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女神退魔師  作者: きりん
霊を喰らうモノ
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二十九話:霊喰いを誘き出せ

 アパートの自宅に戻った私を迎えたのは、一様に心配そうな表情を顔に浮かべた同居人の幽霊たちだった。


「彼の容態はどうだったんだい?」


 一同を代表するような形で、お兄さんが質問してくる。


「大丈夫。命に別状はないって話だし、本人からも色々話が聞けたわ」


「これからどうするの?」


 調査に同行してある程度事情を知っているお姉さんは不安そうだ。


「もちろんあの化け物、霊喰いを狩ります。その際には、皆にも手伝って欲しいんですけど」


「霊喰いか。よく知らないけど、生きている頃噂だけは耳にしたことがある。僕は構わないよ」


「気が進まないけど、一度は首を突っ込んだ身だし、仕方ないわね」


「面白そうだし、俺もやるぜ」


「孝太君がやるなら、みかもやる!」


「私ももちろんやりますよ! 今度こそお手伝いさせていただきますからね!」


 皆やる気満々だ。特に幸子なんか鼻息が荒い。

 大丈夫かな。やっぱり心配になってきた。


「それで、僕達は具体的に何をすればいいのかな」


「皆で霊喰いをこの場所までおびき出して欲しいんです」


 地図を取り出し、ある地点を指し示す。


「ん? いつも夜子が行ってるスーパーの近くだな」


 奴の言う通り、私が彼らにおびき寄せを頼んだ場所は、最初に私が向こうの世界に行く原因になった空間の裂け目がある場所である。


「そう。ここの空間の裂け目から霊喰いをあっちの世界に誘い込んで、向こうで決着をつける」


 向こうの世界なら回りの被害を考えて力をセーブする必要はない。


 ただ異世界に誘き寄せるだけなら新しく入り口を用意しても、私のアパートにあるのを使ってもいいんだけど、霊喰いを前にして悠長に入り口を創っている暇は無いし、アパートにおびき寄せるには回りに人が多すぎる。


 あの場所も近くにスーパーがあるとはいえ、あの辺りはあそこだけスポットみたいに何もなくて人気がなくなるから、上手くやれば犠牲を出さずに誘導できるだろう。

 幼女が頬に手を当てて不思議そうな顔をした。


「作戦はいいけど、どうやって霊喰いを呼び出すの? 来てってお願いしたら来てくれるのかな?」


「樹理亜姉さんに霊力を高めてもらうよ。霊喰いは霊体を食べるから、質の高い霊体があれば寄ってくるはず」


 私と幼女の会話を聞いていたお兄さんが手を叩く。


「よし、そういうことならさっそく出かける準備をしよう。夜子ちゃん、やるなら早いほうがいいよね?」


「ええ、お願いします。お姉さんもごめんなさい。こんな危険な役目を押し付けてしまって」


「いいのいいの。私が一番安全にできるんだもの。他の誰かに譲る気なんてないわよ」


 お姉さんの返答は相変わらず頼もしかった。


「みか、行くぞ!」


「あ、孝太君間待ってぇ」


 ちびっ子二人はさっそく部屋に戻って出かける支度をしようとしている。

 私も準備をするために部屋に入った。


 退魔関係の書籍と日々の筋肉トレーニングに使う器具が少々浮いているが、それを除けばどこにでもあるごく普通の女の子の部屋だ。


 遅れて幸子もやってきた。お姉さんはお兄さんと一緒に支度をするらしい。

 硬い表情の幸子を慰める。


「緊張してる?」


「少し……でも、負けません。頑張ります」


 幸子はすぐにえいやと踏ん張り、気合を入れた。

 必要なものを用意し、各々の準備を済ませ、再び居間に集合する。


「じゃあ改めて確認するね。始めに私が異界入り口で待機したあと、樹理亜姉さんが囮になって、隼人兄さんたちで霊喰いにこの霊水を浴びせます。姿が見えるようになった霊喰いを樹理亜姉さんと隼人兄さんで先導する。行き先はスーパー近くの異界入り口。霊喰いを二人が先導する段階になったら、他の皆は無関係の霊や人間が巻き込まれないよう警戒に当たってください。一歩間違えれば誰でも命の危険が予想されますが、頑張って誰も欠けずに生きて帰りましょう。私がいない時の指揮はお兄さんが執ってください。何か質問はありますか?」


