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勝利への道筋

 天幕と共に周囲にあった灯りは根こそぎ吹き飛ばされ、光源は月と星の光のみ。しかし、オレとクリスは当然としてリアンも特に問題はないようだ。その双眸へ籠められるマナの流れを感じ取る。ゲームでリアンが所持していた固有スキル《曇りなき瞳》の効果だろう。暗闇から幻覚まで、自身の視覚に及ぼされる悪影響をすべて無効化するユストサリアの加護。認識阻害も受け付けないため、《シャドウベール》も即座に看破されてしまう。アドニスを連れてくるわけにはいかなかった最大の理由だ。もっとも、幻覚に依らない純粋な変身は見抜けないため、偽オージェには付け入られてしまったわけだが。


「――闇よ集え」


 オレたちと対峙するオージェが呟くと共に、その手の中に闇を凝縮したかのような色合いの刃が現れる。どうやら物質化させたマナのようだ。理屈は分からないが、マナの流れを本能的に感じ取れるルシアの体が教えてくれる。


「まずは貴様からだ。失せよ!」

「はっ――」


 離れていても目で追うのがやっとなほどの速度で踏み込んだオージェの剣。いきなり出現した剣によって大幅に間合いが変わったのにもかかわらず、クリスは余裕の反応で受け流し――


「――なに!?」


――2つの刃が打ち合った瞬間、それは起こった。オージェの持つ闇の剣が僅かに欠けると、飛び散ったマナの破片がいくつもの魔力弾へと変容し前方へと撒き散らされる。


「――っ!」

「ちぃっ!」

「は?」


 なんだそりゃ!? 敵の眼前のクリスはもちろん、オレもリアンも範囲内に含まれている。見事なまでに突然の奇襲。だがそれでもリアンは聖句の詠唱を続けながら身を躱し、至近距離から浴びせられたクリスは体を捻って〈ブレストプレート〉で受け止めて見せた。相変わらず出鱈目だな、我が相棒の反応速度は。オレはと言えば、半ば無意識のうちに体が反応してくれたものの、身体能力の差か完全には避けきれない。


「あぅっ……《カースドブランド》――!」


 躱しきれなかった魔力弾が肩を焼く痛みに耐えながらDoT魔法を発動するが、完成した魔法は見えないナニかに阻まれる。以前、あの傭兵の男相手にも感じた魔法への抵抗力。オージェのそれは極めて強力で、気を緩めれば即座に弾き返されそうだ。意識を集中し、無理矢理押し通る。ほんの数瞬にすぎないせめぎ合いだが、オージェが剣を振るうたびに雨のように魔力弾が飛んでくるこの状況では、大きすぎる隙となった。


「むぅ!」

「かはっ――!」


 動きが止まったところへ飛んで来た魔力弾が頭を庇った左腕と腹部を直撃する。DoTが刺さったオージェがくぐもった声を漏らすのと、オレが衝撃に息を吐いたのは奇しくも同時。リアンがかけてくれた加護のお陰で魔法の威力自体はかなり軽減されているが、物理的な衝撃は魔法防御力を貫通してくる。


「ルシア!? ちぃっ!」


 オージェと対峙している相棒の舌打ちが微かに聞こえた。この闇の剣による広範囲攻撃、オージェ自身はクリスとの戦闘に意識を集中しているらしく魔力弾の狙いは甘いが、数が多いためほぼ常時回避に意識を割かなければならない。無詠唱で魔法が使えるオレはまだしも、聖句の詠唱が必要なリアンはかなり苦しいはずだ。オレも今のように抵抗力を突破するために集中が必要となると相当厳しい。痛みにはもう慣れてきてしまっているが、衝撃による集中と発声への悪影響はどうしても出てきてしまう。


 ああくそ、どうする? 範囲外へ離脱しようにも、足止めしているクリスの後方から出てしまってはそれこそ敵の思う壺だ。


「――貴様……何なのだ、その剣は――」


 焦燥に駆られながら状況を分析している最中、オージェが漏らした呟きがオレの耳に届いた。相棒が一切反応を示していないのを見ると、魔族語によるものか。いや待て、こいつは何に驚いた? 言葉の内容から推測するに、あの闇の剣は普通の武器で受けることはできないだろうか。例えば、簡単に破壊されてしまうとか。


 闇の剣と打ち合っても一切欠ける様子はない、ラグナタイト製の刃。オレやクリスにとって、驚くような要素はどこにもない。闇の剣がどんなものなのかは分からないが、ラグナタイト製の武器をどうこうできるとは思えない。となると、もしかすると相手はラグナタイトを知らないのか。遥か昔のラグナ=アズリアの滅亡と共に製造方法が失われて久しい、ゲームだった時ですら滅多に発見できなかった幻の魔法金属だ。魔族が地上に侵攻してきてからの年月を考えれば、その存在を知らなくても不思議ではない。


