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刻の終わりのナイチンゲール  作者: ツインシザー
学園
12/39

1 女学園


 バラの香りがつけられた紅茶と、黄、橙、赤に彩られた花々が飾られたテーブル。白いレース飾りがふんだんに使われたテーブルクロスの敷かれたテーブルに、各自が持ち寄った思い思いの茶菓子が所狭しと置かれ、お互いの菓子の味を楽しみながら、とりとめもない話に花が咲く。

 ミーラはそんな話に相槌をうちつつ、ティーカップを傾ける。

 あまり菓子を摘みすぎるのも、自身の体型維持には良くない。が、こうして女生徒が集まり話を咲かせるには甘いものはかかせないのだ。

 特に自分のような身分の者には、貴族同士のつながりや、そういった層の流行や話題に敏感であることは、生命線とも言える重要事項であった。


 ミーラ=イズワルド=サリア


 この国の第一王女であり、現在の第2王位継承権を持つ。

 だというのに、あきている自分がいる。

 このお茶会も、代わり映えしないお茶菓子も、人の趣向を面白おかしく批評する彼女達のさえずりにもだ。

 顔には出さないように気をつけてはいるが、隣にいる女生徒にどうかいたしました?と聞かれてしまう。

 ここにいる生徒にとってミーラは頂点であり、その意向一つで一族の趨勢すうせいが決まると言っても過言ではない。流石に大失態をしなければおちぶれるということもないが、懇意にされている、というのは大きなアドバンテージになる。なのでここにいる生徒は、ミーラの様子を察することにとても長けていらっしゃるのだ。

「ハティ、何でもありません。少し、今日の授業のことを思い出していたのです」

 ハティエラ=ロックハイドはノーザンド領の一地域を管理する、ロックハイド家の令嬢だった。雪の多い北の人間は、その過酷さからか、マナの扱いに長けた者が多く生まれる。ロックハイド家自体はそれほど名も知られていない地方領主だったが、ハティエラの持つ魔術の才のおかげで、こうして王女とテーブルを供にすることができたのだ。

「今日の魔術講義のことでしょうか?。上級魔術の3回目でしたわね」

 すかさず、他の娘がそう声をかけてくる。中央に近い、アウグスタ領のご令嬢メヌエット=アウグスタだ。

「保温、保冷、解毒、解熱の上級魔術ですね。上級ともなると、一部攻撃魔術に転用できるなどと言われて、私としては怖く感じてしまいましたわ」

 メヌエットがそういうと、ハティエラ以外の他の生徒からも同意の声が上がる。今日の授業、どれもうまくこなせたのは、この中ではハティエラだけだったからだ。

 メヌエットはハティエラが私の隣にいることを、あまり快く思っていない。表立って嫌っているわけではないが、家の格の違いから、ハティを自分より下の位置におきたいのだ。

 ハティエラにもそのことがわかるのか、困った表情で黙り込んでしまう。

「そういえばミーラ様、”緑の聖女”という話をご存知ですか?」

 メヌエットの隣りに座っている、ミモザがそう話を振ってきた。

「緑の聖女?聞いたことありませんわね。いったいどのような話ですの?」

 そう聞くと、ミモザは楽しそうに話し始める。

「何でも、最近サフィロ王子が魔物退治に騎士団をつれてサウスラン領にいかれたという話があったじゃないですか。そこでろくな準備もしてなかったせいで、次々と兵士が魔物の毒にやられてしまったんですって。そんなときに現われたのが”緑の聖女”と呼ばれる娘なんですよ」

「娘?聖女というからには名のある魔術師なのかしら?」

「いえ、私もそう聞いたのですけどね、よくわかっていないみたいでした。でもですよ、その娘がですね、毒になった兵士を次から次へと治療し始めたんだそうです。何かいっしょにいた王子も治療したらしくって、それで感激した兵士たちが、これは聖女だ、自分達を助けてくれる女神だ、ってもりあがっちゃって、今、民衆の間で話題になってるそうなんです」

