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7月31日 天気晴れ

暗い暗い闇の中で私は眠る。


誰も起こしに来てはくれない。


誰も見つけてくれない。


真っ暗の中で私は眠るの。


もう眠りからは覚められない。




ダッテワタシハ














「ふーんふふんふんふんふん」

彼女が機嫌よく鼻歌を歌っている。

こんな、暑い中よくご機嫌でいられるものだ。


ああ、なんて怖いんだろう。

彼女が機嫌が悪いはもちろん怖い、だけどそれ以上に機嫌が良いときが怖いのだ。

だって、こんなに暑くて僕自身が溶けてしまいそうで汗を垂らしている中でご機嫌でいる彼女はきっと滅多にない。




「おーい、吉~!聞いて聞いてよ~!」

ああ、ほら、来た来た来た。

なにを言い出すやら。


「あのねー、あそこのタバコ屋さんのカメさんがねー……」

タバコ屋の亀さん?

亀さんってこの前……

「ミチル、タバコ屋の亀さんってこの前死んだんじゃなかったっけ?」

僕はそう問いかけた。


「えー?カメさんだよ?私、昨日会ったんだよ?」


あれ、ミチルってもしかして……

「霊感持ってたりしないよな?」

心の声は壁を乗り越え、口から出ていた。


「はぁー?なに言ってんの?吉。頭でも打ったの?」

ミチルが少し馬鹿にしたように言ってくる。

なに言っちゃってんのはお前の方だよ、ミチル!

そう言うと喧嘩になって僕が負けるのは目に見えている。

だから黙って、暑いのをこらえミチルの話を聞いていた。


「カメさんって、店主のほうだよ?」

「店主ぅ?あそこのばーさん、そんな名前だったっけ?」

「そうだよぅ、ったく誰と勘違いしてんの?このバカ吉!!」


お前がカメさんカメさんって言うからてっきり、よく店の前の水槽に入っている亀のことかと思ったんだよ。


「あー、んでそのカメさんがどうかしたのか?」

「あっ、でね、カメさんがね…………」

とミチルがした話はこうだった。





ーカメさんが倉庫の整理をしていると、一冊のノートとちびの鉛筆が見つかってね。鉛筆の芯の部分は極度に短くなっていて書くのは難しいくらいに。そのノートをカメさんが見ると、誰かの字で『タスケテ』って書いてたんだって。でもね、そこの倉庫はもうずぅーとカメさんの家の敷地にあって代々受け継いできたものらしいの。ね、なんかあると思わない?ー



