流行りだからってラノベ展開になるとは限らない
突然ですが私には前世の記憶があります。
何言ってんだと思われるかもしれませんが、私は前世、地球の日本という国で女子高生をやってました。どうしてこんな事を言うか、それは今の状況から思考だけでも逃げたいと思ってるからです。現実逃避ってやつですね。
本当は思考どころかここか遠い所へ飛んで行きたいくらいですけどね。まあ、無理ですけど。
皆様には少しでいいので私の現実逃避に付き合って頂きたいです。
あれは、今世の私の学園卒業パーティのことでした。
前世、ラノベでよく読んだ乙ゲー風悪役令嬢婚約破棄で王子が婚約者の公爵令嬢を断罪するというお約束の場面に一観衆として私は遠巻きに見ていました。
大広間のど真ん中で王子と男爵令嬢とその取り巻き達が公爵令嬢の罪を次々と暴いていく筈が、これまたお約束の断罪返しを公爵令嬢が王子の後ろに隠れてる男爵令嬢にやったのです。所謂「ざまぁ」展開ですね。
その後ウェブ小説とかになぞるなら、男爵令嬢の本性が公にされて逮捕となるのですが男爵令嬢は公爵令嬢に掴みかかり乱闘騒ぎになったのです。公爵令嬢も貴族の嗜みも風の前の塵の如くで男爵令嬢に応戦してそれはもう酷い有様でした。
皆、予想外の出来事に呆気にとられてたのですが一瞬早く正気に戻った王子と取り巻き達がなんとかその場を執り成し二人を退場させ、パーティを続行させました。
会場は多少混乱したものの、直ぐに卒業パーティを再開しました。
私はダンスなんて踊る気になれず、帰ろうと会場出口に足を進めたら一人の男性が声を掛けてきたのです。
その男性は、あの茶番を私の隣で見ていた人でした。なんと我が国に留学中の隣国の第三王子様だそうです。
その王子様が私とダンスを踊って欲しいと言ってこられました。
私は帰りたかったのですが、権力には逆らわない主義なので王子様の申し出に快く返事し再び大広間へ行きました。
大広間では先程の茶番は無かったかのように何組かの男女がダンスをしていました。
私と王子様もその中に入り踊りました。流石王子様と言うべきでしょうか素晴らしいリードで私を導き、普段ダンスを苦手として余り踊らない私でも楽しく踊れました。
ダンスが終わり私は王子様に礼をしてさっさと帰ろうと思い、手を離そうとしたら王子様は私の手を離さず、逆に強く引き寄せて二曲目三曲目とダンスを続けたのです。続けて同じパートナーで踊る意味はどこの国も共通で夫婦か恋人又は婚約者のみ。
私は内心パニックになりながらも一応空気を読み王子様に合わせました。
くるくるくるくると回り踊り続けてフラフラになった所で王子様に支えられ休憩がてらテラスへと行きました。
「大丈夫ですか?少しやり過ぎましたね。」
「いえ、あの……なんで何曲も?」
「貴女に一目惚れを、したからです。」
「分かりやすい嘘はやめてください。」
「チッ」
!?今、舌打ちしましたよこの人。王子様が舌打ちとはイメージと大分違います。
私が前世で読んだラノベでは、こういう場合王子様に見初められたモブは恋に落ちてなんやかんや試練を乗り越えハッピーエンドめでたしめでたしになるけど、絶世の美女でもないモブの私を一目惚れとかストーリー展開的に無理あり過ぎで説得力無いし、何より私が王子様と恋に落ちるつもりがないのです。なのでフラグになりそうなモノを折ったら舌打ちされましたよ。
意外と短気なんですかね?
「……今、舌打ちしましたよね?」
「何のことかな?それより私の言葉を信じてくれないんですね。」
「その辺によくいる地味な容姿の私を王子様のように常に美女に囲まれてそうな方が一目惚れとかにわかに信じられません。」
「でも人の好みはそれぞれだろう。一目惚れなんです。」
「舌打ちした人が何言ってるんですか。そこは嘘でも私を美人と言うべきではないでしょうか?まあ、信じませんけど。」
「貴女も強情ですね。大人しそうな見た目だけでは分からないものだ。面白い。俄然興味が湧いてきました。どうです、別室でお茶でも飲みながらお互いの事を話し合いませんか?」
「そんなん求めてないんで。もう、ダンスパートナーの件はいいです。会話の雲行きが怪しくなってきたので帰ってもいいですか?」
「では、お送りします。帰りの馬車の中で返事をしますよ。貴女の事をもっとよく知りたいですし。」
「結構です。」
「遠慮なさらず、二人の中を深めましょう。」
「遠慮なんてしてません。深める気もないですから。」
「まあまあ。私は深めたいです。貴女は今まで出会ったどの女性とも違って話してて面白い。王子という肩書きに興味を示さない所がいい。ではお送りしますよ、行きましょうか。」
「何、当然のように腰に手を回してるんですか。一人で帰ります、離して下さい。」
「嫌です。離したら逃げてしまいそうですから。さあさあ、馬車に乗りますよ。」
「ひぇっ」
王子様はガッチリ私を抱き込んで馬車に乗り込み邸に送ってくると見せかけて王子様の滞在先へ向かったのです。
これはもはや拉致ですよ、拉致。ラノベじゃなくてミステリー小説みたいな感じになってきてませんか?