「まぁ、王子様も・・・。ご無事だったんでしょうか」

 メヌエットがミモザに聞く。

「ご無事らしいですわ。良かったですよ。あの第2王子でも・・・」

 ミモザはそこまで言って、あっと声を出す。

 他の生徒から少しとがめるような視線が送られるも、強くたしなめられることはない。ここにいるみんなは、私が弟を快く思っていないのを知っているからだ。

「そう、無事だったのね。ありがとう、ミモザ。あんな弟でも、治癒魔術を習う私達としては、無事であることを何よりのことと思えますもの」

 私はそう、ミモザをフォローする。まったく心にもない言葉。

 どうせまた、民衆にこびるために騎士団をつかったのだろう。あの弟はたまに、そうした行いをする。

 王族から疎まれ、貴族から無視をされるゆえに、民衆に居場所を求める。

 そしていつもと同じく、貴族の慣習や騎士団の取り決めを無視して行なったのだろう。今頃、兄が寄せられてくる苦情の処理でてんてこ舞いのはずだ。

 あの弟は汚点でしかない。

 私が弟のことに眉根をよせている間も、ミモザたちの話は進んでいた。

「下級の解毒魔術なのですか?まさか、その程度のことで?」

「確かに中央であれば上級魔術の使い手も多くいらっしゃいますが、あちらではそうもいきませんものね。下級魔術でも重宝されるのではないでしょうか」

「下級だなんて・・・初等部の子達でもあつかえますのに・・・」

「どうも、冒険者なんだとか。民衆は自分達に近しい者が活躍する御話を好みますから」

「まぁ・・・確かに私達が行なったのでは、あたりまえのことですものね。地方の冒険者が中央から来た騎士様を助ける。そういった意外性が喜ばれているのかもしれません」

 みんなが口々に”緑の聖女”の行いを批評しはじめる。

 確かに彼女達の言う通り、ここと地方では魔術の扱われ方に差がある。

 しかし、ふと思うことがある。私の弟、サフィロ=イズワルド=サリアには、その所持悪魔のせいで毒が効かないという体質があったはずだ。

 その弟が治療された、というのはどういったことだろうか。

 私が再び眉根を寄せていると、ハティエラが声をかけてきた。

「ミーラ様、何か思うところがおありでしょうか?」

 ハティは私を良く見ている。それはメヌエットたちの話に積極的にまざっていないからなのかもしれないが。

 しかし、私が弟のことを考えていた、というのは言いたくない。あれを心配していたという風にとられるのはとても心外だった。

「えぇ・・・そのような目にあわれたのが、どの騎士団だったか考えていたのです」

「騎士団ですか?ええと・・・確か第4騎士団の・・・」

「お待ちください、第4騎士団なのですか?」

 私はミモザに確認をする。

 第4騎士団は現在、王都と王都周辺を巡回している団だ。第4騎士団には中隊が5個あり、3中隊が任務、1中隊が待機、そして残りの1中隊が休みというローテーションを取っている。

 兄の奇行が話題になったのは、確か5日前だ。巡回しているのは2,3,5。待機していたのは4。この待機組みから何人か、数日前に行なわれた乗馬の授業の随行をしていたはずである。

 ということは、弟についていったのは――。

「第1中隊、ヴェルクリット=ハイドン様の隊ではありませんか?」

「そ、そういえば、女の人が率いていたって・・・・・・あ・・・、け、怪我をなされたって、その騎士団の隊長さんが・・・!」

 辺りからざわめきが起こる。ヴェルクリット様はこの学園でも人気のお一人なのだ。

 団長以上の任についている女性騎士は3人しかいない。

 第2騎士団副団長 パーラ=リットラン様

 第4騎士団 第1中隊隊長 ヴェルクリット=ハイドン様

 第4騎士団 大3中隊隊長 アンナ=ヘセルミナ様

 女性であり、騎士であるこの方々は、同じく騎士をめざす学園の騎士科の生徒達にとって、絶大な人気をほこっている。そして騎士科以外の生徒にとっても、あこがれの対象としてよく話題になる人物だ。

