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女神退魔師  作者: きりん
こんにちは異世界
18/33

十八話:新世界のお家で昼食を

 結局、街については当分の間私たちに必要な分だけ創って、後は状況に応じて創り足していくことに決まった。


 まず必要なのはここにいる間私たちが暮らす家。現実世界にある自宅に戻ってもいいのだが、もうすぐ夏休みで纏まった時間が取れることもあり、どうせならこっちの世界でもある程度暮らせるようにしたい。


 あとは植物や動物、虫などの生き物。食物連鎖を考えて、現実には存在しない種を混ぜつつちゃんと循環するように創るつもりだ。


 そして創った生き物たちが生きるための自然環境。この時に森や湖なども創る。欲をいえば私たちが安全に遊べる場所も欲しい。


 ある程度生活が安定したら、ついに人間の創造に入る。これは私でもどうなるか予想がつかない。私に、本当に神の真似事ができるのだろうか?


「創る家のサンプル、これなんてどうです?」


 幸子が差し出してきたのは、キャンプ雑誌。開いてあるページには丸太で組まれた自然美に溢れるログハウスの写真が掲載されている。


 親切なことに内装の写真も載っていて、ログハウスに合わせて作られたのであろう木材の家具は、素朴だが味がある。

 五、六人が泊まるのを想定しているらしく、大きさもちょうどいい。


「良さそうね。これにする?」


「では皆にも聞いて図に起こしてきますね」


 実は絵心もあるらしい幸子は、キャンプ雑誌とスケッチブックを片手に各々の意見を聞きに行った。

 そして戻ってきた時には、私たちの家の図面がすごいことになっていた。

 外見がログハウスなのは変わらない。


 だが地下室がついていて、牢屋が設けられている。武器庫だとか、ダンスフロアだとか、パーティー会場だとか、お座敷やら、遊戯室やら、レストランの厨房かと思うような台所やら、現実世界でも個人宅では中々お目にかかれないような部屋がいっぱい用意されていて、間取りや内装が物凄いことになっている。にもかかわらず、外観は元のログハウスのまま。


 牢屋とか一体何に使うんだ。というか中と外の大きさが明らかに違うんですけど……。


「どうしてこうなった」


 目を点にした私がつぶやくと、幸子が曖昧な笑みを浮かべて目を逸らす。


「それが、皆さんの意見をできるだけ取り入れて調整するようにしていたら、気付いたらこんなになってしまって……」


 私は寄ってきた眉間の皺を揉み解す。


「これ、本当に創らなきゃダメ?」


「たぶん、創らないと皆からブーイングが飛ぶと思います……」


「うん、まあ、努力はしてみるよ……」


 結論から言うと、この案は没になった。

 創らされるところまでは行ったのだが、いざ実際に作る段になって、私が創れなかったのである。

 お姉さんなんかは私が故意に手を抜いていたんじゃないかと疑っているようだったが、そうじゃない。


 やる気が底辺を突き抜けていたせいで、心のどこかで「失敗しないかなー」とか考えていたのは確かだけれど。


 まあ、原因を冷静に分析すれば、私が真剣に創る気がなかったせいかもしれないけど。言わなきゃばれないだろう。

 創れないのは仕方ないので、代わりに普通のログハウスを創ることになった。


 写真を見ながらログハウスのイメージを固めていく。前述の通り内装も写真付きで雑誌に紹介されていて、空想を練るのはとても簡単だった。大陸そのものを創った経験が生きているのか、イメージの精度と速度が心持ち上がっているようだ。


