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偽者王女ととある策略  作者: 八仙花
第二章 渡りに船の偽者王女
9/119

5)王妃ライアは居丈高に主張する

よろしくお願いします。

今回は二話とも主人公抜きで。

「よろしいのですか?母上……」

 みちるに部屋を追い出された形になったライアは、すぐ隣の自分の部屋へと戻った。

 そこにはモリオンとライリーが待機している。

 ルチル王女に与えた部屋は、ライア王妃の寝室の一つで、今いる部屋の隣だ。

 話の流れは想像がつく。ライア王妃は侍女を一人だけ残して下がらせ、長椅子に行儀悪く身を投げ出すと、大きなため息をついた。

「説教は今は聞きたくないわ、モリオン」

 14歳の息子からは、度々説教をされている母親、というのもどうなのだろうか。

 ライリーは二人の会話にくすり、と笑を漏らしてしまう。

 今年40になったがまだまだ美しくエネルギッシュな母親は、末っ子のモリオンにはどうやらかなわないらしく、時折見せる無鉄砲な行動を、よく諫められているらしい。

 彼曰く「母上の行動は、誰かに諫められたくて行っておられる子供のやんちゃと同じです。だから一番子供に近い私の言葉が、一番響くのかもしれません」としれっと答えたことがあった。

 神童、と周りが噂するわけだ。


「あの子の目が覚めて、やっと一息ついたところよ……この先のことは、おいおい考えるから、今はちょっと休ませて」

 はあ……、と大きなため息をつくと、扇でぱたぱたと顔を仰ぎ、目を閉じた。

 すぐに侍女が傍に駆け寄り、自分の扇で王妃を仰いだ。

「ありがとう、ミルカ」

 王妃は自分の手を止めると、ミルカの送り出す風に気持ちよさげに微笑んだ。

「しかし、まるで彼女のことを、ルチル王女のように扱って……いくらなんでも無理があります。僕だって、確かにまだ幼かったけれど、ルチルお姉様のことはよく覚えております。けして……似てる、とは……」

「可愛い子ではあるけどね」

 ライリーが弟のフォローをする。

「う……まあ、確かに、魅力的な女性ではあります。しかし……少なくともあの黒い瞳は誤魔化しようがないじゃないんですか。ルチルお姉様の碧の色とは程遠い……」

「あの子はルチルよ、まちがいないわ」

 王妃は目を閉じ、長椅子の上に仰向けになった体勢のまま、しっかりはっきりとモリオンの言葉を遮って断言する。

「だからどこにも何の証拠もないじゃないですか! ただ、あの場所に偶然現れた、それだけでしょう?」

 母に付き添っていたから、モリオンも彼女の第一発見者だった。

 あの日、あの場所に……母が彼女をルチルと思いたい気持ちが、わからないわけではないが、だからといって、彼女を本当にルチル王女に仕立て上げようとしている母の企みについては賛同しかねる。

「それだけで充分だと思わない?あの場所に彼女がいた……彼女はルチルよ」

 有無を言わせぬ口調で、ライアはモリオンの抵抗の言葉を遮る。

「間違いないわ。私が断言するわ」

 譲らない王妃の口調に、モリオンはますます唇を噛み締める。

 確かに、王妃ライアの言葉は今のこの国では強い力を持っている。

 若くして正妃となったライアは陰日向なく王を支え、後継たちの教育に心血を注ぎ、貴族たちとの社交をも怠らずに、信頼と実績を積み重ねてきた第二の権力者である。

 今や彼女がいなければこの国は成り立たない、と言われているほどの絶対的な立場であるが、反対に、それゆえ、彼女に対してNoを言える人物が少なくなってきているのも事実だ。

 それは彼女の悲劇でもある。

 もし万が一、本当に彼女が間違いを犯してしまった時に、誰もそれを指摘してくれない――だからこそ、せめて身内だけでも、と、モリオンや兄たちは、母親の時折傍若無人になりがちな行動を諌める役目を背負ってきた。

 しかし、それでもいつの間にか、長兄のレイアタートがあまり口を出さなくなってきた。

 次兄のライリーはまだそれでも常識的な意見を述べるモリオンの味方であった。

 しかしながら、今回のこの状況にはさすがのライリーも、王妃ライアと、末弟のどちらにつくべきか、困惑せざるを得なかった。

「兄上からも言ってやってください」

「ライリー、あなたはどう思ってるの?」

 まるで打ち合わせたかのように、急に二人の注意が自分に向けられた。

 ライリーはびっくりして、目を丸くしてしまう。

 いつのまにか目を開けていたライア王妃の鋭い視線が、自分に向けられている。

 ライリーにとっては、モリオンの言葉は至極当然のものだが、母の言葉の意図が理解できない。

 ―――まったく、何を考えているのだろうか、この人は……

 ライリーに指示して、あの少女に“例の処置”を施させたのは、王妃ライア、その人なのである。

 ライリーが医学生であることをいいことに、モリオンも含めた一切を人払いさせて彼女の診察をさせた。そしてその際、内密に、と指示された処置をこの手で行った、いわゆる“共犯者”でもあるライリーに対して、まるで第三者の意見を聞くかのように、ごく自然に問いを投げかけてくる。

