6 学園長室
「ひいいぃぃぃいやぁぁぁぁぁっ!!」
「うーふーふーふーふー。シャルアさん待ってくださいよー」
放課後の廊下に二つの足音が響き渡る。
帰りの挨拶が終わり、それぞれのクラスから生徒がまばらに歩いてくる中、その生徒達を縫うように全力で駆けるシャルアとそれを追う私がいた。
「廊下ははしっちゃーだーめーでーすーよー。ふふふふふー」
「ひいぃぃぃぃぃぃ!?」
シャルアの全力疾走も、強化された脚力を持つ私には6、7分の程度でしかない。足の長さの違いもあるが、笑顔のまま易々(やすやす)と追いかけられるというのは、どんな気持ちだろうか。
「ぎゃああああぁぁぁ!!」
何事かと驚く生徒達を避け、シャルアが廊下の曲がり角を曲がろうとスピードを落としたその時、横合いから手を伸ばして彼女の腰にしがみついた者がいる。
ツェツィアだ。
ツェツィアはシャルアの腰にひっしと取り付き、彼女の逃亡を阻止していた。
「ありがとうございますツェツィアさん。作戦通りです。さてー、ではシャルアさん、ではではシャルアさん、さきほどの私の質問に、答えていただけますよね?」
ニッコリと、菩薩のような笑顔でそう聞くと、シャルアは首をブンブン左右に振りながら答えた。
「ちがうっちがうのっ、うらぎったんじゃない!うらぎったんじゃないから!あれはしかたなかったのよ!」
「はーん(理解)」
「ひいぃぃぃぃぃっ」
涙目でガタガタ震えるシャルアのわき腹に手を伸ばす。これから息が途切れるまで罰を与える―――という所で、横合いから誰かに名前を呼ばれた。
「あのう、ティアリアリスさん、・・・いいですか?」
同じクラスの女子だ。私はそちらを振り返り、返事をする。
「どうしました?」
「学園長が呼んでいるそうなので、学園長室へ来てくださいって伝えるように言われました」
「・・・・・・わかりました。ありがとうございます」
その子はペコリとうなずいた後、タスケテ・・・タスケテとつぶやきながら手を伸ばすシャルアから顔を背け、廊下を急ぎ足で戻っていった。
「さーて、では――」「まって!まってちょうだい!」
「何ですか?」
「ごめんなさい。もう二度としないのでゆるしてください」
シャルアは謝罪をした。実に殊勝な態度で謝罪をした。廊下に膝をつき、指を組んで泣きそうな目で私を見上げ、哀願する子猫のように謝罪をしたのだ。
とはいえ、私も呼び出しがあるのでどのみちこの辺りが終わらせ時だったろう。
「・・・・・・私はシャルアさんを友達だと思っています。まだ出会ってから日が浅いとはいえ、私達は 同じ部屋で少なくない時間を供にすごし、話をしてきました。だから、たとえどうしようもない理由であっても、私のことを人に話すというのは裏切られた気持ちになります。・・・もし今度、同じようなことがあるのなら、私に話してください。相手に話すより先に。どうしてもと言うのなら後でもいいです。内緒にだけは、しないでください」
私のお願いに、シャルアはコクリとうなずく。
「わかったわ・・・ほんとうに、ごめんなさい」
約束です、という私の言葉に、シャルアも約束するわ、と返してくれた。
今までずっとシャルアの腰に抱きついていたツェツィアも混ぜて、みんなで友達の約束をしたのだった。
学園長室は学園校舎内ではなく、魔術院の中にある。
魔術院とは、ほぼ病院のことだと思っていい。治癒魔術以外の研究もしているが、学園の門とは別の門から外来の患者を受け入れ、患者それぞれのために方陣を組み、治療する。
完治がむずかしい病気などは、くっついて建てられている治癒病棟に入れられる。ヴェルクリットさんやサフィロ王子もここである。
校舎から100メートルほど歩き、魔術院の裏口から中に入る。この裏口にも兵士が立っていて、出入りする人間を確認している。だがここは看護の補助をする中等部の生徒も使うので、基本的に学園の制服を着ていれば簡単な確認だけですむのだ。