 思考がもう一段階切り替わる。ゲームにおけるレイドボスなどの強敵と、目の前の魔族は根本的に違うものだ。ゲームの敵はどれだけ多数のPCに囲まれようと、その全てを把握しながら対応してくる。だが、こいつはクリスとの戦闘に集中している状態では、それ以外の相手を個別に狙うことができていない。当たり前のように思えるが、それはつまりこの敵がオレたちにとっての常識的な範疇の敵だという証左でもある。知らないことは分からない、そんな当たり前の存在なのだ。


 そう認識できたことで、精神的な余裕が少し戻ってきた。もちろん、ゲームのレイドボスと比べて勝っている部分もある。特に、後衛のオレたちを牽制しつつクリスと互角以上に打ち合う技量と戦術は、ゲームのAIのそれを遥かに凌駕しているだろう。


「範囲魔法が来ます!」


 再び、オージェが周囲のマナを取り込んでいくのを感じ取り、警告を発する。《カウンターギアス》の効果はまだ続いているが、先程使おうとした《ダークイクスプロージョン》と似たマナの動き。直感的に理解する。おそらく、その下位の魔法を使うつもりだ。


「――祈りを盾に。我らを護り給え」

「《ダークブラスト》」


 淡々と発動された闇の魔法が、再び周囲を薙ぎ払う。その直前、魔力で編まれた盾が出現しオレたちを庇った。


「うおっ!?」

「ぐぅぅっ!」


 最初の爆発よりは一段弱体化しているとはいえ、それでも凄まじい魔力の奔流が二重の防御魔法を突き破ってオレの体を襲う。杖を地面に突き立てることで、ギリギリ吹き飛ばされずに済んだ。


「この程度で――!」


 魔法のランクが下がっているとはいえダメージは甚大だが、まだ倒れるほどではないし、キャストの維持も何とかできている。ならば何も問題はない!


「《ライフドレイン》」

「――む?」


 カウンター気味に発動した生命力を奪取する呪いの魔法は、僅かに顔をしかめるほどのダメージか与えられていないようだ。DoTを刺した時点で予想はしていたが、こいつの呪い属性への耐性は極端に高い。もっとも、その程度のダメージしか与えられていないのにも関わらず、オレの体の痛みはかなり引いた。これで、ゲームにおけるルシアのHPを基準に敵の耐久力を概算できる。ゲームのように単純な数値通りにはいかないだろうが、大まかな目安としては十分だ。


 クリスとリアンの様子を素早くチェックする。装備とスキルを合わせた魔法防御力はおそらくオレが最も低い。案の定、2人とも動きに支障が出るほどの大ダメージにはなっていないようだ。


「《インスタントカース》――ぐぅっ!」

「――大いなる癒しを――」


 DoTを刺す際の僅かな隙にまた魔力弾が体を焼くが、すぐさまリアンの治癒魔法が飛んで来た。最初に使われた時にも驚いたが、やはり詠唱が異常に速い。先程の防御魔法をあのタイミングの警告に応えて間に合わせた上に、さらに今の治癒魔法の発動と、無詠唱魔法のキャストより早いのではないだろうか。無詠唱魔法は自動展開用の術式が余分にくっついている分、極限まで高速化した通常の魔法より理論上は遅くなる場合があるとアドニスは言っていたが、リアンの技量はその領域に到達しているということか。


 よし――!


「――クリス! こいつ呪いへの抵抗力が無茶苦茶高いみたいです。攻撃は任せますね!」

「了解!」


 相手のスペックはだいたい分かった。オレと相棒の能力はもちろん把握している。そして、リアンのそれは予想以上だ。勝利への道筋を計算し、互いの役割を相棒へ伝える。余計な言葉は必要ない。オレがゲームを始めた時からずっと一緒に戦ってきたのだから。問題は、初めて肩を並べて戦うリアンの方だ。


「リアンさん! クリスに無茶させますから、フォローをお願いします!」

「――!」


 オレのアバウトすぎる言葉に、詠唱を止めぬまま即座に頷くリアン。ありがたい。一国を代表する英雄が、初対面のオレの言葉にここまで素直に従ってくれるとは。何故そこまで信頼してくれているのか、正直かなり謎ではあるのだが。


「貴方の力があれば倒せない相手じゃありませんからね!」


 いや、今はそんなことはどうでもいいか。自分を鼓舞する意味も込めて、堂々と宣言してやる。


「ふん。あの程度の傭兵どもを蹴散らすことも出来なかった連中が、良く吠える!」


 オレの言葉を鼻で笑うオージェ。どうやってかは知らないが、昨夜からの戦いをこいつは見ていたらしい。なるほど、あの戦いを見てオレたちの実力を判断したのなら、その評価になるのも仕方ないか。暗闇という圧倒的なアドバンテージを手に入れていてなお、あそこまでの苦戦を強いられたのだ。一方で、上位の範囲魔法をポンポン使えるこいつなら、単騎で傭兵たちを殲滅して見せただろう。


 だが、その判断は大きな間違いだ!


