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英雄

 傭兵たちの掃討戦が終わり、町は戦いの後始末の段階に入っている。死者の回収、負傷者の手当て、捕虜の武装解除と拘束、バリケードの除去、破壊された――道を封鎖するためにこちらが壊した数の方が多い――建物の修復。防衛戦は予想以上の圧勝で終わったとはいえ、平穏な日常はまだまだ遠い。


 そんな中、母兎亭の部屋にてオレは1人――正確にはアドニスもいるが――ポット1杯で銀貨2枚という高級茶を飲んでいた。


「――ふぅ。頭痛も収まってきたな」

「そりゃ良かったと言いたいところだが、勘弁してくれよ、マスター。今回は戦いが終わった後だったから大丈夫だったけど、気を付けると言った直後に魔力切れはシャレにならねーぜ?」


 窓枠に腰かけながら、呆れたという口調で肩をすくませるアドニス。そう、オレはまた魔力切れを起こしてしまっていた。今度はぶっ倒れるところまでは行かなかったものの、町へ戻った時には頭痛と吐き気と目眩のトリプルコンボでフラフラの状態になっていたのだ。お陰で、クリスを筆頭に散々心配されてしまった。


「すまん……お前とバロン、同時に戦わせる消費の重さは分かってたつもりだったけど、やっぱりちょっと調子に乗ってたかもしれないな」


 それでも、昨日よりはかなり早期に魔力量の低下を自覚できたので、少しは進歩していると思いたい。


「……そうか、考えて見りゃ、魔力がどんなに高くても魔術師としては素人だもんな、マスターは。何か訊いておきたいこととかあるか? 俺が分かる範囲でなら答えるぜ」

「んー……魔力も回復してきたし――」


 魔力切れ状態のオレを放ってはおけないと、コイツは宿に残っていたのだ。傭兵たちの残党がまだ周囲をうろついている可能性もある今、空から索敵できるコイツの力はとても貴重なので、できれば偵察に行かせたい。そんなことを考えていたら、ふと、質問しておきたいことがあったのを思い出した。しかも、わりと重大な。


「――なあアドニス。無詠唱魔法ってナニ?」


 オレが図らずも一騎打ちをするハメになってしまったあの男。あいつがオレの魔法を見てあれだけ驚いていた理由を、コイツに尋ねよう思っていたんだった。慌しくて忘れていたが。


「無詠唱魔法……? うーん……」


 オレの言葉に少しの間不思議そうな表情を見せた後、首を捻りながら唸り始める。やはりアドニスにも何のことか分からないのだろうか。


「オレもお前も、スキル――魔法の名前を口にするだけで発動させられるだろ? キャストタイムは必要だけど。それって、一般的なことじゃないのかな……でも、お前には分からないか」

「キャストタイム……あーあー、自走型自律展開術式のことね」

「自走――何だって?」


 自走な上に自律ってどういうことなんだよ。魔法に関する知識ゼロのオレには何を言っているのかサッパリわからんぞ。


「あーっとだな……俺も理論的な部分はかなり怪しいんで大雑把な説明になっちまうけど――魔法ってのは術者がマナに干渉して性質を変化させることでいろいろな現象を起こしてるわけだ」

「うん、それは何となく感覚で分かる」


 この世界に来てから、魔法を使うたびにマナの存在とそれが形を変えていく過程が五感とは別の感覚で感じ取れていた。


「理論的な部分を全部すっ飛ばして感覚でそれが分かるって、無茶苦茶すげーことだからな、マスター? 魔法への適性だけなら、魔族の中でもトップクラスに並ぶんじゃねーかな」

「お、おう……」


 そこまでなのか。でも考えてみれば、ゲームにおけるPCはクラスチェンジをすることでどんな系統の魔法であっても極めることができるわけだから、適性という意味では確かに最高クラスなのかもしれない。あくまで、適性の話にすぎないが。


「おっと、話がそれた。んで、術式はそのマナへの干渉を行う道具にあたるわけだが、干渉のプロセスを最初から最後まで事細かに書き込まなきゃならねーんで、とんでもなく情報量が多い」

「ふーむ……となるとひょっとして、その膨大な情報を圧縮してあるのか、展開ってことは?」

「おー、流石マスター理解が速いな。そのために別の術式をくっつけて自動で展開されるようになってんのが自律展開術式。頭の自走式は、展開に使う魔力リソースの調整が自動化されてるってことだな。こっちも、そのための術式がくっついてる」