入ると少し匂いがかわったのがわかる。あちらの病院ほどの匂いではないが、こちらも清潔に保つために塩素系を置いていたりするのだろうか。
近くの階段を登り3階にある、少し重そうな扉の前にたつ。深呼吸をしたあと、その扉をノックした。
「お入りなさい」
そう言われ、扉を開けて学園長室に入る。
「失礼します」
中は重そうなテーブルとソファー、そして高そうな机のところに学園長が、そしてソファーの横、座らないで立っている男性が一人いる。
「来たわね。ティアリアリスさん、どうかしら?学園にはなれたかしら?」
聞いてきたのは学園長である。学園長は髪の白ばんだ初老の女性である。スーツに似たキチッとした服装をしているが、その肩に短めの魔術師用のローブをかけている。会ったのは今日で2回目だ。入学初日に一度だけ挨拶したことがある。
私達があたりさわりのない会話を交わした後、学園長がさて、と話を切り替えた。
「さて、ティアリアリスさん、実はね、そちらに立っていらっしゃるのは冒険者ギルドのギルド長、ディロイセル=イザナさんです。今日はあなたのことで来てもらったの。うちの生徒にはちょっと灰汁が強いかもしれないけれど、怖い人ではないから安心してね」
「それは大丈夫ですけど、・・・私のことでですか?」
何だろう、というより、どれだろう、といった感じだが。紹介されたディロイセルさんが一歩前にでる。この人は40台くらいのあごひげの生えた男性だ。背が高いうえに筋肉がすごく、きっと冒険者として腕をあげてきたのだろうと思えた。
そのディロイセルが自分のあごひげをじょりじょりなでながら、私のことを値踏みする。身長差もあり、なんとも居心地の悪い視線を投げてくるものだ。学園のフワフワした娘達だったら泣き出してしまうのではないだろうか。
「・・・おう。おれがディロイセル=イザナだ。おめえさんがイメリア殿の言う特殊な生徒か。おれはそのおめえの特殊な能力を確認に来たんだ」
特殊な能力の確認とな。
「ティアリアリスです。・・・お伺いしますが、私のどの能力のことでしょうか?」
「あん?おい、イメリア殿よぉ、”どの”能力ってどういうことだい?」
ディロイセルが学園長の方をねめつける。イメリアとは学園長の名前らしい。
「あらあら、私にもわかりませんねえ。オリビア先生からはティアリアリスさんに色違いの方陣の組み込まれた3重円の魔術を見せられた事と、ティアリアリスさんが望めば習っていなくてもほとんどの魔術が使えるらしい事しか聞いていませんわ」
「おい、おめえ、この話どうなんだ?」
「ほとんどの『治癒魔術』です。他はさっぱりで、2色の方陣も治癒魔術を元にした時にしか出ませんでしたから」
ディロイセルがはああ、と大きなため息をつき、難しい顔をする。
「・・・そんで?、他にも何かあるんだな?」
「ええ、まぁいろいろと・・・自己治癒とか毒耐性とか・・・」
そう言うとディロイセルは頭をかきながら私のむかいのソファーにどかりと腰を下ろす。
「チッ、なぁイメリア殿。この娘っこはこっちであずかった方がいいんじゃねえかなぁ。”学園”って枠を飛び出してやしないかね」
「ちょっと、なんでそうなるんですか?私は学園から出て行く気はないですよ」
私が声を張り上げて抗議すると、ディロイセルが だっておめえ、面白そうなんだもん。と言った。
面白そうって・・・もんって。
まさかそんな理由で私を学園から追い出しやしないだろう、と学園長を振り仰ぐ。
「大丈夫ですよ、ティアリアリスさん。学園は生徒の意志を尊重しますからね。ディロイセルさん、最初の話に戻りましょう。このこが”魔術師”かどうかということです。それにかかわらない能力は今は横に置いておきましょうね」
