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女神退魔師  作者: きりん
霊を喰らうモノ
22/33

二十二話:売られた喧嘩は買いますよ?

 気を取り直して、お姉さんを交え周防と仕事の話をする。


「今回の調査は、報告された調査目標の出現跡を調べることが主目的になっている。何しろ分からないことだらけなのでな。少しでも情報を集めたい」


 お互い仲が悪い間柄だが、それを仕事にまで持ち込むようなことはしない。私も周防も最低限のけじめは心得ている。


「まだ目標の正体すら分かってないのよね。他の退魔師たちは一体何をやっていたのやら」


 私が暗に他の退魔師の怠慢を揶揄すると、周防は皮肉気な顔で冷笑した。


「そう彼らを責めてやるな。少なくとも最低限の仕事はしていたようだぞ。すでに何件か接触報告が上がっている。被害は出ているがな」


 どう見ても彼らを褒めているような顔じゃないんですが。むしろ哂ってるよ、この人。


「おかしいわね。接触した退魔師がいるなら、どうして未だに正体が分かっていないの?」


 率直に疑問を述べると、周防はすらすらと答えを述べた。

 正直よく調べていると感心せざるを得ない。


「理由はいくつかある。一つは対象と出合った人間の生還件数が極めて少ないということだ。もう一つは、不思議なことに対象は肉眼はもちろん、霊視を用いても姿が見えないらしい」


 会話にお姉さんが加わってくる。


「何よそれ。見えない相手とどうやって戦うのよ」


 私は曖昧に笑った。

 お姉さんの台詞は、そのまま私が言いたい台詞だ。


「さあ。私もさすがに透明人間と戦ったことは無いので分かりかねます」


 ただ一つ言えるのは、透明な相手を斬るのは私でも苦労しそうだということだけだ。

 梔子なら補足できるかな。あの子私たち人間よりも感覚が鋭いから感知能力が高いし、可能性はある。


「見えないとはいっても。ずっと見えないわけでもなくてな。対象は捕食の瞬間のみ霊視で見えるようになるそうだ。報告書にそう記述されていた」


「へー、そうなんだー」


 棒読みで相槌を打った私を、周防は信じられないものを見るような目で見る。


「……お前まさか、まだ報告書を読んでいないのか」


 ぎくっ。


「読んだわよ? 給料はいくらとか、所要時間はどれくらいとか知りたかったし」


 実は昨日の夜あれこれ家事やってたら思ったより時間が経っちゃって、全部は読めてないんだよね。


「目を通したのはそこだけか。お前は本当に……いや、何も言うまい」


 周防が心底呆れ果てたようなため息をついたので、私は慌てて弁解する。


「こ、これから読むつもりだったのよ」


「説得力が無い」


 ずばっと両断された。

 ごもっともです。返す言葉も無い。


「あんたたち……実は仲が良いんじゃないの?」


 一連のやり取りを見ていたお姉さんに恐ろしいことを言われた。


「やめてください。寒気が走ります」


 鳥肌がたった二の腕をさする。

 そもそも仲がいいというのは、好き合っている間柄の二人に対して言うべき言葉だ。


 私と周防は婚約者だけれど、嫌い合っているのでこの場合仲がいいというのは全く当てはまらない。

 一瞬私と周防が仲睦まじく夫婦となってきゃっきゃうふふしているという、怖気の走る想像をしてしまったじゃないか。


「目が悪いのか貴様」


 同じく嫌だったらしい周防が吐き捨て、お姉さんに詰め寄っていく。


「訂正しろ。夜子と仲が良いなどと、今のままでは有り得ん。妙な噂を流されたら迷惑だ」


 結構必死だった。そんなのに嫌か。私も嫌だけど、何か釈然としない。一応婚約者でしょ、私たち。


「お似合いそうなのに。大体どうしてそんなに嫌い合ってるのよ?」


「そんなのこの男の傲岸不遜な態度がむかつくからに決まってます!」


「この女が常識知らずで婚約者の俺にまで迷惑が及ぶからだ!」


 私と周防はびしっとお互いを指差し合ったあと、即座にお互いの台詞について噛み付きにかかる。


「誰が常識知らずですって!? あんたなんか上流階級を鼻にかけてコンビニとかスーパーに行ったことすらないおぼっちゃまなくせに!」


「誰が傲岸不遜だと!? 毎度お前が起こす幽霊騒ぎをお偉方に頭を下げて収拾させているのは誰だと思ってる!」


 ほら、こんなにいがみ合ってるんだから、仲がいいなんて有り得ないでしょ!