「あの、他の退魔師の方々からは応援は出ないんですか?」


 おずおずと手を上げて質問してきたのは幸子だった。


「基本的に、退魔師って損耗率高いし次代が育つのにも時間がかかるから、どこも常に人手不足なのよ。お師匠様のところは皆他に仕事を抱えててそっちで手一杯らしいし、お師匠様が他の退魔組織も当たってくれたけど、どこも同じような感じで断られたらしいわ。終わったあとの検分や、交通規制とか発生する諸々の雑務をこなすための人員だけはなんとか捻出して派遣してくれるらしいけど、実際に霊喰いと相対するのは私たちだけね」


「そうなんですか……下手をすれば世界の危機かもしれないのに、私たちだけで対処しなきゃいけないなんて……」


 心細そうな顔で、幸子がごくりと唾を飲み込む。

 まあ、並の退魔師が増えたところで霊喰いにとってみれば餌が増えたとしか思わないだろうし、実際喰われる退魔師が増えるだけの結果になりそうだから、仕方ない。


「他に何かありますか?」


 見回しても誰からも質問が出ないようだったので、私は腹の底から声を張り上げて号令を出した。


「それじゃあ皆、行くよ!」


 応! と皆の声が唱和する。

 全く持って頼もしい限りだ。



□ □ □



 結果を語る前に、まずは霊喰いをおびき寄せるために尽力してくれた皆のことを語らなければならないだろう。


 とはいえ一人別の場所で準備をしていた私自身が直接目にしたわけではないから、これは私が裂け目で霊喰いを異界に送り込むための準備をしていた時に起こっていたことを、全てが終わったあと皆から聞いて、あたかも私自身が見てきたことのように話しているに過ぎない。


 アパートを出てから、お兄さんが率いる愛すべき同居人の幽霊たちは、当初の予定通りお姉さんが主体となって霊喰いを誘き出すチームと、お兄さんが主体となって死角から霊水をぶっかけるチームに分かれたらしい。


 ただしそれぞれの内訳は予定と違い、誘導側がお姉さんと幸子と奴、霊水をかける側はお兄さんと幼女になった。


 お兄さんとお姉さんを一緒のチームにしなかったのは、不足の事態が起きても誰も喰われずに済むように、なるべく戦力を均等にしたかったからで、当初の計画では誘導側はお姉さんとお兄さんが務めるはずだったのだが、幸子が自分も行くとごねたため、急遽お兄さんと交代してフォロー役として奴もついていくことに変わった。


 正直そのことを知った時は肝が冷えたが、役に立ちたいという幸子の思いを考えると今でも怒るに怒れない。一応注意はしたけど、気持ちを否定しなきゃいけないのが辛くてあとでこっそり泣いたのは秘密だ。結局バレたけど。


 それでもやっぱり最初の接触は、不意を突かれても瞬間移動で自動回避ができるお姉さん以外に適任はいないので、幸子と奴はお姉さんが霊喰いと遭遇してからお姉さんをフォローする形で誘導に加わることになった。


「……間近で見ると、本当にでかいわね! 霊喰いを確認したわ!」


 霊力を高めていて、突然現れた霊喰いの噛み付きをすんでのところで転移してかわしたお姉さんが、至近距離で絶壁のように広がって見える霊喰いの身体に驚きながら、念話でお兄さんと幼女に伝える。


 連絡を受けたお兄さんと幼女は、着色した霊水がなみなみと注がれたバケツを、ポルターガイスト現象で浮き上がらせる。


「ありったけぶちまけろ! 霊喰いの身体が見えるようにしてやるんだ!」


「えーい! 真っ赤っ赤になっちゃえー!」


 お兄さんと幼女によってバケツが発射される。


 ポルターガイスト現象を十八番とするお姉さんほどではないものの、それでも充分に速度が乗り、弧を描いて飛ぶ霊水入りのバケツは、過たず霊喰いのすぐ上空で破裂し、姿を隠しかけた霊喰いに中身を浴びせた。


 これで霊喰いは、姿を消しても霊視をすれば染めた色で浮き上がって判別できるようになる。


「霊喰い目視可能! ……あいつらはうまくやったようね。幸子、孝太、あたしたちも誘導に入るわよ! 二人は間違っても霊喰いの捕食範囲に入らないようくれぐれも注意すること! それじゃ行くわよ、スリー、トゥー、ワン、ゴー!」


