始まりの唄 ~受け継がれる物~
かよの母は病弱だった。
物心ついた頃から入退院を繰り返し、かよが中学に上がる頃には母は病院にいることのほうが多くなっていた。
学校が終われば、病院に寄ってから変えることが日課になっていた。
友達ができたこと。新しい勉強が始まったこと。楽しかったこと。悲しかったこと。かよは病床の母に毎日語った。母はいつも笑顔でよく話を聞いてくれた。
かよは母の膝枕が好きだった。
頭を撫でられていると安心した。そのまま眠りについてしまうことは中学になってもよくあった。
桜が風に舞う頃、かよの母は亡くなった。
「辛いときは逆に笑ってみるのよ」母の言葉だった。
「そんなの無理だよ」かよが言うと、母は「そういう時は楽しかったことを思い出してみるの」と教えてくれた。
かよはできるだけ口角を上げて、楽しかったことを思い出してみた。その思い出の全てに母の笑顔があった。
無理矢理引き上げた口角を涙が優しく撫でていった。
どれだけ短い文章で泣ける話ができるんだろう…。