「あー・・・んぬー。もったいねぇ・・・わかりましたよ。じゃあ能力の裁定しちまいますか」
「ええと・・・あのう、どういうことか説明してもらってもいいですか?」
追い出されないらしいのは良かったのだが、魔術師かどうかとはどういうことだろうか。
「説明してやるよ。おめえさん、方陣を組んだわけじゃなくて、思い描いた方陣が勝手に書けるんだよな?」
「・・・そうです」
「ならおめえは”魔術師”じゃなく、”特殊能力者”ってことになるかもしんねえ」
確かに、この能力のことを考えれば、魔術がつかえる特殊な能力を持った人間、というのがしっくりくる。ただ、なんとなく自分は魔術師なんだ、魔術師になってやっていくんだ、と思っていただけに、ちょっとショックを受けてしまっていたが。
「そんでな、この学園は魔術を教えてるんだが、おめえはこのままだと、魔術を学んでいるとは言えないことになるんだ」
「はい?」
「だって、勝手に魔術ができちまうんなら、学ぶ必要は一切なくなんだろ?。でもな、ここで教える”魔術”ってものは系譜を紡ぐ鎖の一輪なんだ。師匠から弟子に受け継ぐように、教師から生徒へと学んだことを次の世代に受け継ぐためのな。でもおめえは学んでない。だから次に受け継げねえ。そうなると、学園としちゃあおめえに魔術の修得をした、っていう判子が押せなくなる。押しちまったらおめえはこの学園の系譜の一部だってことになるからな。そんなウソはつけねえ。もしおめえが外で3重の魔術を使って系譜はどこですか?学園です、なんてことになってみろ。この学園で3重の魔術が教われるってことになっちまう。誰がそんなもん教えられるんだよ。系譜の確かさが揺らいじまう。てことで、このままだとおめえは『魔術師』として卒業できないんだわ」
ええと?
今なんと言いましたか。
私は理解が瓦解していた
卒業が できない?
「もっかい言うか?」
お願いします、とうなづいて、さっきと同じ説明をもう少し噛み砕いて説明された。
・・・・・・私は、
私は魔術師ではない。
「私は魔術師ではないのですね・・・・・・」
先ほどは頭でわかっていた、しかし今度はもっとはっきりと、深いところで理解したのだ。魔術を使えても、それは魔術師ではない。”師”とは教え、教われる者を持つ先生に与えられる敬称なのだ。たとえ生徒を持っていなくとも、教えることができるという保障を示すものなのだ。
「そうだな。それを確かめるために、こういうもんがある」
呆然とする私の前に、ディロイセルはごとんと形の悪い、大きな魔玉を置いた。
「冒険者ギルドの扱う重要魔術具、『カロ試石』だ。この石は特殊能力に反応してその有無を教えてくれる。いわゆる特殊能力者判別道具だな」
はぁ、そうですか、と気のない返事をしてしまう。
なんかもう、お先真っ暗な気分である。
「ほれ、落ち込んでねーで手をあてろ」
無理やり腕をつかまれ、その試石へと手を当てさせられる。それだけでは石に変化がおこらず、どうやらマナ量を調べたときのように、えーい、と意識を込めないといけないらしい。
「では・・・えーい」
「いや、いらんけどな」
辱められた気分だ。
「・・・・・・わかりますか?」
「・・・・・・、・・・・・・おめえ・・・どうなってんだ?。ちょっとイメリア殿、これどうなんだ?」
呼ばれた学園長もやってきて、私の触れる試石を覗き込む。
「あらあら何もないじゃない。じゃあティアリアリスさんは特殊能力者ではないということですわね」
そうだったのか。
「んなわけないだろう」
「でもディロイセルさん、このカロ試石は反応してないんですから、そういうことになりますわよ」
「・・・・・・!」
ディロイセルが自分のひげをもしゃもしゃしながら難しい顔をしていた。
「あー・・・!ぬー!、くそう、そうなるのか?じゃあ何なんだ?おめえ、本当は3重の魔術なんて使えないんじゃねえのか」