 つまり、自走型自律展開術式というのは、スイッチ1つで最後までやってくれる全自動魔法生成システムってことか。逆に言うと、それ以外の魔法の使用方法は今の過程の全部ないし一部が自動化されていないというわけだ。無詠唱魔法と言われたのは、それが原因なのだろう。


「……ん? 実際に発動する時に魔法名を口にしなきゃならないのは何でなんだ?」

「最後の宣言は、展開が終わった術式でマナへ干渉する時のトリガーだな。声に出す以外の方法もなくはねーけど、声が一番簡単で速いんだわ」


 なるほど。でも、少々時間がかかっても声を出さずに魔法を発動できる手段があるなら、できれば知っておきたいぞ。声を出せない状況でも魔法が使えるというのは大きいし。


「その、声以外の方法ってお前はできるのか?」

「すまん、俺はできねー。それに、魔法の理論的な部分をある程度勉強しないと多分無理だと思うぜ」

「むう、魔法の勉強をできるところから探さないといけないわけか――いや、そもそも自走型自律展開術式は人間の間では一般的じゃないのか?」


 だからこそ、あの男は驚いたわけだし。


「ああ、最初はそんな話だったっけか。基本的に俺たち魔族はこれ以外の方法で魔法を使うことが無いし、マスターは普通に使ってたから全く気にしてなかったんだよな。だがもしかすると、人間には向いてないのかもしれねー」


 人間には向いてないという言葉の意味を考えてみる。この全自動方式のデメリットは何か。ぱっと思いつくのは、自動化のために本来の魔法とは関係ない余計な術式が付属していることだろうか。


「それってつまり、術式のための術式を同時に使う必要があるから、処理が追い付かないとかそんな感じか?」

「ああ。加えて、その分魔力リソースを余計に消費するしな。マスターみたいに例外はいるけど、魔族と比べたら適性や魔力量はかなり劣るわけで。単純に魔法技術の進歩の差かもしれねーけど」


 今までにも何度も聞かされた気がするが、この地上と魔界では魔法技術の格差はどれだけあるんだ。そして、魔法についての知識がある人の前でオレの魔法を使うところを見せるのは危険かもしれないのか。そうなると、カムフラージュのためにも一般的な人間の魔法がどんなものなのか知っておきたいな。


「無詠唱じゃない魔法も一度見てみたいけど、お前いける?」

「俺には無理。やったことねーもん。てか、魔法が使える人間ならリアナの神官がいるじゃん。ちょうど今なら使いまくってるだろ」


 言われてみればそうだった。戦闘での負傷者はリアナ神殿に収容されて治療を受けている。アドニスの言う通り、魔法を見せてもらうには都合がいい。だが、疑問が1つ。


「でも、プリーストが使う神聖魔法もオレたちが使ってる魔法と同じなのか?」


 ゲームにおける魔法もいろいろな系統が存在したが、魔法によるダメージや回復量、効果の強度などを算出する際のステータスの違いによって大きく2つに分けることができる。それが魔力と信仰だ。オレが使う魔法はもちろん前者、神聖魔法は後者を参照するのだから、根本的に魔法の理屈が異なっていても不思議ではない。


「同じだぜ。ただ単に、魔法のいろいろな()()を決めるのが、本人の魔力から信仰心に応じた神の力に変わるだけだ」

「なるほど」


 その辺はゲームと同じなのか。なら、見に行くべきだろう。ちょうど、お茶も飲み終わったし。


「それじゃ、オレは神殿に行って来るから、お前は町の周囲の警戒を頼む」

「おーけー。何か見つけたら、いつもの方法で合図してから合流するぜ」


 いつものようにビシッと親指を立ててから、窓から飛び立つアドニス。その後ろ姿を見送ってから、オレは部屋を後に――しようとして、ふと気付いた。


「そういや、〈マナハーブ〉持って行った方がいいか?」


 あの神官はこの町における唯一の治癒魔法の使い手だが、《レストレーション》が使えないとなると魔力量もそんなにあるとは思えない。大量の負傷者相手に魔力切れを起こす可能性は高そうだ。のんびりしている場合ではなかった。


 オレは〈マナハーブ〉の入った袋を背負うと、貸してもらった香炉を慎重に抱きかかえながら神殿を目指すことにした。


 ######


 神殿につくと、そこはものすごい数の人でごった返していた。おそらく中のスペースが足りないのだろう、比較的軽症の人は外で手当てをしているようだ。手当をしているのはほとんどが女性で、リアナの聖印を下げた神官らしき人だけでなく、何人も一般の人が応援に来ている。その中に、見知った顔を見つけた。