「よっしゃー、いくぞー! 幸子、遅れんじゃねえぞ!」


「はっ。呆けてる場合じゃなかった。わっ、わっ、待ってください!」


 お姉さんの号令で弾丸のように三人が飛び出すと、霊水塗れになってもがいていた霊喰いが三人に気付いて猛烈な勢いで追いかけ始めた。


 その速度は巨体に似合わず俊敏で猛禽のごとく、身体をくねらせて三人を追う様は水中で獲物に襲い掛かる鮫そのもの。


 霊喰いが傍を通り過ぎるだけの風圧で木の葉のように薙ぎ払われ、必死に逃げ回る3人の様子は、傍目から見たら一見ただの捕食者と被捕食者の関係にしか見えないだろう。

 だが彼女たちもまた、実は牙を隠し持った捕食者だ。


 速さで勝る霊喰いが三人のうち一人を捉えそうになるたびに、残りの二人が絶妙なタイミングで霊喰いの気を引き、その活動を妨害する。

 そしてそれは同時に、霊喰いへの攻撃ともなる。


「させない!」


 一番後ろを飛んでいたお姉さんに霊喰いが襲い掛かろうとしたまさに刹那のタイミングで、お姉さんが転移するよりも早く、真ん中を飛んでいた幸子が反転する。


「私だって、やれるんだ!」


 幸子はいつの間に覚えたのか、霊力を高めると自分の周りの空間に霊弾を作り出して弾丸のように撃ち出した。


 その数十五。

 サッカーボールほどの大きさの霊気の弾が空気を切り裂いて飛び、次々に霊喰いの鼻先に着弾し、霊喰いがお姉さんに襲い掛かろうとしたのを強制的に中断させた。


 退魔師がよく使う術の一つで、牽制から止めの一撃まで用途が広い術だ。弾の数と威力が反比例し、十五個では一つ一つが鋭く尖った銛を突き刺す程度の威力しかないが、それが一斉にともなればそれなりの殺傷力を持つ。霊喰いの巨体では大したダメージにはなっていないとはいえ、妨害目的の攻撃としては十分である。


 霊喰いが怯んでいる間にお姉さんが距離を稼ぎ、捕食範囲から脱出する。


「しばらく見ないうちに随分と成長したわね! 力の使い方が上手くなってるじゃない!」


 後輩がきちんと育っていてお姉さんは嬉しそうだ。


「努力してますから! 私だって成長してるんです!」


「お前ら気を緩めるな!」


 僅かに強張った顔でニッと笑う幸子と微笑ましそうにそれを見るお姉さんに、奴が鋭く声を飛ばす。

 再び迫り来る霊喰いの身体からは蒸気のような煙が立ち昇り、よく見るとそれは傷口で、少しずつ塞がっていっている。


「再生能力持ち!? やっかいね!」


「これじゃあ夜子さんでも完全に焼き尽くせるかどうか分かりませんよ!」


「大丈夫だ! 仮に仕留め損なってもいざとなったら奴を異界に閉じ込めたまま出入り口を閉じちまえばいい!」


 会話する三人の背後、霊喰いのさらに後ろから、お兄さんの念話が飛んでくる。


「霊喰いが速過ぎて回り込めない! このまま距離を取って追跡を続けるから、万が一霊喰いが反転しそうだったら気を引いてくれ!」


「分かったわ! そっちも気をつけて!」


「みか、大丈夫か! ちゃんと付いてこれてるか!?」


「こっちは大丈夫! 孝太君こそ、無理してない!?」


「まだまだ余裕だ! むしろ幸子ねーちゃんの方が辛そうだ!」


「私もまだまだ大丈夫ですよ!」


 幸子は強がっているが、その顔に疲労の色が浮かぶのをそろそろ隠せなくなってきている。


 一人だけ幽霊になってからの経験が浅いので、先に限界が来るのは仕方ない。


 見て取ったお姉さんが幸子を叱る。


「限界が近いなら少しでも安全なうちに離脱しなさい!」


 気丈に持ち堪えながら、幸子はお姉さんに反論した。


「平気ですってば! それに私が抜けたら前後の人数が変わってバランスが崩れちゃいます! 今霊喰いが反転したら大変なことになりますよ!」


 霊喰いの巨体に隠れて姿が見えないが、お兄さんと一緒に追いかけてきている幼女から幸子に念話が飛ぶ。


「もう少しで合流地点だよ! 幸子お姉ちゃん、あとちょっとだから頑張ろうね!」


「はい!」


 気力を振り絞って幸子が返事する。

 終わりが見えてきたためか、心なしか飛行も力強さを取り戻している。


「見えたぞ!」


 叫んだ奴と、待っていた私の視線がついに交わった。


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