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女神退魔師  作者: きりん
こんにちは異世界
16/33

十六話:私たちの世界を創ろう

 それからまた一週間が経ち、ついに予定していた休日がやってくる。


 同居人たちに半ば強制されてであるものの、今回はしっかり準備をした。正確には、皆が集めてきた世界創造のイメージに役立ちそうな資料がどっさり入ったバッグを背負っている。世界中の文化遺産の写真とか、建築物の写真とか、大自然の写真とか、そういうの。


 でもそれに混じって、お菓子の箱とか水筒とかが紛れているのはどういうことなの。ピクニック気分ですか、そうですか。

 重いリュックサックを背負ってえっちらおっちら歩く私は、同居人を全員空間の縫い目の前に案内する。


「見えますか?」


 私の問いに、同居人たちは戸惑ったり怪訝な顔をしたりしている。


「そういう可能性もなくはないと思っていたけど、やっぱり夜子ちゃんにしか見えないみたいだね」


 答えるお兄さんはどこか残念そうだ。

 創る時に改良していれば皆にも見えるものになっていただろうが、元からあったものを真似ただけなので見えないままらしい。


「ねえ、本当にここにあるの?」


「ここにありますよ」


 きょろきょろと回りを見回すお姉さんに、私は皆の目の前にある空間の縫い目を指差す。材質はよく分からないが、糸のようなもので隙間が開かないよう、厳重に縫い付けられているのが私にははっきりと見えている。こんなものまで創れてしまうとは、自分で言うのも何だが私の力は意味が分からない。