「よし、できた」


 完成した空想上のログハウスを、私の力で現実に創造する。

 半透明だったその姿が実体を得ていくその姿は、いつ見ても気持ちが良い。


「お疲れ様、夜子ちゃん。一区切りついたし、ちょっと休憩してお昼にしようか」


「あれ、もうそんな時間?」


 かけられたお兄さんの声に振り向く。

 この世界に来たのが朝の八時頃だから、かれこれもう四時間は経過していたことになる。


 びっくりして腕時計で時間を確認すると、確かに時計の針はもう12時を回っている。うわ、全然気付かなかった。

 回りを見回せば、さっそく私とお兄さんを除いた面々がログハウスの中に入ろうとしている。


「そうですね。じゃあ、お昼休憩にしましょう」


 私は頷き、お兄さんと共に皆の後を追ってログハウスの中に入った。



□ □ □



 ログハウスの中は建材である丸太の色に合わせ、茶色系統の内装で纏められていた。

 二段ベッドを三つ置いた寝室、キッチンが併設されたリビング、2部屋の空き部屋兼客室に、トイレと風呂と大体の設備は揃っている。


 電気と水道はまだ手をつけていないので形だけだけれど、おいおいその辺りは創っていく予定だ。外に温泉を創ったり、雰囲気を出して井戸を設置してみたりしてもいいかもしれない。本来なら源泉を探したり水脈を探したりしなきゃいけないけど、いざとなったら私の力で代わりになるものを創ることもできる。大いに夢が膨らむ。


「ねえ、夜子お姉ちゃん。お弁当は?」


 リュックサックを漁っていた幼女が私を見上げてくる。


「え? 作ってきてないけど」


 もともと私はお昼にはいったん向こうに戻る予定だったので、弁当は用意していない。その旨を告げると、奴が真っ先に不満の声を上げた。


「せっかく家創ったんだから、こっちで食べられるように弁当とか作っとけよなー」


 それは理不尽というものではないだろうか。


「なら今すぐ創ろうか?」


 あまりにもがっかりした様子なので、きちんと食べられる状態に調理された料理を創れるかどうか試したいこともあり提案してみたら、奴は乗り気でなさそうな顔になった。


「今すぐ作ったって遅くなるだろー。買いに行くにしても同じだし」


「買うなら確かに遅くなっちゃうだろうけど、創るならそんなに時間かからないわよ。複雑なものを創るわけじゃないし」


「んなわけねーだろ。六人分だぞ? 夕飯の支度だっていつも二時間くらいかかってるじゃねーか」


 んんん?

 何か、会話が噛み合っていそうで噛み合って無い変な感じがする。


「もしかして、あたしが料理すると思ってる?」


「他にまともにメシ作れる奴なんていねーぞ?」


 試しに問いかけてみると、奴は質問の意図が掴めなかったようで、きょとんとした。


 あ、やっぱり。


「違う違う。料理じゃなくて創造の方。鳩とか作れたから、食べ物になりそうな動物が作れるのは分かってるんだけど、一度ちゃんと調理されたものを創ってみたくって、試してみようと思うの」


「ちょっと待ちなさい。夜子、あんたまさかあたしたちに超能力で創ったものを食べさせるつもりなの!?」


 横で私と奴のやり取りを興味なさげに聞いていたお姉さんが、ぎょっとした顔で慌てて口を挟んできた。

 確かに心配だよね。私ももしお姉さんの立場だったら、そんなの食べて大丈夫かなって思う。

 なので。


「もちろん私も食べますよ。自分が食べても大丈夫なのか調べたいですしね。うまくいったらもう食費要らずです」


 私が密かに期待しているのはそれだ。奴と幼女はまだ小さいとはいえ、五人分の食費は結構私の財布を圧迫しているのだ。特にお姉さんとか贅沢が好きだから、食事を質素にすると拗ねるので手を抜けない。


 働くにしても、お姉さんに限らず同居人たちは蘇生しているとはいえ突然幽霊に戻ってしまう危険性がある以上ろくな仕事につけないし、私の仕事を手伝ってもらうにしても、元軍人であるお兄さんと生前の超能力に定評があるお姉さん以外は荒事には慣れてないので、たいしたことはさせられないのが現状だ。


「確かにろくに食費も入れてないのは悪いと思ってるけど……私だって部屋を提供してるんだから、今まで通りでもいいじゃない」


「契約してるのは私です。家賃を払っているのも私ですが何か?」


「あたしだって、働けるなら家賃くらい入れるわよ。本当ならあたしの家なんだから……」


 あ。お姉さんがふてくされた。

 隣の席で話を聞いていた幸子が椅子を寄せ、私の耳に口を寄せる。


「あのっ。そんなに負担になってるなら私、家に戻りましょうか……?」


 そこに遠慮の感情を感じ取り、私は慌てた。

 まだ幸子の幻痛は完全に消えたわけじゃないし、そもそも私の本心は好奇心で料理を創って食べさせてみたいのであって、食費云々は確かにちょっと困っているのは確かだけれど、後付けの動機に過ぎない。