 そう、彼女はその問いによって、“例の処置”の一切を“なかったこと”にするつもりなのかもしれない。

 その意思確認をするために、わざとライリーに向かってあのような問いかけをしたのかもしれない。

 ライリーは少し考えた。

 おそらくライア王妃は、彼女をルチル王女として認めさせたいのだろう。

 だから、あのような処置をライリーにさせたのだ。

 だとしたら、ライリーは……

「モリオンの意見に賛成です。ただ、真っ向から否定するつもりではありません。少なくとも、しばらく調査をする必要があるでしょう。調査結果が出てからでも、遅くはありません。」

 意見としては、逃げ腰、と言われるかもしれないが、正論だ。

「つまらないわ」

 案の定、王妃ライアからは不満げな感想が漏れた。

「つまる、つまらないの問題ではないでしょう」

 モリオンはいまだ頑なに母に立ち向かっている。

 聡明で意志が強いという利点からだろうか、それとも、まだ若いという未熟さからだろうか……

「だとしたら二人に尋ねるわ」

 王妃ライアは、身を起こして長椅子の上に座り直した。

 ミルカは三人の位置関係を邪魔しないように移動し、長椅子の背の向こう側から王妃ライアを仰ぎ続けた。

「あなたたち、10年前から一度でも、ルチルがもう死んでるのかも、って思ったこと、ない?」

 強い瞳に見据えられた二人の兄弟は、その問に口ごもる。

 実際、ライリーにしてもモリオンにしても、ルチルの生存に関しては望みは薄い、と思っていた。

 確かに……もう死んでしまっているのだろう、と思ったことも何度もある。

 後ろめたそうに小さく頷く二人の兄弟に、ライアは眉を釣り上げて怒りの表情をみせる。

「だからあなたたちは頼りにならないのよ!!私は10年前からただの一度だって……あの子の生存を疑ったことはなかったわ。だって、この私の直感が教えてくれるんですもの、あの子はまだ生きている、まだ元気に生きているって……」

 太陽の妃と呼ばれた王妃ライアの強い力が齎した才なのか、それともその望みを持つことが、彼女の強さなのか……

「だから、あなたたちにはとやかく言う権利がないの」

 …え?

 理屈がまだ、理解できない。

 モリオンとライリーは、顔にベッタリと疑問符のマークを貼り付けていた。

「だから、わからないかしら?私はず〜〜〜〜〜〜っと、信じていた。ルチルがまだ生きていることを、信じ続けた……だから、こんな私の目の前に、神様が贈り物を授けてくださったのよ」

 それが彼女だというのか。

「そう、あなたたちはルチルが死んでしまったと思っていた。一方私はルチルが生きていることを疑わなかった……だから、彼女がルチルだと主張する私のことを、否定することなんてできないはずなのよ!!」

 ………なんというか………

 モリオンはあいた口がふさがらなかった。

 屁理屈にも程がある。

(我が母親ながら……)

 彼女のルチルに対する愛情は、よくわかる。その執念には、頭が下がるばかりだ。

 誰もが諦めてしまう中で、彼女はけしてルチルのことを諦めなかった。

「でも、その『諦めない想い』が起こした第二の悲劇を、母上は忘れたわけではないでしょう?」

 呆れるモリオンとは対称的に、いつも温和なライリーが珍しく厳しい口調でそう告げる。

 モリオンは兄のその言葉に、はっと驚いて兄を仰ぎ見る。 

 見上げたライリーの顔は、母親の力強い言葉にもまったく怯まず、いつもよりも勇ましい。

 しかし王妃ももちろん負けてはいない。息子の言葉に珍しく少し考え、言葉を選ぶ。

「……確かにね。でも、悲劇に目を背けていたからって、悲劇はなかったことにはならないわ。『諦めない想い』はその悲劇に立ち向かうための勇気ある行為よ。その結果、さらに悲劇が起こったことは認めるけど、諦めてしまっていては、悲劇は『克服できない不幸』のままだったわ。――彼らはそれを善としなかった」

「諦めていれば、第二の悲劇が起きなかった」

 ライリーが静かに拳を握りしめているのをモリオンは見つけ、兄の静かなる怒りに気づく。

 二年前の第二の悲劇は、ルチルの悲劇から立ち直りかけた家族たちを、再び悲しみの底に突き落とした。 “彼ら”と一番近しかったライリーは、第二の悲劇以降、他の者たち同様、ルチルの生存の可能性を口にしなくなってしまった。

「そして今また、あなたがルチルを諦めないせいで、ひとりの少女を巻き込もうとしていることに、気づかないんですか?」

 ライリーの言葉に、ライア王妃は小さく眉根を寄せる。痛いところを突かれた、といったところだろう。

 そうだ―――モリオンは、いつの間にか母の勢いによって、問題の論点がすり替えられていたことに、やっと今気づいた。

 ライリーはそれを元に戻した。

 問題なのは、あの少女を王女と偽ること―――偽者の王女を、王妃は作り上げるつもりだということ。

 ただしそれは、もう一つ矛盾を孕んでいるとも言える。

 ライリーは静かに、王妃にその事実を告げた。


「それはつまり、『本物のルチル』を諦めたことには、ならないんですか?」

何人か裏主人公がいますが、もちろんその一人がライア王妃です。


伏線、というか、まだ秘密がいくつかあるのですが、この書き方って、読みにくいですかね、すいません(>_<)

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