鼻息荒く、私にそう聞いてくる。
「ええ?じゃあやってみせますけど・・・」
私は集中し、呪文を唱える。
3つ。
あの時と同じように 緑の回復の方陣 緑の倍増の方陣 黄色の倍増の方陣 が展開された。
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・あらあら・・・」
「こんな感じですけど」
そう言って魔術を閉じる。
ディロイセルはソファーに座ったまま、何か深く考えているようだった。変わりに学園長が私の隣りに腰掛けてきた。
「ティアリアリスさん、3重円の方陣なんて初めて見ましたわ。魔術を修める者として、こんな機会があるなんて・・・ありがとう」
「い、いえ、それほどのことは・・・」
「3重円の方陣はね、古い文書にしか記載がないものなの。本当に、極一部の修得者のみが行なえたらしいもので、今では誰も伝えられる者がいない魔術だわ」
そうして私の手を両手でつかみ、再びありがとう、と言った。
「では、今後のことを話しましょう。ティアリアリスさん、中等部へは魔術科を志望するのですよね?」
「は、はい。魔術科です」
学園長はよろしいと返事する。
「試験に通ったなら、魔術科への進級を認めましょう。今の進級試験のルールに照らせば、あなたの能力はルールに叶っています。今後、同じような生徒への対応は変わるかもしれませんが、少なくとも、今年度中はルールの変更はされません。そして次に、中等部の習熟度ですが、このままでは実技が可。講義が不可になります。ですが実技は魔術の習熟を量るものでもありますから、もうしわけないですが、これも不可とさせてもらうことになります」
中等部では、魔術系が全滅――。
「あなたは上学部への進級を志望でしたわね」
「はい」
「上学部へは最低8種類の科目の可が必要となります。――そして、学科に進んだものはその科のすべての授業で可を受けなくてはなりません。実技、講義、選択1種。この3つですが、このままではすべて落すことになります」
「・・・・・・」
「もし、上学部への進級を望むのであれば・・・」
「はい。わかっています」
それ以上は言わずもがな、必要なことはわかっていた。ただそれは、他の生徒より後れている自分が、さらに難しい上のクラスに入り、ついて行かねばならないという相当に難しいことになるのだが、
――今から魔術を修める
それが、私が上学部に進学するための方策だった。
まぁ、一般科を受けて一般科で上学部に進むとかの路もあるのだろうけども。
私は人を救いたいのだ。
命を救いたいのだ。
そのために魔術がいるのだと言うのなら、やってやろう。
私はこの世界で、治癒魔術師になってやる。
学園長室を退出し、階段を下りている途中、1階と2階の踊り場で上から声をかけられた。
「おおい、娘っこ、あぁと、てぃなんとか!」
バタバタという足音と供に、ディロイセルがおりてきた。
「ティアリアリスです。何か用ですか?」
「おう、何だ、機嫌が悪そうじゃねえか」
「別に、そういうわけではないですけど・・・」
言葉にトゲが出ていたのを指摘されてしまった。
名前を覚えられてないせいもあるが、学園長室でいろいろあり、少し心に余裕がなかったようだ。咳を一つついて気分を変える。
「すいません。それで、さきほどの続きですか?」
「まぁ、そんな感じなんだが、おめえよ、冒険者にならねえか?」
冒険者。確か依頼を受け金銭をもらう、フリーランスの荒事業者のような職業だ。この世界に来た頃、私が良く知らずに名乗っていた職業でもある。
「・・・・・・冒険者ですか?」
「そうだ。冒険者は資格さえ持ってりゃ後はなんもわずらわしい事は言われねぇ。自分の腕っ節がモノを言う、実力主義の世界だ。特におめえさんみたいな戦いに使える特殊な能力を持った奴にはうってつけの場所だと思うぜ」