「アレットさん。お疲れ様です」

「あ、ルシアさん。もう大丈夫なの?」


 町の民兵と思われる負傷者の腕に、器用な手つきで包帯――正確には裂いて煮沸した布――を巻き付け終わったところを見計らって声をかける。返事からして、オレがまた魔力切れを起こしたことは知っていたようだ。クリスから聞いたのか。


「包帯巻くの上手いですね。こういうの慣れてるんですか?」

「へ? いやいや、これが初めてだよ。教えてもらった通りにやってるだけなんだけど、そんなに上手いかな?」


 マジで!? ホントに器用なんだなアレット。学校の授業で応急手当のやり方を一応習いはしたけど、その時の自分と比べると悲しくなってくるぞ。


「全く初めてとは思えませんよ――と、邪魔してしまってますね、すみません」

「気にしないで、私が手当てできる程度の怪我の人は、もうほとんど終わってるから。それより、ルシアさんはどうしてここに?」

「えっと、ここの神官の方が魔力切れを起こしてないか心配になりまして。本当は、もっと早く気付くべきだったんですが」


 説明しながら持ってきた香炉を見せると、アレットはそれで察してくれたようだ。


「神殿長なら入って2番目の左側の大部屋にいるはずよ。火やお湯はちょっと分からないから、中の人に訊くしかないかな。ごめんね」

「え――いえ、ありがとうございます」


 あの人、神殿長だったのか。思わず驚きの声を上げかけた。いや、唯一の治癒魔法の使い手なんだから当然と言えば当然なのかもしれないが、かなり若かっただけに想定外だったのだ。とにかく、これ以上邪魔はしたくないのでお礼を言って立ち去ろう――としたところで、横から呼び止められた。


「ちょっと待ってくれ、お嬢さん」

「はい?」


 振り向けば、先程アレットが包帯を巻いていた民兵の人だ。顔には見覚えがないし、オレが今までにあったことのある相手ではないはずだが。


「その格好、竜戦士殿の連れの魔術師さんだろ?」

「……ええ、そうですよ」


 クリスの連れ扱いなのはもう気にしないことにしよう。


「呼び止めてすまねえ、一言お礼が言いたくてな。あんたのお陰で傭兵どもから町を守ることができた。ありがとうな」

「え、いや、クリスの方が――」


 突然のお礼に戸惑ってしまう。アレットや一部の例外を除けば、ブレソールさんたち上層部の人しかオレが後方撹乱に従事していたことは知らないはずなのだが。オレ自身は離れていたとはいえ、前線で暴れさせたバロンを見た人々が、どのような反応をするのか予想できなかったからだ。


「あんたの魔法で連中を混乱させたって話は聞いてるぜ。俺は直接は見てねえけど、魔法ってのはすごいもんだな!」

「そ、それほどでもないですよ。それに、皆さんが町を守っていてくれたからこそ、私の魔法が役立てたんですから」


 どうやら心配は杞憂だったようだが、初対面の相手に面と向かって賞賛されるのはどうしても恥ずかしい。しかも、周囲に大勢の人がいる状況でだ。それを誤魔化す様に称賛しかえすと、目の前の男はとんでもない行動に出た。


「そうか、そう言ってもらえると嬉しいぜ――おーい、皆! 我らが英雄の片割れが来てくれたぞ!」

「は? え、ちょ――!?」


 突然大声を上げ、周囲の注目を一瞬で集める。本人にではなく、オレに。


「なに! あの人が!?」

「おおすげー。いかにも、すごい魔術師って感じだな!」

「こっち向いてくれ! 嬢ちゃん!」


 口々に感嘆の声を上げる人々。一方オレは、一身に視線を浴びて頭の中が真っ白になる。そして、呆然としている間にも、どんどん周囲はヒートアップしていった。


「我らが英雄殿に、ばんざーい!」

「おお! ばんざーい!」

「ばんざーい!」


 あっという間に、オレを讃える万歳の声以外の音が駆逐される。なんだこれ、新手の拷問か。よく見れば、アレットまで参加しているじゃないか。


「す、すみません、急ぐので――!」


 羞恥心が限界を超え、オレは全力で神殿の中へと逃げ込んだ――

リアル事情で投稿が遅くなりました。ここからは順調だと……いいなあ。

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