 こんなのが婚約者とか、本当に先が思いやられる。


「……とにかく話を戻すぞ。俺たちが今日調べるのは、ここと、ここと、ここだ」


 眉間に皺を寄せた周防が地域一帯の地図を取り出し、ペンで三つ丸印をつける。

 ケンカをしている場合ではないので、私もいきり立つ心を抑え周防に合わせた。


「繁華街のど真ん中と海水浴場、あとは最近開発された住宅地の一角か。……結構離れてるわね」


「これらは全て目撃情報が出た場所だが、夜子の言う通り一つ一つは距離があり、関連性も認められない。出現場所から対象の正体を特定するのは不可能に近いだろうな」


 周防は三つの印をペン先でつつく。


 確かに地図上だけで見ても、ペン先を移動させるだけでそこそこの間が空く。

 これで実際の距離を移動するとしたらかなり時間がかかるだろう。


「そうねえ。これが海水浴場の他にプールとかも含まれてたなら水霊関係が怪しいところなんだけど、ここまで統一性が無いと意味不明ね。他の視点からは絞れないの? というか、こんな場所にその対象が現れたら隠蔽どころの騒ぎじゃなくなると思うんだけど。この分だと死者だって出ていそうじゃない」


 聞いた限りでは、かなり危険そうな相手に思える。

 何しろ直前まで姿が見えない捕食者だ。しかもその対象は生きた人間。


「それがそうでもなくてな。捕食で姿が見えるのは一瞬で、明らかに人間や動物の仕業でないと断定できるものは少ないんだ。例えば海水浴場で起きた騒ぎにしても、犠牲者は複数出たようだが、ほとんどが海中で襲われているせいでろくに遺体が回収できていない。今のところは、いずれも人食い鮫の仕業ということになっている」


 モンスターもののパニックホラーみたいだなぁ。昔は結構そういうの流行ってたよね。映画だけみてもピンからキリまであったけど。蛸足の生えた鮫が陸に上がって蛸足で歩いて人を襲う映画とか、もはやギャグにしか見えなかった。


「幽霊よりも、こういう人喰い鮫のせいにされた方が胡散臭く感じるのは、職業病かしらね」


 嘆息する私を周防はちらりと見て、再び私から目をそむけた。

 意味もなく見ないでよ。何だか居心地悪いじゃない。


「仕方あるまい。それに別の原因とされているのにいまだ関連付けられているというのは、不審な点が残っている証拠でもある。調べて損はない」


 確かにそれはそうだ。

 本当に何の関係も無いと証明できてるなら、改めて調査場所に含める必要なんてない。

 周防に続きを促す。


「他はどうなってるの?」


「住宅地の一件は迷い込んだ野犬の群れの仕業として処理された。真夜中でほとんどの住人は寝静まっていてろくに目撃者もおらず、大量の血痕があっただけで死体が見つからなかったそうだ」


「野犬か……いくらなんでも荒唐無稽過ぎじゃない?」


 それなら、遠吠えとかで起こされた人から苦情が出そうなものなんだけれど。


「おそらく他に納得できる理由を見つけられなかったのだろう。見えない捕食者に肉片も残らず食い尽くされたなど、普通は考え付かんよ。超能力者の仕業にするにしても、短期間でこれだけの被害を出すのならば間違いなく超能力は一級品だ。それほどの能力者ならば、国が管理していないはずが無い。よって、超能力者の仕業である線は薄い」


 他に理由が思いつかなければ、多少苦しくても納得せざるを得ないか。単に誰も気付かなかっただけかもしれないという可能性もあるし。


「でも逆を言えば、よく全部関連付けられたわよね。退魔絡みの事件であることは確かでも、もしかしたら下手人は違うかもしれないのに」


「それを踏まえての調査だ。単独か、複数か。同一犯なのか、それとも別件か。結果によって対処方法はがらりと変わってくる」


 確かにその通りだ。それすら分からないのでは、やりにくいことこの上ない。


「今のところはその調査目標とやらの仕業の可能性が高いのよね?」


「唯一繁華街の事件が断定できたからな。白昼堂々、往来で突然人が食われた。現場は一時パニックに陥ったそうだ。まあ当然だな」


 周防はそこで言葉を切り、黙って話を聞いていた振りをして、完全に私たちから置いてけぼりにされていたお姉さんを手招き寄せる。


「おい。話についてきているか?」


「い、一応は。でも聞けば聞くほど何だか凄い危険そうね。あたしに務まるかしら」


 不安げなお姉さんを周防は上から下までじろじろと見て、見下した笑みを浮かべた。


「安心しろ。初めから誰もお前の活躍など期待していない。俺と夜子だけでも充分なくらいだからな。後ろで震えて見ているがいい」


 言われた本人のお姉さんではなくとも、仲が良い私としては頭にくる台詞だった。

 かっちーん。


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