プロローグ
一人称視点。状況描写はありません。人物の説明はありません。今回は勉強しません。
自転車を漕いでいたら、転んでしまった。
ゆっくり漕いでいたのが仇になったのだろう。小さな段差を越えられず、バランスを崩して横転。
幸い怪我はなかったが、膝と手が痛い。籠に入れてあったケーキは無事だろうか。考えないようにしよう。
交差点で停止しているトラックの運転手が見てる。すごく見てる。恥ずかしい。逃げるようにその場を後にした。
手が痛い、膝が痛い。なんかテンションが上がってきた。叫びたい。でもさすがに恥ずかしい。
おかしなテンションのまま目的地に到着。ケーキは大丈夫かな。箱がへこんでる気がするけど、見ないふりをしておこう。
インターホンを鳴らす。
「もうみんな来てるよ。早く入って。」
許可ももらったことだし、玄関から家に侵入。
「おじゃまします。」
挨拶はする。でもこれは侵入なのだ。
廊下を渡って、リビングのドアまで来る。ちょっと呼吸をして、ドアを開け放つ。
「ケーキが来たぞ!」
なるたけ、偉そうに言う。
「遅いぞ。」
「やったあ、ケーキだ。」
「ありがと。」
「・・・」
四者それぞれの反応を見せる。
「ねえ、箱へこんでない?」
ちっ、目敏い奴め。食べ物に関してはうるさいからな。素直に謝っておこう。
「すまん。転んじゃった。」
「ケーキは無事なのか!」
「確認してないからわからん。」
「ばっか。貸せ。おお、ケーキよ、無事か。」
せわしい奴だ。箱を手渡す。そのまま、中身の確認を始める奴をおいて、自分の定位置に着く。
「大丈夫なの?」
「え?」
「転んだって、怪我とかない?」
相変わらず天使だな。結婚したい。
「見ればわかるだろ。まったく、ドジだな。」
相変わらず口悪いな、ぶん殴りたい。
「ああ、大丈夫だよ。ドジとは失礼だな。」
適当に返事をしつつ、準備を始める。
「みんな聞いてくれ。」
おお、ケーキの確認が終わったようだ。
「残念なことに、ほぼ全滅と言っていいだろう。だが、一つだけ奇跡的に無傷なものがある。」
ほお、それはよかった。ん、でも誰がその一つを食べるんだろうか。
「公平を期すために、じゃんけんで決めようと思うのだが、異論はないか?」
「私はいいよ。4人でじゃんけんして。」
「辞退はだめだ。俺は気持ちよくケーキを食べたい。気持ちは嬉しいが、本当は食べたかったのに遠慮された、とかだったら後味が悪くなる。」
「そっか。ごめん。」
異論はないか、と聞いておいて、異論を認めないんか。わからんでもないが、そこまでこだわるとこかいな。
「いいよなんでも。早くやろう。」
「よし、じゃんけんポン!」
「む。」
あらら、負けちゃった。ケーキは別にいいけど、負けるのは悔しいなあ。
「・・・、勝った。」
おっ、今日初めて声を聞いたかも。いつも思うけど、きれいな声だよな。もっと喋ればいいのに。いや、あまり聞けないからこそ価値があるのか。ううむ、悩みどころだ。
「ぐおおおおお、負けだ。」
あっちは大変そうだ。甘いもの好きだもんな。全部つぶれたことにして、こっそり食べればいいのに。まあ、あいつはそんなことしないか。
「ケーキはもういいだろ、本題に移ろう。」
うむ、今日は誰だったっけか。
「今日は、私だね。」
俄然やる気が漲ってきた。
「それでは、力学を始めます。」