「いーよいーよ。いざとなったら仕事増やせばいいし、お姉さんもごめんなさい。食費が浮いたら他に回してもいいですから。本当は私の力でちゃんと皆が食べられるものを創れるか、試してみたいんです」


 私の謝罪に、お姉さんは気まずげな顔をする。


「あたしに気を使わなくてもいいわよ。……実際、あの家の今の主は夜子に間違いないんだから」


 最後の台詞は少し湿り気を帯びていた。

 ……ちょっとお姉さんのこと、傷付けちゃったかもしれない。悪いことしたな。別にそんなことしたかったわけじゃないんだけど。


 成り行きを見守っていたお兄さんが会話に割って入る。


「とりあえず創ったものを見てから判断しても遅くないんじゃないかな。ほら、みかちゃんが待ちきれないみたいだし」


 見れば、幼女が小さな身体でテーブルに突っ伏し、切ない声と表情でお腹をさすっている。


「みか、お腹空いたよ……」


「もう何でもいいから早く用意してくれ……。この際創ったものでも文句は言わねーよ」


 気が進まなさそうだった奴も空腹に負けたらしく、盛大に腹を鳴らしている。


「……もう。調子が狂うわね。夜子、早くお昼にしましょ」


「そうしましょうか」


 私とお姉さんは顔を見合わせ、苦笑した。


「じゃあ、何食べますか? 私が食べたことがあるものか、作ったことがあるものなら大体再現できると思いますけど」


 メモ用紙とペンをを荷物から取り出して皆から注文を取る。

 注文を取った私は、確認のためにもう一度復唱した。


「それじゃ注文確認するね。樹理亜さんはレアステーキ、隼人さんは牛鍋、孝太がハンバーガーに、みかちゃんがおとなランチ、幸子がクリームシチュー。間違ってないかな?」


 ちなみにハンバーガーはかつて私が手作りしたもの。一時期ジャンクフードを手作りするのに凝っていて、よく作っていたのを覚えていたらしい。おとなランチというのは、もう子どもじゃないからお子さまランチは嫌だと幼女がごねたので、私が名称を変えて勧めたものである。


 名前を変えただけで納得するなんて、幼女マジ天使。

 待っても訂正の声は出なさそうだったので、さっそく創造に入る。

 ここまで何回か創造を行って、私はいくつかの法則を見出した。


 一つは現象や概念よりも物質や生き物の方が創造しやすく、時間もかからないということ。

 もう一つは創造するものが小さければ小さいほど、創造に必要な時間が短いことだ。


 この力で元からあるものを改造することも可能だが、一から全てを創り上げる方が難易度が低い。また、改造したものは私が寝たり気絶したりして意識を失うと、元に戻る。

 創造の力は使えば使うほど練度が増すが、同時に使えば使うほど精神力を消耗する。


 目安としては、浮遊大陸を一つ創ると満タンの状態から精神力が半分になり、ログハウスで最大精神力の六分の一ほどを消費する。浮遊大陸と同等の精神力で家具などの細々としたものを五十個は創れる感じだ。

 ちなみに前に創り出したレーザービームとかなら、大体家具二つ分くらいで再現できる。

 こんな感じだ。


 浮遊大陸やログハウスなど大掛かりな創造をこなしたからか、皆の注文は大して時間をかけなくとも簡単に創造で再現することができた。


 これで食費が浮くと私は大喜びしたのだが、創造した料理を皆で三食食べ続けた結果、私だけが栄養失調で病院に搬送されて、病院から連絡を受けて駆けつけたお師匠様にこっぴどく叱られた。

 どうやら私が自分でも創り出したものを食べても意味がないようだ。


 同じように私が創った料理を食べた幽霊たちは何事もなくピンピンしている。

 幽霊たちが搬送されても困るのでそれはそれでいいのだが、納得がいかない。


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