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女神退魔師  作者: きりん
こんにちは異世界
14/33

十四話:異世界転移をしそうになった日

 前後左右の概念すらなさそうな何もない空間を、私は当てもなく漂っていた。

 超能力が発達した時代に生きる退魔師という職業柄、条理では説明できない物事に触れる機会は多々あるが、今回は極めつけだった。


 こんなことになってしまったのは、ひとえに私の慢心のせいである。

 学校帰りにスーパーに寄っていこうと思いついたのがそもそもの原因だ。スーパーへ向かう途中、空中に変な縫い目があるのを見つけてしまったのが運の尽き。


 好奇心は猫をも殺す。大昔からこんな格言が残されているくらいだというのに、好奇心がうずいて押さえ切れなかった私は、危なそうだったら逃げればいいやと楽観的に考えて縫い目を解こうと試み、その結果逃げる間もなく口を開いた裂け目に呑み込まれたのである。


 自分でいうのもなんだが、もう少し考えろよと思わなくもない。いくらなんでも油断しすぎである。最近目覚めた創造の力があまりにも強大だったので、ちょっと調子に乗ってしまっていた。呼吸ができている辺り少なくとも空気はあるようだが、もしそれすら無かったらと思うとぞっとする。


 どうして空間の縫い目なんていう怪しすぎるものに警戒心を抱かなかったのか、自分で自分を殴りたい気分だ。


 ひとしきり自己嫌悪に陥った後でさてこれからどうするということになり、とにかく戻るしかないという結論に達したのだが、出口が見つからない現状方法なんて一つしか思いつかなかった。

 私の力を使って強引に元の場所への出口を創るのである。


 だが私の力で望んだものを創り出せるかどうかは、私の想像力にかかっており、一回や二回で成功するとは思えない。


「でも、やらなきゃ帰れそうにないし、とにかくやってみないと……」


 覚悟を決めて出口を創り出した先では、遠くで化け物としか形容できない異様な怪物が人を喰うというショッキングな光景が展開されていた。近くを見れば、喰い残しと思われるグロテスク度満載なもろもろが散らばっている。


「お邪魔しました」


 すぐさま回れ右して変な空間の中に逃げ込む。

 どうみても繋がった先は異世界です本当にありがとうございました。


 創ったものは基本的に物理的な方法以外では消せないので、とりあえず入ってきた入り口にあったのと同じの、空間を縫える糸を創って縫っておく。

 他のものを創っても良かったが、実物を見たのでこれが一番創りやすかった。


「何で別の世界に繋がんのよ意味分かんないし……」


 気を取り直してもう一回。


 再び出口から出ると、手を伸ばせば届くくらいの至近距離で、ふりふりのいかにもな魔法少女の衣装に身を包んだ小学生くらいの少女と、何かのマスコットみたいなぬいぐるみが明らかに私を見ていた。