嫌ですよ私、どこかの川辺りから身元不明遺体とかで出演するの。最後の目撃情報はダンスパーティ、不特定多数の目撃者がいながら忽然と姿を消した令嬢、手掛かりもなく何故彼女は死ななければならなかったのか!?
チープな二時間サスペンスじゃないんですから勘弁して欲しいです。
私は乙ゲー風悪役令嬢婚約破棄ざまぁのラノベの世界のモブその一に転生したんじゃなかったんですか。今世でもまだ恋愛も結婚もしてないのに死にたくないです。
私はこの世界でモブはモブらしく一般的な貴族の令嬢としてそれなりに平和に生きていきたかったのに。ラノベの主人公やライバルキャラみたいな波瀾万丈な生き方なんて真っ平ごめんだったのに。ああいうのは二次元だから楽しくて現実でやったらタダのイタイ人じゃないですか。
そんな悲愴感漂わせてる私に気付いてるのか気付いてないのか王子様は馬車の中でも私を離さず、色々な話をし(主に私に尋問)相互理解を深めていけ……ませんでした。
この人、強引過ぎて私が全くついていけません。
王子様の滞在先の邸に拉致られた私はそこで約一ヶ月監禁(王子様曰く、恋人期間)され、自分の邸に帰った時には私は王子様の婚約者になってました(何故!?)。
隣国の王子様と婚約したという事でお妃教育が始まりました。第三王子だから王位継承権なんて回ってこないと思ったのに、あの人、なんと王太子だったのですよ!
なんでも第一王子は病弱でベッドから起き上がれないらしく第二王子は身分の低い側室の子だそうで、我が婚約者様が次期国王だそうです。知ってたら全力で逃げてたのに、あの人ギリギリまで黙ってましたよ!だって第二王子と王位継承権争いの臭いがプンプンするじゃないですか。私は平和事なかれ主義なんです、揉め事厄介事は絶対に御免です。だから結婚式当日まで秘密にしてたんでしょうけど。私の性格把握がバッチリでムカつきます。
そして、お妃教育が終了した途端あれよあれよという間に私は隣国に連れ去られあっという間に結婚式を挙げられてしまったのです。
強引なのは王子様だけじゃなかったんですね。お国柄でしょうか。
式には我が国の王子様と何故かあの取り巻き達が来てました。公爵令嬢と男爵令嬢はどうなったのでしょう?令嬢同士が取っ組み合いの喧嘩をする小説なんて読んだ事無かったので結末が気になります。
披露パーティも無事終わり、今私は新婚夫婦の寝室のベッドで新しく夫となった王子様に押し倒されています。残念ながら現実逃避終了です(泣)
「あの、やめると言う事は……」
「ないな。据え膳食わぬは男の恥と言うからね。」
「据え膳とか、西洋風ファンタジー世界にそんなもの無いです!こんな時に日本の諺出してこないで下さい。それに私から迫ってません。これだから適当ラノベの世界は……!!」
「何を言っても貴女は私と結婚したんですから諦めて下さい。」
「諦めるとか、試合終了になるから!!」
「いやいや、むしろこれから試合開始でしょ。」
「私、レーティングで引っかかって読めなかったけど、だいたい想像つくから!物語だと、この後めちゃくちゃセッ○スしたってなるんでしょ!?」
「まあ、初夜だからね。今夜は寝かしませんよ。」
「いやああああ!!絶対それ、本当に実行されちゃうやつじゃないですか!!次の日起きれないとか!リアルで絶倫とかいらないから!!」
「照れてちゃって可愛いなぁ。大丈夫、優しくする、たぶん。」
「照れてないです!たぶんって!?たぶんって何?」
ラノベはラノベでもR18の世界に転生したみたいです。
この先の展開は年齢制限で前世の私は読めなかったのでどんなものなのかわかりません。
婚約者から夫になった王子様は今、獲物を定めた猛禽類みたいな目をしてます。顔がいいだけに正直迫力があって怖いです。
確かに今生こそは恋愛したり結婚したいと思いましたがこんなイケメンとか王子様とか高望みしてないですよ。平凡がいいんです、平凡が。
ここまで来ると視覚の暴力ですよ。イケメンは二次元に限るです。本当にどうしてこうなった。
って!ちょっと、どこ触ってるの!?
あっ、やめっ、あっあっ、ぎゃああああああああああぁぁぁぁ……
お約束通りこの後めっちゃくちゃセックスした。
王子は本当に一目惚れだった