あー、やだやだ。

僕がミチルの話を聞いて、最初に思ったのはそれだ。

誰だよ、ミチルの好奇心に火をつけたのは。

いや、今回はわかっているか。カメさんだ。

カメさんめ、余計なことを……と思っていると


「ねぇ、吉、聞いてる!? 」

ミチルの顔が目の前にずいっと来る。

「え、ああ、聞いてる聞いてる。」

ここで聞いてない、なんて返事をするとミチルが怒って手のつけようがなくなってしまう。

僕は考えるのをやめて、大人しくミチルの話を聞くことにした。


ミチルの話にはまだ続きがあった。

「それでね、タスケテって書かれたページの次のページを捲るといろいろ書かれてて日記みたいになってたらしいの!」

ミチルは目をキラキラに光らせて言う。


だから、ねっ? とミチルは僕におねだりモードに入った。

「一緒にカメさんのところに言って、そのノート見てみない?」

僕はきっとミチルにか勝てない。

だって、このおねだりモードにも勝てないんだから。





ミチルとその話をしたのは、暑い暑い、7月も終わりの31日の登校日の帰りのことだった。


その日の登校日は午前中には終わっていたので、昼ごはんを食べてから再び集合ということになった。

集合場所は、問題のタバコ屋のカメさんのところ。

僕は急いで家に帰り、ご飯を食べ、何があってもいいように服を着替えた。



タバコ屋に行くと既にミチルが待っていた。

半袖半ズボンにキャップを被っている。

長い髪は朝は下ろしていたが、今は気温が上がったせいかポニーテールにしていた。


「もう、吉ッ!! 遅い!! 遅刻だよ!! 」


遅刻って……。時間なんか決めてなかったくせに。

いつものことだが、それは音として出さなかった。

面倒くさいことになるからだ。

僕とミチルは小学生の時からの幼馴染みだ。

その時から僕はミチルに振り回され、文句を言えば理不尽に怒られた。

そんな面倒くさいことはごめんだから素直に謝る。


「ごめんごめん。んで、カメさんは? 」


「カメさんは中にいるよ~」

早く行こうとミチルは言い、自分で歩けるのに僕を引っ張った。


カメさん家の玄関は、タバコ屋の窓をブロック塀で挟んだ隣にある。

だが、カメさんの家とタバコ屋は中で繋がっているらしい。


とりあえずカメさんに声をかける。

「こんにちはー! おばーちゃん、ミチルだよー! 」

元気いっぱいにミチルが言う。


すると奥から

「はいはい」

と答える声がした。


それからのそのそと一人の女性が出てくる。

カメさんだ。

亀を飼っていたからカメさん。

本名は知らない。

もう背中は曲がり、80歳は過ぎているようなお年寄りだ。


「ミチルちゃんかね?」

目もよく見えていないらしい。

「うん、そうだよ! 吉もいるよ!」

「吉ぃ?吉とは誰かいな?」

「僕だよ、ばーちゃん。」

僕が一歩前に出て、顔を見せるとカメさんは納得したみたいだ。


「ああ、ああ、お前さんかい。吉。」

「だからー、吉もいるって言ったじゃん!」

とミチルが言う。

冗談じゃよ、とカメさんがふぉふぉふぉと笑った。

まだまだ元気なばーさんだな、と僕は思った。




「で、おばーちゃん!昨日の話のことだけど……」

「昨日の話ぃ?なんのことだい?」

「え、おばーちゃん!昨日話してくれたじゃない」

おばーちゃんの倉庫の話だよ、とミチルは少しイライラしたように言う。


カメさん家の玄関先には日の光が入らず、ひんやりしているが、それでも少しは暑いらしい。

先程の上機嫌さはどこへやら、イライラしている。


「ああ、ああ、あの話かい。」

僕の時同様、やっと思い出したらしい。


「あの話を信じるのかい?」

カメさんの目が少し光ったような気がした。


「うん、信じる。だから、倉庫を調べさせて!お願いっ! 」

ミチルはパンっと手を合わせる。


カメさんは僕の方をちらりと見てきた。

それを受けて、ミチルも僕に視線を送ってくる。

僕はあまり乗り気じゃなかったけど、

「お願いします」

と言って頭を少しだけ下げた。







一旦、玄関を出て家の周りをぐるりと回り、家の裏に来た。

倉庫はそこにあるらしい。

まず、ここに記しておく。

カメさんのお家は広い。

昔から農家をしており、昔はここら辺で一番顔を利かせていたようだ。

だから、家はとても広く敷地も広い。

そんな敷地のはしっこに、これまた大きい倉庫があった。

カメさんいわく、収穫したものを貯蔵しておく部屋がいくつかあるらしい。

そんな倉庫をカメさんが昨日片付けていて、その貯蔵部屋の一つから例のノートが出てきたらしい。

そして例のノートを見せてもらった。


「うわぁ、本当にタスケテって書いてある……!!」


ミチルは興奮したようだ。

まぁ、事実僕も少しだけ興奮している。

例のノートは表紙を捲ると、まず、鉛筆で『タスケテ』と書かれていた。

次のページを捲ると、ミチルが言っていたように日記みたいに日付とその時思ったことや、感じたこと、体調のことなどが書かれていた。


それは白紙のページが出てくるまで続いている。

ざっと見て、1~2ヶ月間くらいだろうか?


所々ページに赤いものが付着しているようにも見える。

目の錯覚だろうか?

