがドバドバ出て ああウットリ


ほんとはこの時点で分かってる

花を買う時の彼の匂いで感じる


きっとウットリ。



それなのに



先週から 彼の匂いが変わった

ソワソワしてる匂い

なんだろう?


話しかけられても 匂いが安定してない

汗とドキドキしてる匂い

私の好きな素朴で日向の匂いと

時々 嘘の匂いもした。





で今日の夕方 年下君がお店にやって来た。





「プレゼントに花束をつくってください」


花束プレゼントきたわ

接客マニュアル通りに私は聞いた。


「プレゼントは男性ですか?女性ですか?」



「女性です」



OH NO!!!!!

女にプレゼントかよーーー!




「何歳くらいの方ですか?

どんな感じにしましょう?」


私は絶望的な気分で聞いていた。




「20代です 可愛らしい感じでお願いします」


年下君のドキドキする匂いが伝わってきた。


めっちゃドキドキしてるじゃん年下君!!


ちくしょーーー!!


昨日まであんなに お気に入りだった私の嗅覚が

途端に憎くて堪らなくなった。


ちくしょう 。

今夜泣いて布団をジタバタ蹴って眠る

自分の姿が頭に浮かぶ。







そこから

自分がどう受け答えして

どんな花束を作ったのか

まったく覚えてない。



なんだよ いい感じだと勝手に思ってたのに

1万2000円の花束ってどんないい女に渡すんだよ。


その時の私は相当嫌な臭いを

撒き散らしていたに違いない。



鼻がグズグズしてブーブー鼻をかんだ。



ちくしょう 鼻テカテカだよきっと!


年下君は ドキドキした匂いのまま

帰っていったに違いない。


その時には全然匂いがわからないくらい

私は混乱していた。





閉店までの間呆然とした横棒だけで描かれた

顔文字みたいな顔で私は過ごした。


恋が終わったぜ


いや始まっても無かったけどさ⋯⋯



今日の遅番は私1人

閉店時間の19時になってお店を閉め

ウォーキングデッドのような歩調で駅へ歩き始める。


ああほんとゾンビだわ私。


顔を上げると

年下君が街灯の下に居た

1万2000円の花束を持ってる。




ちくしょーーーー!

これからデートかよ告白かよ

イチャイチャすんのかよーー!

1万2000円の女かよー!



年下君がこっち見た。

走ってこっちに来たよ。


目の前で年下君は止まった

なんの匂いがしてるのか全然分からない。



目が合った


「あの、今日誕生日だって 言ってましたよね」




⋯⋯ え?



⋯⋯ わ



⋯⋯ 私?



年下君は 1万2000円の花束を私に差し出した。




一気に色んな匂いが頭の中に拡がっていく

ああ 日向の匂いと素朴な匂い

それに1万2000円の花達の匂い



ちくしょう

私鼻テカテカだよきっと。



くんくん


いい香り


年下君の匂い好き。


すごく 元気な感じがする

日向の匂い

ぽかぽかする。


どうしよう

こんな強烈な香り。


顔があげられないよ。






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― 新着の感想 ―
[一言] 私も匂いフェチなので、分かる分かるー!と思いきり共感してしまいました。 「匂い」というキーワードから、キュンとくる恋愛へと展開していくお話、興味深かったです。 大好きだった匂いが突然苦手…
[一言] あれ? 臭いフェチの話のハズなのに納得が出来てしまった( ̄□ ̄;) 作中のグッドスメル青年、よく意中の人の店で花を買えたな( ̄□ ̄;) 色々な驚きと共に、あまり匂った事のない作風を楽しめ…
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