 ヴェルクリット様はこの学園の卒業生であり、ときおり学園の授業の手伝いとして来校することがある、現実的にお会いできる機会の多い女性騎士である。実際に彼女が来校すると、学園のあちこちで歓声があがることがある。硬く、たくましい兵士たちの中にあっても、ヴェルクリット様だけはひと目でわかる。明るい髪と、しなやかな立ち居振る舞い。その立ち居振る舞いも騎士的でありながら、女性的であるという中性的な魅力を帯びており、彼女から向けられる熱いまなざしや、笑顔のとりこになる生徒は後をたたなかった。

 そのヴェルクリット様が怪我をされたという。

 学園の生徒であるなら誰でなくても心配してしまうことなのだ。

「ご無事なのでしょうか」

「は、はい!。死者はいないと聞いています。でも、大怪我をされて、この学園の治癒病棟に入られると聞きましたわ」

「まぁ、ヴェルクリット様がこの学園の治癒病棟に!」

「誰が看護を担当されるのかしらっ」

「もしかすると私達が割り振られるかもしれませんわね」

「そうであればどんなに素敵なことなんでしょう」

 みんな、心ここにあらずという様子で色めきたつ。

 正直、私も本当にいらっしゃるのか、確認に行きたいところだ。

 王女としてそんなはしたないこと、という思いの裏に、あの方の看護がしたいという感情がある。

 どうしましょう、と誰かが水を向けてきた。他の方々も私の返事をうかがっている。

 おそらくこの場で静めても、後で各々確認にいきそうな様子だった。

 なら、きちんと手順を踏んでこその貴族。

 私はゆっくりと椅子から立ち上り、提案をした。







 ”王都” それがここの名前だ。

 東京 とか 研究都市アマテラス とか、それっぽい名前さえない。

 東西南と、北東、北西に城門を持ち、四方の一辺約7キロメートルの城壁に囲まれた都市。町自体は城壁の外にも展開されており、城門は開け放たれて人の行き来が途切れることがない。

 王都の北区には貴族の屋敷が広がり、一番北の湖に張り出すように白い王城が建てられている。

 その湖から流れるユテ河のほとりに、いくつもの大きな建物が立っている区画がある。役所、兵舎や練兵所。魔術塔、書館などがある。そのさらに下流に、少し広めの敷地を使って学び舎が建てられている。


 聖ルイズ女学園


 女子のみに開かれた、帝国設立の学園だ。

 生徒には貴族、王族、一般市民、と多くの身分から生徒を受け入れているが、ほとんどはこの国の、身元の確かなもののみが通っている。

 その学園に、一風変わった生徒が中途入学することになった。

 出自不明・身分不明・この国に来たのもまだ20日程度というありさまで、誰が聞いてもそんな怪しい者を王侯貴族の通う学園に入れるなど、正気を疑われてしまう事態だった。

 しかし、どうやら相当身分のある者の後押しがあったのだろう。学園長の許可の下、新入生として受け入れることが決まったのだ。


 その者の名は、ティアリアリス。

 学園指定の赤茶けた、えんじ色の制服に身を包んだ、ただの女学生である。







 古い時代の看護服には、真っ黒な物もあったのだという。どこか少し、看護服に似たえんじ色の制服を見て思う。

 たしか戦時下の時の服で、次から次へとやってくる重傷者が、流血に染まった看護師の服におびえないように、血のあとを見えにくくするための色なんだとか。

 そういった看護師見習いの時に同級生から聞かされた眉唾話を、ティアリアリスは思い出していた。


 長い廊下を歩く。

 今はまだ授業中なのだろう、静かな中に、自分と自分を案内する初老の女教師の足音だけが響いていた。

 前を行く女教師の足音は規則正しく、その姿勢もぴんとはりつめているようだ。なるほど、ここに来る前に受けた説明の通り、格調高い学園なのだろう。窓から見える中庭もよく手入れされているのがわかる。

