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女神退魔師  作者: きりん
我が家の賑やかな幽霊たち
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二話:公園の怪異とその真相

 蝉の鳴き声が高く、遠く響いている。

 季節は夏。


 爽やかな風が草木を揺らし、暑いことには暑いけど、高層ビルが密集した都会特有のむわっとした湿度の高い暑さとは違う、からっとした暑さの一地方都市でのこと。

 木陰ならば充分涼が取れる程度には過ごしやすい、そんなある日。


 放課後、私はスーパーに寄った帰り道にある、とある公園に来ていた。

 遊具が多くそこそこ広くて自然も豊かという、子どもたちの遊び場としては絶好の好条件なのにも関わらず、この公園はいつも人気がなく閑散としている。


 回りにも家族向けのマンションがいくつも建っているというのに何故こんなにも人がいないのかというと、敷地内に入るとまるで地下に続く洞穴の中にいるかのように寒気が走り、得体の知れない視線を感じることがあるという、地元では有名な心霊スポットであるためだ。


 見える側から言わせてもらえば、ぶっちゃけこの公園には幽霊なんていない。だが私が利用している時のみに限定すれば、幽霊は確かに存在する。


 何せ普段から霊に纏わり憑かれている、歩く霊牽引機の私だ。私が訪れた場合のみ、この公園には私を慕う無数の霊がどこからともなく集まってきて、心霊スポットと化す。


 恥ずかしながら、そうして私が頻繁に訪れたために、心霊スポットとして噂になってしまった場所が他にもいくつかあったりする。


 近くにある備え付けのベンチの上に、鞄とスーパーの買い物袋を置いた。集まってしげしげと買い物袋を覗き込んでいる幽霊たちを片目に見ながら、深く、深く、深呼吸する。

 それを繰り返すこと五回。頭から雑念を消し、現実に起こしたい現象を強く思い浮かべ、丹田に力を篭める。


 空想の扉を開いた。

 体中を巡る生命エネルギーが、末端に集中していくさまをイメージする。

 集められたエネルギーが飽和し光り輝き、バチバチと放電音を響かせ、回りに旋風を巻き起こす光景を想像する。


 生命エネルギーって何だとか、そんなんで放電とか旋風が起こるとか有り得ないだろとか思ってはいけない。

 いくら不思議な力があっても、できないことをできないと否定しているままでは現実という名の壁は崩せない。


 空想を空想で終わらせないためには、無理やりにでも、自分ならできると思い込むことが重要だ。

 構って欲しいのか目の端をうろちょろする幽霊たちを視界に入れないようにしつつ、静かにイメージを続ける。


 うまくいけば、だいたいこの時から空想の一端が現実を浸食していく。具体的にいえば、イメージしたものが私の精神力を媒介にして構成され、実際に可視化し始める。


 この状態ではただ見えるだけで薄ぼんやりとした幻同然の代物だが、非常識な光景を目の当たりにすることで、常識から開放されたイメージはさらに強固に補強され、実体化へのプロセスを辿っていくのだ。


 イメージして現れた結果を見て、さらに細部まで綿密にイメージを深める。そのサイクルを何度も繰り返して、自分の中のイメージを確固たるものにしていく。

 その結果、私の脳内では、緻密に描かれた3DCGのような、完璧な空想が出来上がっていた。


 ここまでくればもう一安心。

 もはや現実と私のイメージは一体となり、両者に違いは無くなった。身体は熱いくらいに生命の熱を帯び、具現化した力の余波で旋風が吹きすさぶ中、手のひらには空想した通りに眩く光り輝くエネルギーの塊が形成されている。


 あとはそれを解き放つだけ。

 大地を蹴って思い切りジャンプし、片膝を立てながら空中で腕を交差させて突き出し、掛け声一発。


「ブラスターシュート!」


 声とともに突き出した手のひらから放たれたレーザービームが、目標物として設置した空き缶を文字通り爆砕した。


 ……自分でもどうかと思うが、批判は受け付けない。これは変身ヒーローが悪の怪人を倒す時に放つ由緒正しい必殺技で、巷の幼児には大人気、らしいのだ。……本当に、どうかと思うけれど。

 着地した私の背後から、ぶふっ! と噴出すような音が聞こえたので、音のした方向に振り返る。


「ちょっと! 笑わないでよ! 見たいって言ったのはあんたでしょ!」


 恥ずかしくなり、思わず文句が口から出た。


 最近備わった能力のことを話したら、目を輝かせてお気に入りの変身ヒーローの必殺技を再現して欲しいとねだってきたから、羞恥心を堪えて見せてやったというのに、失礼なことに、奴は私が手からビームを出した事実よりも、大真面目に取ったポーズの方がつぼにはまったらしく、腹を抱えて笑い転げていた。