 少女は突然現れた私に仰天しているようだ。


「あんなところから現れるなんて、きっと悪い奴に違いないよ! やっつけよう!」


「ええええ、いいのかなそんな判断基準で……」


「違っててもばれなきゃいいんだよ!」


「いいわけあるかー!」


 何もない空間から顔を出した私と目が合っった途端濡れ衣を被せてきたぬいぐるみをとっさにぶん投げ、おかしな空間の中に戻る。出口を縫い直すことも忘れない。


 それにしてもひどいぬいぐるみだった。あの少女も振り回されてるのか色々苦労してそうなやつれた面構えだったし。


「今度こそ……」


 三度目の正直とばかりに気合を入れて創り出した出口の先では、何だか私とよく似た黒髪の退魔師っぽい和風少女が驚愕の表情で薙刀を掲げていた。


「何もない空間から現れるなんて、まさか新手の妖魔!? くっ、この世界をあなたたちの好きにはさせない!」


「ぎゃあああ!」


 少女が振るってきた薙刀を反射的に手に持った梔子で打ち払い、体勢を崩した隙に慌てて自分が創り出した出口である空間の裂け目を縫って、梔子の状態を確認する。

 ううう、梔子は無事だけど、抜く暇が無かったからお気に入りの刀袋がボロボロにぃ……。


「気、気を取り直して……」


 四度目の出口から顔を出す。

 アスファルトを闊歩していたゾンビの大群が、一斉に方向転換して私目掛けて迫ってくるのを見て、首を引っ込めてそのまま無言で出口を硬く縫い直した。


 しばらくゾンビたちがここに突入してくるんじゃないかと不安だったが、警戒して待てども状況に変化はなく、安堵する。どうやら入ってこれないようだ。

 今のは見なかったことにしよう。私はまだ死にたくない。この出口は永久に封印だ。


「元の場所に戻るどころか、何一つ碌な世界に繋がらないってどういうことよ!」


 色々な意味の怒りを抱え、私は吼えた。

 乱れた息を整えた私は、どっと疲れを感じながら力を行使して出口を作り出す。


「今度こそ通じてください本当お願いします……」


 祈りが通じたか、やっと見慣れた景色が見えた。

 自分の部屋だ。


「うわーんやっと帰れる!」


 かれこれ三時間以上足止めをくらっていた私は、半泣きで出口に飛び込んだ。

 あの場所にはもう二度と近付かない。



□ □ □



 帰った後で時間を確認したら、もう夜の八時を過ぎていた。


 腹を空かせた同居人たちにせっつかれ、その日の夜は結局お寿司を取らされる羽目になった。お財布的に痛いけど、今から夕飯の支度をすると遅くなっちゃうし、結局スーパーに寄れなくてろくな材料も買えなかったので、仕方ないと割り切る。


 なるべく急いでくださいと伝えたのが良かったのか、割とすぐに来てくれた配達の人に好印象を抱きつつ、代金を支払う。

 寿司を食べながら、私は皆に今日おかしな世界に迷い込んだことを打ち明けた。

 話を聞いたお兄さんが腕を組んで思案する。


「ふむ……。空間の縫い目を解いたら、何もない世界に移動してしまった、か……。それはもしかしたら、別の世界への入り口だったのかもしれないね」


「でも入った先には文字通り何も無かったんでしょ? 妖怪か何かの仕業じゃないの?」


 異を唱えたのはお姉さんだ。

 お兄さんほどではないが、死んでからそこそこ長いので、それなりに知識を持っている。元は部屋に引きこもっていた自縛霊でしかないので、あくまでそれなりだが。


「も、もしかしたら、夜子さんは異世界トリップしちゃったんじゃないでしょうか? 話によると、自力で帰ろうとして色々な世界とニアミスしたみたいですし。異世界にいけるなんて羨ましいです! 私も行きたい!」


 幸子がムハーッと好奇心を露にして私に羨望の視線を送ってくる。今まで明らかになっていなかったが、入院生活が長かったせいか、本やゲームに影響されオタク趣味に目覚めてしまっていたようだ。


「面白そうだな。今度皆でその世界に行ってみね?」


「どうせならその何もない世界に大地とか海とか生き物とか作って、新しく世界を作っちゃおうよ!」


 ちびっ子二人がとんでもないことを言い出した。

 きらーん、と悪乗りしたお兄さんが目を光らせる。


「そうなると、さしずめ夜子ちゃんは天地創造の女神で、僕たちはその御使いといったところか」


「いわゆる天使ね。いいじゃないそれ、神々しくて美しい私にぴったりだわ。面白そう。夜子やりなさいよ!」


 当事者でもないのに、すっかりお姉さんがやる気になっている。

 口を挟めないでいるうちに凄い話になってきた。


「やりませんよ。そんな面倒くさいこと」


 ばっさり断ると、お姉さんからだけでなく全員からブーイングが飛んできた。本来ストッパーであるはずのお兄さんまで同調してるよ。どういうことなの……。


「空気が読めてないよ、夜子ちゃん」


 場の空気を読めるなら私の空気もお願いだから読んでください。


「何でも面倒くさがってたら駄目な人間になるわよ、夜子」


 同感ですが、あなたにだけは言われたくないです。


「なんだよ、ノリ悪いなー」


 お前の悪ふざけにそう何度も付き合ってられるか。


「夜子お姉ちゃん。みか、新しい世界で遊んでみたいな……」


 うっ。幼女にいたいけな目で見つめられるとちょっと心が揺らぐ……。


「昔から病気で入院しっ放しでしたから、異世界トリップってずっと夢だったんですよね……」


 まず現世を目いっぱい楽しんでみるのはどうかな、幸子ちゃん。

 私を見つめる5対の期待に満ちた目。


 お前らそんなに私を女神にしたいのか。いや、ほぼ9割は自分たちが楽しみたいだけだろうけど。

 根負けした私は、深くため息をつく。


「……仕方ありませんね。分かりました、やりましょう」


 まあ、女神云々とかたわけた部分は置いておくにしても、自分の力で創れるものの限界はまだ完全に分かってるわけじゃないし、それを確認するという意味では悪くない。


 それに私自身、この力に言い知れぬ予感を感じている。本当にこの力は、世界すら創ってしまうかもしれないと。

 なんてね!


「それじゃあ、決行は二週間後の休日にしようか。それまでは各自、夜子ちゃんに必要と思われる資料などを集めてくるということで」


 お兄さんの仕切りに、皆の承諾の声が唱和する。

 これはなかなか、大事になりそうである。


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