確かに私の特異性はルール無用な場所のほうが扱いやすいと思う。
もし、冒険者でも治療できる場所、人間に制限がかからないのであれば、私は冒険者になっていたのだろうと思う。
だがそうではない。魔術院のような場所があり、そこに病人が集まり、院の魔術師が治療をする。そこには冒険者では決して立ち入れない領分が存在するのだ。
「お誘いはありがたいのですが・・・」
私が断りを入れようとすると、まてまて、とディロイセルに遮られた。
「いや、今すぐにってことじゃねえ。おめえが上学部をあきらめたときでもかまわねえ。それにな、中等部では取りたい生徒は冒険者資格を取っていいんだ。しかも冒険者として実績を積めばいくつかの実技授業で成績に加点がされるんだぜ。実際うちのギルドにこの学園の生徒が依頼を受けにきてるからな。騎士科の生徒が多いが、魔術科の生徒もやってくる。魔術師か冒険者か、じゃなくて、両方ためしてみりゃいいんだ。なんなら魔術院で仕事しながら冒険者やっちまったっていいんだぜ」
ディロイセルは、それができるのが冒険者の楽なところだ、と言った。
「おめえさん、今は考えることが多いからなんとも言えねえだろう。だから頭の片隅に入れといてくれりゃあいい。いつか必要になったときは歓迎するぜ。そんときゃお友達もつれてきてくれりゃなおありがてえ」
だからよろしくな、と肩をたたかれた。
「・・・・・・心に、留めておきます」
時は少しもどる。
ティアリアリスが退室して、学園長室にはイメリアとディロイセルが残されていた。
それまで生返事しかしなかったディロイセルが、ようやくその口を開いた。
「なぁ、イメリア殿、あの娘は”何”だ?」
「うちの新しい学生ですよ」
「ありゃ、本当に人か?、人間に良く似た魔物――いや、魔人なんじゃねえのか?」
「・・・ディロイセルさん、王都の守護はわかっていますよね」
「そりゃ、わかっているけどよ」
王都にはその城壁に魔を退ける魔術が付与された魔玉が、門には魔に反応する魔術が付与された魔玉がそれぞれ配置されている。
なので、もしティアリアリスが魔にかかわる者であるなら、城壁に近づいただけで体調を崩し、門を通ろうとすればいくつもの魔玉が警報を鳴らしただろう。
「そこはほら、特殊能力を持った魔物だったりするとかあんだろ」
「あら、でもさっきカロ試石をためしたんですよね。それは特殊能力に反応する石ですから、魔物であっても例外ではないのでしょう?」
「・・・・・・そうなんだが」
苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。
”カロ試石”は特殊な能力を持った個体に触れたとき、反応を示す。この特殊な能力とは種の中で現れた突然変異種のことだ。たとえそれがネズミであっても、その種からは生まれぬはずの”何か”を持っていればそれを示すように試石に光がともるのである。
「なら――ならやっぱり、あの娘っこはおかしい。試石が反応しないってのなら、あいつはあれが正しい形として生まれた存在だってことになる。人間に似ているが、人間じゃねえ”何か”だぞ」
ディロイセルはそう結論づける。しかしイメリアはそれに何も答えなかった。
「・・・・・・まぁ、おれがそう思うってだけのことだがね。そんじゃ、おれもお暇しようかな」
「あら、もうちょっとゆっくりしていてもいいのに」
「この後ちょっとスカウトに行かにゃならんのですわ」
いたずらっこのようにニヤリと笑い、ソファーから立ち上がる。
「そう。じゃあまたいつでも寄ってらっしゃいな」
おう、と返事をし、退出の挨拶もおざなりにディロイセルは学園長室を後にした。
一人残された学園長は自分のイスに深くもたれかかり、目をつぶる。
「彼女はこの学園に来るべくして来たのですね・・・」
誰にともなく、そうつぶやいた。