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前編

「妹さんを俺に任せてください。」


「私からもお願いします。」


 おいおい、ふざけんなよ。ブラコンでお兄ちゃんラブの我が妹のアイリーンが何でオークを結婚相手に連れてきてるんだ?お兄ちゃんと結婚する約束はどうなった?お前がくれたラブレターは引き出しに大事に取ってあるんだぞ。


「俺は認めんぞ!アイリーン、お前はこの豚に騙されているぞ。こいつはオーク族だ。女を攫い、見境なくレイプする屑に決まっている!」


 目の前の男は人間ではなくオークである。つまり、アイリーンとこの豚との間に子供ができても人間社会では到底受け入れられることはない。


「よくも妹を誑かしたな。見た目だけでなく、心根まで貴様は腐っているようだな、この豚が!」


 頭に血が上って、怒鳴り声を出してしまう。なぜよりにもよってオークと結婚するんだよ。


 パシン!


 突如、右の頬が熱くなった。俺は彼女に殴られたのだ。


「最低!」


 彼女はそう言い放つと、オークの手を取って部屋を出ていった。さっきまで俺は激怒していたが、急激に冷めた。殴られたことで真実に気づいてしまったからだ。


 そうか、俺はどこまで行ってもいらない人間なのか……


 ◇◇◇


 俺には前世の記憶がある。日本という国でぼっち生活を送っていた俺はある日、心不全を起こして命を落とした。たった一人、自分の部屋の中で俺は死んだ。


 そこで終わるかに思えたが、突如として第二の人生が始まった。いわゆる異世界転生という奴が起こったのだ。俺は前世において社会貢献をしてきたわけでもなく、特別なことは何もしていなかったのだが、気づいたら魔法の存在するこの世界に生を受けた。


 動揺をしなかったと言えば嘘になるが、人生をやり直せるのは嬉しいと思った。


 もっとも、異世界転生によくあるチート能力もなく、生まれは王族でも貴族でもなかった。親は地主だったのでそれなりに金はあったが、大金持ちとまでは言えなかった。成り上がることは考えていないが、もう少し条件が良ければ良いと思ってしまうのは転生に対する期待値が高かった以上は仕方ないかもしれない。


 とりあえず、赤ん坊の頃はただ周囲を観察して状況把握に努めつつ、この世界について知ることにした。まずは家族を観察し、家族構成を把握していった。俺には両親と四人の姉がいるということを知った。両親は見た目が良く、特に母親は村一番の美人と言われていた。そして、美人な母の遺伝子を継ぐ姉たちも別嬪であった。俺はそんな両親と姉に大変可愛がってもらえたので、充実した幼少期を送れた。



 ここが人生のピークだった。この生活が突如として終わりを告げることになるとは思いもしなかった。



「生きていて恥ずかしくないの?」


「気持ち悪いから近寄らないで?」


「死ねよ。」


「汚い。」


「あんたなんか産まなきゃよかった。」


「おい、汚い手で触るんじゃねぇよ!消え失せろ!」



 5歳になり、大きくなるにつれて俺の容姿はどんどん悪化していき、両親とは似ても似つかぬ不細工になっていった。次第に村の中で母親の不貞が疑われ、家庭もぎくしゃくしていった。そして、追い打ちをかけるように母が弟を産んだ。それまで家族の中で俺は唯一の男の子であったが、待望の次男が生まれたことで俺にとって状況は一気に悪化した。誰も俺のことを見てくれない。むしろ、彼らは俺のことを嫌悪していた。


 これまではこの家の跡取りになるのだと信じて疑わなかった。ところが、美しい容姿を持つ赤ん坊の次男と彼を取り囲む家族の姿を見て俺は気づいてしまった。俺はいらない人間なのだと。


 弟に一度も触れることは許されず、何を思ったのか俺が弟を殺そうとしていると彼らは勘違いして、俺のことを孤児院に捨てた。


 俺は泣きもしなかった。既に諦めがついており、無駄だと思ったからだ。



 こうして、俺の孤児院生活が始まった。地獄への入り口だとは知らなかった。


 ー数年後ー


「おい、てめえの鼻を潰すぞ?とっととノルマを達成しやがれ、うすのろ。」


「申し訳ございませんでした。」


 人権意識の低いこの世界の孤児院において子供に人権はなかった。自分の食い扶持は自分で稼ぐのがここでの常識。稼いだ金も先輩や大人にピンハネされて手元には残らない。乞食をやってちゃんと金を稼げなければ鼻を潰されたり、目玉をくり抜かれたりしてより憐みを誘うような体に弄られる。


 案の定、俺の顔面偏差値は既に終わっているため、特に何もしなくとも金を恵んでくださる方はいらっしゃった。餌付けしてくれるのはありがたいが、引き取ってくれるとさらにありがたいです。


 もし、安定した生活を望むなら教会の聖歌隊に入るというのも一つの手段であるが、高い声域を維持するために去勢をしなくてはならない。俺は見た目が悪く、音痴だったのでスカウトされることもなく、ある意味助かったともいえる。


 まだ男でよかったと思う。女の場合は小さな子供でも売春婦をやらされ、体を売るはめになる。まあ、流石にあんまり小さい女の子だと需要がないため、俺と同じように乞食をやっていたりする。


 灰色の毎日を送っていたが、最近になって大きな変革期を迎えた。


 ついに、俺は新人の世話係になったのだ。


 裁量が与えられ、自分よりも後に入った奴らをこき使えるようになった。もし逃げ出す奴がいたら「処分」することが許可されている。我ながら出世したものだ。


 弱い奴に威張り散らし、強いものには媚びる。本当に最高だよ。



 そんな生活をしていたある日、俺の人生を変える出来事が起こった。



「私の娘を連れて逃げてくれない?」


 娘を抱えた先輩が頼みごとをしてきた。体を売ったせいで病気に罹患し、さらには栄養状態が悪いせいで、先輩は虫の息だった。そして、死が間近に迫っていた。


 そんな先輩は自分の娘を俺に差し出した。


 先輩は俺が数年前に孤児院にやって来た時にルールを教えてくれた女性だ。ここで生きる上でのルールを教授してくれたありがたいお方だ。断る理由はなかった。


「わかりました、娘さんは俺が育てます。」


 娘だけでも助けてあげたいというのはよく分かる。こんな場所にいたら未来はないのだから。


「ありがとう。」


 その晩、幼い娘を残して先輩は死んだ。あまりにもあっけない最期だった。


 彼女の死体をそのままにして、俺は先輩の娘を連れて町を出た。町は壁で覆われていたが、抜け道があり、そこから外の世界に出た。


 娘さんはまだ一歳くらいで小さかった。同時に、表情も乏しく、愛想がなかった。


 そういえば、名前を聞いてなかったな。


「お前の名前は?」


 この年頃の女の子だと厳しいかもしれないと思った。


「アイリーン」


 すげえ、頭いいんだな。


「俺はセンテイだ。お兄ちゃんだと思ってくれ。これから、よろしく頼むよ。」



 これが俺と妹の出会いだ。







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