 白い半袖シャツに紺の短パン、膝には絆創膏、頭にはプロ野球チームのロゴが入った帽子を被っており、ちょっと身体が全体的に半透明で、潰れかけた片目が眼窩からぷらんぷらんしているのを除けば、いたってごく普通の小学生低学年くらいの少年だ。


 言うまでも無いと思うが、幽霊である。現在家で居候状態になっている幽霊のうちの一人。先ほどから回りでうろちょろしていた幽霊たちの一人でもある。


 幼いうちに死んでしまったこと自体哀れという他ないというのに、こいつの場合幽霊になるまでの経緯がまた色んな意味で涙を誘う。


 同級生に好きな女の子がいて仲良くなりたくて、でも素直に仲良くなりたいと口に出すのは気恥ずかしくてちょっかいをかけていたら、彼の思惑とは裏腹に女の子はいじめられていると思ってストレスを溜め込んでいたようで、ある日突然プッツンして逆上した女の子にコンパスで目玉を抉り出され、激痛と出血でショック死した。


 以上が幽霊になるまでの彼の顛末である。

 甘酸っぱい思い出に終わってもおかしくない出来事が、蓋を開けてみれば大惨事。


 しかも女の子の方も、溺愛していた一人息子を喪って正気を失った奴の母親が暴走し、最終的に包丁で刺し殺されるという後味の悪い結末を迎えた。


 幽霊になったばかりで為す術もなかった奴は、殺された女の子が同じように幽霊になるまで、一部始終を見ているしかなかった。


 幽霊になった女の子は死の間際の恐怖からか錯乱したまま姿を消してしまい、こうして残された奴は、彼女が死んだ後も幼心に女の子に対する申し訳なさで死ぬに死にきれず、長い間当ても無く彷徨っていたところで私と遭遇し、今に至るというわけである。


 その頃には奴が生きていた時代は遥か過去の出来事になっていたというのに、奴はいまだに殺された女の子のことを引きずっており、心配で成仏できないと泣き喚くので、私がわざわざどこかで彷徨っているであろう女の子の幽霊を探し出す羽目になった。


 苦労して見つけた女の子は奴の母親に殺されたことがトラウマとして根強く残っていて、奴のことを伝えた途端怯えて怖がり、会いたくないと泣いて嫌がった。


 私は直接現場を目にしたわけではないが、当時の現場が大人でもショックを受けるような凄惨な状況だったことは想像に難くないし、それを経験したのがまだ幼い女の子だとすれば、当然である。


 だが意外なことに、女の子を宥め説き伏せていざ引き合わせてみれば、女の子の方も実は奴が好きだったらしく、まるで長年喧嘩をしていて疎遠だった恋人同士が仲直りをするようなやり取りを経て、奴らは引っ付き虫のようにくっついて離れなくなった。


 驚くべきは女の子の奴に対する愛情の深さである。彼女の視点で見れば、好きな相手とはいえ苛められて、その母親に殺されたのだ。普通ならとっくに想いは枯れている。


 ところがそうでなかった。確かに奴を殺した当時は嫌いを通り越して憎かったらしいが、好きだったからこそ余計に憎かったみたいで、奴の誠実な謝罪もあり、誤解が解けたら今まで以上に恋の炎が燃え上がったそうな。


 何だかなーと思いながらも、未練もなくなったところで一緒に成仏するのかなと少し安堵して見ていたら、奴は成仏なんて嫌だと抜かし、あろうことか申し訳なさそうな顔の女の子と一緒に私に憑りついた。恩を仇で返されるとはまさにこのことである。


 まだ遊びたい盛りの奴らにとって成仏とは投げ捨てるもの。女の子に誤解されたままであることへの未練はなくなったけれど、今度はもう別れなければいけないことへの不満が沸き上がってきた、というのは説明を求めて詰め寄った私に対する奴の弁である。女の子も来世に期待するより現世を奴と過ごしたいそうだ。


 いくら追い払おうともどこまでも憑いてくるので、今は諦めて仕方なく憑依を解くことを条件に私の家に住まわせている。一応二人とも幽霊とはいえまだ幼児だし、成仏せずに憑依されたからといって害意を持たない霊を祓って無理矢理消滅させるのは気が引ける。奴は生意気だが、女の子の方は健気で可愛いし。


 だが私の前でいちゃつくな。変なムードを作るな。カップルは死ね。ああだめだ、悪態をつこうにも奴らはすでに死んでいる。

 こっちは心霊現象のせいで彼氏ができるどころか男友達にも逃げられてばかりだというのに、世の中は不公平だ。


「気が済んだでしょ? もう帰るよ」


 声をかけても、奴の笑いは収まるところを知らない。

 苛立ちで口元がひくついていくのが自分でも分かった。たぶんきっと、私のこめかみにはくっきりと青筋が浮かんでいることだろう。


 いまだに地面に仰向けになってヒーヒー笑っている奴をその場に残し、ベンチの鞄と買い物袋を取り、後始末をしてそそくさと公園を後にした。


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