「はっ! あれで慢心してくれてたってわけか!」

「ぬ――!?」


 クリスが唇を歪めると同時に、〈クレイモア〉の剣身が淡い光を帯びる。《チャージングブレス》によるマナの輝きだ。そして、さらに一歩間合いを()()()


「馬鹿か、貴様は!」


 嘲る様に笑うオージェ。長大な両手剣で間合いを詰めすぎるなど、自殺行為以外の何物でもない。ましてや、闇の剣から撒き散らされる魔力弾を避けられなくなるのだから。当然のように、多くの魔力弾がクリスの体を直撃し、その表情が苦痛に歪む。しかし――


「おおおおっ!」

「無茶をすれば、届くと思ったか――」

「《カースブレイク》――!」

「――なにぃっ!?」


――魔力弾ものともせずに踏み込んだクリスの剣をオージェが受け流そうとした瞬間、オレは魔法を発動させた。オージェの動きが見えないナニかに絡めとられたように鈍くなり、受け損ねた〈クレイモア〉がその身に届く。


「きさっ――」


 超重量の刃は魔族の外殻を易々と切り裂くが、それでも敵は限界まで身を捩って致命傷を避ける。


「弾けろ!」

「――がああああっっ!?」


 そこへ相棒は容赦ない追撃を加えた。オージェの絶叫が響き渡る。剣身に籠められた魔力が一気に弾け、その体を半ばまで吹き飛ばしていた。直後、解放された風のマナが突風を生み出し四方へ走り抜ける。


「うわっとと」


 危うく転がされるところだった。ゲームでは風属性を現す翠のエフェクトが発生するだけだったので、完全な不意打ちだった。


 《竜気解放撃》――《チャージングブレス》によって集積されたマナを、近接攻撃と共に炸裂させる派生スキルの1つ。広範囲に放出すれば百単位で敵を薙ぎ払える魔力を一体に集中するため、その威力は絶大である。


 人間なら間違いなく即死だろう一撃。だが、オージェの生命力の推定値からすると、まだ止めには遠いはずだ。実際に、その傷口に周囲のマナが集積されていくのを感じ取り、オレは警告の声を上げる。


「まだです!」

「――おのれえええぇぇぇ!」

「ちぃっ!」


 振り払うような一撃に相棒は素早く反応するが、踏み込み過ぎていたために〈ブレストプレート〉で受けるのがやっとだ。闇の剣にその体を切り裂かれながら、その間合いから離脱する。


「貴様らああああ!」


 オージェの傷口はあっという間に塞がっていくが、その声色には先程までの余裕は微塵もなくなっている。あくまで保持している魔力で無理矢理体を修復しただけで、ダメージを回復しきれてはいないようだ。


「――よし」


 確かな手応えに思わず唇が歪む。《カースブレイク》は対象に刺さっている呪い属性のDoTを1つ解除することと引き換えに、大幅なステータスダウンを付与するデバフ魔法だ。その時点でDoTが与える残りダメージの総量によって効果時間と効果量が変化するため、《インスタントカース》では僅かな時間しか持続しない。それでもクリスの攻撃に合わせて使うことで、御覧の通りの結果となる。相棒と2人、オレがダメージを稼ぎにくい敵と戦う場合の基本となる連携だ。


「確かにお前なら、俺が散々苦戦させられた傭兵どもなんか軽く蹴散らせるんだろう」


 剣を構え直し対峙するオージェに、相棒が言う。さっきの攻防で負った傷は、リアンによってもう治されていた。


「俺たちじゃどうしようもない、千の兵を薙ぎ払うことすらできるんだろう」


 再び〈クレイモア〉に《チャージングブレス》の光が宿る。


「だがそれは――」


 クリスの言葉は、オレの思いと全く同じ。


「――俺たちがお前を倒せないってことじゃない」


 レイドボスとの戦いに特化しているオレとクリス。そこに、最高クラスのプリーストがついているのだ。()()()()()()()()()()()()()()()()

更新遅れて申し訳ありません。

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