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女神退魔師  作者: きりん
霊を喰らうモノ
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二十五話:霊力の同調は気持ちいいのが問題

 周防が運転する車に乗り込み、私たちは繁華街まで移動する。

 繁華街はそれなりに活気が戻ってきているようだったが、それでもいつもよりは人ごみが少ないようだった。


 元の日常に戻っているとはいえ、死人が出る事件があったばかりなのだ。仕方ない。

 適当な場所に車を駐車させ、ある程度繁華街を歩いたところで周防が足を止めた。

 私たちを振り返り、親指で背後を示す。


「この辺り一帯が現場だ」


「え、ここが?」


 お姉さんが驚いて辺りを見回している。

 何の変哲もない大通りの一角だった。

 大して広くもない道路が真ん中を通り、その両脇を様々な店が軒を連ねている。


 もっとも賑わっている通りが近くにあるからか、ここもそこそこ人通りが多く車線にまで人ごみが飛び出していて、その間を縫うように減速しながら車が走っている。


 目の前に広がっているのはどこにでもあるようなごく普通の光景で、こんなところで惨劇が起こったと言われてもちょっと信じられない。


「一応表向きには何台もの車が関わった大規模な交通事故ということになっているが、俺たち退魔師の見解は対象の仕業ということで一致している。報告書に載っている現場写真を見れば分かる通り、事件直後は交通事故などでは到底片付けられないひどい状態だったからな」


 すみません、まだ読めてないので分かりません。

 挙動不審に目を逸らす私を怒りもせずに、周防は真剣な目で私を諭す。


「読んでないなら今すぐ現場写真だけでも見ておけ。この事件がただの事故ではないと分かるはずだ」


 ふざけている場合ではなさそうだったので、大人しく言われた通り報告書に目を通す。


「何……これ……」


 一言で言えば、それは異様だった。

 噴水のようにコンクリートを濡らす大量の血に、倒れ伏す両手の指では数え切れないほどの人間の下半身のみの骸。


 老若男女、社会人学生を問わず、その時いたであろう人間が、等しく上半身を喰い千切られて死んでいる。

 だが、それよりも問題なのは、犠牲者の数の割には、現在見かける霊の数が少なすぎるということ。


「おかしいわよ。こんなに死んでいるなら、今頃辺りが霊で溢れていても不思議じゃないのに」


 報告書によると、事件が起きたのは一週間前。

 私は報告書を読むのを中断して顔を上げ、周防を見る。


「もう全部祓ったか成仏させたかしちゃったってわけじゃないのよね?」


「ああ。俺たちは何もしていない。それどころか今回の事件の死者であると断定できる幽霊は、今のところ一体も確認できていないんだ。それどころか事件を境にこの界隈から幽霊の数自体が激減しているという報告もある」


 話を聞いていたお姉さんが険しい顔で話に加わる。


「妙な話ね。こんなの簡単に成仏できるような死に方じゃないわ。自分が置かれた境遇が理解できないまま、移動して散り散りになったっていう可能性はないの?」


 周防は首を横に振る。


「そうであればこの辺りはともかく周辺地域の幽霊が増えていないとおかしいだろう。だが今回は、周辺地域を含めた一帯で霊の姿が消えているんだ」


「気味が悪いわね……」


 お姉さんが心なしか青白くなった顔色で辺りを見回している。一時的に生き返っているとはいえ、自分も幽霊だから気が気じゃないのだろう。

 私をちらりと見てから、周防は水晶玉を取り出した。


「夜子。霊視はどの段階までできる?」


「何も使わないなら霊の姿を見て声が聞こえて、触れるだけ。道具を使うなら物に宿った九十九神から記憶を読み取ったりできるけど、あんまり精度は良くない」


「霊視で見たものの転送はできるか?」


「無理。ほら、あたしって戦闘に特化してるタイプだから」


「相変わらず脳筋だな貴様。なら俺がやるから見ていろ」


 水晶玉を左手に持ち、周防は霊視を開始した。

 周防の身体の中で霊力が高まり、水晶玉を通して辺りに霊気が霧のように噴霧されているのがはっきりと分かる。


 同じ霊視でも直接目で見る方法とは違い、この方法は場に宿った記憶から過去にまで遡って霊視を試みることができる。

 言うまでも無く高等技術で、私では不可能な術だ。


 お姉さんにあっさり打ち負かされたりしていい所が無さそうに見える周防だが、こんな霊視ができることから分かる通り、実はとても優秀だったりする。極端に戦闘に特化している私や、超能力による回避にのみ優れた幽霊であるお姉さんと違い、戦闘と探索を平均的に高水準でこなす正統派の退魔師なのだ。


 ちなみにお師匠様は周防の実力を十段階ほど引き上げた感じである。はっきりいって化け物クラスだ。勝てる気がしない。


 しばらくして、周防が集中を解いたのか辺りに立ち込めていた霊霧が晴れていく。

 どうやら霊視が終わったらしい。


「どう? 何が見えた?」


 私が尋ねると、周防は水晶玉をしまいながら答えた。


「言うより見たほうが早かろう。転送する。霊気の波長を俺に合わせろ。樹理亜嬢、君もだ」


 言われた通りに自分の霊気を周防のものに同調させていく。


「……あん」


 思わずちょっと声が出た。

 やばい、超恥ずかしい。


「気色悪い声を出すな貴様!」


 どん引いている周防に怒鳴り返す。


「仕方ないでしょ! 他人と霊気を重ね合わせるのって変な感じなのよ!」


「分かるわー、それ。何か妙に気持ちよくなるのよね。あたしは慣れたけど」


 隣でお姉さんがいともたやすく周防に霊気を同調させながらうんうんと頷いている。


 さりげなくお姉さんの技術が高い。もともとが幽霊だからか、こういうのは得意なようだ。そうだよね、そもそも霊能力がない人間に姿を見せるためには、その人間が持つ微弱な霊気に同調しなきゃいけないんだし。慣れもする。


 ん? 待てよ? 周防と同調してる私が気持ちいいってことは、同じように私と同調してる周防も同じなんじゃないの?

 まさかね。


 でも気になる。

 試してみようか。

 じっと周防を見つめる。


「何だ、その目は。嫌な予感しかせんのだが」


 私の視線に気付いた周防が、気味悪そうに身を捩じらせる。


「えいっ」


 やっぱり恥ずかしいのでしばらく逡巡した後、意を決して周防の股間に手を当てた。

 ……もっこりしてる。


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