 お姉さんは目を細めて見えないものを見破ろうとし、やがて諦めたように首を振った。嘆息するお姉さんの顔には、少なからず落胆がうかがえた。


「駄目ね。あたしには全然見えない。あんたたちは見える?」


 話を振られ、同じく目を凝らしていた奴と幼女が揃って首を振る。


「俺にも見えねー」


「うー。見えない。つまんなーい」


 女の子は頬を膨らませて不満そうな顔をし、横にいる幸子の袖を引っ張る。


「ねーねー、幸子お姉ちゃんは? 見える?」


「やっぱり私にも見えないですね。夜子さんにだけ見えるのは、何か理由があるのでしょうか……」


 不思議そうな顔で幸子が首を捻る。むー、という彼女の唸り声まで聞こえてきそうなほどだ。


「とりあえず手でも繋いでみようか? 皆に見えなくても、接触さえしてれば一緒に行けるかもしれないし」


 提案すると、私の手に子ども二人が飛びついてくる。


「あっ、じゃあ俺右手!」


「みかは左手!」


 両手が塞がった私は苦笑する。


「悪いけど、どっちか片手だけにしてくれないかな。でないと縫い目を解けないよ」


 ほら、と繋がれたままの両手を軽く振ってみせると、奴と幼女は顔を見合わせ、声を張り上げる。


「みか! お前がこっち来いよ!」


「孝太君がこっちに来ればいいじゃない!」


 どっちでもいいからとっととしてくれと思うのだが、二人は変なところにこだわり、頑としてお互いが譲ろうとしない。


「ああもう、どっちでもいいからさっさとしないさい!」


 短気を起こしたお姉さんが奴の首根っこを掴み、引き剥がす。


「やーめーろー!」


 じたばた暴れる奴を見て、我に返って騒ぎに気付いた幸子が事態を把握し、笑顔を取り繕って奴を諭す。


「ほら、夜子さんは右利きだから、作業するには右手が空いていた方がいいでしょ?」


「……む。分かったそうする」


 しぶしぶ私の右手から手を離した奴が、幼女の隣に移動してもう片方の手を握った。

 空いている自分の手を幸子に差し出す。


「姉ちゃんも来いよ、ほら」


「あ、そうですね。それでは」


 いそいそと幸子が奴の手を握る。幸子の顔はワクワクしているのが丸分かりで、にんまりと口元が弧を描いている。


「じゃあ、あたしはここかしらね」


 幸子の肩にたおやかな繊手が置かれる。幸子が振り向くと、お姉さんはにやりと笑った。

 その肩にまたがっしりとした男の手が置かれる。


「樹理亜ちゃんがそこなら、僕はここかな?」


 振り向いたお姉さんは思わずといった様子でお兄さんの顔を見上げ、潰したゴキブリをうっかり間近で直視してしまった主婦のような顔をした。

 私は空間の縫い目に手を伸ばし、物質ではない正体不明の糸に手を伸ばす。


「準備はできたかな。じゃあ、行きます」


 糸を引き千切ると解けた縫い目は大きく広がった。その中に私は皆を引き連れて飛び込む。

 再び何もない真っ白な世界へと突入を果たした私は、振り返って皆がついてきていることを確認する。

 無事全員辿り着けたようで、皆あんぐりと口を開けて辺りを見回していた。


「すげぇ。本当に入れた」


 感嘆する奴の横で、幼女が足元を確かめるように足踏みする。それだけで彼女の身体が少し浮き上がった。


「なんか、幽霊のままでいる時に似てるね。お空に浮いてるみたいにふわふわしてる」


 幼女はそのまま面白がって、飛び跳ねて遊び始めた。

 奴の手を離して前に出た幸子が、目を凝らして遠くを見つめる。


「見渡す限り何もありませんね。この世界はどこまで続いてるんでしょう」


 お姉さんは器用に何も無い場所に腰掛けるように浮かんでいる。


「こんな状態だと、世界が丸いのかどうかさえ定かじゃないわね。実は平面で世界の果てがあったって言われても、驚かないわ」


 話を聞いていたお兄さんが、居心地悪そうに身じろぎした。


「とりあえず、僕たちが足をつける大地だけでも先に創らないかい? 足元に何もないと落ち着かないよ」


 お兄さんの言うことももっともだったので、私はまず私たちが立つための地面を作ることにした。

 イメージとしてはアニメや小説などにたまに出てくる浮遊大陸に近い。重力と周りの空もおまけでつけてやる。


 今までに無い大きさのものを創り出そうとしているせいか、普段の力の行使よりも精神力を削られる感じがした。

 やはり普段行う創造よりは難度が高く、イメージが一定しない。


 最初のうちはシルエットがぼんやりと浮かび上がるだけで中々具現化しきる様子が無かったものの、しばらくすると、不安定だったイメージも固まり、詰まっていた中身がどばっと出たかのような唐突さで、私たちの足元に浮遊大陸が出現した。


「こんなものかな」


 足で地面を蹴って感触を確かめる。足の裏からは硬い地面の感触が伝わってきて、元の世界の大地とあまり変わらないようだった。違いがあるとすれば、私が創った大陸には、初めからそういうものとして浮くための未知の物質が大量に含まれているであろうということか。現実にはない物質を想像力次第で創り出せてしまえるのは、私の能力の強みである。


 っていうか、こんなものまで創れるなんて、ますます私の能力を外部に明かすわけにはいかなくなってしまった。

 大地を踏み締めて、お兄さんは安堵の表情を浮かべる。


「おお、やっぱり地面があるというのはいいねぇ」


 好奇心旺盛な子どもたち二人は走り回って辺りを見回している。


「おっきいねー」


「大陸の端がここからじゃ見えないな。どれくらい広いんだ?」


 奴の問いに、私は振り向いて答えた。


「だいたい二千平方キロメートルくらいの正方形になっているはずよ。面積でいえば東京よりは少し小さいかな」


 お姉さんが感嘆のため息を漏らす。


「結構広いのねぇ」


 景色を眺めていた幸子が私に振り返る。


「そういえば、ノリノリでいっぱい資料を集めましたけど、夜子さんはこれからどういう世界を創るつもりなんですか?」


「まずは私たちがここに来た時に滞在する街を一つ創って、それから人間を含めた生き物を創ろうと思ってる。自然環境を整えるのはその後かな。最初のうちは色々試行錯誤することになるだろうし、まずはこの大陸の中だけで練習するつもり」


 私と幸子の話を聞いていた奴が、呆れた顔をする。


「なんか、そういう話を聞いてると夜子って本当に神様みたいだよなー。実は人間じゃないんじゃね?」


「いや、これでも人間のつもりなんだけど」


 心外である。別にそんな特別な存在になった覚えはないのだが。

 まあ、覚醒した力があまりにもチートすぎるので、自分でもちょっと最近人間離れしてきたかなー、と思わないでもない私だった。


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