 春ももう終わりの頃だが、まだいくつもの花が咲いている。入学式が2月前にあったというので、今は6月ごろだろうか。少し時期遅れの新入生ということになる。

 足音が止まったのに気づくと、一つの教室の前で女教師がこちらを見ていた。

 少しして私が追いついたのを確認すると、2度ノックをしてから扉を開ける。

 中の教師と話したあと、私に入りなさい、と言う。

 私は緊張をほぐすため、一度深呼吸をしてからその教室に入った。


「ではみなさん、今日は新しいお友達を紹介します。新入生のティアリアリスさんです。みなさんと同じく、目標を持ってこの学園に入学いたしました。少しわけあってこの時期にいらっしゃいましたが、分け隔てなく仲良くするように。ではティアリアリスさん、みなさんに挨拶をしてください」

「 」

「ティアリアリスさん?」

「あ、はい。いえ、どうも、ティアリアリスです」

 隣りで私に自己紹介をうながしていた女教師が眉根を指でもんでいる。できの悪い生徒に悩まされている感じだ。

 いや、おかしい。それはむしろ私の言い分だった。

「ええと・・・あの、本当に私の教室はここなのでしょうか?」

 私はその教師に確認をした。

「そうですが?何か問題でも?」

「いえ・・・」

 私は改めて教室の生徒達に向き直る。

 30人はいるだろうか、みんな、そこそこの興味を持って私を見ている。

 だれもかれも、私が着ているのと同じえんじの制服に身を包んだ小学生だ。

「ではあなたの席は一番後ろになります。教科書などは次の休み時間に届けさせますので、この時間は静かに待つように。では後はよろしくお願いします」

 そう言って女教師は教室から出て行く。この教室に元からいた若い女教師に促され、私は窓際の一番後ろの席に移動する。その間も生徒達からの視線が追ってくる。

 席に着席し、隣りに目をやると、ノートで顔を半分隠しながらこちらをうかがっている生徒と目があった。

「・・・よろしくお願いします」

 私がそう挨拶すると、ひゃぁ、と小さな悲鳴を上げて顔をノートに隠してしまった。

 うわぁ

 うーわー

 そりゃ驚きもするだろう。私も驚いた。

 完全に小学生なのだ。私以外の生徒は、年のころ6~12歳ほどのかわいい女の子ばかりなのである。

 ・・・確かに、王子から入学の説明を受けていたとき、数枚のテストをやらされた。国語、歴史、社会、数学、魔術。この中で私ができたのは、数学だけだった。そもそも文字が読めないのだ。この世界に来て、言語は勝手に何とかなったのだが、識字には適用されなかったらしい。そういえば、所持している銀貨の文字も読めていなかった・・・なんてこった。

 なので私のスタートラインはここからなのだ。

 いや、これでも入学までの時間に文字はかなり学習した。この学園の病室で療養という名目でだらだら寝ころがって暇していた王子に頼み込んで。全体数がわからないのでどの程度まで網羅できたのかはわからないが、ほとんどの基本単語は書けるようになったはずだ。

 しかし・・・こうなるのか。なんてこった。もしかしてこれから数年間は小さな彼女達に混じっての学園生活になるのだろうか。なんというか、もう・・・・あーみんなちいさくてかわいいなぁー。


 私はこの授業中、現実逃避をすることに決めたのだった。







 ことの起こりはサフィロ王子の看護問題だった。

 先ごろ私が命を助けたこの王子様は、実は致命的に人がよりつかない王子なのである。

 ボサボサの黒い髪に背中の曲がった前のめりな姿勢。ひょろい手足に目つきの悪い三白眼。口を開けば愚民だのアホだのなんだのと。初めて会った時も口の悪い少年だと思ったが、まさかそれが王子様だったなんて。こんな性格に形成された年月が12年。凝り固まった陰湿な性格は、時々毒舌以外の本物の毒が漏れ出すほど。いやこれは王子の持っている悪魔のせいらしいのだが。