ミチルはなにも気にしていないように夢中でページを捲り眺めている。


「うわぁー、すごいねぇ、見てよ、吉っ」

はしゃいだ声をだすミチル。


そんなにいいもんでもないだろうと思いながらミチルとノートを見る。


ノートはかなり昔の物らしく、ボロボロで激しく扱うと崩れてしまいそうなくらいだ。

ミチルは嬉しそうな顔をしている。

彼女のこんなに嬉しそうな、はしゃいだ顔を見るのはいつぶりだろうか。

いつも楽しそうだが、これほど興奮しているのを見たことがない。


「やっぱり、なにかあったのかなぁ?ねえ、おばーちゃんなにか知らないの?」


「そうじゃねえ、私はここに嫁いできた身だからねえ。それ以前のことだとちょっとわからないねぇ」


「うーん、そっかぁ。じゃあ! このことについて調べてみてもいい? 」

ミチルは目をキラキラと輝かせて、カメさんに聞いた。


「調べるってなにをさ」

「調べるってなにをかえ?」

僕とカメさんは同時に言っていた。


「えーっとね!殺人事件かどーか!」

幼い子のように無邪気に、少し舌足らずに、どうかの『う』を伸ばしてミチルは言った。


「殺人事件!? なにバカなことを言ってるんだよ、ミチル。ばーちゃんからも何か言ってやってよ」

カメさんは目を見開いたままミチルを見ている。


「ばーちゃん?聞いてる?」

僕がカメさんの肩を触り、少し揺すると、ハッとしたように

「ああ、ああ、聞いてるさ」

と言った。

だけど、その声は少し上擦っているように聞こえた。




「じゃあ、私は店番をしてるから。なんかあったら言いに来なねぇ」

とカメさんは言い残し、店兼家に戻っていった。


「なぁ、ミチル。さっき言ってた殺人ってどういうことだよ。」


「どういうことって。殺人って言ったじゃない?」

吉ってバカなの?と言外に言っているようだ。


ミチルはそのノートが見つかった場所の倉庫の貯蔵部屋の木の扉をひいて中に入った。

ノートは僕に預けっぱなしだ。

僕はノートを持ったままミチルのあとに続き、中に入った。

中は真っ暗だ。電気のスイッチをミチルと共に探す。

僕の背中で閉まった扉が、ぎぃぎぃと声を出している。


「あった!! 」とミチルが電気をつけた。


パッと白い光が部屋を包み照らした。

丸い裸電球だ。

温かみもなにもない、ただの電球。


電気がついているが少し怖い。

だが、そんなことを思っていることをミチルに知られるわけにはいかない。

だってミチルは、怖がらずに部屋をガサガサと漁っているからだ。


「ねえ、吉?ちゃんとやってる?」


「あ、ああ、ちゃんとやってるよ」


「もしかして怖い?」

そのミチルの言葉にビクリとした。

なぜバレた。

だけど、否定するしかない。

「な、なに言ってるんだよ。怖いわけあるかよ」


「ふーん。まぁ、それならいいや。そこ調べてみてー」

ミチルが指差したのは、壁側のホコリが降り積もったいくつかのダンボールだ。


僕はミチルが、それ以上触れないことに安心しつつ、ダンボールの中を漁ってみた。

そこには、いつからあるのだろうか。

古くなったバケツが何個か出てきた。

まぁ、これは必要ないだろうと僕は次のダンボールを開けてみた。




「ひっ」

そこには骨があった。


「み、ミチル~。」

我ながら情けない声が出たと思う。


「骨、見つかった?」

ミチルはそこに骨があるのが、さも当然とでも言うように言った。


「あ、ああ。カメさんに言って警察を呼んでもらったほうがよくないか?」

ミチルはさっきまでの明るい雰囲気はどこへやら

「そうだね」

と、答えると貯蔵部屋から足早に出ていった。






急いでカメさんのところへ行き、骨が見つかったことを報告し警察を呼んだほうがいいのではないかと提案すると

「そうだねぇ」

カメさんは暗い表情をしながら言った。

このときは、なぜカメさんがこんな表情をしていたのか、ミチルのカメさんを見る目が厳しかったのか僕は全然わからなかった。




少ししてから、カメさんが呼んだ警察がパトカーに乗ってやって来た。

あまり騒ぎたくはないし、警察も半信半疑なのだろうサイレンは鳴らさずに来てもらった。


「これが骨ねぇ……」

警察官は信じていないようだった。

その証拠に

「本当に人の骨なの?どうせ、動物の骨とかじゃないの?」

と言っていた。


僕とミチルは、そこに頭蓋骨がありますよ、と言うと今度は

「猿っている場合もあるでしょ」

なんて言い出した。


僕はイライラして、もちろんミチルもイライラしているだろうと思ってミチルを伺うと意外にも冷静な表情で警察官を見ていた。


僕たちは軽く事情聴取をされたが、警察は事件性はあまりないと思ったのか、すぐに解放された。


そして、もう遅いから、ということでカメさんに帰りを促され、ミチルと二人歩いて帰った。


行きのハイテンションさはどこへやら。

ミチルはとても静かだった。

なにかを考えている風にでも考えていない風にでも見える。

だが、僕が話しかけても興味がなさそうに適当に返事をするだけだった。










7月31日(晴れ)


今日は午前中、登校日だった。

帰りにミチルにカメさんの家で見つかったノートのことを話されて調べることになった。

相変わらず、ミチルは強引だ。

カメさんの家に行き、調べると骨が出てきた。

ミチルよりもびっくりした自分が情けない。

警察の人は動物の骨と言っていたが、僕には人の骨だと思えた。きっとミチルもそう思っている。

ミチルは帰りになにも言わなかったが、明日も何かをするのだろうか?







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