 この不幸体質のせいで付き人もおらず、怪我の療養で入院したというのにろくに魔術師も看護師も様子を見にこないのだ。いったいそれほど恐れられる王子の毒とはどんなものかと外の廊下を伺えば、約5メートルおきに花瓶が置かれ、花が生けられている。ここから3個分、約15メートル先の花がしおれ、その先も元気の無い花々が立ち並ぶ。

 明確に目に見える形にしてしまっては、寄り付くものもよりつかないだろうと思うのだが、昔からこの扱いらしい。

 実際、私が王子の病室に入り浸っていた5日間、魔術師が来たのは2度だけだった。あとはほとんど、私が世話をまかされていた。


 私には毒が効かない。


 もとの世界からこの世界に連れてこられた時に持っていた私のスペックは、形を換え、この世界でも同じようなものに置き換わっていた。

 機械の両手足は力と性能をそのまま、生身の手足に。

 体に与えられた再生能力は、こちらでも大怪我を数分で治癒してのける。

 他にもいろいろと元の能力と同じっぽいままなのだが、その一つに”抗毒機能”があった。

 体内に入った毒に対し、速く、確実に抗体を作る機能。この能力のおかげで、王子からちょろちょろ漏れ出した程度の毒は私には一切きかないのである。


 これには王子も大喜びだった。

 私を自分の主治医にすると言って聞かないほどに。

 私は辞退申し上げた。

 却下された。

 王子にとって私は、世界で唯一自分のそばに置いても体調不良を起こさない人間なのだ。なんとしても確保したい心情だろう。

 嫁にしてやると言われた。

 辞退申し上げた。

 だだをこねられた。

 ずっと側にいて僕の心の穴を埋めてよと言われた。

 どうしても嫁はいやだったので、王子の看護師としてなら、と提案した。

 毎朝私の手で検温するという条件付きで、私は王子の専属看護師になることが決まった。

 ちなみに検温は二日目からぶっちした。


 さて、専属看護師になることが決まっても、それは今すぐに成れるというわけではないらしかった。

 中身はあれでも、王族の専属なのだ。相応の身分や、実績がなくてはならない。

 元々、私は異世界の人間であるから、こちらでは戸籍などない。そのあたりを用意することから始めたのだが、これに振り回された人物がいる。

 ヴェルクリット=ハイドン子爵である。

 王子襲撃事件の際、重症になった一人なのだが、彼女はその襲撃のあれこれで責任を取らなくてはいけなくなったのだ。

 王子が無事であれば見逃されていたことも、生死を危うくするほどの怪我を負ったとなればそうもいかないのだろう。

 まだ治りやらぬ集中治療中の彼女の所に、元老というのが数人現われて言ったそうだ。

 ハイドン家の取り潰しか、自身の斬首かのどちらかを選べと。

 ヴェルクリットさんは自身の首を選んだ。

 それを拾ったのが王子である。

 元老たちには今回の作戦は不穏分子をあぶりだすためのもので、その危険度はかなりのものであり、むしろ、良くこれだけの被害でおさめたのだとほめそやし、

 逆にヴェルクリットさんには徹底的に恩を売り、脅し、口裏を合わさせ、とうとう自分の配下になるという言質をとってしまった。

 人の良い彼女は約束をきちんと守った。

 そして王子の手下になった彼女は私の国籍を用意し、私をハイドン家の養子にし、自分や王子達の入院するこの学園への入学手続きをすませてしまった。まぁ、このあたりの手続きは、まだ外出できないヴェルクリットさんではなく、王子自らが出向いてやってきたそうなのだが。

 私には彼女の苦労がしのばれてならない。まさかこんな王子にだまされてしまう人が私の他にもいたのだと、涙なしには語れないものだ。


 そして現在、私は王子の看護師になるべく、学園で勉学にはげむこととなり、王子は病院の個室でだらだらとすごし、ヴェルクリットさんとその他兵士の重傷者の方々は未だに治療を受け、こうしてそれぞれが学園の敷地内にいることとなったのだ。


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